薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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side志野

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「なぁ」

「ん~?  なにー、しの」

「そろそろ熱い」


素材のやわらかいゲーミングチェアに成人済みの男が2人で腰かけている光景ほどおもしろいものはない。
俺のひざに乗ってスマホゲームで遊んでいるこの美形は、米津肇という。

旧名は司郎。
幼少期からのネグレクトを耐え、成人後に自身の決断で親と決別している。
2年前から肇を俺の自宅に住まわせているが、それを連想させる節は度々あった。

本人は自覚がないようだが、肇は食べられるものならなんでも手に取ろうとする。
家庭でなにも用意されない日には賞味期限切れの残りものを口にしたり、落ちているものを仕方なく食べることもあったようだ。

男娼を始めてから相手の家に泊まることも増えていたが、慣れるまでは安物の残飯しか口に入れられなかったらしい。
経験から自身を激しく卑下するクセがあり、それこそ同居を始めたばかりの頃は大変だった。

自傷がやめられず、毎日どこかしらを傷つけては安心したような顔をする。
まるで自分はこういう人間だと訴えるように。


「あ~っ、出た!  ねえ見てよ、志野!  ついに出たよ、もふぬん」

「……は?  もふぬん?」

「ほらこれ、モンスター」

「肇はそういうかわいいのが好きだな」

「だってかわいくね~!?  名前がおもしろいもん、もふぬんって……ふくくっ」

「わかったわかった。それより、くっつきすぎて熱い。いい加減布団いけよ」

「いつまで仕事すんのー」

「終わるまで待てって。犬か、お前は」

「わん」

「集中力切れるからあっち行ってろ」

「わかったよ。プリン食べてい?」

「ああ」


会話だけ聞いていると俺自身がバグったような感覚に陥るが、これでも肇は28になる男だ。
見た目年齢は20歳といってもバレないだろう。

他人に甘える能力には長けているが、悲しみやツラさを表現するのは驚くほど下手だ。
どれだけ傷つこうと笑顔でいようとする肇を見ていられず、怒鳴りつけてしまったこともある。

本来ならば赤の他人である肇を俺が世話してやる義理はない。
ないが、気がつけば同居生活も2年経っている。


「眠い……」

「……」


赤ちゃんかよ。
ため息がこぼれた。

ベッドに横になった肇はまくらを抱きしめて眠りの体勢についていた。
二重人格という言葉がよく似合う。
肇は女の前でこの姿を見せたことはないだろう。
まともに女を抱けないことも俺は知っている。

ホストをやめたのも、ここへ肇を住まわせたのも、大金を貢いでいるのも、それが俺のやりたいことだからだ。
あの日を境に、俺の人生は大きく変わった。


「____シノぉ~、今日はありがとねぇ。また指名するから、連絡先教えて♡」


鼻をつく香水のにおいも、不自然に揺れる胸も、まるで空気と変わらない。
高校を卒業したのち、母を病気で亡くした俺はホストになった。
葬儀の費用を出してくれたのは遠い親戚で、借金返済と生きるために自身の容姿を利用した。

よくいるコミュニケーション能力に長けたおしゃべりなホストと違い、俺はベラベラと話ができるタイプではない。
だがホストを続けるには、あらゆる手を使ってでも駆け上がるしかなかった。

来るもの拒まず去るもの追わず、誰彼構わずに関係を持つうち、女の名前すら覚えられなくなっていた。
バイトを掛け持ちし、ひたすら金のことしか考えられなくなっていた俺の日常はいま思えば滑稽だっただろう。


「おい、もっと咥えろや」

「んぐッ」


ある日、勤務を終えて裏路地でたばこを吹かしていたときだ。
見知らぬ2人組が致している現場を目撃したのは。
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