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第4章 魔法学校実技試験
第53話 魔王と勇者
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「……まさか、こんなに簡単に手に入るなんて」
部屋というよりもはやホールの中心。
私は、目の前の黒い球体……たぶん、魔王の武具を手にしながら呟く。
エレオノーラと戦ったあと、校庭に行ったら大きな穴が開いていた。
穴の中心地に私が近づいた瞬間に魔法陣が現れ、転移した先がここ、たぶんどこかの地下にある迷宮。
そこを一直線に進んだら、なんの妨害もなくこの巨大な部屋にたどり着いた。
やったことなんて、本当にこれだけだ。
「今、私が探してるのって、魔王の武具じゃなくて、別の奴なんだけどなぁ」
今、私が探している相手は、エレオノーラやアンナベルを操った幽鎧帝。
あいつだけは、絶対に許さない。
(……そう、許すわけにはいかない。)
(……あの幽霊は、確実にこの世から消そう)
私の近くからそんな声が聞こえたような気がする。
私も同意見だ。
詳細な場所までは限定できないが、以前の地下迷宮で会った黒い影、幽鎧帝の魔力をこの迷宮から感じる。
幽鎧帝の消える能力のひとつなのか、場所やどれがそうなのかまでは限定できないが、少なくともここにいるのは間違いない。
「……まずは、入り口まで戻るかな」
入り口に戻る途中、適当にこの施設を破壊していけば逃げ場もなくなるだろう。
天井が崩れたら……まあ、なんとかなるか。
とりあえず、魔王の武具は解放条件が分からないので仕舞っておいて……。
――キィィィィイイン!
その瞬間に、眩い光線が高音と共に一直線に放たれ、入り口の扉だけでなく、ホールを焼く。
「……くっ!」
そして、壊れた入り口から、見知った顔の少女が逃げ込むようにホールに入ってきた。
「……グリム!」
完全に戦闘モードなのか、赤い蝙蝠の羽根を生やし、夢魔とも言うべきかなり露出の高い衣装になっており、あちこち怪我している。
「……ごめんなさい。追いかけてきたら、とんでもないのに出会って」
「グリムがここまでやられるなんて……」
「……急に仕掛けてきたと思ったら逃げ回って。何が目的なんですか?」
そして、またしても聞いたことのある声がする。
「まあ、迷路みたいな迷宮でしたから、道案内みたいで助かりました……けど……」
その相手は入ってきた相手は、私を見て驚く。
だが、それは私も同じだ。
「エミル……?」
『ヤミヒカ』のヒロインであり、女勇者。
ストーリーの最後の最後で、攻略対象と絆を結んで勇者の力である精霊魔法を完全に使えるようになり、その力で魔王を滅ぼす。
そして、まだこの世界は『ヤミヒカ』の序盤と中盤のイベントが交互におきているような状態なのに、この子だけは終盤の最強精霊魔法を使い放題の状態。
言い方を変えれば、今、この世界の最強の存在。
「……気に入りませんね」
「え?」
「日頃はこんなこと思わないんですが……レムリアの匂いがして、レムリアに似た声で、雰囲気もレムリアに近い……本当にレムリアそっくりなのに、危険な力を感じます。なんだか、レムリアの偽物を見ているみたいで、本当に不愉快です」
私に敵を向けてくるエミル。
これは、勇者として、私が魔王であることを感づいているのだろうか
「私の名前も知っているみたいですし……ああ、もしかしてあなたが、マオさんですか? 聞いていた話と服装がちょっと違うようですが、まあいいです。そこの吸血鬼さんと一緒に、お話を聞かせてください」
「……それはできないわ。捕まるわけにもいかないし、何より今、私にはやることがあるから。それに……」
さっきから感じる『私のそばにある力』も最大限に活用し、アポカリプスを発生させる。
「……いくらエミルだろうと、私の友達のグリムを傷つけたのは、ちょっと許せない」
「レ、レムリア……」
「……誰かの為に何かしていて、私の言葉を……いえ、私に構ってくれない。そんなところまで、そっくりなんですね」
「え?」
「そっちの子については、私にも言い分があるんですが、まあいいです。私も、ちょっとあなたが許せなくなりました」
全ての精霊を出しながら、攻撃態勢をとるエミル。
精霊たちも、戦う気満々のようだ。
「グリム。地上に逃げて」
「でも……」
「……ごめんね。たぶん、エミルとの戦いだと、あなたを守る余裕がない」
「だからって……」
「大丈夫。アオイさんたちもこっちに向かってきてくれてると思うから、みんなを連れてきて」
そして、アオイさんたちが来る前に、逃げるでもいいし、どんな形でも終わらせないと。
私の力では、エミルには勝てない。
「……そうじゃなくて!」
「えっ?」
日頃出さないグリムの大声に驚く。
そして、いつもころころ表情が変わるとはいえ、こんなに悲しそうな顔にも。
「……グリム?」
「……なんでもない。アオイたちを呼んでくる」
「うん、お願い」
そのまま飛び去るグリム。
そんなグリムに見向きもせず、エミルは私を見据える。
「見逃してくれてありがとう、と言っておくわね」
「必要ありません。私の目的も、私の目に映るのも、今はあなただけなので」
「なんだか告白みたいで嬉しいわね」
「……やめてください。その雰囲気と声で言われると、こっちがおかしくなります」
「え、どういう意味?」
「そういうところもまた似ていて……もういいです。ちょっと痛い目に合わせます」
「それは私も同じよ……!」
その瞬間、精霊たちが放った攻撃が私を襲うが、アポカリプスによって防ぐ。
『ヤミヒカ』本編ではない、勇者と魔王の最初の戦いが始まった。
部屋というよりもはやホールの中心。
私は、目の前の黒い球体……たぶん、魔王の武具を手にしながら呟く。
エレオノーラと戦ったあと、校庭に行ったら大きな穴が開いていた。
穴の中心地に私が近づいた瞬間に魔法陣が現れ、転移した先がここ、たぶんどこかの地下にある迷宮。
そこを一直線に進んだら、なんの妨害もなくこの巨大な部屋にたどり着いた。
やったことなんて、本当にこれだけだ。
「今、私が探してるのって、魔王の武具じゃなくて、別の奴なんだけどなぁ」
今、私が探している相手は、エレオノーラやアンナベルを操った幽鎧帝。
あいつだけは、絶対に許さない。
(……そう、許すわけにはいかない。)
(……あの幽霊は、確実にこの世から消そう)
私の近くからそんな声が聞こえたような気がする。
私も同意見だ。
詳細な場所までは限定できないが、以前の地下迷宮で会った黒い影、幽鎧帝の魔力をこの迷宮から感じる。
幽鎧帝の消える能力のひとつなのか、場所やどれがそうなのかまでは限定できないが、少なくともここにいるのは間違いない。
「……まずは、入り口まで戻るかな」
入り口に戻る途中、適当にこの施設を破壊していけば逃げ場もなくなるだろう。
天井が崩れたら……まあ、なんとかなるか。
とりあえず、魔王の武具は解放条件が分からないので仕舞っておいて……。
――キィィィィイイン!
その瞬間に、眩い光線が高音と共に一直線に放たれ、入り口の扉だけでなく、ホールを焼く。
「……くっ!」
そして、壊れた入り口から、見知った顔の少女が逃げ込むようにホールに入ってきた。
「……グリム!」
完全に戦闘モードなのか、赤い蝙蝠の羽根を生やし、夢魔とも言うべきかなり露出の高い衣装になっており、あちこち怪我している。
「……ごめんなさい。追いかけてきたら、とんでもないのに出会って」
「グリムがここまでやられるなんて……」
「……急に仕掛けてきたと思ったら逃げ回って。何が目的なんですか?」
そして、またしても聞いたことのある声がする。
「まあ、迷路みたいな迷宮でしたから、道案内みたいで助かりました……けど……」
その相手は入ってきた相手は、私を見て驚く。
だが、それは私も同じだ。
「エミル……?」
『ヤミヒカ』のヒロインであり、女勇者。
ストーリーの最後の最後で、攻略対象と絆を結んで勇者の力である精霊魔法を完全に使えるようになり、その力で魔王を滅ぼす。
そして、まだこの世界は『ヤミヒカ』の序盤と中盤のイベントが交互におきているような状態なのに、この子だけは終盤の最強精霊魔法を使い放題の状態。
言い方を変えれば、今、この世界の最強の存在。
「……気に入りませんね」
「え?」
「日頃はこんなこと思わないんですが……レムリアの匂いがして、レムリアに似た声で、雰囲気もレムリアに近い……本当にレムリアそっくりなのに、危険な力を感じます。なんだか、レムリアの偽物を見ているみたいで、本当に不愉快です」
私に敵を向けてくるエミル。
これは、勇者として、私が魔王であることを感づいているのだろうか
「私の名前も知っているみたいですし……ああ、もしかしてあなたが、マオさんですか? 聞いていた話と服装がちょっと違うようですが、まあいいです。そこの吸血鬼さんと一緒に、お話を聞かせてください」
「……それはできないわ。捕まるわけにもいかないし、何より今、私にはやることがあるから。それに……」
さっきから感じる『私のそばにある力』も最大限に活用し、アポカリプスを発生させる。
「……いくらエミルだろうと、私の友達のグリムを傷つけたのは、ちょっと許せない」
「レ、レムリア……」
「……誰かの為に何かしていて、私の言葉を……いえ、私に構ってくれない。そんなところまで、そっくりなんですね」
「え?」
「そっちの子については、私にも言い分があるんですが、まあいいです。私も、ちょっとあなたが許せなくなりました」
全ての精霊を出しながら、攻撃態勢をとるエミル。
精霊たちも、戦う気満々のようだ。
「グリム。地上に逃げて」
「でも……」
「……ごめんね。たぶん、エミルとの戦いだと、あなたを守る余裕がない」
「だからって……」
「大丈夫。アオイさんたちもこっちに向かってきてくれてると思うから、みんなを連れてきて」
そして、アオイさんたちが来る前に、逃げるでもいいし、どんな形でも終わらせないと。
私の力では、エミルには勝てない。
「……そうじゃなくて!」
「えっ?」
日頃出さないグリムの大声に驚く。
そして、いつもころころ表情が変わるとはいえ、こんなに悲しそうな顔にも。
「……グリム?」
「……なんでもない。アオイたちを呼んでくる」
「うん、お願い」
そのまま飛び去るグリム。
そんなグリムに見向きもせず、エミルは私を見据える。
「見逃してくれてありがとう、と言っておくわね」
「必要ありません。私の目的も、私の目に映るのも、今はあなただけなので」
「なんだか告白みたいで嬉しいわね」
「……やめてください。その雰囲気と声で言われると、こっちがおかしくなります」
「え、どういう意味?」
「そういうところもまた似ていて……もういいです。ちょっと痛い目に合わせます」
「それは私も同じよ……!」
その瞬間、精霊たちが放った攻撃が私を襲うが、アポカリプスによって防ぐ。
『ヤミヒカ』本編ではない、勇者と魔王の最初の戦いが始まった。
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