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第4章 魔法学校実技試験

第62話 推しはレムリア様!!

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 空間そのものを黒く塗り潰している、絵画の出来損ないのような存在。
 外傷はないが、あの子と同じように衰弱していると思われる勇者。
 アオイを傷つけたのは、このふたりのどちらか、もしくは両方だ。

 勇者は放っておけば全快して厄介になりそうだが、勇者はまだ、バッドエンド回避や、他にも利用価値があるので、今は殺すわけにはいかない。
 アオイを傷つけたというなら、そんな理屈は置いといて始末してもいいが、今は放置でいいだろう。

(……とりあえず、今対処するべきはあの出来損ないの絵画ね!)

 そう判断し、魔導銃の弾丸数発分を一度に放つ高魔力モードで射撃する。

(これは牽制。同時に、アスガルドでカルトヘルツィヒたちを……)

 アスガルドから、戦闘用ドローンであるカルトヘルツィヒを、光魔法で再現したステルス状態で展開。
 大火力で確実に仕留めようとする。
 だが……

「…………」

 魔導銃を喰らった出来損ないの絵画は、悲鳴もなく四散した。

「これは……」
「あーあ。やっぱり、媒体がなくなったらこの世界に顕現できないか」

 響いてくる声。
 風の魔法の応用で、声による空気の振動を遠くから届けているのだろう。
 そして、その声に合わせて浮かび上がってくる黒い宝玉……おそらく魔王の武具。
 ということは、声の主はひとりしかいない。

「……幽鎧帝と一緒に行動している魔王候補、ということでいいかしら?」
「あらぁ~。もうバレバレなんですねぇ~」

 今回、私たちの敵は幽鎧帝と、魔王の器。
 幽鎧帝を倒した今、こちらに敵対してくるのは魔王候補しかいない。

「ちなみにぃ、話し合いの余地はありますかぁ~?」
「命乞いなら聞かないけど?」
「そんなこと言ってぇ~。ちょっと興味があるから、今こうやって話を聞いてくれているんでしょう?」
「……簡潔に言いなさい」
「ぉほんっ。では、秘密の会話ということで……えぇい!」

 周囲の空気が変わる。
 風の魔法によって特定の場所にのみ声が響くようにし、私たちの会話を勇者に聞かせないようにしているようだ。

「勇者側に証拠を掴ませるとぉ、私の仕事が増え……面倒なものでしてぇ~。それでそれで! 私の言いたいことはですねぇ~?」

 人を小馬鹿にするような、間延びの喋り方。
 それだけでも腹が立つ。
 だが、すぐに気にならなくなった。

「――私と協力して、レムリア様を魔王にしませんか♪」

 話した内容が予想外すぎて、それどころではなくなったからだ。

「……貴方は、魔王になりたくてこちらに仕掛けてきたのではないの?」
「まさかまさか! 私なんかが、魔王という崇高な存在になるなんて不可能! いえ、そんな考えを起こすことすらおこがましいです!」

 魔王に対する想いを語りだす魔王候補。
 いわゆる魔王信仰者かと思ったが、どうにも毛色が違う。

 この世界の魔王崇拝者は大きく分けてふたつ。
 破滅主義者か、魔族至上主義者のどちらかだ。
 だがこの魔王候補は違う。
 魔王という存在そのものに惹かれ、崇拝しているように感じる。

「この世界を滅ぼすために生まれたもの! 魔を超越した闇そのもの! そんな神々しい存在である魔王には、レムリア様が相応しいんです!」
「レムリアが……?」
「力なき存在と罵られながらも、騎士団長すらも打ち負かす! その境遇に負けず、努力しながらも優しさを忘れない! 絶大な力を手にしても、それを誇示するのではなく、その力と叡智で領土の民を導いている! レムリア様こそ真の高貴なる者……いや、聖女! 
 この国は、そして世界は! あのお方にひれ伏すべきなのです!!」

 早口で一気に話す魔王候補。
 顔は見えないが、さぞ『狂信』というのが相応しい、異常な目をしているのだろう。

「……それにしては、随分とこの子を痛めつけたものね」
「レムリア様を完全に魔王にするためです! 別に、大好きな人が苦しむ姿に興奮したというかぁ、なんか色々と昂っちゃったとかじゃなくてぇ……うへへへぇ…………」

 ……声だけで分かる。
 こいつは変態だ。

「……貴方が、思想、性癖、思い込み、全てにおいて本物の変態ということは分かったわ」
「褒めてもらえて光栄ですぅ♪ それで、返答は?」
「同じ力を求めているのに、私たちと貴方がともに行動していない。これが答えじゃないかしら?」
「そこをなんとか! あ、なんだったら、あの思想もないのに魔王を復活させることしか考えていない、幽鎧帝を目の前で殺しましょうか!? あんな奴、すぐに殺してやりますから!」
「……」
「そ、それにぃ……実は私、アオイさんもかなり、かなーり大好きなんですよぉ……。命令されれば、靴だって喜んで舐めちゃうかもぉ♪」

 黒い宝玉が、ふよふよと左右に動き出す。
 まるで、媚を売るように腰を振る声の主が見えるようだ。
 そんな奴に私が言う言葉はひとつしかない。

「……くだらない」
「え? あ……!?」

 私の放った魔導銃が魔王の武具に直撃し、中から放出された闇が四散する。

「答えは変わらないわ。レムリアは魔王になる気はない。そして私は、制御できない魔王を復活させる気はない。これが答えよ」
「あ~……そうですかぁ……」

 私の言葉に、心底残念そうな声が響く。

「そうですか、そうですか、そうですか、そうですかぁ……」

 そして、まるで壊れた機械音声のようにその言葉を繰り返す。

「……そうですか、そうですか、そうですかぁ、そうですかぁ、そうですかぁぁ!!」

 そして、徐々に言葉に中に怒りの感情が芽生え、その声に応えるように、四散していた闇が集まり、巨大な繭のような形になる。

「そうですか、そうですカ、そウデスカですかぁ、ソウデスカぁ! ソウデスカァ! ソウデスカァア~~!!!」

 そして、もはや怒りを超えた、怨嗟の声とともに、繭が割れる。
 中から、小柄で長い黒髪、そしてゲームのレムリアが着ていた衣装をまとった少女が現れる。
 そして少女は私を真っすぐに見据え……

「……マジで死ねよ、お前」

 闇の奥底から響くような冷たい声を放った。
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