くたばれ番

あいうえお

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3話

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お母さんに会いたい。
お父さんに会いたい。
友達に会いたい。
産まれてくる兄弟に会いたい。

ずっとずっと思ってきたことだった。
召喚されてから毎日毎日、思っていたことだった。

あの男が私をすごく愛してくれたことに少し喜んだ。
いっその事好きになってしまえば楽なのかもしれないとも思った。

けど、無理だった。
私にとってあの男リュカは誘拐犯で、私から家族と友人を引き離した最低な男だった。
どれだけ優しくされようと、どれだけ甘い声で誘惑されようと、好きにはなれなかった。

そのくせ嫉妬は少しして、自分が嫌だった。
帰れないと聞いた時、分かっていたけれど絶望した。

足を切られた時、心がもう折れていた。

どうすれば良かったんだろうとずっとずっと思っていた。
いきなり召喚されて、私の都合も聞かず、番というものを見て、私のことを見ないあの男。

番と言うだけであれだけ狂ってしまうのが怖かった。


帰れないと言われた時に諦めればよかったのだろうか。

何度も何度も我儘だといわれた。
信じていた人を疑ってしまった。
自分勝手だと言われて納得した。

でも自分がしたことが、言ったことがそれほどまでに悪かったのか今もまだ分からない。


──────────────
────

「……ここは?」

先程まで魔王に抱えられていた筈の私は何故だかふかふかのベットで寝ていた。
ふと切られたはずの足を見れば先程までの事は夢だったのかと思うくらい綺麗に自分の左足があった。

足がある。あの熱さももうない。
けれど、あの男への恐怖はまだあるのだ。

「あ、勇者が起きましたね。丁度良かった。魔王様、話を聞きましょうよ」

小さな男の子が先程の魔王の手を引いて部屋に入ってきた。
欠伸をしながら入ってきた魔王と目が合った。
やはり、リュカと似ている。
先程の光景を思い出し、恐怖で身体が震える。

「おい、勇者。お前なんで足切られてたの?」

怯えるこちらの事は気にせず、なんとも軽い口調でそう聞く魔王。先程から勇者だと私に向けて言ってるが、何か勘違いしているのではないだろうか。

「わ、たしは勇者じゃない」

「いや、勇者だろ。勇者の力を持ってるし。」

勇者の力?何故そんなものが私にあるのか全く分からない。

「私は勇者じゃない。勝手に召喚されたただの人間」

「あー、そう思うのはいいけど勇者召喚は行われてるしな。お前もどうせ元の世界にいたくなかったんだろ。」

「違うっ!!そもそも私はあの竜王の番召喚で召喚されただけ!こんな世界、来たくもなかった!!!」

そう私が強く叫んだのが意外だったのか魔王は驚いた顔をする。
驚いた顔をしているのは魔王だけではなく隣の男の子もだった。

「ちょっと待ってください勇者、貴方まさか、元の世界に帰りたいとか思ってますか?」

驚いた表情を変え、恐る恐るといった様子で私にそう問いかける男の子。
何を当たり前のことをと思ったがどうにも相手の様子がおかしい。

「当たり前でしょ。私はこんな世界きたくもなかった。でも、帰れないっていわれた。でもあの男の番になるのは嫌だった。だから、少しでも知識をつけて逃げようとしたら見つかって閉じ込められたの。」

思い出して説明するだけで億劫になる。けれど、もしかしたらアイカの時のように説明すれば理解はして貰えるかもしれない。
アイカの話を聞いてくれた時の怒りは嘘ではなかったはずだから。

「お前あいつの番だろ?何も感じないのか?」

「誘拐犯に何を思えと?帰してほしいと言えば我儘扱い。竜王の番はどれだけ幸せか語られて、足を切断される。意味がわからないわよ……!どう好きになれっていうの?」

「じゃあお前は、俺を倒すつもりも俺達の国に敵対するつもりもないのか?」

どうしてそんな話になるのかと思ったが、確かに物語では必ず勇者と魔王は敵対している。
魔王からすれば勇者なんてめんどくさい者この上ないだろう。

「ないっ。勇者だとも知らなかったし、この世界を救うとかも思わない。」

「けど、もし俺を殺したら帰れるとしたら?」

「……それは……。」

魔王を倒せば帰れる。ならば私はどんな手を使ってでも魔王を殺す手段を考えるかもしれない。本当に帰れるかの確証はないが、もしもに今の私なら縋ってしまうだろう。
私が戸惑ったのが分かったのか魔王はため息を吐いた。

「まぁ、俺を殺しても帰れるわけじゃない。けど、言い淀むってことは帰れるなら殺しでもなんでもしようって思いがあるんだな」

「……」

「勇者が正義のためでもなく、自分の願いのためになら魔王を倒すか。まぁいい。所で勇者お前は俺が……。」


魔王は私を見すえ、真剣な顔ざしになった。


「お前を元の世界に帰せるって言ったら、何を対価にしてくれる?」


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