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スムージーを買ってカフェを後にしてすぐ、思い立ったようにおれは志野に電話をかけていた。
自分の思っていることをいいたい。
少しでも隠さずに。
『はい』
「あ、志野……おれだけど」
公園には人もほとんどいないし、亮雅は少し離れたところでベンチに腰かけている。
なぜかみょうに、言葉がうまく出ない。
『どうした』
「えと、いや……ああっ、いつ帰ってくるのかなーって思ってそれだけ聞きたかったんだよ! いま、亮雅と遊んでて」
『わからない。20時くらいには駅に着けるだろうが』
「……そっか。わかった」
『じゃあいまから撮影だから切るぞ』
「う、うん」
あっけなく切れた。
少し、話せた。
でもどうしてなんだろう。
志野がそっけない。
いや……きっと気のせいだ。
「終わったか?」
「終わったよーん、それなに味?」
「シャインマスカット」
「おいしそ」
「うまいぞ、飲んでみ」
「まじ? やった! おれのシュワシュワクリームサワー8号も飲んでいいよ」
「どんな名前だよ。つーか釈然としない顔してんな」
亮雅のシャインマスカット味のスムージーはさっぱりとしていた。
会わなくても平気……亮雅はすごいな。
「志野は仕事大好き人間だから知ーらない」
「……ガキだな」
「亮雅は仕事中も優斗くんといっしょだろー? 羨まし」
「いくらあいつでも甘やかしはしないぞ、俺は」
「厳し。やっぱ俺様だ~こわぁい」
志野は優しい。
いつだって、おれに優しかった。
でも昨日から……変だ。
なんだか避けられているような気がする。
「____さっむ! なんだこの気温差」
「ほんとさむ~っ、急に冷えるじゃん」
「寒いし気をつけて帰れよ」
「まっ……」
亮雅と過ごしているうちに、気づけば夜になっていた。
あっさりと帰ろうとする亮雅を一瞬引き留めようとしてしまったのは、志野と重ねてしまったからだ。
「なに?」
「……いや、なんでもない。亮雅こそ気をつけて帰れよー」
「おう」
たった数日。
ほんの少しのあいだだけ志野が隣にいないだけ。
なにも不安がることはないのに。
「あ……20時」
時刻はちょうど20時になっていた。
志野が駅につくと言っていた時間だ。
おれは家には帰らず、改札口の近くにあるベンチに座った。
ここにいれば、マネージャーといっしょに出てくるかもしれない。
リュックをひざに置き、ぺん太のぬいぐるみを手に抱く。
志野はどうしてそっけなくなったんだろう。
おれが甘えすぎたから?もう飽きた?
結局、メッセージも既読はつかない。
おれのがんばりが足りないから、呆れたのかもしれない。
このまま帰ってこなかったらどうしよう。
今度こそ、棄てられたら。
「……しの」
泣けてきた。
もう大人なのに、怖いよ。志野。
「さむい……」
指先が冷えてきた。
風が突き刺さるように冷たい。
帰ってくるっていっていたから、信じたい。
どこにも行かないって。
でも、21時半になっても志野は出てこなかった。
寒さでふるえが止まらない。
連絡もこないし、おれはやっぱり棄てられてしまったのか。
ガクガクとふるえる体を抱きしめ、何度も時計を確認した。
慣れてる。
寒さを耐えることなんて、慣れっこだ。
「はぁぁー……寒い……志野、帰ってきてよ……おれ、もっとがんばる、から」
駅の外では、パラパラと雪が降っている。
いつもならはやくに進む時計の針が、ずっと遅く見えた。
21時40分、50分…………22時20分。
もう、ダメだ。
手の感覚がほとんどない。
寝たい。
ここで眠れば、またあの頃の自分に戻ってしまうかもしれない。
ゴミ捨て場にいた、あの頃の。
でももう、いい。
最初から望んではいけなかったんだ。
おれが幸せになる未来を、夢見たからこうなった。
志野はきっと戻ってこない。
「おや、すみ……」
それから、ばいばい。
自分の思っていることをいいたい。
少しでも隠さずに。
『はい』
「あ、志野……おれだけど」
公園には人もほとんどいないし、亮雅は少し離れたところでベンチに腰かけている。
なぜかみょうに、言葉がうまく出ない。
『どうした』
「えと、いや……ああっ、いつ帰ってくるのかなーって思ってそれだけ聞きたかったんだよ! いま、亮雅と遊んでて」
『わからない。20時くらいには駅に着けるだろうが』
「……そっか。わかった」
『じゃあいまから撮影だから切るぞ』
「う、うん」
あっけなく切れた。
少し、話せた。
でもどうしてなんだろう。
志野がそっけない。
いや……きっと気のせいだ。
「終わったか?」
「終わったよーん、それなに味?」
「シャインマスカット」
「おいしそ」
「うまいぞ、飲んでみ」
「まじ? やった! おれのシュワシュワクリームサワー8号も飲んでいいよ」
「どんな名前だよ。つーか釈然としない顔してんな」
亮雅のシャインマスカット味のスムージーはさっぱりとしていた。
会わなくても平気……亮雅はすごいな。
「志野は仕事大好き人間だから知ーらない」
「……ガキだな」
「亮雅は仕事中も優斗くんといっしょだろー? 羨まし」
「いくらあいつでも甘やかしはしないぞ、俺は」
「厳し。やっぱ俺様だ~こわぁい」
志野は優しい。
いつだって、おれに優しかった。
でも昨日から……変だ。
なんだか避けられているような気がする。
「____さっむ! なんだこの気温差」
「ほんとさむ~っ、急に冷えるじゃん」
「寒いし気をつけて帰れよ」
「まっ……」
亮雅と過ごしているうちに、気づけば夜になっていた。
あっさりと帰ろうとする亮雅を一瞬引き留めようとしてしまったのは、志野と重ねてしまったからだ。
「なに?」
「……いや、なんでもない。亮雅こそ気をつけて帰れよー」
「おう」
たった数日。
ほんの少しのあいだだけ志野が隣にいないだけ。
なにも不安がることはないのに。
「あ……20時」
時刻はちょうど20時になっていた。
志野が駅につくと言っていた時間だ。
おれは家には帰らず、改札口の近くにあるベンチに座った。
ここにいれば、マネージャーといっしょに出てくるかもしれない。
リュックをひざに置き、ぺん太のぬいぐるみを手に抱く。
志野はどうしてそっけなくなったんだろう。
おれが甘えすぎたから?もう飽きた?
結局、メッセージも既読はつかない。
おれのがんばりが足りないから、呆れたのかもしれない。
このまま帰ってこなかったらどうしよう。
今度こそ、棄てられたら。
「……しの」
泣けてきた。
もう大人なのに、怖いよ。志野。
「さむい……」
指先が冷えてきた。
風が突き刺さるように冷たい。
帰ってくるっていっていたから、信じたい。
どこにも行かないって。
でも、21時半になっても志野は出てこなかった。
寒さでふるえが止まらない。
連絡もこないし、おれはやっぱり棄てられてしまったのか。
ガクガクとふるえる体を抱きしめ、何度も時計を確認した。
慣れてる。
寒さを耐えることなんて、慣れっこだ。
「はぁぁー……寒い……志野、帰ってきてよ……おれ、もっとがんばる、から」
駅の外では、パラパラと雪が降っている。
いつもならはやくに進む時計の針が、ずっと遅く見えた。
21時40分、50分…………22時20分。
もう、ダメだ。
手の感覚がほとんどない。
寝たい。
ここで眠れば、またあの頃の自分に戻ってしまうかもしれない。
ゴミ捨て場にいた、あの頃の。
でももう、いい。
最初から望んではいけなかったんだ。
おれが幸せになる未来を、夢見たからこうなった。
志野はきっと戻ってこない。
「おや、すみ……」
それから、ばいばい。
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