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第4章 魔法学校実技試験
閑話 憧れと誇り
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――魔法実習。
その名の通り魔法の実習であり、魔法学校に入った生徒達が、それぞれ課題となる魔法を使い練習する授業。
(……まさか、『魔抜け』の私が受けることになるとはね)
少し前までは、魔力を持たない者たちが通う学校に通い、魔力を持つ者が優遇されるこの世界で、蔑まれ、そして羨みながら生活をしていたというのに、人生とは何が起こるか分からないものだ。
ヴラム、そしてロナードの思惑により生まれ、実行された魔王を宿す儀式。
儀式に耐えられる体に選ばれ、それを受け入れた私。
(そして……今はこの体)
自分を抱きしめるように、『あの子の体』を両手で覆う。
別次元の私……もう一人の私……そして、いつも私のそばにいてくれる私……
(……何を考えているのかしらね、私は)
……同じ存在だろうと、あの子は他人。
私にとっては、目的を達成するための駒。
それ以上でも、それ以下でもない……いえ、あの子と私はそうあるべき。
だって私は、あの子の……
「アオイ様、どうかなさいましたか?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事を……」
ペアになっていた子に謝りつつ、実習に集中しようとした瞬間に……
「考え事をするぐらい退屈なのでしたら、私と実技演習でもいたしませんこと?」
気が付けば、私の目の前に金髪で盾ロールという絵に描いたようなお嬢様みたいな子がいた。
(ヴァルモン家のエレオノーラだったかしら)
そして、その後ろには緑髪のエルフ、その二人の後ろに隠れるようにしている、長い前髪のせいで目が少し隠れている小柄な少女。
(たしか、エルフがフェリル・バレスティーナ、一番後ろにいるのが、ウィロウ家のアンナベル)
魔法学校に通う生徒は、ヴラムからの情報で概ね把握している。
この3人の調査はまだ終わっていないが、大方、『魔法が使える生意気な平民』をからかいにきたといったところか。
「あ、あの、エレオノーラ様。実技演習は禁止で……」
「私は構わないわ。それに、ヴァルモン家の令嬢が相手してくれるのは光栄ですしね」
「あら、私の家をご存知ですの?」
「もちろん。毎日のように豪華すぎるパーティー開き、頼んでもいないのに過剰な贈り物をしてくる元商人の成金貴族。制服改造して、露出度が少し上がっているその服も、有り余るお金で学校に許してもらったのかしら?」
「こ、これは、当家お抱えの服職人の力作ですわ!」
「ええ、とても似合っていると思うわ。貴女の体を美しく、そして下品に魅せているもの」
実際、学生とは思えない程の体をしている。
特に胸の大きさは、この国で一番ではないだろうか?
「い、言わせておけば~!」
「無礼には無礼で返す主義なのよ。後ろに控えている二人も私が気に入らないのでしょう? 面倒だし、まとめてかかってきなさい」
そう言いながら、後ろに控えている二人にも声をかける。
アンナベル・ウィロウは戦う気はなさそうだが、フェリル・バレスティーナは明らかに好戦的な目でこちらを見ている。
「あははっ! 思った通り、面白そうな子だね~アオイちゃん」
「え、えっと……」
「ば、馬鹿にして……相手は私だけですわ!」
だが、そんな二人を遮る様にヴァルモン家の令嬢が前に立つ。
どうやら、今時珍しい、プライドを持つタイプの貴族のようだ。
「それより、私が勝ったら誓いなさい! レムリア様と、もう少し距離を置くと! その、お、お胸を突いた事といい、あんな恋人みたいな距離感は、『レムリア様を遠くから見守る会』の会長として許せませんわ!」
「…………は?」
我ながら間抜けな声が出る。
とにかく情報過多なので、整理しつつ考える。
「一つずつ答えていくけど……まず、あの子ともう少し距離を置くというのは無理よ。私はあの子の執事なのだから、仕事放棄になってしまうわ」
付け加えるなら、私の監視下から離れたら、あの子は無限にだらける。
プリンだけ食べて、昼まで寝て、だらけるのに飽きたら体を動かし、無意識にトラブルを持ってくる。
食って、寝て、問題を起こす……さすがの私も、そんな迷惑な存在をこの世界に解き放つのは気が引ける。
「え!? アオイさんはレムリアさんの執事なんですの!」
「おはようからお休みまで世話しっぱなしよ。『レムリア様を遠くから見守る会』とやらの会長なら、それぐらい知っておきなさい」
というか、なんだそのふざけた会は。
あの子はいつでも友達募集中なのだから、遠くから見ている暇があったら声をかけるべき。
……まあ、変な友達ができたら面倒になるから、私を通してもらうけど。
「胸を突いた事は、あの子と一緒にお風呂にも入ってるんだから、あれぐらい今更よ。恋人のような距離感については…………」
「距離感については?」
「……それより、やるなら早くやりましょう。ぐだぐだ喋っていたら、実習時間が終わってしまうわ」
//////////////////////////////////
私、エレオノーラ・ヴァルモンの家であるヴァルモン家は、20年前は貴族ではなく、地方で鉱山経営をしていた商家だった
父の代で、たまたま所有していた山から大量の魔法石が発見された事で巨万の富を得て、その財力で魔力持ちの貴族の令嬢……母を妻に迎え、魔力を持つ私が生まれた事で、正式に貴族の仲間入りをした。
その後も財力で貴族に取り入り、たった十年で公爵家に匹敵する力を持ち、いつしか父は周りの貴族にこう呼ばれるようになった。
成り上がりの、『成金貴族のヴァルモン家』と。
私はその汚名を拭うため、誰よりも優秀な令嬢となり、父の手助けができればと努力をしてきた。
……そんなとき、あのお方と出会った。
「そ、それまで! 勝者、レムリア・ルーゼンシュタイン!」
倒れる騎士団長の横で、長い髪をたなびかせながら、勝って当然とばかりに佇む少女。
その凛々しい姿に、会場には、剣技大会後の優勝者と騎士団長の親善試合とは思えない程の大歓声が鳴り響く。
「が、学生が、騎士団長に勝ってしまうなんて!」
「それに、なんと美しい……!」
学生も、大会を見に来た市民も、さっきまで魔法が使われない試合など興味がないと退屈そうにしていた貴族たちも、全員が立ち上がって拍手していた。
もちろん私もその中の一人であり、帰ってからも、レムリア様の凛々しいお姿が頭から離れず、心臓の高鳴りが止まらなかった。
その後も、レムリア様を慕い続け、あの方に負けないような令嬢になると誓うだけでなく、社交界でたまに顔を見せてくださるあのお方を遠くから見つめ、そして、レムリア様を『魔抜け』と罵る者には罰を与えてきた。
そして、レムリア様に魔力が宿り、同じ魔法学校に通うだけでなく、同じ学級だと聞いたときは天にも昇る気持ちだった。
すぐにでも話しかけようとしたが、いつも周りにはあの平民の子……勇者様がいてできなかった。
それでも私は嬉しかった。
だって、勇者様という特別な方にレムリア様が認められたのだから。
私の憧れの方は、特別な方と懇意にしている……これで、今まで不遇の扱いをされてきたレムリア様の評価も変わっていくだろう。
……特別ではない私は、あのお方の隣に立てない。
ならばせめてと遠くから見守っていたら、同じようにレムリア様を見守っている子が……アンナベルがいた。
その後も同じような目線を送る級友フェリルに気づき、私は『レムリア様を遠くから見守る会』を結成した。
まあ、どうもあの二人のレムリア様を見守っている理由が、私とは違う気がしたが。
フェリルはもはや見守るというよりは監視ですし、アンナベルはその、なんというか気持ち悪……ちょっと変わった目で見ているし。
ともあれ、私たちの目的はひとつ。
レムリア様を慕い、陰から見守る、これが『レムリア様を遠くから見守る会』のなすべき事。
だからこそ、編入してきたその日から、レムリア様にベタベタと接するあのアオイ・ヒメカワという子は許せない!
少し怖い思いをさせて、レムリア様に近づけないようにする、そのつもりだった。
だったのだが――
「な、なんなんですの~!」
「う~ん、これはさすがに想定外かなぁ……どうする~? アンナベルみたいに、さくっとやられてくる? あれで一応、手加減してくれてるみたいだから、たぶん死なないよ~」
「そんな! ここで負けたら、アオイさんは今後もレムリア様の周りを……ひぃ!」
無数のマジックアロー……そう呼ぶにはあまりにも速く、自由に動く上に、凄まじい破壊力を持つ光球が、走って逃げる私たちの足元に炸裂し、その衝撃で体制を崩した私たちはその場に倒れ込む。
「……お喋りとは余裕ね。もう10個追加してあげるから、頑張って逃げなさい」
そしてアオイさんからさらに放たれる10個……いや、絶対それ以上ある光球。
アオイさんは絶対に、被虐趣味がある。
「あ~……これはダメかもしれないな~」
目の前の圧倒的脅威に、いつも笑顔のフェリルすらも諦めかける。
――おかしい。どうしてこうなったのだ。
最初は私が優位だった。
私が得意としている雷魔法は、威力は爆裂系の炎魔法に劣るが、速度は現在存在する魔法の中で最も速いとまで言われており、アオイさんが操るあの光球も薙ぎ払っていた。
だが、光球は全く減らない……むしろ増えていった。
そして私の魔力も限界を迎え、いつしか光球を全て迎撃する事ができなくなり、気がつけば、私の周りには50を超える光球が浮遊しており、アオイさんが手を振ると同時に、光球が一斉に襲い掛かってくる。
「エ……エレオノーラさ……ひゃうぅぅ~! 思った以上のご褒美ですぅ~~!」
その攻撃を、私の苦戦を見かねて乱入してきたアンナベルが受けてくれる。
アンナベルは防御系の土魔法の使い手で、それを誇りに思っているのか、強力な魔法を見ると何故か必ず受けにいく。
いつ見ても気持ち悪……頼もしい。
受けにいく理由は本当に不明だが、防御魔法の堅牢さは凄まじく、超威力の爆裂魔法する防げる……のだが、そのアンナベルを守る障壁を簡単に破壊し、吹き飛ばされていた。
「……あたしも乱入させてもらうね」
アオイさんを想像以上の驚異と悟ったのか、フェリルも乱入。
フェリルは圧倒的な魔力を持つエルフであり、しかもエルフの王族とされるハイエルフ。
身体能力も高く、近接格闘戦も得意であり、戦闘力だけならば魔法学校の教師以上なのだが……
「……残念だけど、格闘は『こっち』の方が歴史も、技術も上よ」
フェリルの神速の蹴りを簡単にいなし、反撃を入れるアオイさん。
そして、怯んだフェリルに襲い掛かる光球の雨。
「フェ、フェリル!」
爆音と共に巻き上がる噴煙。
そこから、なんとか防御魔法で防いだフェリルが出てくる。
「……面白そうとは思ったけど、まさかここまでとは。たぶんレムリアっちや、勇者ちゃんに匹敵する化け物だ、あれは」
あまりにも強烈な衝撃によるものなのか、それとも恐怖なのか、手が震えているフェリル。
それを見て、私は悟った。
――アオイさんには、絶対に勝てないと。
その後は防戦一方で、なんとか魔法で光球を迎撃しつつ二人で逃げ回り、今に至る。
「……あっちもそろそろ終わるでしょうし、潮時かしらね。こっちに注目を集める必要は、もうないでしょう」
レムリア様と、知らな……知らない? いえ、たしかアオイさんと一緒に編入してきた子が実習している方を見るアオイさん。
「……ここから先は容赦しないわ。降参するなら今のうちよ?」
そして、とても冷たい目でこっちを見る。
『降参しないなら身の安全は保障しない』、その目はそう語っていた。
「……お言葉に甘えようか、エレっち。たぶん、世間一般では化け物判定のあたしから見ても、あれは『本物の化け物』だ」
その通りだろう。
ここまで圧倒的な差があるが、それでもアオイさんは本気じゃない。
その証拠に、あれだけの魔法を放っているのに息ひとつ乱していない。
あの常軌を逸した魔力……過去に勇者様と戦った魔王という存在は、きっとアオイさんのような力の持ち主だったのだろう。
「降参だよ、アオイっち。突っかかって悪かったね。ほら、エレっちも」
頭を下げて降参をし、私にも頭を下げるように促してくるフェリル。
だけど私は……私は……!
「……降参はしません!」
「エ、エレっち!?」
残っている魔力を全て開放しながら、アオイさんに向かって走り出す。
マジックアローの迎撃に魔力を使っても、魔力の量の差で確実に負ける。
ならば、攻撃あるのみ!
「……愚かね」
そんな私の行動を冷ややかに見つつ、振り上げた手を下ろす。
その瞬間に、漂っていた光球の全てが私に向かって動き出し、私に直撃する。
「エ、エレっち~!」
……響く轟音、そして巻き上がる噴煙。
「……なっ!?」
晴れた噴煙から見えたのは、初めて見るアオイさんの驚く顔。
どうやら、私の行動はアオイさんにとって予想外だったようだ。
「ぐっ……う……」
……全弾、防御魔法無しで受けるという行動は。
「……天よ……雄々しく咆哮し……我が敵を……滅ぼせ……!」
今なら光弾による相殺もできない、そしてアオイさんにも隙がある。
この気を逃さず、光弾による痛みで薄れゆく意識の中、温存した魔力の全てを魔法にこめる。
「……トール、ハンマーァァ!」
魔法の発動と共に空に魔力の力場を発生し、そこから巨大な雷が降り注ぐ。
頭上という意識外からの攻撃であり、どんな魔法よりも早い雷による一撃……これが私にできる最大の攻撃だ。
「……非礼を詫びるわ、エレオノーラ・ヴァルモン。貴女は誇り高い貴族よ」
だが、アオイさんは焦る事なく、服の中から取り出した筒のようなものを上に投げる。
その瞬間、轟音と共に、雷がアオイさんではなく、何故かその筒へと落ちていく。
「な……なんで……?」
「雷の魔法使い、頭上に力場、この時点で何をするか概ね検討がつくわ。あとは即席の避雷針を……これは『この世界』では理解されないかしらね」
そういいながらゆっくりと手を上げるアオイさん。
それに答えるように、大量の光球が現れる。
「雷の魔法の強さにのみ目を向けないで、その特性と弱点も学ぶべきね。それと、動きが分かりやすすぎるから、もっと実戦経験を積みなさい。それが、私からの助言よ」
そして、アオイさんが振り上げた手をゆっくりと下ろす。
それが合図かのように、光弾が私に降り注ぐ。
(……やはり私では、特別な方たちには届かないのですね)
心の中でそう呟き、私の意識は途絶えていった。
/////////////////////////////////
「――い、一体なんなんだ、あの大穴は!」
「生徒のみなさんは、調査が終わるまで動かないでください!」
聞こえてくる、慌ただしい声で目が覚める。
「ここは……」
目に飛び込んでくるのは、いつもの空、見慣れた校舎。
そして――
「気がついたみたいね」
「え……?」
――聞きなれない声。
「しばらく動かない方がいいわ。軽い脳震と……頭を打っているみたいだから」
徐々に、周りの状況が分かってくる。
「おー、無事だったかエレっち」
「し、心配しましたよ、エレオノーラさん」
私のそばに駆け寄る二人。
「本当、回復魔法っていうのは便利ね。魔法って攻撃魔法ばかりちやほやされるけど、一番便利なのは、診察すら必要ない回復魔法だわ」
そして横にいたのは、ベンチに寝かされた私に、回復魔法をかけてくれているアオイさんだった。
「……今日のところは、私の負けという事にしておきますわ」
周りの状況から概ねを察して、まずは私の心からの言葉をアオイさんにぶつける。
「あれだけ完璧にやられて、しかも負けた相手に回復魔法をかけてもらっておいて、よくそんな事が言えるわね」
「そこが、エレっちのいいところだからね~」
「……その調子でどんどん強くなってくれれば、いずれエレオノーラさんも私を……うふっ、うふふふ~♪」
いつも通りの二人に安心する。
特にアンナベルは『いつも通り』で安心した。
「……さて、そろそろ喧嘩吹っ掛けてきた事について話しましょうか」
……やはり来た。
だけど私は、しっかりと対策をしている。
「たしか、貴女たちの目的は、私がレムリアに近づかない、だったわね? という事は、私が勝った場合は……」
「お待ちさない! たしかに私は貴女に要求いたしましたが、私は貴女からの要求を聞いていませんわ!」
そう、私はアオイさんの要求を聞いていない。
アオイさんが勝負を急いでくれて助かった。
「私の言葉はあくまで要望……互いに何かを賭ける決闘をしたのではないのですから、私が何かを賭ける必要はありません。残念でしたわね!」
立ち上がり、思いっきり勝ち誇りながらアオイさんに指を差す。
何かを賭けるときに最も重要なものは、『負けたのに勝つ』方法。
これぞ、ヴァルモン家の商売の鉄則!
「……たしかにそうね、私たちがしたのは、あくまで実技演習演習だものね」
「……え?」
あっさりと引き下がるアオイさん。
そんな私を見て、苦笑いするフェリル。
その目は、あ~、やっちゃったよこの子と語っている。
(な、なんですの、この空気……)
体が、頭が、思考が、私の全てが、警鐘を鳴らしている。
今すぐ逃げろ、ここに居ては危険だ、と。
「で、では、私はそろそろ……」
『考え事をする余裕があるぐらい退屈なのでしたら、私と実戦形式の実技演習でもいたしませんこと?』
「え……?」
アオイさんの持つ箱……魔道具? から、聞き覚え、というより話した記憶がある言葉が発せられる。
「これは私が開発した魔道具で、声や映像を記録できるの。ちなみに、国に魔道具として登録して効果も認められているから、証言にも使えるわ」
「もしかして、ヴァルモン家の令嬢が、授業中に勝手な事をしていると言いふらすつもりですの? ふふっ、その程度でしたら、私の家には傷ひとつ付きませんわ!」
もし世間に好評されたところで、評判最悪の我が家には今更でしかない。
あの異常な強さのせいで警戒しすぎた、そう考えて再度勝ち誇る。
「……そんな事、するわけないでしょう?」
……そんな私にアオイさんは、とても、とても良い笑顔を向けてくる。
そして、まるで捕らえた獲物の品定めをするかのように、ゆっくりと私に近づいてくる。
……全身から冷たい汗が止まらない。
今すぐにでも逃げるべきだと頭が理解しているが、まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
というか、腰が抜けている。
そして、アオイさんが人差し指で私の頬をゆっくりとなぞりながら、優しく、優しく話しかけてくる。
「……ねえ、知ってる? 実技演習って、例え相手を大怪我させても、それこそ死なせても、『事故』なのよ」
……その通りだ。
しかも今回は私から仕掛けているのだから、それこそ殺されたって、アオイさんは一切罪に問われないだろう。
「で、でも、実技演習はもう終わって……」
「授業はあと、15分あるわね? 付け加えると、貴女は私に降参していない」
「こ、ここ、こうさ……ひぃ!」
自分の置かれている状況に気づき、ただちに行動に移す私。
だが、アオイさんはそんな事お見通しだったようだ。
だってアオイさんの後ろに、いつの間にかあの忌々しい光球が浮かんでいるもの。
「……人の話を聞かないのは、感心しないわね?」
アオイさんの指がそのまま、私の唇に触れる。
そして、それに応えるかのように、徐々に近づいてくる光球。
「……み、見てるだけで、羨ましくて、ゾクゾクして……あふぅ……♪」
向こうでアンナベルが倒れる音がし、それをまた始まったとばかりに介抱するフェリル。
いや、羨ましいなら変わってほしいのだけど!
このままだと、恐怖のあまり、下半身が、品位の保てぬ事態になりそうというか、なんだったらもう、水分を感じるのだけど!
(……ですが! 詰めが甘いですわ、アオイさん!)
そう! ここは従ったふりをして、15分耐える!
この実習さえ、この実習さえ終われば……!
「……いけない事を考えてる顔ね?」
「ひいっ!?」
人差し指で強制的に顔を上げられる。
アオイさんの奇麗な顔立ちと、冷たい、ただひたすらに冷たい目が間近に迫り、同時に、ジジジジジ……という音が聞こえてくるぐらい、光球が迫ってくる。
「……さらば、エレっち」
「いや、諦めるの早すぎですわ!」
というか、助けてください!
命もそうですけど、腰も抜けてるし、下半身の尊厳も危機というか、決壊寸前だから!
「選びなさい? 今後、私の言う事をなんでもきくか。残り時間、ゆっくり、ゆ~っくりと、全身を破壊されるか」
本来ならばこんなの答えは決まっている。
例え全身を破壊されてでも相手に屈しない、それが私の誇り。
……だが、情けないけど私には無理だ。
だって、アオイさんは絶対、拷問よりも恐ろしい事をしてくるもの!
「……な、なんでも言う事をききますわ!」
「家の名前に誓って?」
「もちろん、ヴァルモン家の名に誓って! だ、だから、だから……ふひぃ!?」
私の顔のすぐ横を、あの光球が通り抜けていく。
防御魔法も張れない状態で、顔に直撃なんてしたら……あ、なんだか下半身に水分を感じる。
「……言うまでもないと思うけど、宣言は録音済みよ。ヴァルモン家のエレオノーラ。せいぜい、私の役に立つことね」
「は、はいぃ……」
そして、私から離れていくアオイさん。
助かった……もう目も鼻も、とにかくいろいろな場所から水分を垂れ流しながらそのまま座り込む。
「アオイっち。あたしはどうすればいい? それと、目を覚ましたと思ったら、二人のやり取りを見て、ゾクゾクと尊さが止まりませんわ~って言いながら、鼻血出してまた倒れたこの子」
そう言いながら、とても幸せそうな顔(鼻血まみれ)のアンナベルを持ち上げる。
「仲間になれっていうならなるよ。私たちも負けたわけだし」
そして、とんでもない事を言い出すフェリス。
一番にアオイさんに屈した私が言うのもなんだけど、アオイさんは私たちの『レムリア様を遠くから見守る会』の敵であり、自分から屈するというのはどうなのだ!
「二人とも優秀だから、私の目的のためにほしいけど……いいのかしら?」
「いや、エレっちがあそこまで尊厳捨ててるのに、あたしやアンナっちだけ何もなしっていうのもね~」
「そ、尊厳を捨ててなどいませんわ! 言っておきますけど、命令の中に、レムリア様を見守るの止めるようにとかがあったら、その場で襲い掛かる気満々で……あ!」
い、いけない、つい本音が……!
「……だ、そうだけど、こんなエレっちをそばに置いていいの?」
「別にいいわよ。私はエレオノーラのそういうところが気に入ってるから」
「え……?」
あまりにも意外な言葉。
なんだったら、あの光球を撃ち込まれる覚悟していたのだが。
「……はっ! どこからか尊い波動が!」
「はーいアンナっち。起きて早々悪いけど、鼻血ヤバい事になってるから、上向いてね~。ついでに、首の辺りをトントンしてあげよう♪」
「ふぐぅ……」
手慣れた介抱をしつつ、こちらに振り返るフェリス。
「予想通り、面白いね~アオイっち。エレっちの事は抜きにしても、仲間にしてくれると嬉しいな」
「な、なんだかわかりまふぇんが、わらひもお願いしまふぅ……」
そして、あっさりと仲間になるふたり。
うう、『レムリア様を遠くから見守る会』の結束が……
――ゴーン!
授業終了の鐘の音が、校庭にも鳴り響く。
「授業も終値。教師たちは、あのお馬鹿が……急に起きた爆発と大穴の調査で手一杯のようだし、私は教室に戻るわ」
「あの、言う事を聞く件についてなのですが……」
「ああ、安心なさい。別に、あの子を遠くから見守るのをやめろとか言う気はないわ。当面は……そうね。この学校で何か不可解な事件が無かったかを調べて、私に知らせなさい」
「不可解な事件?」
「いい例が、あそこにあるでしょう?」
そう言いながら、アオイさんは大穴を指差す。
「そういえば、あの大穴はいったい……」
「ああ、エレっちは気絶してたか。エレっちがやられた後すぐぐらいだったかな~。何かが軋むような物凄い音がしてさ~。気が付けばあの大穴ってわけ」
改めて大穴を見る。
校庭の半分近くを抉るとんでもない大穴。
こんなの、威力だけなら最強という爆裂魔法でも無理だ。
「……はっ! あそこはたしか、レムリア様たちが居たところですわ! レムリア様は……」
「あの子の無事は確認済みだから、心配しなくていいわ。貴女たちはさっき言った事をしておくように」
「不思議な事件ねぇ……ある意味、歩く不思議現象ならここに居るけどねぇ」
「……ふぐぅ?」
首をかしげるアンナベル。
自覚が無いというのは本当に恐ろしい。
「そういえば……隣の学級の子たちが、校内で不思議な声を聞いたと言っていましたわね」
「不思議な声?」
「あ~そういえばそんな話あったね~。同じ場所で聞いたのに、人の声を聞いたって子と、動物の声を聞いたって子がいたっていうやつね」
その後、誰も声を聞かなかったせいで、すぐに騒がれなくなったが、当時は幽霊が出たと大騒ぎになっていたのだ。
「……エレオノーラ」
ア、 アオイさんの目が!
さすがにこんなものは不思議な事件では……
「お手柄よ。やはり、貴女は優秀ね」
「え……」
そう言いながら、軽く微笑むアオイさん。
初めて見るその笑顔に、何故か心がざわつく。
「何人の子がその声を聞いたか、それぞれどんな子を聞いたかの総計も調べておいてちょうだい。それと、その声を聞いたって子たちから直接話も聞きたいわね。話を付けておいてちょうだい」
「エレっちと一緒にやっておくよ~。……また鼻血出して倒れたアンナっちが動けるようになってからだけど」
「それでいいわ。それじゃあ、私は失礼するわね」
そのまま立ち去るアオイさん。
そして、一度振り返り……
「期待しているわ」
また、私の心をざわつかせて去っていった。
「…………」
「……エレっち、陥落っと」
「は、はあっ!? なんの事ですの! 私はレムリア様一筋! アオイ様はただの敵ですから!」
「アオイ『様』、ねぇ……♪」
「あ、これはその、敗者として一応の敬意を払っているだけで……」
「はいはい♪ それじゃあ、調べにいこっか。アンナっち、そろそろ起きな~」
「と、尊いぃぃ……」
「ちょっと、人の話を聞きなさいフェリル! 絶対貴女、何か勘違いしていますわ!」
そう叫びつつ、私はフェリルに詰め寄っていった
/////////////////////////////////////////////
「……という事があったのよ」
「そうですか……」
いろいろあった学校での1日が終わって屋敷に帰った私たち。
夕食の席で、エレオノーラたちとどう知り合ったのか気になるとアオイが言うので話していたのだが、何故か不機嫌になるアオイ。
自分で話してほしいと言ったから話したのに、なぜ不機嫌になるのか。
「…………人誑し」
「は? どういう意味よ」
優秀な部下を手に入れただけで、なぜ人誑しとか呼ばれなければならないのか。
というか、片っ端から誑しまくっているこの子にだけは言われたくないのだけど。
「……ラズリー! プリンお代わり!」
「はい、承知しました」
アオイの言う通りにし、プリンのお代わりを持ってこようとするラズリー。
「ちょっと。あんまり甘やかさないで」
そう告げる私を見て、ラズリーは分かりやすくため息をつく。
「……前々から思っておりましたが、レムリア様とアオイ様、根本のところが似ていますね」
それについては、いろいろな意味で否定しないが、さっきのやり取りのどこでそれを感じたというのだ。
「……こういうときは食べて忘れるのもありかと。それとアオイ様は、もう少し自分というものを知るべきです」
そう言いながら去っていくラズリー。
自分の能力ならば完全に把握しているつもりなのだが……
「…………」
目の前の不機嫌なこの子を見るに、どうやら私の知らない何かがあるのだろう。
「……はあ」
溜息をつきながら立ち上がり、アオイの隣に座る。
「……なんですか?」
怒ったとも、寂しそうともいえる顔。
はっきり言って腑に落ちないし、絶対にこの子が勝手に不貞腐れているだけなのは間違いない。
こういうのときは、甘やかしてはいけない。
放っておくのが一番正しい。
「……あんまり困らせないでちょうだい」
「え?」
……だが、困った事に、私はこの子のこういう顔が苦手だ。
だからこそ、少しでも機嫌が良くなるようにと、この子の頭を撫でる。
「……私、子供じゃないんですけど」
「じゃあ、やめましょうか?」
「べ、別にやめてとか言ってませんし!」
そう言いながら、私に撫でられ続けるアオイ。
「……アオイさん」
「何?」
「不思議事件の調査、私も一緒に行っていいんですよね?」
「当たり前でしょう。探しているのは貴女の武具と部下なのだから、貴女が来るのは当然だわ」
「そ、そういう意味じゃなくて……」
「それに、貴女と私は一心同体みたいなものよ。目的があるならともかく、理由無しで別行動するのは許さないわ」
「…………」
また急に黙りだすアオイ。
本当にこの子は、分かりやすそうに見えて、実は全く予想がつかない行動や思考をするから困る。
「…………人誑し」
「だから、なんでそうなるのよ」
「自分で考えてください」
考えて分からないから聞いているのだけど? と言いかけるが、なんだかこの子に聞くのは癪なのでやめておく。
「でも、可哀そうだからヒントをあげます。あと5分だけこうしてくれていたら、私の機嫌が直りますよ」
「……それ、本当にヒントなの?」
「はい! とっても大事なヒントです!」
本当に意味が分からない。
全てが理解不能かつ理不尽であり、ここまでされているのだから怒ってもいいのかもしれないが……
「……♪」
さっき自分で言ったヒントを守れず、5分経つ前に機嫌が直っているのこの子の顔を見たら、その気も失せる。
「……本当に、しょうがない子ね」
とにかく今は、この子の機嫌を取るとしよう。
この子が楽しそうにしているのを見るのは、嫌いじゃないから。
////////////////////
詰め込みすぎました…( ノД`)
その名の通り魔法の実習であり、魔法学校に入った生徒達が、それぞれ課題となる魔法を使い練習する授業。
(……まさか、『魔抜け』の私が受けることになるとはね)
少し前までは、魔力を持たない者たちが通う学校に通い、魔力を持つ者が優遇されるこの世界で、蔑まれ、そして羨みながら生活をしていたというのに、人生とは何が起こるか分からないものだ。
ヴラム、そしてロナードの思惑により生まれ、実行された魔王を宿す儀式。
儀式に耐えられる体に選ばれ、それを受け入れた私。
(そして……今はこの体)
自分を抱きしめるように、『あの子の体』を両手で覆う。
別次元の私……もう一人の私……そして、いつも私のそばにいてくれる私……
(……何を考えているのかしらね、私は)
……同じ存在だろうと、あの子は他人。
私にとっては、目的を達成するための駒。
それ以上でも、それ以下でもない……いえ、あの子と私はそうあるべき。
だって私は、あの子の……
「アオイ様、どうかなさいましたか?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事を……」
ペアになっていた子に謝りつつ、実習に集中しようとした瞬間に……
「考え事をするぐらい退屈なのでしたら、私と実技演習でもいたしませんこと?」
気が付けば、私の目の前に金髪で盾ロールという絵に描いたようなお嬢様みたいな子がいた。
(ヴァルモン家のエレオノーラだったかしら)
そして、その後ろには緑髪のエルフ、その二人の後ろに隠れるようにしている、長い前髪のせいで目が少し隠れている小柄な少女。
(たしか、エルフがフェリル・バレスティーナ、一番後ろにいるのが、ウィロウ家のアンナベル)
魔法学校に通う生徒は、ヴラムからの情報で概ね把握している。
この3人の調査はまだ終わっていないが、大方、『魔法が使える生意気な平民』をからかいにきたといったところか。
「あ、あの、エレオノーラ様。実技演習は禁止で……」
「私は構わないわ。それに、ヴァルモン家の令嬢が相手してくれるのは光栄ですしね」
「あら、私の家をご存知ですの?」
「もちろん。毎日のように豪華すぎるパーティー開き、頼んでもいないのに過剰な贈り物をしてくる元商人の成金貴族。制服改造して、露出度が少し上がっているその服も、有り余るお金で学校に許してもらったのかしら?」
「こ、これは、当家お抱えの服職人の力作ですわ!」
「ええ、とても似合っていると思うわ。貴女の体を美しく、そして下品に魅せているもの」
実際、学生とは思えない程の体をしている。
特に胸の大きさは、この国で一番ではないだろうか?
「い、言わせておけば~!」
「無礼には無礼で返す主義なのよ。後ろに控えている二人も私が気に入らないのでしょう? 面倒だし、まとめてかかってきなさい」
そう言いながら、後ろに控えている二人にも声をかける。
アンナベル・ウィロウは戦う気はなさそうだが、フェリル・バレスティーナは明らかに好戦的な目でこちらを見ている。
「あははっ! 思った通り、面白そうな子だね~アオイちゃん」
「え、えっと……」
「ば、馬鹿にして……相手は私だけですわ!」
だが、そんな二人を遮る様にヴァルモン家の令嬢が前に立つ。
どうやら、今時珍しい、プライドを持つタイプの貴族のようだ。
「それより、私が勝ったら誓いなさい! レムリア様と、もう少し距離を置くと! その、お、お胸を突いた事といい、あんな恋人みたいな距離感は、『レムリア様を遠くから見守る会』の会長として許せませんわ!」
「…………は?」
我ながら間抜けな声が出る。
とにかく情報過多なので、整理しつつ考える。
「一つずつ答えていくけど……まず、あの子ともう少し距離を置くというのは無理よ。私はあの子の執事なのだから、仕事放棄になってしまうわ」
付け加えるなら、私の監視下から離れたら、あの子は無限にだらける。
プリンだけ食べて、昼まで寝て、だらけるのに飽きたら体を動かし、無意識にトラブルを持ってくる。
食って、寝て、問題を起こす……さすがの私も、そんな迷惑な存在をこの世界に解き放つのは気が引ける。
「え!? アオイさんはレムリアさんの執事なんですの!」
「おはようからお休みまで世話しっぱなしよ。『レムリア様を遠くから見守る会』とやらの会長なら、それぐらい知っておきなさい」
というか、なんだそのふざけた会は。
あの子はいつでも友達募集中なのだから、遠くから見ている暇があったら声をかけるべき。
……まあ、変な友達ができたら面倒になるから、私を通してもらうけど。
「胸を突いた事は、あの子と一緒にお風呂にも入ってるんだから、あれぐらい今更よ。恋人のような距離感については…………」
「距離感については?」
「……それより、やるなら早くやりましょう。ぐだぐだ喋っていたら、実習時間が終わってしまうわ」
//////////////////////////////////
私、エレオノーラ・ヴァルモンの家であるヴァルモン家は、20年前は貴族ではなく、地方で鉱山経営をしていた商家だった
父の代で、たまたま所有していた山から大量の魔法石が発見された事で巨万の富を得て、その財力で魔力持ちの貴族の令嬢……母を妻に迎え、魔力を持つ私が生まれた事で、正式に貴族の仲間入りをした。
その後も財力で貴族に取り入り、たった十年で公爵家に匹敵する力を持ち、いつしか父は周りの貴族にこう呼ばれるようになった。
成り上がりの、『成金貴族のヴァルモン家』と。
私はその汚名を拭うため、誰よりも優秀な令嬢となり、父の手助けができればと努力をしてきた。
……そんなとき、あのお方と出会った。
「そ、それまで! 勝者、レムリア・ルーゼンシュタイン!」
倒れる騎士団長の横で、長い髪をたなびかせながら、勝って当然とばかりに佇む少女。
その凛々しい姿に、会場には、剣技大会後の優勝者と騎士団長の親善試合とは思えない程の大歓声が鳴り響く。
「が、学生が、騎士団長に勝ってしまうなんて!」
「それに、なんと美しい……!」
学生も、大会を見に来た市民も、さっきまで魔法が使われない試合など興味がないと退屈そうにしていた貴族たちも、全員が立ち上がって拍手していた。
もちろん私もその中の一人であり、帰ってからも、レムリア様の凛々しいお姿が頭から離れず、心臓の高鳴りが止まらなかった。
その後も、レムリア様を慕い続け、あの方に負けないような令嬢になると誓うだけでなく、社交界でたまに顔を見せてくださるあのお方を遠くから見つめ、そして、レムリア様を『魔抜け』と罵る者には罰を与えてきた。
そして、レムリア様に魔力が宿り、同じ魔法学校に通うだけでなく、同じ学級だと聞いたときは天にも昇る気持ちだった。
すぐにでも話しかけようとしたが、いつも周りにはあの平民の子……勇者様がいてできなかった。
それでも私は嬉しかった。
だって、勇者様という特別な方にレムリア様が認められたのだから。
私の憧れの方は、特別な方と懇意にしている……これで、今まで不遇の扱いをされてきたレムリア様の評価も変わっていくだろう。
……特別ではない私は、あのお方の隣に立てない。
ならばせめてと遠くから見守っていたら、同じようにレムリア様を見守っている子が……アンナベルがいた。
その後も同じような目線を送る級友フェリルに気づき、私は『レムリア様を遠くから見守る会』を結成した。
まあ、どうもあの二人のレムリア様を見守っている理由が、私とは違う気がしたが。
フェリルはもはや見守るというよりは監視ですし、アンナベルはその、なんというか気持ち悪……ちょっと変わった目で見ているし。
ともあれ、私たちの目的はひとつ。
レムリア様を慕い、陰から見守る、これが『レムリア様を遠くから見守る会』のなすべき事。
だからこそ、編入してきたその日から、レムリア様にベタベタと接するあのアオイ・ヒメカワという子は許せない!
少し怖い思いをさせて、レムリア様に近づけないようにする、そのつもりだった。
だったのだが――
「な、なんなんですの~!」
「う~ん、これはさすがに想定外かなぁ……どうする~? アンナベルみたいに、さくっとやられてくる? あれで一応、手加減してくれてるみたいだから、たぶん死なないよ~」
「そんな! ここで負けたら、アオイさんは今後もレムリア様の周りを……ひぃ!」
無数のマジックアロー……そう呼ぶにはあまりにも速く、自由に動く上に、凄まじい破壊力を持つ光球が、走って逃げる私たちの足元に炸裂し、その衝撃で体制を崩した私たちはその場に倒れ込む。
「……お喋りとは余裕ね。もう10個追加してあげるから、頑張って逃げなさい」
そしてアオイさんからさらに放たれる10個……いや、絶対それ以上ある光球。
アオイさんは絶対に、被虐趣味がある。
「あ~……これはダメかもしれないな~」
目の前の圧倒的脅威に、いつも笑顔のフェリルすらも諦めかける。
――おかしい。どうしてこうなったのだ。
最初は私が優位だった。
私が得意としている雷魔法は、威力は爆裂系の炎魔法に劣るが、速度は現在存在する魔法の中で最も速いとまで言われており、アオイさんが操るあの光球も薙ぎ払っていた。
だが、光球は全く減らない……むしろ増えていった。
そして私の魔力も限界を迎え、いつしか光球を全て迎撃する事ができなくなり、気がつけば、私の周りには50を超える光球が浮遊しており、アオイさんが手を振ると同時に、光球が一斉に襲い掛かってくる。
「エ……エレオノーラさ……ひゃうぅぅ~! 思った以上のご褒美ですぅ~~!」
その攻撃を、私の苦戦を見かねて乱入してきたアンナベルが受けてくれる。
アンナベルは防御系の土魔法の使い手で、それを誇りに思っているのか、強力な魔法を見ると何故か必ず受けにいく。
いつ見ても気持ち悪……頼もしい。
受けにいく理由は本当に不明だが、防御魔法の堅牢さは凄まじく、超威力の爆裂魔法する防げる……のだが、そのアンナベルを守る障壁を簡単に破壊し、吹き飛ばされていた。
「……あたしも乱入させてもらうね」
アオイさんを想像以上の驚異と悟ったのか、フェリルも乱入。
フェリルは圧倒的な魔力を持つエルフであり、しかもエルフの王族とされるハイエルフ。
身体能力も高く、近接格闘戦も得意であり、戦闘力だけならば魔法学校の教師以上なのだが……
「……残念だけど、格闘は『こっち』の方が歴史も、技術も上よ」
フェリルの神速の蹴りを簡単にいなし、反撃を入れるアオイさん。
そして、怯んだフェリルに襲い掛かる光球の雨。
「フェ、フェリル!」
爆音と共に巻き上がる噴煙。
そこから、なんとか防御魔法で防いだフェリルが出てくる。
「……面白そうとは思ったけど、まさかここまでとは。たぶんレムリアっちや、勇者ちゃんに匹敵する化け物だ、あれは」
あまりにも強烈な衝撃によるものなのか、それとも恐怖なのか、手が震えているフェリル。
それを見て、私は悟った。
――アオイさんには、絶対に勝てないと。
その後は防戦一方で、なんとか魔法で光球を迎撃しつつ二人で逃げ回り、今に至る。
「……あっちもそろそろ終わるでしょうし、潮時かしらね。こっちに注目を集める必要は、もうないでしょう」
レムリア様と、知らな……知らない? いえ、たしかアオイさんと一緒に編入してきた子が実習している方を見るアオイさん。
「……ここから先は容赦しないわ。降参するなら今のうちよ?」
そして、とても冷たい目でこっちを見る。
『降参しないなら身の安全は保障しない』、その目はそう語っていた。
「……お言葉に甘えようか、エレっち。たぶん、世間一般では化け物判定のあたしから見ても、あれは『本物の化け物』だ」
その通りだろう。
ここまで圧倒的な差があるが、それでもアオイさんは本気じゃない。
その証拠に、あれだけの魔法を放っているのに息ひとつ乱していない。
あの常軌を逸した魔力……過去に勇者様と戦った魔王という存在は、きっとアオイさんのような力の持ち主だったのだろう。
「降参だよ、アオイっち。突っかかって悪かったね。ほら、エレっちも」
頭を下げて降参をし、私にも頭を下げるように促してくるフェリル。
だけど私は……私は……!
「……降参はしません!」
「エ、エレっち!?」
残っている魔力を全て開放しながら、アオイさんに向かって走り出す。
マジックアローの迎撃に魔力を使っても、魔力の量の差で確実に負ける。
ならば、攻撃あるのみ!
「……愚かね」
そんな私の行動を冷ややかに見つつ、振り上げた手を下ろす。
その瞬間に、漂っていた光球の全てが私に向かって動き出し、私に直撃する。
「エ、エレっち~!」
……響く轟音、そして巻き上がる噴煙。
「……なっ!?」
晴れた噴煙から見えたのは、初めて見るアオイさんの驚く顔。
どうやら、私の行動はアオイさんにとって予想外だったようだ。
「ぐっ……う……」
……全弾、防御魔法無しで受けるという行動は。
「……天よ……雄々しく咆哮し……我が敵を……滅ぼせ……!」
今なら光弾による相殺もできない、そしてアオイさんにも隙がある。
この気を逃さず、光弾による痛みで薄れゆく意識の中、温存した魔力の全てを魔法にこめる。
「……トール、ハンマーァァ!」
魔法の発動と共に空に魔力の力場を発生し、そこから巨大な雷が降り注ぐ。
頭上という意識外からの攻撃であり、どんな魔法よりも早い雷による一撃……これが私にできる最大の攻撃だ。
「……非礼を詫びるわ、エレオノーラ・ヴァルモン。貴女は誇り高い貴族よ」
だが、アオイさんは焦る事なく、服の中から取り出した筒のようなものを上に投げる。
その瞬間、轟音と共に、雷がアオイさんではなく、何故かその筒へと落ちていく。
「な……なんで……?」
「雷の魔法使い、頭上に力場、この時点で何をするか概ね検討がつくわ。あとは即席の避雷針を……これは『この世界』では理解されないかしらね」
そういいながらゆっくりと手を上げるアオイさん。
それに答えるように、大量の光球が現れる。
「雷の魔法の強さにのみ目を向けないで、その特性と弱点も学ぶべきね。それと、動きが分かりやすすぎるから、もっと実戦経験を積みなさい。それが、私からの助言よ」
そして、アオイさんが振り上げた手をゆっくりと下ろす。
それが合図かのように、光弾が私に降り注ぐ。
(……やはり私では、特別な方たちには届かないのですね)
心の中でそう呟き、私の意識は途絶えていった。
/////////////////////////////////
「――い、一体なんなんだ、あの大穴は!」
「生徒のみなさんは、調査が終わるまで動かないでください!」
聞こえてくる、慌ただしい声で目が覚める。
「ここは……」
目に飛び込んでくるのは、いつもの空、見慣れた校舎。
そして――
「気がついたみたいね」
「え……?」
――聞きなれない声。
「しばらく動かない方がいいわ。軽い脳震と……頭を打っているみたいだから」
徐々に、周りの状況が分かってくる。
「おー、無事だったかエレっち」
「し、心配しましたよ、エレオノーラさん」
私のそばに駆け寄る二人。
「本当、回復魔法っていうのは便利ね。魔法って攻撃魔法ばかりちやほやされるけど、一番便利なのは、診察すら必要ない回復魔法だわ」
そして横にいたのは、ベンチに寝かされた私に、回復魔法をかけてくれているアオイさんだった。
「……今日のところは、私の負けという事にしておきますわ」
周りの状況から概ねを察して、まずは私の心からの言葉をアオイさんにぶつける。
「あれだけ完璧にやられて、しかも負けた相手に回復魔法をかけてもらっておいて、よくそんな事が言えるわね」
「そこが、エレっちのいいところだからね~」
「……その調子でどんどん強くなってくれれば、いずれエレオノーラさんも私を……うふっ、うふふふ~♪」
いつも通りの二人に安心する。
特にアンナベルは『いつも通り』で安心した。
「……さて、そろそろ喧嘩吹っ掛けてきた事について話しましょうか」
……やはり来た。
だけど私は、しっかりと対策をしている。
「たしか、貴女たちの目的は、私がレムリアに近づかない、だったわね? という事は、私が勝った場合は……」
「お待ちさない! たしかに私は貴女に要求いたしましたが、私は貴女からの要求を聞いていませんわ!」
そう、私はアオイさんの要求を聞いていない。
アオイさんが勝負を急いでくれて助かった。
「私の言葉はあくまで要望……互いに何かを賭ける決闘をしたのではないのですから、私が何かを賭ける必要はありません。残念でしたわね!」
立ち上がり、思いっきり勝ち誇りながらアオイさんに指を差す。
何かを賭けるときに最も重要なものは、『負けたのに勝つ』方法。
これぞ、ヴァルモン家の商売の鉄則!
「……たしかにそうね、私たちがしたのは、あくまで実技演習演習だものね」
「……え?」
あっさりと引き下がるアオイさん。
そんな私を見て、苦笑いするフェリル。
その目は、あ~、やっちゃったよこの子と語っている。
(な、なんですの、この空気……)
体が、頭が、思考が、私の全てが、警鐘を鳴らしている。
今すぐ逃げろ、ここに居ては危険だ、と。
「で、では、私はそろそろ……」
『考え事をする余裕があるぐらい退屈なのでしたら、私と実戦形式の実技演習でもいたしませんこと?』
「え……?」
アオイさんの持つ箱……魔道具? から、聞き覚え、というより話した記憶がある言葉が発せられる。
「これは私が開発した魔道具で、声や映像を記録できるの。ちなみに、国に魔道具として登録して効果も認められているから、証言にも使えるわ」
「もしかして、ヴァルモン家の令嬢が、授業中に勝手な事をしていると言いふらすつもりですの? ふふっ、その程度でしたら、私の家には傷ひとつ付きませんわ!」
もし世間に好評されたところで、評判最悪の我が家には今更でしかない。
あの異常な強さのせいで警戒しすぎた、そう考えて再度勝ち誇る。
「……そんな事、するわけないでしょう?」
……そんな私にアオイさんは、とても、とても良い笑顔を向けてくる。
そして、まるで捕らえた獲物の品定めをするかのように、ゆっくりと私に近づいてくる。
……全身から冷たい汗が止まらない。
今すぐにでも逃げるべきだと頭が理解しているが、まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
というか、腰が抜けている。
そして、アオイさんが人差し指で私の頬をゆっくりとなぞりながら、優しく、優しく話しかけてくる。
「……ねえ、知ってる? 実技演習って、例え相手を大怪我させても、それこそ死なせても、『事故』なのよ」
……その通りだ。
しかも今回は私から仕掛けているのだから、それこそ殺されたって、アオイさんは一切罪に問われないだろう。
「で、でも、実技演習はもう終わって……」
「授業はあと、15分あるわね? 付け加えると、貴女は私に降参していない」
「こ、ここ、こうさ……ひぃ!」
自分の置かれている状況に気づき、ただちに行動に移す私。
だが、アオイさんはそんな事お見通しだったようだ。
だってアオイさんの後ろに、いつの間にかあの忌々しい光球が浮かんでいるもの。
「……人の話を聞かないのは、感心しないわね?」
アオイさんの指がそのまま、私の唇に触れる。
そして、それに応えるかのように、徐々に近づいてくる光球。
「……み、見てるだけで、羨ましくて、ゾクゾクして……あふぅ……♪」
向こうでアンナベルが倒れる音がし、それをまた始まったとばかりに介抱するフェリル。
いや、羨ましいなら変わってほしいのだけど!
このままだと、恐怖のあまり、下半身が、品位の保てぬ事態になりそうというか、なんだったらもう、水分を感じるのだけど!
(……ですが! 詰めが甘いですわ、アオイさん!)
そう! ここは従ったふりをして、15分耐える!
この実習さえ、この実習さえ終われば……!
「……いけない事を考えてる顔ね?」
「ひいっ!?」
人差し指で強制的に顔を上げられる。
アオイさんの奇麗な顔立ちと、冷たい、ただひたすらに冷たい目が間近に迫り、同時に、ジジジジジ……という音が聞こえてくるぐらい、光球が迫ってくる。
「……さらば、エレっち」
「いや、諦めるの早すぎですわ!」
というか、助けてください!
命もそうですけど、腰も抜けてるし、下半身の尊厳も危機というか、決壊寸前だから!
「選びなさい? 今後、私の言う事をなんでもきくか。残り時間、ゆっくり、ゆ~っくりと、全身を破壊されるか」
本来ならばこんなの答えは決まっている。
例え全身を破壊されてでも相手に屈しない、それが私の誇り。
……だが、情けないけど私には無理だ。
だって、アオイさんは絶対、拷問よりも恐ろしい事をしてくるもの!
「……な、なんでも言う事をききますわ!」
「家の名前に誓って?」
「もちろん、ヴァルモン家の名に誓って! だ、だから、だから……ふひぃ!?」
私の顔のすぐ横を、あの光球が通り抜けていく。
防御魔法も張れない状態で、顔に直撃なんてしたら……あ、なんだか下半身に水分を感じる。
「……言うまでもないと思うけど、宣言は録音済みよ。ヴァルモン家のエレオノーラ。せいぜい、私の役に立つことね」
「は、はいぃ……」
そして、私から離れていくアオイさん。
助かった……もう目も鼻も、とにかくいろいろな場所から水分を垂れ流しながらそのまま座り込む。
「アオイっち。あたしはどうすればいい? それと、目を覚ましたと思ったら、二人のやり取りを見て、ゾクゾクと尊さが止まりませんわ~って言いながら、鼻血出してまた倒れたこの子」
そう言いながら、とても幸せそうな顔(鼻血まみれ)のアンナベルを持ち上げる。
「仲間になれっていうならなるよ。私たちも負けたわけだし」
そして、とんでもない事を言い出すフェリス。
一番にアオイさんに屈した私が言うのもなんだけど、アオイさんは私たちの『レムリア様を遠くから見守る会』の敵であり、自分から屈するというのはどうなのだ!
「二人とも優秀だから、私の目的のためにほしいけど……いいのかしら?」
「いや、エレっちがあそこまで尊厳捨ててるのに、あたしやアンナっちだけ何もなしっていうのもね~」
「そ、尊厳を捨ててなどいませんわ! 言っておきますけど、命令の中に、レムリア様を見守るの止めるようにとかがあったら、その場で襲い掛かる気満々で……あ!」
い、いけない、つい本音が……!
「……だ、そうだけど、こんなエレっちをそばに置いていいの?」
「別にいいわよ。私はエレオノーラのそういうところが気に入ってるから」
「え……?」
あまりにも意外な言葉。
なんだったら、あの光球を撃ち込まれる覚悟していたのだが。
「……はっ! どこからか尊い波動が!」
「はーいアンナっち。起きて早々悪いけど、鼻血ヤバい事になってるから、上向いてね~。ついでに、首の辺りをトントンしてあげよう♪」
「ふぐぅ……」
手慣れた介抱をしつつ、こちらに振り返るフェリス。
「予想通り、面白いね~アオイっち。エレっちの事は抜きにしても、仲間にしてくれると嬉しいな」
「な、なんだかわかりまふぇんが、わらひもお願いしまふぅ……」
そして、あっさりと仲間になるふたり。
うう、『レムリア様を遠くから見守る会』の結束が……
――ゴーン!
授業終了の鐘の音が、校庭にも鳴り響く。
「授業も終値。教師たちは、あのお馬鹿が……急に起きた爆発と大穴の調査で手一杯のようだし、私は教室に戻るわ」
「あの、言う事を聞く件についてなのですが……」
「ああ、安心なさい。別に、あの子を遠くから見守るのをやめろとか言う気はないわ。当面は……そうね。この学校で何か不可解な事件が無かったかを調べて、私に知らせなさい」
「不可解な事件?」
「いい例が、あそこにあるでしょう?」
そう言いながら、アオイさんは大穴を指差す。
「そういえば、あの大穴はいったい……」
「ああ、エレっちは気絶してたか。エレっちがやられた後すぐぐらいだったかな~。何かが軋むような物凄い音がしてさ~。気が付けばあの大穴ってわけ」
改めて大穴を見る。
校庭の半分近くを抉るとんでもない大穴。
こんなの、威力だけなら最強という爆裂魔法でも無理だ。
「……はっ! あそこはたしか、レムリア様たちが居たところですわ! レムリア様は……」
「あの子の無事は確認済みだから、心配しなくていいわ。貴女たちはさっき言った事をしておくように」
「不思議な事件ねぇ……ある意味、歩く不思議現象ならここに居るけどねぇ」
「……ふぐぅ?」
首をかしげるアンナベル。
自覚が無いというのは本当に恐ろしい。
「そういえば……隣の学級の子たちが、校内で不思議な声を聞いたと言っていましたわね」
「不思議な声?」
「あ~そういえばそんな話あったね~。同じ場所で聞いたのに、人の声を聞いたって子と、動物の声を聞いたって子がいたっていうやつね」
その後、誰も声を聞かなかったせいで、すぐに騒がれなくなったが、当時は幽霊が出たと大騒ぎになっていたのだ。
「……エレオノーラ」
ア、 アオイさんの目が!
さすがにこんなものは不思議な事件では……
「お手柄よ。やはり、貴女は優秀ね」
「え……」
そう言いながら、軽く微笑むアオイさん。
初めて見るその笑顔に、何故か心がざわつく。
「何人の子がその声を聞いたか、それぞれどんな子を聞いたかの総計も調べておいてちょうだい。それと、その声を聞いたって子たちから直接話も聞きたいわね。話を付けておいてちょうだい」
「エレっちと一緒にやっておくよ~。……また鼻血出して倒れたアンナっちが動けるようになってからだけど」
「それでいいわ。それじゃあ、私は失礼するわね」
そのまま立ち去るアオイさん。
そして、一度振り返り……
「期待しているわ」
また、私の心をざわつかせて去っていった。
「…………」
「……エレっち、陥落っと」
「は、はあっ!? なんの事ですの! 私はレムリア様一筋! アオイ様はただの敵ですから!」
「アオイ『様』、ねぇ……♪」
「あ、これはその、敗者として一応の敬意を払っているだけで……」
「はいはい♪ それじゃあ、調べにいこっか。アンナっち、そろそろ起きな~」
「と、尊いぃぃ……」
「ちょっと、人の話を聞きなさいフェリル! 絶対貴女、何か勘違いしていますわ!」
そう叫びつつ、私はフェリルに詰め寄っていった
/////////////////////////////////////////////
「……という事があったのよ」
「そうですか……」
いろいろあった学校での1日が終わって屋敷に帰った私たち。
夕食の席で、エレオノーラたちとどう知り合ったのか気になるとアオイが言うので話していたのだが、何故か不機嫌になるアオイ。
自分で話してほしいと言ったから話したのに、なぜ不機嫌になるのか。
「…………人誑し」
「は? どういう意味よ」
優秀な部下を手に入れただけで、なぜ人誑しとか呼ばれなければならないのか。
というか、片っ端から誑しまくっているこの子にだけは言われたくないのだけど。
「……ラズリー! プリンお代わり!」
「はい、承知しました」
アオイの言う通りにし、プリンのお代わりを持ってこようとするラズリー。
「ちょっと。あんまり甘やかさないで」
そう告げる私を見て、ラズリーは分かりやすくため息をつく。
「……前々から思っておりましたが、レムリア様とアオイ様、根本のところが似ていますね」
それについては、いろいろな意味で否定しないが、さっきのやり取りのどこでそれを感じたというのだ。
「……こういうときは食べて忘れるのもありかと。それとアオイ様は、もう少し自分というものを知るべきです」
そう言いながら去っていくラズリー。
自分の能力ならば完全に把握しているつもりなのだが……
「…………」
目の前の不機嫌なこの子を見るに、どうやら私の知らない何かがあるのだろう。
「……はあ」
溜息をつきながら立ち上がり、アオイの隣に座る。
「……なんですか?」
怒ったとも、寂しそうともいえる顔。
はっきり言って腑に落ちないし、絶対にこの子が勝手に不貞腐れているだけなのは間違いない。
こういうのときは、甘やかしてはいけない。
放っておくのが一番正しい。
「……あんまり困らせないでちょうだい」
「え?」
……だが、困った事に、私はこの子のこういう顔が苦手だ。
だからこそ、少しでも機嫌が良くなるようにと、この子の頭を撫でる。
「……私、子供じゃないんですけど」
「じゃあ、やめましょうか?」
「べ、別にやめてとか言ってませんし!」
そう言いながら、私に撫でられ続けるアオイ。
「……アオイさん」
「何?」
「不思議事件の調査、私も一緒に行っていいんですよね?」
「当たり前でしょう。探しているのは貴女の武具と部下なのだから、貴女が来るのは当然だわ」
「そ、そういう意味じゃなくて……」
「それに、貴女と私は一心同体みたいなものよ。目的があるならともかく、理由無しで別行動するのは許さないわ」
「…………」
また急に黙りだすアオイ。
本当にこの子は、分かりやすそうに見えて、実は全く予想がつかない行動や思考をするから困る。
「…………人誑し」
「だから、なんでそうなるのよ」
「自分で考えてください」
考えて分からないから聞いているのだけど? と言いかけるが、なんだかこの子に聞くのは癪なのでやめておく。
「でも、可哀そうだからヒントをあげます。あと5分だけこうしてくれていたら、私の機嫌が直りますよ」
「……それ、本当にヒントなの?」
「はい! とっても大事なヒントです!」
本当に意味が分からない。
全てが理解不能かつ理不尽であり、ここまでされているのだから怒ってもいいのかもしれないが……
「……♪」
さっき自分で言ったヒントを守れず、5分経つ前に機嫌が直っているのこの子の顔を見たら、その気も失せる。
「……本当に、しょうがない子ね」
とにかく今は、この子の機嫌を取るとしよう。
この子が楽しそうにしているのを見るのは、嫌いじゃないから。
////////////////////
詰め込みすぎました…( ノД`)
応援ありがとうございます!
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