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「にしても、男の割にかわいい顔してんな。志野の好きそうな顔だ」
まじまじと至近距離で顔を見たのは初めてで、俺も驚きを隠せない。
本当に男なのか? こいつは。
「……ヤりたいなら、いいよ。おれは抵抗しない。げほっ、けほ」
「無理してしゃべんな、どこが痛い」
「ぜんぶ……」
「はぁ……一輝、今日はお前も付き合え」
「へいよ」
とりあえず、ここにいるとマズい。
意気消沈な肇を抱えあげ、一輝の車へ乗せる。
はたから見れば俺は誘拐犯以外の何者でもない。
それは肇も同じだろう。
自宅へ着く頃には肇の体はふるえ、意識も朦朧としていた。
傷口が浅いもののひどい有り様だ。
「持ち上げるぞ。痛くても我慢しろ」
「っ」
「あんた歳はいくつだ」
「にじゅ……ご」
「成人したばっかじゃねえのか。随分とまぁ、派手にやられたな」
冷静さを装いながらも、内心イラ立っていた。
「はは……おもしろ。おれはゴミといっしょだぁ……」
もうほとんど正気ではない。
玄関に運び、そっと肇を降ろすと冷めた瞳と視線が交わる。
「……名前と職業は話せるか」
「ん……」
肇はミニテーブルからえんぴつを取り、不安定に名前を書いた。
「米津司郎、か。職業は」
「体売ってる……」
「は、その歳でか?」
「高校、行ってない……仕事できない」
「嘘だろ」
我ながら大根役者だ。
肇が高校へ行ってないことは知らなかったが、男娼しているのは目に見えてわかる。
一輝はそんな肇を目にして、またソワソワとし出す。
「おいおい、志野。悪いことは言わねえ……こいつ返してこいよ。間違いなく後悔するぞ」
「……」
一輝の引き止めを無視して肇を部屋へ運ぶ。
後悔はしてもいい。
2年も探したんだ、この男を。
今さら手放せるか。
「……ヤる、なら、痛くして」
「はぁ?」
「ナイフとか使ってもいいから……痛いのが、いい。金はいらない……」
「あんたなに言ってんだ。怪我人に手出すかよ」
「……なんで」
「なんでもクソもねえ、見てるこっちが痛々しいんだよ。おい一輝っ、消毒持ってこい」
ああ、イライラする。
肇は憔悴しきっている。
それでも痛みを求めることしかできないほど、人の愛情を知らない。
腹立たしい。
「バカになっちまったのかよ、志野。そんなやべー病気持ってそうな男をかばう義理はないだろ。見てられねえよ」
「嫌なら帰ればいい。被害をこうむるのは一輝じゃないだろ」
「そ、そうだけどよ」
「……おれのこと、どうするの」
「あんたは家に泊まっていけ。どうせ住む家もないんだろう」
「ない、けど……金もない」
「なら余計にだ」
「住んで、いいの」
「ああ、金が払えないなら体で払え。怪我が治ってからでいい」
傷だらけの肇に手を出したいなどとは思わない。
他の男に傷つけられる肇を見るだけなのはうんざりだ。
「……お前ってほんと、お人好しなんだもんなぁ」
あの日助けられなかった自分に、ずっと引け目を感じていた。
力が弱い肇は子どもを必死に守っていたのに、俺はただの傍観者。
守りたい。
もう二度と肇を危険な目に遭わせてたまるか。
まじまじと至近距離で顔を見たのは初めてで、俺も驚きを隠せない。
本当に男なのか? こいつは。
「……ヤりたいなら、いいよ。おれは抵抗しない。げほっ、けほ」
「無理してしゃべんな、どこが痛い」
「ぜんぶ……」
「はぁ……一輝、今日はお前も付き合え」
「へいよ」
とりあえず、ここにいるとマズい。
意気消沈な肇を抱えあげ、一輝の車へ乗せる。
はたから見れば俺は誘拐犯以外の何者でもない。
それは肇も同じだろう。
自宅へ着く頃には肇の体はふるえ、意識も朦朧としていた。
傷口が浅いもののひどい有り様だ。
「持ち上げるぞ。痛くても我慢しろ」
「っ」
「あんた歳はいくつだ」
「にじゅ……ご」
「成人したばっかじゃねえのか。随分とまぁ、派手にやられたな」
冷静さを装いながらも、内心イラ立っていた。
「はは……おもしろ。おれはゴミといっしょだぁ……」
もうほとんど正気ではない。
玄関に運び、そっと肇を降ろすと冷めた瞳と視線が交わる。
「……名前と職業は話せるか」
「ん……」
肇はミニテーブルからえんぴつを取り、不安定に名前を書いた。
「米津司郎、か。職業は」
「体売ってる……」
「は、その歳でか?」
「高校、行ってない……仕事できない」
「嘘だろ」
我ながら大根役者だ。
肇が高校へ行ってないことは知らなかったが、男娼しているのは目に見えてわかる。
一輝はそんな肇を目にして、またソワソワとし出す。
「おいおい、志野。悪いことは言わねえ……こいつ返してこいよ。間違いなく後悔するぞ」
「……」
一輝の引き止めを無視して肇を部屋へ運ぶ。
後悔はしてもいい。
2年も探したんだ、この男を。
今さら手放せるか。
「……ヤる、なら、痛くして」
「はぁ?」
「ナイフとか使ってもいいから……痛いのが、いい。金はいらない……」
「あんたなに言ってんだ。怪我人に手出すかよ」
「……なんで」
「なんでもクソもねえ、見てるこっちが痛々しいんだよ。おい一輝っ、消毒持ってこい」
ああ、イライラする。
肇は憔悴しきっている。
それでも痛みを求めることしかできないほど、人の愛情を知らない。
腹立たしい。
「バカになっちまったのかよ、志野。そんなやべー病気持ってそうな男をかばう義理はないだろ。見てられねえよ」
「嫌なら帰ればいい。被害をこうむるのは一輝じゃないだろ」
「そ、そうだけどよ」
「……おれのこと、どうするの」
「あんたは家に泊まっていけ。どうせ住む家もないんだろう」
「ない、けど……金もない」
「なら余計にだ」
「住んで、いいの」
「ああ、金が払えないなら体で払え。怪我が治ってからでいい」
傷だらけの肇に手を出したいなどとは思わない。
他の男に傷つけられる肇を見るだけなのはうんざりだ。
「……お前ってほんと、お人好しなんだもんなぁ」
あの日助けられなかった自分に、ずっと引け目を感じていた。
力が弱い肇は子どもを必死に守っていたのに、俺はただの傍観者。
守りたい。
もう二度と肇を危険な目に遭わせてたまるか。
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