薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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「____お姉さん、このあとお茶しない?」

「っ……す、すみません」


おれの特技は相手に感情を悟られないこと。
交渉人を口車に乗せてしまうのもお手のものだ。
おれのことを嫌いな人間は多くても、容姿が嫌いな人間はそうそういない自信がある。

頬を紅潮させている受付係をあと一歩で落とせるというのに、志野に手をつかまれたことで終了。


「やめろ、肇」

「はぁー、まーた失敗。もうおれの邪魔しないでよ」

「クレジットでお願いします。ガキが盛ってんなよ」

「いたっ、あ!  ねえ見て、志野。あんなところにみるモンがいるよ」


志野に連れられたのは都内でも有名な高級ホテルとかなんとかで、おれはよくわからないまま引っついてきた。
ホテルと長い付き合いになるとはいえ、高級ホテルに連れていかれたことは少ない。

みるモンはいわゆるご当地キャラだが、この周辺に住んでいる人間しか知らないレアモンスターだ。


「はは。みんな写真撮っててウケる~」

「お前は伝えるの下手くそか。撮りたいなら撮ってやる」

「え……」

「なんで俺に引いてんだ、ガキ」

「みるモンっておばけがモチーフだろ?  一緒に撮ったらなんか写ってそう」

「んなわけないだろ。ま、中身はいい歳したオッサンだろうけどな」

「夢くずれた……もうムリ」

「よわ」


項垂れているおれに"ほら行くぞ"と志野の手が伸びてくる。
手首をつかんで歩き始める志野。
おれはその状況を、まるで他人のように傍観していた。

志野の手、あったかい。


「志野の手うまそー」

「どういう意味だ……」

「女を虜にするのが」

「……はぁ。言っとくが、ねだっても殴らねえからな」

「ふふ、志野は優しいな」


殴ってほしいとおれがいえば大抵の男はストレス発散に使う。
おれは発散と性欲処理の道具。
本来それでいいのに、志野がそれを許してくれない。

自傷行為をしてもおれに怒らない。
手当てを何度でもしてくる。
本当にふしぎだ。


「うぅー……そろそろ誰かとセックスしないと干からびそう」

「これでも持ってろ」

「なに」


渡されたのはキツネのぬいぐるみ。
しかもかなりかわいい。


「……バカにしてる?」

「当たり前だ」

「いまムカついてる」

「それは成長したな」

「なにその反応、なんかやだ」

「お前やたらニコニコしててうさんくさい」


それは当然だ。
泣いたり怒ったりしたところで状況はなにも変わらない。
それなら最初から、負の感情なんて見せる必要がないんだ。
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