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第一章
21話
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「っは?」
目の前にある光景に私は驚くことしか出来なかった。
私は確かに城の外に出たはずだった。しかし、今私はこの世界に来た時と同じ召喚陣の所にいた。
混乱する私を憎々しいといった目で見る目の前にいる男はリュカで、その横に居るのはヴィル。
そんな混乱する私を置いてヴィルが口を開いた。
「陛下~俺、そろそろ変身解いていい~?」
ヴィルの口から告げられた言葉は、軽口で、決してヴィルが言うような言葉では無い。ヴィルの顔から発せられた声は普段の低く、よく通る声ではなく、少しハスキーボイスながらも幼さを感じさせられる声だ。
「ヴィ、ル?」
「どうしたんですか?番様?」
彼の名前を呼べばいつもの彼の声、口調でこちらをにこりと笑顔で見ていた。
状況理解が出来ずに、呆然としていれば、横で「痛っ」とアイカの声がする。
「っ!何してるの!?」
私の横にいたアイカを取り押さえる兵に声をかける。
「離して!!ちょっと……っ!」
私がアイカに近づこうとすれば直ぐにあの男が私の腕を掴んだ。腕に込められた力は骨が折れるんじゃないかと言うほど強く込められていた。
「その女を始末しろ」
酷く恐ろしい声で、そう言ったのは私にずっと甘かったあの男。
「待って、やめて!やだ!ねぇ、ほらリュカ!もうしないから!」
この男が殺ろうとしているのはアイカだ。そして、先程言った言葉は有言実行されるだろう。悪寒が走りながらも必死であの男に縋る。
だが、男もアイカを押さえつけている兵も私の言葉など無いものとして扱い、兵のひとりが剣を振り上げた。
「あっ、待ってよ~」
酷く殺伐とした空間にその軽い声は響いた。
持っていた兵の剣を浮かせ、自身の元へと手繰り寄せたのは銀髪の美しい少年だった。
「おい」
とその二言だけで周囲の者が卒倒しそうな程の殺気を放ち、銀髪の少年を睨むリュカは、ずっと苛立ちを隠せない様子だった。
「おー怖い、でも、番ちゃんに説明しとかないとまた誤解されるよ?」
「そんな事どうでもいい。逃げようとするのなら動けなくすればいいだけだ」
ゾッとするその一言に体が震え出す。
「まぁ、それならそれで良いんだけど、やっぱり騙してた俺としてはさー」
そう言いながら銀髪の少年は姿を変えた。そこに現れたのはニコニコとこの場に似合わない笑顔を浮かべたヴィル。
考えたくはなかったが、目の前でその光景を見れば嫌でも納得してしまう。ヴィルは存在しなかったのだ。
「改めまして番ちゃん、俺の名前はハイリム!賢者だよ~」
パッとまた銀髪の美しい少年の姿に戻り、そう言ったハイリムは私に手を振る。
賢者と言えばアイカに教えてもらったこの世界を統べる最強の3人のうちの1人ではないだろうか。なぜ、そんな者がこんな所に?
もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「というか、今はアイカちゃんだよ!アイカちゃん!番ちゃんは助けたいの?」
頭の中が混乱していても私は直ぐ、「助けたい!」と言った。
少年は「うんうん、なるほど~」と大袈裟に頷き、「でも無理だよ」と、私の言葉をバッサリと斬った。
「なっ」
「だってアイカちゃん、君を魔族に売ろうとしてたんだよ?」
明るくニコニコとそう告げたハイリムに思わず言葉を失う。
アイカが私を売ろうとするなんてそんなはずは無い。
彼女の方を見れば必死に首を振っていた。
「嘘よ……騙されない…から。」
「でもさ、いきなりあった人がこんな危険を犯してでも助けると思う?」
「それは…!」
彼女の言葉に嘘はなかったはずだ。しかし、小さくできた疑問は徐々に大きくなり始める。
「それとも自分はそれだけしてもらえる人間だと思ったのかな?」
その言葉に鈍器で殴られたかの衝撃を受けた。自分が自己中心的な自覚はあった。しかし、実際に直接言葉でぶつけられると、屈辱とも羞恥心とも言える気持ちが芽生えた。そんな私の事など気にせずおどけたようにわらうハイリム。
「あれ、図星だった?」
ごめんね、と悪気もなく謝るその姿に私は何も反論することが出来ずにいた。
「お前、そろそろ死にたいのか?」
今まで黙って聞いていたリュカは殺気を飛ばしながらハイリムの方を向き、そう告げる。
「あ、自分勝手に番を召喚したリュカだ、自分勝手な者同士お似合いだね」
バカにしたようにそう言ったハイリムは怖いもの知らずなのかもしれない。彼放った言葉の後に一斉にその場にある剣が浮く。その剣はハイリムの方へと向き、矢のように早く、ハイリム目掛けて飛んだ。
「ごめんごめん、言い過ぎたね、契約通り竜王の逆鱗貰ってくからねー」
ハイリムに向かっていた剣は彼に届かずに全て地面へと落ちた。終始おどけていた彼の手にはきらりと紅く輝く鱗が。その鱗を見せつけるように持ってすぐ様その場から消えた。
嵐のような彼が去っていき、一先ず次にすべき事を必死で頭の中でフル回転させる。
しかし、直ぐに私の意識は暗闇へと落ちた。
次に目を覚ました時には私は殺風景な何も無い部屋の中にいた。
目の前にある光景に私は驚くことしか出来なかった。
私は確かに城の外に出たはずだった。しかし、今私はこの世界に来た時と同じ召喚陣の所にいた。
混乱する私を憎々しいといった目で見る目の前にいる男はリュカで、その横に居るのはヴィル。
そんな混乱する私を置いてヴィルが口を開いた。
「陛下~俺、そろそろ変身解いていい~?」
ヴィルの口から告げられた言葉は、軽口で、決してヴィルが言うような言葉では無い。ヴィルの顔から発せられた声は普段の低く、よく通る声ではなく、少しハスキーボイスながらも幼さを感じさせられる声だ。
「ヴィ、ル?」
「どうしたんですか?番様?」
彼の名前を呼べばいつもの彼の声、口調でこちらをにこりと笑顔で見ていた。
状況理解が出来ずに、呆然としていれば、横で「痛っ」とアイカの声がする。
「っ!何してるの!?」
私の横にいたアイカを取り押さえる兵に声をかける。
「離して!!ちょっと……っ!」
私がアイカに近づこうとすれば直ぐにあの男が私の腕を掴んだ。腕に込められた力は骨が折れるんじゃないかと言うほど強く込められていた。
「その女を始末しろ」
酷く恐ろしい声で、そう言ったのは私にずっと甘かったあの男。
「待って、やめて!やだ!ねぇ、ほらリュカ!もうしないから!」
この男が殺ろうとしているのはアイカだ。そして、先程言った言葉は有言実行されるだろう。悪寒が走りながらも必死であの男に縋る。
だが、男もアイカを押さえつけている兵も私の言葉など無いものとして扱い、兵のひとりが剣を振り上げた。
「あっ、待ってよ~」
酷く殺伐とした空間にその軽い声は響いた。
持っていた兵の剣を浮かせ、自身の元へと手繰り寄せたのは銀髪の美しい少年だった。
「おい」
とその二言だけで周囲の者が卒倒しそうな程の殺気を放ち、銀髪の少年を睨むリュカは、ずっと苛立ちを隠せない様子だった。
「おー怖い、でも、番ちゃんに説明しとかないとまた誤解されるよ?」
「そんな事どうでもいい。逃げようとするのなら動けなくすればいいだけだ」
ゾッとするその一言に体が震え出す。
「まぁ、それならそれで良いんだけど、やっぱり騙してた俺としてはさー」
そう言いながら銀髪の少年は姿を変えた。そこに現れたのはニコニコとこの場に似合わない笑顔を浮かべたヴィル。
考えたくはなかったが、目の前でその光景を見れば嫌でも納得してしまう。ヴィルは存在しなかったのだ。
「改めまして番ちゃん、俺の名前はハイリム!賢者だよ~」
パッとまた銀髪の美しい少年の姿に戻り、そう言ったハイリムは私に手を振る。
賢者と言えばアイカに教えてもらったこの世界を統べる最強の3人のうちの1人ではないだろうか。なぜ、そんな者がこんな所に?
もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「というか、今はアイカちゃんだよ!アイカちゃん!番ちゃんは助けたいの?」
頭の中が混乱していても私は直ぐ、「助けたい!」と言った。
少年は「うんうん、なるほど~」と大袈裟に頷き、「でも無理だよ」と、私の言葉をバッサリと斬った。
「なっ」
「だってアイカちゃん、君を魔族に売ろうとしてたんだよ?」
明るくニコニコとそう告げたハイリムに思わず言葉を失う。
アイカが私を売ろうとするなんてそんなはずは無い。
彼女の方を見れば必死に首を振っていた。
「嘘よ……騙されない…から。」
「でもさ、いきなりあった人がこんな危険を犯してでも助けると思う?」
「それは…!」
彼女の言葉に嘘はなかったはずだ。しかし、小さくできた疑問は徐々に大きくなり始める。
「それとも自分はそれだけしてもらえる人間だと思ったのかな?」
その言葉に鈍器で殴られたかの衝撃を受けた。自分が自己中心的な自覚はあった。しかし、実際に直接言葉でぶつけられると、屈辱とも羞恥心とも言える気持ちが芽生えた。そんな私の事など気にせずおどけたようにわらうハイリム。
「あれ、図星だった?」
ごめんね、と悪気もなく謝るその姿に私は何も反論することが出来ずにいた。
「お前、そろそろ死にたいのか?」
今まで黙って聞いていたリュカは殺気を飛ばしながらハイリムの方を向き、そう告げる。
「あ、自分勝手に番を召喚したリュカだ、自分勝手な者同士お似合いだね」
バカにしたようにそう言ったハイリムは怖いもの知らずなのかもしれない。彼放った言葉の後に一斉にその場にある剣が浮く。その剣はハイリムの方へと向き、矢のように早く、ハイリム目掛けて飛んだ。
「ごめんごめん、言い過ぎたね、契約通り竜王の逆鱗貰ってくからねー」
ハイリムに向かっていた剣は彼に届かずに全て地面へと落ちた。終始おどけていた彼の手にはきらりと紅く輝く鱗が。その鱗を見せつけるように持ってすぐ様その場から消えた。
嵐のような彼が去っていき、一先ず次にすべき事を必死で頭の中でフル回転させる。
しかし、直ぐに私の意識は暗闇へと落ちた。
次に目を覚ました時には私は殺風景な何も無い部屋の中にいた。
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