薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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「おはよう~、米津くん」

「……、っ」


カーテンから差し込む光に寝返りを打つ。
まぶしい。
いつの間にか朝になっていたらしい。


「朝食を持ってきましたよ~。かわいいパジャマねえ」

「ん……しの、は」

「しの?  嵐川さんのことかしら?  入院中は面会時間に限りがあるのよ。昨日も遅くまで看病してらしたけど、今日会えるのは10時からね」

「……」


おれ、生きてる。
右手はまだほとんど動かないけど、生きてる。
それがなんだか、ホッとした。
背中や額に大汗をかくほど。


「ぺん太……」

「ほんとにかわいいわねえ、米津くんは。それ愛用しているの?  パジャマもぬいぐるみも、ふわふわしてて癒されるわ~。なにかあったらナースコールしてね、ここにボタンあるから」


看護師は陽気におしゃべりをして出ていった。
心臓がバクバクと激しくなっている。


「はぁ……はっ……おれ、なにしようと……」


昨日の自分は怖い。
まるで魅せられたみたいに、取り憑かれたみたいに窓から……
じわりと涙がにじんでぺん太を抱きしめる。


「死ぬのは……いやだ、志野……」


おれはやっぱり、病気なのかな。
あんなに恐ろしいことをしようとするなんて。


「……お腹すいた」


サイドテーブルにおいしそうなご飯が並んでいる。


「ぺん太……みかんって、どうやって食べるの」


半分に切れたみかんの食べ方がわからない。
どこを食べるんだろう。
食べている人を見たことはあるけど、どこを食べているかまでは知らない。
学校の給食もほとんどクラスメイトに食べられて、おれは余りものだけ。

おれ、知らないことだらけだな。


結局、朝食を食べ切るのには2時間かかった。
朝10時すぎになると、志野たちがきてくれた。
でも、一輝さんが病室を出たおかげで気まずさがまた芽生える。


「肇、気分は悪くないか?」

「大丈夫…………志野、やっぱり……その」

「どうした」

「……おれと、いない方が……いいと思い、ます」

「っ」


また心臓が痛くなる。
おれはおれが怖い。
自分がわからない。
きっとそれは志野も同じで、おれを怖いと思うかもしれない。
おれは人といっしょにいたら、ダメな人間。


「どうしてそう思ったんだ」

「……志野を、不幸にする、から」

「俺が不幸だって言ったのか」

「言わないよ……志野は、優しいから」

「…………肇、何度も言ったはずだ。俺の気持ちを勝手に決めつけるなって」

「……」

「優しいから不幸だと言わないんじゃない。俺は肇と出会ってから、一度も不幸なんて思わなかった。思わなかったんだよ、一度も」

「っ……だっ、て」

「逃げるな、肇。他人を傷つけるのが怖いからって、自分だけ不幸になろうとするな。それは俺が絶対に許さない」

「……ッ……」

「お前には幸せになる価値がある。どこの誰が貶したとしてもだ。自分の価値がわからなくても、自分を信じられなくても、俺だけは信じろ。俺だけを信じて生きてみろよ」

「……しの、を、?」

「ああ、絶対に後悔はさせない。怖いってんなら何百回でも言ってやる。俺はお前を愛してる」

「うぅっ……」


嘘じゃない。
志野は、嘘を言ってない。
口だけじゃない。
おれに幸せをくれる人だ。


「ごめん、ごめんっ……志野ぉ、ごめんなさいぃ……っ」

「……肇、お前もう仕事やめろ」

「っ」

「肇が仕事をしなくても、俺の稼ぎで十分に生活できる。贅沢もさせてやれる。だからやらなくていい」

「でも……仕事しなかったら、ひとりぼっち、だよ」

「それが怖いなら一緒にこいよ。俺がやってる撮影は関係者以外立ち入り禁止のメディアとはちがうんだ。酒井さんの娘だってたまにいる」

「……いっていいの、?」

「当たり前だ。それでもどうしても仕事したいってんなら、短期バイトでいい。金を稼ぐ方法ならいくらでもあるんだからな」

「…………っ、うん」


それは志野が、おれを離さないと言ったようなものだ。
棄てない。棄てられない。
ずっと一緒にいていいんだ。


「ほんっとに、心配かけやがって……くそガキが」

「ごめんなざぃ……」

「しばらくは自宅で療養だ。お前に決めさせたら怪我の程度もわからずまたバカ早く復帰しそうだから、今回だけは俺が凛さんに説明する。それでいいな?」

「……うん」

「肇は、もっと自分の体の限界を自覚できた方がいい。とっくにボロボロなんだよ、お前」


自分がどこまでいけるのか、どこまでやれるのか、おれはわからない。
社会人ならわかって当然だと周りは言うけど、常に他人を優先して生きてきたおれにはどうしたら自覚できるのかさえわからない。

だから志野の言葉に救われる。
助けられる。
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