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「やっ……隼人さ、人きたらっ……ん」
吐息が耳を刺激する。
むさぼるように腹をなでる手にゾクゾクとうずいて手をつかんだ。
「や、やばいって……こんなとこ、でっ」
「……はっ……要」
「っ、わ、隼人さん……手放せよっ……んん」
鎖骨に胸元へキスを落としながら、手が俺の股間にふれる。
「あっ……」
死角になっているといえ、たくさんの人がいるこんな場所で襲われている状況に羞恥心がつのる。
けれど俺の下半身は正直で隼人さんにふれられて興奮が高まっていく。
「ンっ、ぁ……はーっ……」
布越しに揉まれるだけで呼吸が荒れ、頭を突き抜ける快感に脱力した。
「はや、と……んぁ」
「ここ気持ちいいの」
「あんっ、や、だ……こんな、のっ」
「要……興奮してんの? 腰動いてっけど」
「ちがっ、あぁん……はっ、……も、もむなぁっ」
「ふ……」
隼人さん、隼人さん……っ
キスがしたい。
隼人さん自身がほしい。
俺があなたの一番になりたい。
「はやとさ……」
でも、俺の望みはまた叶わなかった。
首筋にはふれる彼の唇が、おれのものとは重ならない。
意図的にそれを避けているのがわかって、心が抉られていく。
思わず涙がにじんだ俺は、隼人さんの胸を突き飛ばした。
「っ……もう、やめろって……!」
「痛って……」
「は、はっ……こんな場所で、するなよっ。セフレだからって、なにしてもいいとは言ってない!」
隼人さんの顔は見れなかった。
ただ泣きそうな自分を誤魔化すのに必死でその場を立ち去った。
「…………ぐずっ」
だっさ……男なのに泣いてるとか、しかも水族館で。
隼人さんはおそらく俺の体が好きだ。体だけ。
俺自身に興奮していたわけじゃない。
それを改めて知らされると、あの場にいるのが耐えられなかった。
とっくにふられている。
そんなのわかってるのに。
「……」
トンネル状に造られた水槽の下をとぼとぼ歩く。
優雅に泳ぐ魚がきれいで、また涙腺がゆるんでしまう。
俺……隼人さんのことめっちゃ好きじゃん。
弄ばれているだけだとわかっていながら、変な期待を抱く自分がくやしい。
「ねえいまの人、超かっこよくない……? 1人なのかな?」
「いや違うでしょ。絶対彼女いるよー、あんなイケメン」
横を通り過ぎていった女子高生らしき女性がチラッとこちらを一瞥し、視線が交わった。
彼女は驚いたようにすぐ顔をそらして歩きだす。
「やばいやばい……イケメンと目が合っちゃった……っムリムリ、心臓止まりそぉ」
「あははっ、ウケる~。アイドル見たときの反応じゃん」
……俺がもし女だったら。
隼人さんは、俺のことを見てくれたんだろうか。
「要っ」
「!」
背後からの声に肩がふるえ、勢いよく振り返る。
苦い顔をした隼人さんがそこにいて、思わず視線が泳いだ。
「悪かったよ……お前のこと、なにも考えてなかった。あんま1人になるな」
「……隼人さんって、結構クズ男ですよね。いまさらですけど」
「……」
「せいぜい目をつけられないように気をつけてください」
吹っ切れられたらいいのに。
もう誰でもいいから。
「____あ~うまかったぁ」
水族館の食堂では金券で好きなものが買える。
トンカツ定食で十分に腹がふくれた俺は仲睦まじいカップルをぼんやりと眺めた。
「要、皿片付けてくるからここ離れんなよ」
「え? あ、俺がいきますよっ」
「いい。お前はここにいろ」
先ほどのことを気にしているのか、隼人さんは俺の分もまとめて返しに行ってくれた。少し言いすぎた、か。
罪悪感を抱きそうだけど、事実なのだから仕方ない。
「ありがとうございます、隼人さん」
「これやるよ」
「アイス?」
シャーベットのアイスをもらった。
餌付けされているようなのに、単純な俺は許しますといってしまいそうだった。
「隼人さん……誰かとキス、したことあるんですか?」
「なにその質問」
「うぇっ、へ、変なこと聞いてすいません」
「ねえよ、誰とも」
「っ……潔癖とか、ですか」
「それもある」
「"も"ってことは、他にもなにか理由が?」
「……」
って、俺に話してくれるわけがないか。
セフレだし。
「……中学んとき、初めて付き合った彼女を他のやつにとられた」
「え?」
「そいつは何度も謝ってきたけど俺は腹が立って、つい言っちまったんだよ」
「なにを……」
「死んじまえって」
「……」
「そしたらそいつは、2日後に交通事故で」
「待ってくださいッ!!!」
怖くなり、手がふるえた。鳥肌が立った。
隼人さんの口から話してくれたことよりも、その重すぎる過去を聞いたことに後悔する。
「ご、ごめんなさいっ、めちゃくちゃ話しづらいことを聞いて」
「べつに……もう10年も前の話だ」
言えるわけない。
俺の口から、キスがしたいなんて。
吐息が耳を刺激する。
むさぼるように腹をなでる手にゾクゾクとうずいて手をつかんだ。
「や、やばいって……こんなとこ、でっ」
「……はっ……要」
「っ、わ、隼人さん……手放せよっ……んん」
鎖骨に胸元へキスを落としながら、手が俺の股間にふれる。
「あっ……」
死角になっているといえ、たくさんの人がいるこんな場所で襲われている状況に羞恥心がつのる。
けれど俺の下半身は正直で隼人さんにふれられて興奮が高まっていく。
「ンっ、ぁ……はーっ……」
布越しに揉まれるだけで呼吸が荒れ、頭を突き抜ける快感に脱力した。
「はや、と……んぁ」
「ここ気持ちいいの」
「あんっ、や、だ……こんな、のっ」
「要……興奮してんの? 腰動いてっけど」
「ちがっ、あぁん……はっ、……も、もむなぁっ」
「ふ……」
隼人さん、隼人さん……っ
キスがしたい。
隼人さん自身がほしい。
俺があなたの一番になりたい。
「はやとさ……」
でも、俺の望みはまた叶わなかった。
首筋にはふれる彼の唇が、おれのものとは重ならない。
意図的にそれを避けているのがわかって、心が抉られていく。
思わず涙がにじんだ俺は、隼人さんの胸を突き飛ばした。
「っ……もう、やめろって……!」
「痛って……」
「は、はっ……こんな場所で、するなよっ。セフレだからって、なにしてもいいとは言ってない!」
隼人さんの顔は見れなかった。
ただ泣きそうな自分を誤魔化すのに必死でその場を立ち去った。
「…………ぐずっ」
だっさ……男なのに泣いてるとか、しかも水族館で。
隼人さんはおそらく俺の体が好きだ。体だけ。
俺自身に興奮していたわけじゃない。
それを改めて知らされると、あの場にいるのが耐えられなかった。
とっくにふられている。
そんなのわかってるのに。
「……」
トンネル状に造られた水槽の下をとぼとぼ歩く。
優雅に泳ぐ魚がきれいで、また涙腺がゆるんでしまう。
俺……隼人さんのことめっちゃ好きじゃん。
弄ばれているだけだとわかっていながら、変な期待を抱く自分がくやしい。
「ねえいまの人、超かっこよくない……? 1人なのかな?」
「いや違うでしょ。絶対彼女いるよー、あんなイケメン」
横を通り過ぎていった女子高生らしき女性がチラッとこちらを一瞥し、視線が交わった。
彼女は驚いたようにすぐ顔をそらして歩きだす。
「やばいやばい……イケメンと目が合っちゃった……っムリムリ、心臓止まりそぉ」
「あははっ、ウケる~。アイドル見たときの反応じゃん」
……俺がもし女だったら。
隼人さんは、俺のことを見てくれたんだろうか。
「要っ」
「!」
背後からの声に肩がふるえ、勢いよく振り返る。
苦い顔をした隼人さんがそこにいて、思わず視線が泳いだ。
「悪かったよ……お前のこと、なにも考えてなかった。あんま1人になるな」
「……隼人さんって、結構クズ男ですよね。いまさらですけど」
「……」
「せいぜい目をつけられないように気をつけてください」
吹っ切れられたらいいのに。
もう誰でもいいから。
「____あ~うまかったぁ」
水族館の食堂では金券で好きなものが買える。
トンカツ定食で十分に腹がふくれた俺は仲睦まじいカップルをぼんやりと眺めた。
「要、皿片付けてくるからここ離れんなよ」
「え? あ、俺がいきますよっ」
「いい。お前はここにいろ」
先ほどのことを気にしているのか、隼人さんは俺の分もまとめて返しに行ってくれた。少し言いすぎた、か。
罪悪感を抱きそうだけど、事実なのだから仕方ない。
「ありがとうございます、隼人さん」
「これやるよ」
「アイス?」
シャーベットのアイスをもらった。
餌付けされているようなのに、単純な俺は許しますといってしまいそうだった。
「隼人さん……誰かとキス、したことあるんですか?」
「なにその質問」
「うぇっ、へ、変なこと聞いてすいません」
「ねえよ、誰とも」
「っ……潔癖とか、ですか」
「それもある」
「"も"ってことは、他にもなにか理由が?」
「……」
って、俺に話してくれるわけがないか。
セフレだし。
「……中学んとき、初めて付き合った彼女を他のやつにとられた」
「え?」
「そいつは何度も謝ってきたけど俺は腹が立って、つい言っちまったんだよ」
「なにを……」
「死んじまえって」
「……」
「そしたらそいつは、2日後に交通事故で」
「待ってくださいッ!!!」
怖くなり、手がふるえた。鳥肌が立った。
隼人さんの口から話してくれたことよりも、その重すぎる過去を聞いたことに後悔する。
「ご、ごめんなさいっ、めちゃくちゃ話しづらいことを聞いて」
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言えるわけない。
俺の口から、キスがしたいなんて。
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