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7巻

7-2

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 トーランの領主邸に着くと、コラルの使用人たちは屋敷の目の前で待機していた。使用人たちはタクマたちを見てすみやかに行動を開始する。

「屋敷の中にお連れしろ! 眠っているからといって乱暴に扱うんじゃないぞ」

 使用人たちは細心の注意を払ってニコたちを運び入れていく。
 タクマはコラルに話しかける。

「コラル様、とりあえずこれで全員です。あそこで一緒に運ばれている老人ですが、元教皇のニコ・ナーデル様です。鑑定で本人だと確認しました」
「何だと? 元教皇だと?」

 続けてタクマは、ニコたちがトーランへ移住を希望している事、また教会の総本山をこの地に作りたいと考えているという事を伝えた。ただし、トーランの教会には不可侵を約束してくれたとも説明する。

「まさか、元教皇を助けるとはな。しかし、教会の復興をするとなると、王に話を通さねば決められんが……ああ、だから私に話したのか?」
「ええ。ニコさんに、パミル王にアポイントを取ってやると約束したんですが、私よりコラル様の方が早いでしょうから」

 タクマは手早く手続きを進めるために、あえてコラルに言ったのだ。タクマが直接頼んでも大丈夫だろうが、コラルを介した方が早い。

「分かった。そちらはしっかりとやっておこう。ところで、先に連れてきている四人と次に来た二十人とは契約を交わしておいたぞ。助けた者の名前を秘匿ひとくするという内容でな」

 コラルは契約を済ませてくれていたようだ。さらに、今回連れてきた人々にも同じような契約を進めてくれるという。

「ありがとうございます」
「それで、総本山の浄化は済んだのか?」
「ええ。ただし、少しやる事がありますので、もう一度戻ります」
「どういう事だ? やる事は終わったのだろう。あちらに用事はないと思うのだが……」
「ちょっと野暮用やぼようがありまして」

 言いよどむタクマを見て、コラルは何かを察した。そうして彼は、それ以上聞かないでいてくれた。あまり深く聞いて、タクマの持ち込む厄介事やっかいごとに巻き込まれるのを避けるためである。
 タクマは笑みを浮かべて言う。

「さすがに分かっていますね。あまり聞かない方が良いかもしれません」
「タクマ殿とも付き合いが長くなってきているからな。まあ、心配ないとは思うが、一応気を付けてな」
「ありがとうございます。また近いうちに伺いますので、その時にまた話しましょう」

 タクマはそう言ってその場を辞すと、ヴァイスとアフダルが待つテントへ跳んだ。


「アウン(おかえりー)」
「ピュイ(おかえりなさいませ)」
「ただいま。異常は……ないみたいだな」

 ヴァイスとアフダルが元気そうな事に安心したタクマは、残していた用事に取りかかる事にした。タクマはヴァイスたちに、夕夏がいたダンジョンに戻ると伝える。

「アウン?(中に戻るの? また大変な事する?)」
「そういう事にはならないよ。ただ、ヴェルド様が言っていた物を確認しないといけないんだ。それ以外に、ダンジョンコアにも戻ってくるように言われてたし」

 ヴェルドからはダンジョンの奥の部屋へ行くように言われていたが、タクマはそれを後回しにしていた。
 アフダルが心配そうにして話しかけてくる。

「ピュイ(ですが、あの光の玉が害を及ぼしてこないとも限りません)」
「確かにな。だが、すでに試練をクリアしているんだから、きっと大丈夫だと思うんだ」

 こうしてタクマたちは、ダンジョンへ戻る決意をするのだった。



 2 夕夏、回復する


 さっそくダンジョンの最深部に跳んできたタクマたちの前に、光の玉が現れる。

『来たか……』
「待たせたな。ちょっと遅くなった」

 タクマがそう言って謝ると、光の玉は点滅しながら反応する。タクマはさらに続ける。

「で? 俺を待っている物があるって言ったな?」

 夕夏を救い出す前、光の玉はそのように言っていたのだ。

『うむ。だが、その前にこれを受け取るがいい。お前たちが初めてここへ来たタイミングで、とある存在がこのダンジョンに干渉し、お前たちへプレゼントを残したのだ』

 タクマの目の前に、三つの宝箱が現れる。
 促されるままに宝箱の一つを開けると、その中にはタクマにとって見慣れた物が入っていた。

「タブレット? これがプレゼント? さっき干渉してきたと言っていたが」
『そうだ。お前がここに来るのを分かったうえで現れたのだろうと考えている。コアを壊さずにダンジョンに干渉できる者などこの世界にはいない……ただ一つの存在を除いてはな』

 光の玉の話を聞いて、タクマはその存在の正体が何となく分かった。
 タクマはぼそりとつぶやく。

「ヴェルド様か……」

 タクマの答えを聞いた光の玉は肯定すると、続けて『鑑定してみてはどうだ?』と促してきた。そこへナビが現れて同調を示す。

「おそらくヴェルド様は何かしら細工さいくをしているのではないでしょうか? その機器は、異世界商店で手に入れられる物です。そんな物をわざわざタクマさんに渡すとは考えにくいですし。鑑定を勧めます」
「確かにそうだな。だが、これを鑑定するのは後にしよう。今はこいつと話した方が良いと思うんだ」

 そう言ってタクマは光の玉の方に視線を向ける。

『ん? 確認は良いのか?』
「ああ。それはお前との話が終わってからにする」

 タクマが光の玉との会話を優先するのには理由があった。以前、光の玉と話した時、光の玉はタクマを日本人と言い、彼の事をヴェルドミールの人間ではないと見抜いていたのだ。
 タクマがその事が気になっていたと伝えると、光の玉はあっさりと教えてくれた。

『それは簡単だ。お前たちの前にも日本人と話した事があるからだ』
「話した事がある? それはどういう?」

 タクマが首を傾げていると、光の玉は続ける。

『その人物については、お前の記憶にもあるはずだ。このダンジョンの創造主である瀬川雄太せがわゆうた遺言ゆいごんを受け取った者よ』
「創造主!? ここは瀬川雄太の造ったダンジョンなのか?」

 日本からの転移者であり、タクマに遺言を授けた瀬川雄太は、ダンジョンをめぐれと書き残していた。つまりそれは、彼の造ったダンジョンを訪れろという事だったのかもしれない。
 そう考えつつもタクマは、そもそも人の身でダンジョンを造る事など可能なのだろうかと疑問を抱いていた。

『それより、お前にお願いしたい事がある』

 光の玉はタクマの思考をさえぎるように告げた。光の玉はその頼み事のために、タクマに戻ってくるように言ったという。

『こちらへ来るのだ』

 タクマの返事を待たずに、光の玉が移動を始める。
 最奥さいおうの部屋の壁にやって来ると、光の玉は自らを点滅させた。すると壁だったはずの場所に大きな扉が現れる。

『私の頼みの前にこれらを渡そう。試練をクリアしたお前は、これらを受け取る資格がある』

 光の玉に促されるままに扉を開くと、そこにはたくさんの宝箱と共に、冊子になった書類が山になっていた。

「これは?」
『遺産だ。瀬川雄太の研究の成果を記した冊子と、彼が作った魔道具だ』

 瀬川雄太の遺産は膨大な量だった。大きな物から小さな物まで様々ある。宝箱で百個、冊子は百冊以上あった。

「すごい量だ。これだけでもかなりの価値になるだろうな」

 タクマの呟きに、ナビが反応する。

「おそらく長い間、このダンジョンは誰にも見つかる事がなかったのでしょう。人の出入りがあるダンジョンではこうはいかないでしょうし」

 ダンジョンの最奥に到達できる者はそう多くない。なぜなら、それまでに戦うであろうモンスターが相当な強さなのだから。
 光の玉が淡々と告げる。

『お前に渡す物はこれですべてだ。では、最後に私の頼みを聞いてくれ――このダンジョンを終わらせてほしいのだ』

 タクマに遺産を渡した事で、ダンジョンの役目は終わったという。そもそもこのダンジョンはその役割のためだけに造られ、破壊される事をずっと望んできたのだ。

『すべての遺産を回収すると、部屋の奥にダンジョンをつかさどる魔石が見つかるだろう。それを破壊して脱出してくれればいい。これでようやく役目を終える事ができる』

 光の玉はそう言い残すと、ゆっくりと消えていく。
 タクマはその光景をじっと見つめていた。

「分かった。お前の頼みはしっかりと聞いた。俺の手で破壊するよ」


 タクマはすべての遺産をアイテムボックスに回収した。ヴェルドがくれた宝箱はまるごと収納しておいた。
 そして遺産がなくなった部屋の奥にある黒い祭壇さいだんの上に、大きな赤い石を見つける。

「これだな……」

 タクマは赤い石に手をかざし、魔力を放出していく。
 赤い石はカタカタと震えだし、やがてタクマの魔力に耐え切れずにひびが入っていく。そして、ガラスが割れるような音と共に砕け散った。
 その瞬間、ダンジョンが大きく揺れた。天井が少しずつ崩れ始めていく。

「……みんな、脱出しよう」

 タクマはそう宣言し、空間跳躍でダンジョンを後にした。


 テントに戻ったタクマは、テーブルセットにドカッと座る。
 最愛の女性である夕夏が眠っていたダンジョンが同郷の者が造った物だった。タクマはその事に奇妙な縁を感じ、タバコに火を点けて一息つく。

「……ふー。とりあえずヴェルド様の贈ってくれた物を確認しておこう。まずはタブレットから見ていくか」

 アイテムボックスからタブレットを取り出し、鑑定を行なう。


『使用者限定タブレット(神器)』

 ・タクマ・サトウのスキル「異世界商店」を、登録した人間が使用できるタブレット。
 ・所有者のタクマ・サトウ以外に使用できるのは、彼と同郷の者と子供のみ。
 ・買える物に制限あり。
 注:買えるのは、衣食住に関係する物と、生産に必要な機械、素材のみ(ただし、現代武器の作製は不可能)。
 ・タクマ・サトウの魔力でしか購入できない。
 ・貯めておける魔力量は1000万(それ以上の買い物はできない)。
 ・タクマ・サトウが住んでいる拠点のみで使用可(住宅との同期は必須)。
 ・一度同期すると、持ち出しは不可能(持ち出しても家の中へ戻ってしまう)。


「おいおい……随分とサービス満点だな。俺以外でも異世界商店を使えるようにする神器じんぎか」

 タクマの呟きにナビが答える。

「これでマスターが不在の時にも、家族が使用する事ができるようになりましたね」
「そうだな。制限はあるが、色々と使えそうだ」

 確認が終わったタブレットをアイテムボックスに戻すと、続いてタクマは小さい箱を二つ取り出す。
 両方の箱を開けると、指輪が一組と、深紅しんくの液体が入っていた。

「なんだこれ?」

 まずは指輪の方を鑑定してみる。


『祝福のエンゲージリング(神器)』

 ・ヴェルド神が直々に祝福を付与した婚約指輪。
 ・二人の仲がさらに良くなってほしいという、祈りが捧げられている。
 ・念話が可能となる。
 ・離れていてもお互いの存在を感じる事ができる。
 ・装着した者は運が良くなる。


「へえ、婚約指輪か……迷惑を掛けた俺たちに対する、ヴェルド様からのおびのつもりなんだろうけど」

 指輪を鑑定し終えると、次は深紅の液体だ。
 見た事もない物なので少し不安になるが、鑑定してみないと分からないので、タクマは恐る恐る確認してみる。
 液体はとんでもない代物だった。

「マジか……なんつう物をよこすんだ、あの女神様は……」

 タクマは手に持っている深紅の液体を鑑定したのだが……


『ティアーズ・エリクサー(神薬)』

 ・世界にただ一つしかない。
 ・ヴェルド神の涙を使用して作った最高の薬。
 ・摂取者が持つ、すべての体の異常、病気、体の欠損けっそんを治癒する。
 ・摂取者が持つ、すべてのステータス異常、のろいのたぐいも無効化する。
 注意:薬効がかなり強いため、寿命が延びるうえに不老になる。


「あいつを治してあげたかったから嬉しいのは確かだが……注意の項目に書いてある副作用がヤバいな」

 タクマはエリクサーを箱へしまおうとしたのだが、箱に違和感がある事に気が付いた。アイテムを包んでいるクッションが厚すぎるのだ。
 クッションを箱から取り外すと、そこには折りたたまれた紙が入っていた。


 タクマさんへ
 この箱に入っているのは、あなたとユウカさんを祝うために用意した物です。指輪は、もちろんマリッジリングですね。二人の仲がずっと良くなるように祈りを捧げています。
 そして、エリクサーに関しては言わなくても分かりますよね? 彼女はあなたの子を欲しがっていますから、そのために必要だと思い、用意させていただきました。
 この薬であれば、彼女が失ってしまった子宮や卵巣を取り戻す事ができるはずです。副作用はかなり過激なものとなっていますが、タクマさんの伴侶はんりょになるのであれば、ちょうど良いのではないでしょうか?
 エリクサーを使うのも使わないのも、あなたたちにお任せします。あなたたちが良いように使ってくださいね。
 ヴェルド


 わざわざタクマたちを祝うために、アイテムを用意してくれたようだ。

「ヴェルド様。ありがとうございます。この薬は夕夏としっかりと話してから、使わせていただきます」

 タクマはクッションを箱に戻し、エリクサーと指輪をしまった。
 続いて他の宝箱を調べていったが、どれもタクマが見た事のない代物ばかりだった。

「これはそのうちしっかりと鑑定しよう。さすがに疲れて集中できない。みんな、今日はもう遅いし、明日の朝戻ろう」

 出した宝箱をすべてしまったタクマは、帰宅を明日にするとヴァイスたちに言う。
 ヴァイスたちも了承してくれたので、食事にする事にした。作るのは面倒だったから、異世界商店で買ってしまう。

「ヴァイスとアフダルは何がいい?」
「アウン!(肉の載ったご飯!)」
「ピュイ(ヴァイスと同じ物で)」

 どちらも牛丼が良いと言うので、少し奮発して高級牛丼を食べる事にした。


[魔力量]:∞

[カート内]

 ・最高級牛丼(和牛使用)メガ盛 ×3 :9000
[合計] :9000


 決済を行ない、牛丼をヴァイスたちの前に置いてやる。彼らはすぐに、とても美味うまそうに食べ始めた。

(うま! お肉とおつゆがご飯に絡んで最高!)
(それに、肉のうまみがつゆにしみ出して、とてもマッチしてます!)

 ヴァイスたちは食べながらしゃべるのは行儀が悪いと理解しているので、タクマに念話で感想を言ってきた。

「そうか、気に入ってくれて良かったよ。うん、高かっただけあって、肉も出汁だしも最高な牛丼だ」

 タクマたちはあっという間に食事を終えて、早めに休む事になった。ここまであまり休憩を取っていなかったので、みんなすぐに深い眠りに就く。


    ◇ ◇ ◇


 翌朝。しっかりと睡眠を取り、疲れも取れたタクマたちは自分たちの家へ跳ぶ。
 早かった事もあり、ほとんどの家族はまだ寝ていた。
 タクマは自宅に入り、応接室のソファーに座ると、執事のアークスがやって来る。彼はコーヒーを出しながら聞いてくる。

「おかえりなさいませ。やる事は終わりですか?」
「ああ、問題なく終わった。それで、夕夏の様子はどうだ?」
まったく問題はありません。まだ体を自由に動かす事はできませんが、少しずつ回復しているようです。皆との顔合わせもしましたが、明るい性格の方なのですぐに馴染なじんでおりました」

 元々夕夏はとても社交的だったので、そういう心配はしていなかったが、そこまであっさりと仲良くなれるとは思っていなかった。

「へえ、多少苦労するかと思ったがな。まあ、みんなが受け入れてくれたのなら良かった」
「子供たちにはとてもなつかれていますね。子供たちも初めはちょっと警戒していたようですが、タクマ様の話を始めるとすぐに仲良くなっていました」
「何を話したかは気になるが……まあ、仲良くなれたなら良いか」

 タクマとアークスが留守中の様子を話していると、後ろから聞き慣れた子供たちの声が響く。

「あー! おとーさんだー!」
「おかえりー!」
「おかえりなさい」
「あ、おかーさんよんでくるー!」
「私もー!」
「僕もー!」

 寝起きにもかかわらず元気な子供たちは、夕夏を呼びにバタバタとタクマの部屋に走っていってしまった。

「もう、お母さんと呼んでるのか。相変わらず子供と仲良くなるのが早いんだな……」

 タクマはかしましい子供たちの行動を、笑いながら見送るのだった。



 3 二人の将来


「おかえりなさい。無事に戻ったみたいで安心したわ」

 車椅子に座る夕夏は、子供たちに押されながらタクマのもとへやって来た。

「ああ、ただいま。体調はどうだ?」
「そうね。まだ歩けないけど、体調自体は問題ないわ」

 子供たちが丁寧に看病をしてくれたらしく、夕夏は幸せそうな顔をしていた。

「あのね、おかーさん、元気になってきたよ」
「ご飯も食べられるし、起きられるの」
「それとね、僕たちとお話ししてくれる」
「おとーさんの事、いっぱい教えてくれたの」

 子供たちはタクマの留守中に、夕夏がどんな様子だったかを懸命に説明する。タクマはそれを聞きながら、子供たちを撫でる。

「なるほどな。みんな頑張って夕夏を世話してくれたんだな。ありがとう」

 タクマに褒められた子供たちは、嬉しそうに目を細めた。すると、夕夏は口をとがらせて不満を口にする。

「やっぱりタクマが一番なのね。あなたが帰ってきた途端に、花が咲いたように明るくなるんだもの」

 子供たちは気が付いていないようだが、タクマが留守になると少しだけ表情が暗いのだそうだ。それが、タクマが帰ってきたと分かると、全く違う表情を見せたらしい。

「まあ、そんな事でやきもちを焼くなよ。子供たちとの付き合いは、俺の方が長いんだ。どうしたってそうなる。これからお前がたくさん話していけば問題ないだろ?」
「それはそうなんだけど……それでも悔しいのは変わらないわ」

 夕夏は子供のようにそっぽを向いてしまった。

「おかーさん、どうしたの?」
「おこってる?」
「僕たち駄目な事しちゃった?」

 子供たちは不安そうな面持おももちで夕夏を見る。夕夏は慌ててそれを否定した。

「違うわ。私はただ、あなたたちとタクマがすごく仲が良くてうらやましかっただけ。私もそうなりたいなーって」

 夕夏は子供たちをなだめようと、思った事を説明していく。

「えー? 僕たちおかーさんも好きだよー」
「僕もー」
「私もー」
「もっとお話しして仲良くなろー」
「おかーさんやきもち?」
「そうね。これからいっぱいお話しして仲良くなりましょ。それよりも、ご飯の時間みたいだから座りましょうね」
「「「「はーい!」」」」

 子供たちが席に着くと、アークスと使用人たちが朝食を持って現れた。そして、子供たちの前に食事を置き、食べるように促す。
 もちろん全員で朝食を食べた。子供たちは普段からかなりの運動量をこなしているため、朝からたくさん食べる。タクマはそれを微笑ましく見ながら、自分も食事を進めていった。
 食事を終えると、子供たちは庭に出てヴァイスたちと遊び始める。それを見送ったタクマは夕夏に話しかけた。

「夕夏、ちょっと場所を変えて話さないか? 将来について重要な事なんだ」

 タクマは言葉を選んで口に出す。夕夏の方もタクマの真剣な顔を見て、居住まいを正した。タクマが真剣な顔の時は、本当に重要な話だと理解しているのだ。

「分かったわ。どこで話す?」

 タクマは二人きりで話したかったので、誰も来ないであろう寝室で話をする事にした。
 そして一応、アークスたちには部屋には近づかないように言ってから、夕夏の車椅子を押して寝室に移動する。

「で? どんな話なの?」

 夕夏が早く話すよう促す。だが、タクマはそれを制して、部屋に遮音しゃおんの魔法を施した。

「これで、話が漏れる事はない。じゃあ、大事な話だからゆっくりと話そう」

 そう言ってタクマは、夕夏が封印されていたダンジョンの話を始めた。
 そして、そこで手に入れたアイテムについて話していくと、夕夏の表情が見る見るうちに変わっていった。

「色々言いたい事はあるけど……私の体が治る? でも……私の病気は相当昔に手術してるし、タクマの回復魔法でも治らなかったわ」
「ああ……お前がそう言うのなら、治ってなかったんだろうな。だが、これがあればお前は完全な健康体へ戻る事が可能なんだ」

 タクマはそう言って夕夏を見る。しかし、タクマの表情は優れなかった。というのも、このエリクサーを飲めば、通常の人間のあり方から逸脱してしまうのだ。
 タクマは効能と共に、副作用も正確に伝えていく。

「そう……寿命が……でも、それくらい強い薬じゃなきゃ、治らないって事なのね」
「ああ。ただな、お前を一人にする事はないから安心してくれ」

 タクマは夕夏を安心させるため、今まで秘密にしていた自分の種族や寿命に関して、正直に話した。

「……というわけで俺は、寿命が延びたお前を置いてさっさと死ぬよう事はない」
「あなたがすでに神様になりかけていたとは……驚きだわ。でもそれだったら、私は迷わないわ。あなたの子供を授かれて、寄り添って長い時を過ごせるならむしろ飲みたいくらいだし。何より、私はあなたとずっと一緒にいたいの」

 夕夏はタクマの状況を聞き、すぐに決心がついた。タクマが種族的に長い寿命であるならば、自分がそうなったとしても構わないと。
 タクマは腹の据わった夕夏を見て、自分の覚悟も決まった。

「分かった。俺だってお前とはずっと一緒に過ごしたいんだ。だけど、俺のエゴでこれを飲ませたくなかった。ずっと一緒にいたいと言ってくれてありがとう」

 タクマは覚悟を決めた夕夏を抱きしめる。

「大丈夫よ。私はあなたがそばにいてくれれば、どんな事でも乗り越えてみせる。だから、私にあなたの子供を授からせてちょうだい」

 タクマはこの話の後にしっかりとした求婚をしようと考えていたのだが、まさか夕夏の方から先に言われてしまった。

「ふう……逆プロポーズされるとは。後で俺の方から言おうとしてたんだが」

 タクマがため息をつきながら苦笑いをしていると、夕夏が意外そうな顔を見せる。
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