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第4章 魔法学校実技試験
第56話 正体
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「えっ、あなたはグリ……ム…………」
「……緊急なので、失礼」
ヴラムがオリビエに催眠系の魔法をかけたのだろう。
目が虚ろになって立ちすくむ。
「スコール、この子を適当な部屋に寝かせておいてください」
「はいよ」
スコールに指示を出し、そのままグリムの頭に触れるとグリムの傷が癒えはじめる。
「まったく。病気が治ったばかりなのだから、あまり無茶しないように」
「……もう治ってから数か月経ってるし」
「おっと、そうでした。長く生きていると、時間の感覚がおかしくなるものでして」
「病気?」
「ああ、伝えてませんでしたね」
そういえば、とばかりにヴラムは話しはじめる。
「この子は他の吸血鬼と違って、周りから生命力を補充できなかったんですよ。とはいっても、魔力は生まれながらにして、長年生きた私に匹敵するものを持っていたので、生きるだけなら問題ないんですけどね」
「それって……」
さらりと言っているが、大問題だろう。
人間で例えるならば、『食事ができない』と同じだ。
「安心してください。この子の言うように、数か月前に完治しています。それに、今私がやっているように、同族が生命量を分け与えることができたので、死ぬような病気ではありませんでしたから」
そう言ってはいるが、やはりずっと心配だったのだろう。
ヴラムはここに突入するとき、グリムを心配していた。
戦闘力はトップクラスのグリムを心配するの変だと思ったが、理由はこれだったということか。
「グリム。状況を聞かせてちょうだい。今まで何をしていたのか、そして誰にやられたのかを」
「……わかった」
そして、少し顔色がよくなったグリムが話しはじめる。
「……レムリアを追いかけてここに来たら、勇者に襲われた。それで、レムリアに助けを呼んできてと言われて逃げてきた」
「勇者と!?」
「……うん。今、奥の祭壇みたいなところで戦ってる」
「そう……」
祭壇ということは、魔王の武具のふたつめを手に入れている可能性が高い。
だから、勇者相手でもすぐにやられるなんてことはないと思うが、急がなくてはならない。
「とりあえず、ここから出る方法を教えてちょうだい。一度ここを抜けて奥の祭壇にまで行ったのでしょう?」
「……」
「……? どうしたの? 早く教えて」
「……わからない」
「わからない? それはどういうこと?」
「……最初ここに来たとき、この空間は発生していなかったから」
「……そう」
ということは、あの子が奥の祭壇に行けたのも、ここに来たときはまだこの空間は発生していなかったということ。
この迷宮が発生したのは、私たちがここに来た瞬間ということになる。
つまり……
「…………」
「どうかしましたか? アオイ嬢」
「……なんでもないわ。それより、ここからは二手に別れて探索しましょう。ヴラムはスコールと合流してそのまま探索。復帰したてで悪いけど、グリムは私といてちょうだい」
「待ってください。まだグリムは……」
「……」
「……承知しました」
私の顔を見て察してくれたのか、それとも『気づいている』のか、ヴラムは引き下がり去っていく。
「グリム、動けるわよね。そっちの棚を動かして、裏にある取っ手を引いてちょうだい」
「……取っ手?」
「ええ。この部屋には隠し部屋があるのよ。いわゆる、もしものときの脱出ルートね。この屋敷を完全にコピーしているのかの確認にも、もしかしたら抜けられるかもしれないという意味でも、確認する価値があるわ」
「……わかった」
グリムが棚の後ろ入ると、隅の床が動き出し、地下への階段が現れる。
いわゆる、床部分の板が稼働して現れるという、ギミック重視の、非効率的なゲームの世界の構築だ。
「私が先行を……」
「……いえ、その必要はないわ」
「……どうして?」
「ただでさえ不利なのに、敵が一から作った空間に行きたくないからよ」
「……!?」
魔導銃を取り、私はグリムに向ける。
いえ――
「そうでしょう? 幽鎧帝グリム・リーバー」
捜していた倒すべき敵に。
「……緊急なので、失礼」
ヴラムがオリビエに催眠系の魔法をかけたのだろう。
目が虚ろになって立ちすくむ。
「スコール、この子を適当な部屋に寝かせておいてください」
「はいよ」
スコールに指示を出し、そのままグリムの頭に触れるとグリムの傷が癒えはじめる。
「まったく。病気が治ったばかりなのだから、あまり無茶しないように」
「……もう治ってから数か月経ってるし」
「おっと、そうでした。長く生きていると、時間の感覚がおかしくなるものでして」
「病気?」
「ああ、伝えてませんでしたね」
そういえば、とばかりにヴラムは話しはじめる。
「この子は他の吸血鬼と違って、周りから生命力を補充できなかったんですよ。とはいっても、魔力は生まれながらにして、長年生きた私に匹敵するものを持っていたので、生きるだけなら問題ないんですけどね」
「それって……」
さらりと言っているが、大問題だろう。
人間で例えるならば、『食事ができない』と同じだ。
「安心してください。この子の言うように、数か月前に完治しています。それに、今私がやっているように、同族が生命量を分け与えることができたので、死ぬような病気ではありませんでしたから」
そう言ってはいるが、やはりずっと心配だったのだろう。
ヴラムはここに突入するとき、グリムを心配していた。
戦闘力はトップクラスのグリムを心配するの変だと思ったが、理由はこれだったということか。
「グリム。状況を聞かせてちょうだい。今まで何をしていたのか、そして誰にやられたのかを」
「……わかった」
そして、少し顔色がよくなったグリムが話しはじめる。
「……レムリアを追いかけてここに来たら、勇者に襲われた。それで、レムリアに助けを呼んできてと言われて逃げてきた」
「勇者と!?」
「……うん。今、奥の祭壇みたいなところで戦ってる」
「そう……」
祭壇ということは、魔王の武具のふたつめを手に入れている可能性が高い。
だから、勇者相手でもすぐにやられるなんてことはないと思うが、急がなくてはならない。
「とりあえず、ここから出る方法を教えてちょうだい。一度ここを抜けて奥の祭壇にまで行ったのでしょう?」
「……」
「……? どうしたの? 早く教えて」
「……わからない」
「わからない? それはどういうこと?」
「……最初ここに来たとき、この空間は発生していなかったから」
「……そう」
ということは、あの子が奥の祭壇に行けたのも、ここに来たときはまだこの空間は発生していなかったということ。
この迷宮が発生したのは、私たちがここに来た瞬間ということになる。
つまり……
「…………」
「どうかしましたか? アオイ嬢」
「……なんでもないわ。それより、ここからは二手に別れて探索しましょう。ヴラムはスコールと合流してそのまま探索。復帰したてで悪いけど、グリムは私といてちょうだい」
「待ってください。まだグリムは……」
「……」
「……承知しました」
私の顔を見て察してくれたのか、それとも『気づいている』のか、ヴラムは引き下がり去っていく。
「グリム、動けるわよね。そっちの棚を動かして、裏にある取っ手を引いてちょうだい」
「……取っ手?」
「ええ。この部屋には隠し部屋があるのよ。いわゆる、もしものときの脱出ルートね。この屋敷を完全にコピーしているのかの確認にも、もしかしたら抜けられるかもしれないという意味でも、確認する価値があるわ」
「……わかった」
グリムが棚の後ろ入ると、隅の床が動き出し、地下への階段が現れる。
いわゆる、床部分の板が稼働して現れるという、ギミック重視の、非効率的なゲームの世界の構築だ。
「私が先行を……」
「……いえ、その必要はないわ」
「……どうして?」
「ただでさえ不利なのに、敵が一から作った空間に行きたくないからよ」
「……!?」
魔導銃を取り、私はグリムに向ける。
いえ――
「そうでしょう? 幽鎧帝グリム・リーバー」
捜していた倒すべき敵に。
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