薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

文字の大きさ
上 下
32 / 94

*

しおりを挟む
「____め、肇」

「っ!」


脳に直接語りかけられるように大きく響いた声。
まぶたを上げると、ひざの上には弁当が置かれている。
いつの間にか寝ていたらしい。
辺りを見回してみればどうやらスーパーの駐車場にいるようだ。


「んー、ねてた……いつねたの、おれ」

「1時間は経ってるぞ。食えよ」

「ありがと……へへ、なんか変なの」

「なにが?」

「志野がスーパー寄ってる……」


大きく伸びをして弁当のビニールをやぶいていく。
志野は意外とコンビニも利用するし、スーパーも寄ったりする。
元ホストなだけあっていまでもそれなりに儲けているのに、口にするものは庶民的なものも多い。


「やった、からあげだ~」

「肩痛って……」

「おれが運」

「絶対ダメだ」

「からあげいる?」

「……ぷふ、どんだけ奉仕したいんだよ」

「志野が元気な方がおれも嬉しいし」

「俺らの相性バグってんな」


からあげをかじる音が耳に心地いい。
なんだ、このおいしさ。


「……おれたち相性悪いの?」

「いいとは言えないだろうな、一般的に。俺は肇が幸せになればいいと思ってる。お前も、そう思ってるだろ」

「うん」

「だいたいは片方が奉仕したい人間で、もう片方は奉仕されたい人間だ。その方がお互いの欲も満たされていい関係が続く……たぶん」

「なんで急に自信ないの、めずらし」

「現に俺が体験してるからだよ。腹立つくらいに違和感ねえ」

「…………からあげおいしい」

「この幸せ者め」


いままで食べた中で一番おいしい。
志野とふたりきりで食べるご飯は格別だ。


「おれ一生これでいい」

「からあげになるぞ」

「一生からあげ~♪  ふふ~ん♪」

「……幼稚園入るか?」

「あ、UFOが飛んでる」

「あれは飛行機だ」

「そういえば志野って飛行機乗ったことあんの?」


車は空を飛ばない。
大空を駆ける飛行機は、車とは桁違いの人数が乗れるらしい。
飛んでみたい。
きっとすべてがちっぽけに見えるほど壮大なのかもしれない。


「一輝と海外旅行したときに、何度か」

「へえっ、ほんとに一輝さんと仲良いよなぁ」

「あいつはただの腐れ縁だけどな。いまだにあの日のことを気にしてるみたいだぞ、気まずいって」

「一輝さんが?」

「ああ、まさか恋人関係にまでいくとは思ってなかっただろうな。肇を突き放そうとした過去の自分に後悔してんだと」

「あはは、一輝さんかわい。志野のこと心配して言ってたんだし、あんな傷だらけ精液まみれの男を家に連れ帰る志野の方が100倍頭おかしいのに」

「あーそうだよ。はたから見れば俺は立派な誘拐犯だ」


志野の本をあさっていたとき、一度見つけたことがある。
それは戦隊ヒーローものの漫画だったが、見入ってしまったのは主人公が家庭内暴力を受けている少女を連れ去った話だ。

はたから見れば主人公は悪者であり、場合によっては訴えられるかもしれない。
それでもすべてを知っている少女からすれば、主人公は正義のヒーロー以外の何者でもない。

おれにとっての志野はそれだ。
誰が志野を悪者扱いしても、おれだけはすべてを知っている。
命を救ってくれた恩人なんだ。
楽しいこと、人の優しさを教えてくれた誰よりも尊い人。


「おれも空飛びたい」

「言っちゃ悪いが、飛行機は街も大して見えないぞ。雲ばっかだ」

「え?  空にいても雲って見えるんだ」

「そりゃ見えるだろ。あれは幻覚か?  飛行機も悪くはないが、それならスカイダイビングとかの方が感動ものだ」

「スカイダイビング?」

「空の上から飛び降りるんだよ」

「自殺行為じゃん、こわっ!」

「バーカ、安全装置つけてるに決まってる。あれ経験してればお前ももっと世界広がるだろうな」

「志野やったことある?」

「ああ」

「すご。じゃあおれもやりたい!  志野とやりたいことリストがまた増えたな~」

「なんだそのリスト」


ああ、楽しそうだ。
おれはスマホを手にとり、メモアプリにスカイダイビングと入力した。

志野とやりたいこと100。
ぜんぶ埋まればいいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...