上 下
25 / 73
第2章 邂逅

第21話 魔王組結成!

しおりを挟む
「配下になりたい……一応聞くけど、貴方が配下になりたい『レムリア・ルーゼンシュタイン』は、私とレムリアのどっちかしら?」
「言うまでもないでしょう」

 ああ、なるほど。
 いきなり、レムリアの配下になりたいって言うから驚いたけど、アオイさん方か。
 それなら納得。

「そちらの、レムリア嬢ですよ」
「でしょうね。聞くまでもなかったかしら」

 ですよね、あはははは……

「なんでそうな……むぐっ!」
「……静かになさい」

 口に人差し指を当てられ、強制的に発言を止められる。

「いや、そんなことしている場合じゃないですから! ちょっとドキッとしましたけど!」
「貴女のドキッとする判定はどうなってるのよ……まあいいわ。大体予想はつくけど、この子は想像すらできなさそうだから、ちゃんと伝えてあげてちょうだい」
「承知しました」

 少し笑いながらこちらを見るヴラムと、やれやれとばかりに手を広げて笑っているスコール。
 ……むう。
 スコールは私と同じ、難しい話のときはよく分かっていない側のはずなのに、その態度は少し納得がいかない。

「一言で言うならば、結末を見届けたいからです。テスタメント設立への助力、魔王復活の儀式……まあ、あんな儀式をしなくても、近いうちに魔王は復活するでしょうが、全てを始めた人間として、最後まで見届けたいのですよ」
「俺は今回の件で、色々と『首輪』が付いちまってねぇ。あんたに従って、反省してまーすって見せつけるのが、首輪を外す近道ってわけだ。ついでに、あんたに従えば、そこのオヤジが便宜を図ってくれるらしいんでね」

 うん、清々しいほどの自分の目的優先。
 そしてアオイさんが、「こいつ、殺していい?」みたいな目で、ヴラムを睨みつける。

「……一応、保護者みたいなものなので」

 そんなアオイさんの目線を、ヴラムは絵に描いたような苦笑でかわしている。
 なんというか、ヴラムも大変だなぁ。

「……まあ、良しとするわ。人手は足りていないのは事実だし、ヴラムは色々と便利で、駄狼は『戦力としては』役に立つでしょうから」
「あ、あの……いいんですか? 『色々な意味』で……」
「貴女とヴラムたちが一緒に行動する……テスタメントはなくなったけど、そっちがの方が、『色々な意味』でもいいんじゃないかしら?」

 あ、そうか。
 一応、主要人物が集まっていた方が、ゲームの再現にはなるのか。
 もうこうなったら、グッドエンドを迎えるには、エミルの恋のキューピッドに徹するしかない! とか考えていたけど、そっちの方が良さそうだ。

 ただ、ひとつ引っかかるのは……

「……彼らを配下に加えてよろしいですか、レムリアお嬢様?」

 一応、私の了解も取ってほしいなと思っていた私に、皮肉たっぷりに笑いながら話しかけてくるアオイさん。

「……ええ! よくってよ!」

 とりあえず、負けないように嫌味を込めて返しておく。
 別に負け犬の遠吠えじゃないから!

「承諾いただけたようで何より。では、こちらができることをお伝えしておきましょうか」

 その言葉を聞いたスコールがパチンと指を鳴らす。
 すると、どこからか一斉にスコールと同じ一族と思われる人たちが現れる。

「まずは俺からだな。ここにいない連中も含めて、全員で89人。護衛から暗殺、愛猫探しから悪質な嫌がらせまで、なんでも命じてくれ」
「「「よろしくお願いします!」」」

 ここにいるのは、全員で20人ぐらいかな。
 男の人から女の人まで、2メートル超えの人から、小さな子供みたいな人もいる。

「よろしくお願いします。スコールの家族のみなさん」
「え……」

 全員が一斉に不思議な顔をしてくる。
 え、私何かしました?
 この前スコールが、みんなのこと家族って呼んでたから言っただけなんだけど……

「スコール! この人、ボクたちのことスコールの部下じゃなくて、スコールの家族って呼んだ!」
「あの、家族っていうのはスコールの兄貴が勝手に言っているだけで、俺たち別に本当の家族ってわけじゃ……」
「あ、はい。知ってますよ。仲が良くて、本当の家族みたいな関係なんですよね? だったら、部下とかそういうので呼ぶのって、なんというか、嫌じゃないですか」

 私も田舎の道場に通ってくれた人たちのこと、家族みたいに思ってたから分かる。
 みんな今頃どうしてるかなぁ。

「……」

 あれ……またしても、不思議な顔をされている。
 しかも、小さな子たちが座っている私の膝に飛びこんでくる。
 そして、スコールの方を向きながら、とても無邪気な顔で見ながら嬉しそうに喋りだす。

「スコール! この人間、いい人! いい人!」
「え、い、いい人?」

 そんな風に呼ばれるような人間ではない気がするのだが……

「姉さん……!」
「あ、姉さん!?」
「ははっ! 早速、仲良くしてもらってるようで何よりだ! ま、うちの戦力はこんなもんだな」
「次は私ですね。私の戦力と呼ぶべき力は、吸血鬼の一族と宰相の力……と、言いたいところですが、私個人が提供する力は、学校での融通ぐらいしかできることはないですね」
「え……?」
「……戦力を、私たちに差し出す気はないということかしら?」
「ああ、違いますよ。本当に、今の私はこれぐらいしかないです」

 そう言いながら、本当に困った顔をするヴラム。

「私、宰相を辞めましたから」

 そして、とんでもないことを言いだした。

「な、何があったんですか!」
「まあ、簡単に言うと、テスタメントを不問にした代償ですね。テスタメント関係者の情報提供、追及も禁止。ただし、これ以降は便宜を図らないという条件を王に飲ませる代わりに、地位と家財と領土、全て渡しました。私に残っているのは、替えがきかなかった校長という立場だけです」
「そんな……」
「おや? 心配してくれるんですか? でしたら、給料を増やしていただきたいですね」
「もちろんです! 可能な限り増やします!」
「……日本茶飲み放題ぐらいで十分よ。どうせ宰相の後任は、貴方の一族なんでしょう? その気になれば、いくらでも援助してもらえるじゃない」

「その通りですが、レムリア嬢の為に一族を利用するかもしれませんが、個人で援助を受ける気もありません。なので当面は、教師寮での一人暮らしですね」

 そんなことを話しながら、急に真面目な顔になり、話を続けるヴラム。

「……これは私のケジメです。『義務なんかより、みんなが自分らしく生きることを……自分がやりたい事を優先するためにね」

「あ……」

 自分がヴラムに言った言葉を言われ、ちょっと気まずくなる。

「あの……生意気なことを言って……」

「いえ、むしろ感謝していますよ。その言葉のおかげで、私は自分のやりたいことと、義務に縛られた行動の無責任さに気付けましたから」

 そう言いながら、ヴラムは空を見上げる。

「……私は本当に、もう何百年も、義務に縛られて生きてきました。魔王亡きあと、魔王が生まれないような平和な世界を目指す、それが、魔王と勇者の両方を見た者の義務。そう思って行動していましたが、どこかこう思っていたのでしょうね」

 そう言いながら、ゆっくりと視線を戻し……

「……義務で『やってあげている』のだから、多少は適当になってもしょうがない、とね」

 まるで感情を吐き出すように言葉を続ける。

「…………」

 アオイさんが複雑な顔をする。
 そういえば、アオイさんがヴラムのことを『肝心なところで強者の責任から逃れる最低なやつ』と言っていた。
 おそらくこの逃げが、ヴラムのいう適当な部分なのかもしれない。

「思えば魔王復活の儀式も、適当の一つだったのでしょう。魔族と人間の関係、魔力を持つ者と持たない者の格差、今や問題だらけとなったこの国を、器となる人間に全てを押し付けたかったんだと思います」

「……だとしたら、レムリアの配下になるのは、同じ押し付けじゃないのかしら?」

「そうでしょうね。でも私は、アオイ嬢の知識と、レムリア嬢の人を惹きつける力は、この世界を変えると思っています。そんなお二人が作る世界を見てみたい、これが、義務ではない、今の私が一番やりたいことですから」

「いや、私に人を惹きつける力なんてないですけど?」

 なんか凄いいいことを言っているところ申し訳ないが、あまりにもとんでもいことを言ってきたので、ついツッコミを入れてしまった。
 現実で友達0、こっち来ても友達0の私に、なんてことを言うかなこの人は。
 そんな私を見て、苦笑するヴラムに、またしても、やれやれとばかりに手を広げるスコール。

「…………会ったばかりの獣人の子を膝に乗っけながら、何言ってるんだか」
「え、何か言いました?」
「別に、何も言ってないわ」

 そう言いながら、そっぽ向くアオイさん。
 なんだこの、すべってしまったみたいな空気は。
 むしろ友達0の私が泣きたいぐらいなのだが。

「貴方たちの戦力は分かったわ。配置についてはあとで知らせるから、暫くは待機していてちょうだい」
「テスタメントがなくなった今、今後はどう動くつもりですか?」
「魔王の武具を集めるわ」
「いいのかい? 魔王の力がさらに巨大になったら、お嬢ちゃんの精神が魔王の力に喰われるかもしれないぜ?」
「レムリアを魔王と認めなかった点から考えて、あれは何が起こるか分からない、危険な不確定要素そのものよ。どう使うかはともかく、手元には置いておきたいわ。勇者と戦うことになったときの切り札にもなるしね」

『それと、一応はゲームの展開に沿っておいた方がいい』と、目で語ってくるアオイさん。
 さすがと思いつつ、全裸変身アイテムはもう要らないんだけどとも思う。

 ちなみに、魔王の武具は変身が解けたあと黒い宝石になり、特注で作ってもらった腕輪にはめ込んであるが、できれば今後一切使いたくない。
 まあ、使うとエミルの精霊憑依と同じで、姿形も少し変わるから便利なのだが。

「なるほどねぇ。いい判断だと思うぜ」
「話は決まったわね。オルドヌング・ナハト、改めて活動開始よ」
「え……」

 アオイさんの言葉に、全員が固まる。
 オルドヌング・ナハト……?

「……えーと、アオイ嬢、オルドヌング・ナハトとは?」
「テスタメントに変わる組織名よ。良い名前でしょ?」

 なんだか活き活きとしているアオイさん。
 そんなアオイさんには非常に申し訳ないのだけど……その……

「……言葉の意味は分からねえが、なんか恥ずかしさを感じる名前だな」

 だ、誰もが言い辛そうにしていたことをズバッと言った!
 この空気の読めなさ……さすがスコールと言うべきか。

「ど、どこがよ! 響き、格式の高さ、全てが完璧な名前じゃない!」

 そう言いながら、私の方を見るアオイさん。
 ……ごめんなさい、アオイさん。
 厨二好きである私も、さすがにそれを口に出すのは、ちょっと恥ずかしいです。

「……ここは、私たちの主であるレムリア嬢に決めてもらいましょう。」
「えっ!? いやあの、急にそんなこと言われても……」
「……適当に思いついたものでいいわよ。あとでオルドヌング・ナハトに変えることだってできるだろうし」

 ……まだ諦めてないんですかアオイさん。

「えーと……じゃあもう、魔王組とかでいいんじゃないですか?」
「……何よそれ。もう少しまともに……」
「まあ、分かりやすくていいんじゃねえか」
「テスタメントと違い、魔王の名前を全面に出していく形で違いを図る……たしかにこれぐらいでいいのかもしれませんね」
「なっ!?」

 まさかの高評価。
 まあ、高評価理由の9割が、オルドヌング・ナハトにしたくないからだろうが。

「……若干納得はいかないけど、まあ良しとしましょう」

 若干どころか、心底納得いっていない顔になりつつ、お茶を飲むアオイさん。
 拗ねているところが可愛いとか思ってしまうが、それを口に出すと絶対にひどい目にあいそうなので黙っておこう。

「……さて、難しい話はお終い。今日は貴方たちの歓迎会でもしましょうか。駄狼は、ここに来ていない者も連れてきなさい。ルーゼンシュタイン家名物、日本食を味合わせてあげるわ」
「なんだか分からないけど、ごちそう! ごちそう!」
「……今は食費も惜しいですし、助かりますね」

 アオイさんの言葉に沸き立つ面々。
 こうして魔王組……私たちの、新たな活動が始まることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...