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「なに? ジロジロ見んなよ、恥ずかしい」
「一輝はNo.1になりたいのか?」
「当たり前っしょ。ホストずっとやんなら1位目指さないと」
「本当にか?」
「え……なに、怖い怖い」
一輝は機転が利くうえに口が上手い。
肇の営業力とはまたちがうが、客のクセをよく見て状況を判断するのが得意だ。
ホストをやっていた頃、一輝の指名客がよく評価していた。
現に肇のほしいものもいち早く判断し用意してきている。
だが、一輝は自分をよく見ていない。
十分なスキルがあるのにNo.2から上がらないのは、どこかで恐れがあるからだろう。
肇のことを敬遠していたあの頃と同じように、この男はヘタレすぎる。
「清潔感が増したのは肇の影響か……」
「えっ……バレた?」
「お前、昔は自分に似合いもしないやたら主張の激しいネックレスをつけていたよな」
「あぁぁぁ、恥ずかしいから言うなよそれ! ちょっと黒歴史だしっ」
「ヘアスタイルのセンスもなかった」
「はぁ~っ、やな記憶」
「……フッ、垢抜けたな」
「あーもう……オレを八つ裂きにしてくれえ……」
「いいじゃねえか。過去がなけりゃ達成感すらないぞ」
「いや、嬉しいからに決まってんだろ……なに? 今日はデレる日なん? 志野に近づきたくてどんだけ頑張ってきたと思ってんの」
「お前が目指すべきは俺じゃない。もっと上にいけよ、一輝。買い出しの礼だ……それだけ言っておいてやる」
一輝は情けない顔を一瞬見せてクッションに埋もれた。
「お前またそうやってオレを突き放すんだな……あーあ、泣いた。もう泣いたわ」
「メンヘラかよ。助言だろ」
「言っとくけどオレを突き放したら肇ちゃんはもらうぞ」
「ふざけんな、誰が渡すか」
「じゃあさびしいこと言うなよ」
「得意の洞察力を発揮しろ、ボケ……」
天才とバカは紙一重だ。
肇にしても一輝にしても、仕事の能力は高い割に突然ポンコツになる。
「肇ちゃん、寝れてんじゃん。やっぱ志野のことが気になってたんじゃね」
「は?」
「志野は鋼の心を持ってるからたぶんわかんないだろうけど、肇ちゃんみたいに他人を優先して生きてきた子ってさ、相手が辛いのが耐えられないんだよ。自分のために志野が1人で起きてたらどうしよって、それで寝れなかったんだと思う」
「……」
「ほら、肇ちゃんほんと優しいから。でもオレがきたから志野はムリしなくて済むって、安心したんだろうな~」
いま、肇をひどく抱きしめたいと思った。
彼を助けるつもりで、よけいな気を遣わせてしまっていたのか。
「肇ちゃんのこと心配なのはわかるけどさ、たまには肩の力抜けよ。じゃないと肇ちゃんまで緊張しちゃうだろ?」
「……そうだな」
どこか不安を感じていたのは、肇を取られる以前の問題だったようだ。
まるで初めてホストになったあの頃の自分に戻っていた。
少し冷静になれ。
「こんなかわいいパジャマ着てぬいぐるみ抱いてんのとか、28には見えないよな。同業者としゃべってるときはちゃんと男って感じするけど」
「……」
俺といるときの肇は、また別人だ。
優斗や亮雅と話す口調はごく普通の男子大学生のようで、2人きりだと突然3歳児に戻ったようになる。
あの顔がもっとも素なのだろう。
もっと見てみたい。
肇の本当の顔を。
「一輝はNo.1になりたいのか?」
「当たり前っしょ。ホストずっとやんなら1位目指さないと」
「本当にか?」
「え……なに、怖い怖い」
一輝は機転が利くうえに口が上手い。
肇の営業力とはまたちがうが、客のクセをよく見て状況を判断するのが得意だ。
ホストをやっていた頃、一輝の指名客がよく評価していた。
現に肇のほしいものもいち早く判断し用意してきている。
だが、一輝は自分をよく見ていない。
十分なスキルがあるのにNo.2から上がらないのは、どこかで恐れがあるからだろう。
肇のことを敬遠していたあの頃と同じように、この男はヘタレすぎる。
「清潔感が増したのは肇の影響か……」
「えっ……バレた?」
「お前、昔は自分に似合いもしないやたら主張の激しいネックレスをつけていたよな」
「あぁぁぁ、恥ずかしいから言うなよそれ! ちょっと黒歴史だしっ」
「ヘアスタイルのセンスもなかった」
「はぁ~っ、やな記憶」
「……フッ、垢抜けたな」
「あーもう……オレを八つ裂きにしてくれえ……」
「いいじゃねえか。過去がなけりゃ達成感すらないぞ」
「いや、嬉しいからに決まってんだろ……なに? 今日はデレる日なん? 志野に近づきたくてどんだけ頑張ってきたと思ってんの」
「お前が目指すべきは俺じゃない。もっと上にいけよ、一輝。買い出しの礼だ……それだけ言っておいてやる」
一輝は情けない顔を一瞬見せてクッションに埋もれた。
「お前またそうやってオレを突き放すんだな……あーあ、泣いた。もう泣いたわ」
「メンヘラかよ。助言だろ」
「言っとくけどオレを突き放したら肇ちゃんはもらうぞ」
「ふざけんな、誰が渡すか」
「じゃあさびしいこと言うなよ」
「得意の洞察力を発揮しろ、ボケ……」
天才とバカは紙一重だ。
肇にしても一輝にしても、仕事の能力は高い割に突然ポンコツになる。
「肇ちゃん、寝れてんじゃん。やっぱ志野のことが気になってたんじゃね」
「は?」
「志野は鋼の心を持ってるからたぶんわかんないだろうけど、肇ちゃんみたいに他人を優先して生きてきた子ってさ、相手が辛いのが耐えられないんだよ。自分のために志野が1人で起きてたらどうしよって、それで寝れなかったんだと思う」
「……」
「ほら、肇ちゃんほんと優しいから。でもオレがきたから志野はムリしなくて済むって、安心したんだろうな~」
いま、肇をひどく抱きしめたいと思った。
彼を助けるつもりで、よけいな気を遣わせてしまっていたのか。
「肇ちゃんのこと心配なのはわかるけどさ、たまには肩の力抜けよ。じゃないと肇ちゃんまで緊張しちゃうだろ?」
「……そうだな」
どこか不安を感じていたのは、肇を取られる以前の問題だったようだ。
まるで初めてホストになったあの頃の自分に戻っていた。
少し冷静になれ。
「こんなかわいいパジャマ着てぬいぐるみ抱いてんのとか、28には見えないよな。同業者としゃべってるときはちゃんと男って感じするけど」
「……」
俺といるときの肇は、また別人だ。
優斗や亮雅と話す口調はごく普通の男子大学生のようで、2人きりだと突然3歳児に戻ったようになる。
あの顔がもっとも素なのだろう。
もっと見てみたい。
肇の本当の顔を。
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