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『命令されてイくとか、変態だな』
「はッ……はぁ……ごめ、なさ……」
精液で濡れた床を見下ろして罪悪感のようなものを覚えた。
『やっぱお前、エロくていいわ』
「……隼人さんの、方が、エロいです」
『はは……ちゃんと風呂入って寝ろよ。風邪引くぞ』
「わかってますよ、子どもじゃないんですから」
やってることはクズなのに、どうしてこんなにも安心できる声をしているのか。
隼人さんの声を聞くだけで気分が落ちつくし、心がざわつく。
あの人が原因で俺はいつも一喜一憂してしまう。
そんなこと、本人は知りもしないだろう。
「はぁ……また聞けなかった」
隼人さんとの壁を感じる理由はいくつもあるけれど、そのなかでも一番大きな重石になっているのはキスだ。
俺と隼人さんは出会って半年経っても、キスをしたことがない。
きっと本命の相手にしかしない人なんだ。
俺から求めることはないし、隼人さんがしたくなるそのときまで待っている。
そもそも、彼は最初からセフレとして俺に近づいてきた。俺もそれに同意したし、本来なら好きになってはいけない相手に体以上の感情をもってしまったわけだ。
一度だけ、聞いてみたかった。
誰かとキスをしたことはありますか、と。
毎回会うたびにそれを聞こうとして聞けずにいる。
この関係が壊れるのがもっとも怖い。
だから聞けない。
「あ゙ぁぁぁ……動画とんの忘れてた」
テーブルにセットしてあるビデオカメラを目にして大きくため息をつく。
美容マニアである俺は、不定期に美容情報や新作のおすすめコスメを動画にとって発信している。
メイクのやり方もスキンケアも自己流だが、動画配信が主流になっている現代にはもってこいの発信法だ。
「隼人さんのことは忘れろ、俺」
頬をパチンと挟んで重い空気をリセットする。
彼女がいながら何人もセフレがいる隼人さんは誰が見てもクズ男の象徴なのに、ときどき見せてくる優しさや哀しげな顔に心をやられる。
ムカつくぐらいに、隼人さんに惹かれてしまう。
翌日、大学の講義を終え隼人さんに連絡をしようとしていたところに、健がやってきた。
「____かっなめ~! 今日サークル寄ってかね?」
「ああ、悪い。今日は隼人さんが迎えにくるから」
「ほんと隼人さんと仲良いよなー。やっぱ美容関係でつながってると話し合うのか」
「まぁ……そんなとこ。俺の憧れだし、あの人」
「モデル並にイケメンだし器用だし頭いいし、まじで欠点見当たんね! 要が憧れんのもわかる」
欠点ならありまくりだよ……
とんだ遊び人だぞ、あの男。
「今日こそ小遣いせがんどいて!」
「やだよ、自分でいえ」
バッグを肩にかけたとき、スマホがふるえ隼人さんの名前が表示された。
「もしもし、いま講義終わりました」
『おう、おつかれ。入口に停めてっからこいよ』
「了解でーす」
健と別れて門をくぐると、見覚えのあるセダンが路肩に停まっていた。
「隼人さん、お待たせしました。っ……」
ブルーレンズの眼鏡をかけ、パーマ風にセットされた髪。
色気のある瞳がこちらを向いて、心臓がわしづかみされる感覚に怯んだ。
「あ……と」
「なに?」
「いえ、……信じられないくらいのイケメンがいたので、つい」
「いい加減に見慣れろよ。半年経ってるんだぞ」
「ムリです……隼人さん以上のイケメンを今世で見たことないんで」
「お前、色々と大げさだよな」
「……好きなんですか? レモンサワー」
ドリンク台にセットされているレモンサワーのカップ、たしか隼人さんの自宅にも常備されていた。
「あれ? これってアルコール……」
「ノンアルだ、バカ」
「ああ、ですよね。隼人さんの家にもありますよね」
「婆さんが送ってくるんだよ。よけいなお世話だって言ってるんだけどな」
そういいながらちゃんと飲んでるんだ……
意外としっかりしてる人なんだよな。
「要もほしかったらいくらでも持っていけよ。ありすぎて鬱陶しい」
「はは、ばあちゃんあるあるですよね~。隼人さんのこと、かわいくて仕方ないんでしょうね」
「……逆だろうな」
「え?」
「お前、行きたいとこないの」
「えっ、と……行きたいとこ、」
「ゲーセンでもなんでもいいぞ」
「あ、じゃあ水族館とか」
「は?」
「っ! え、いや、いまのは忘れてくださいっ、間違えました!」
俺なに言ってんの……!?
そんなの、デートに誘ってるようなものじゃないか!
しかもベタすぎて恥ずかし……っ
「行きたいの?」
「え」
「行きたいなら行くけど」
「い、いいんですか……?」
「ああ、今日はなにも予定ないしな」
その優しさが時に人を傷つけるなんて、この人は思いもしないだろう。
どうしてそんなに優しくしてくれるんですか、とでそうになった言葉を飲みこんで隼人さんの厚意に甘えた。
「はッ……はぁ……ごめ、なさ……」
精液で濡れた床を見下ろして罪悪感のようなものを覚えた。
『やっぱお前、エロくていいわ』
「……隼人さんの、方が、エロいです」
『はは……ちゃんと風呂入って寝ろよ。風邪引くぞ』
「わかってますよ、子どもじゃないんですから」
やってることはクズなのに、どうしてこんなにも安心できる声をしているのか。
隼人さんの声を聞くだけで気分が落ちつくし、心がざわつく。
あの人が原因で俺はいつも一喜一憂してしまう。
そんなこと、本人は知りもしないだろう。
「はぁ……また聞けなかった」
隼人さんとの壁を感じる理由はいくつもあるけれど、そのなかでも一番大きな重石になっているのはキスだ。
俺と隼人さんは出会って半年経っても、キスをしたことがない。
きっと本命の相手にしかしない人なんだ。
俺から求めることはないし、隼人さんがしたくなるそのときまで待っている。
そもそも、彼は最初からセフレとして俺に近づいてきた。俺もそれに同意したし、本来なら好きになってはいけない相手に体以上の感情をもってしまったわけだ。
一度だけ、聞いてみたかった。
誰かとキスをしたことはありますか、と。
毎回会うたびにそれを聞こうとして聞けずにいる。
この関係が壊れるのがもっとも怖い。
だから聞けない。
「あ゙ぁぁぁ……動画とんの忘れてた」
テーブルにセットしてあるビデオカメラを目にして大きくため息をつく。
美容マニアである俺は、不定期に美容情報や新作のおすすめコスメを動画にとって発信している。
メイクのやり方もスキンケアも自己流だが、動画配信が主流になっている現代にはもってこいの発信法だ。
「隼人さんのことは忘れろ、俺」
頬をパチンと挟んで重い空気をリセットする。
彼女がいながら何人もセフレがいる隼人さんは誰が見てもクズ男の象徴なのに、ときどき見せてくる優しさや哀しげな顔に心をやられる。
ムカつくぐらいに、隼人さんに惹かれてしまう。
翌日、大学の講義を終え隼人さんに連絡をしようとしていたところに、健がやってきた。
「____かっなめ~! 今日サークル寄ってかね?」
「ああ、悪い。今日は隼人さんが迎えにくるから」
「ほんと隼人さんと仲良いよなー。やっぱ美容関係でつながってると話し合うのか」
「まぁ……そんなとこ。俺の憧れだし、あの人」
「モデル並にイケメンだし器用だし頭いいし、まじで欠点見当たんね! 要が憧れんのもわかる」
欠点ならありまくりだよ……
とんだ遊び人だぞ、あの男。
「今日こそ小遣いせがんどいて!」
「やだよ、自分でいえ」
バッグを肩にかけたとき、スマホがふるえ隼人さんの名前が表示された。
「もしもし、いま講義終わりました」
『おう、おつかれ。入口に停めてっからこいよ』
「了解でーす」
健と別れて門をくぐると、見覚えのあるセダンが路肩に停まっていた。
「隼人さん、お待たせしました。っ……」
ブルーレンズの眼鏡をかけ、パーマ風にセットされた髪。
色気のある瞳がこちらを向いて、心臓がわしづかみされる感覚に怯んだ。
「あ……と」
「なに?」
「いえ、……信じられないくらいのイケメンがいたので、つい」
「いい加減に見慣れろよ。半年経ってるんだぞ」
「ムリです……隼人さん以上のイケメンを今世で見たことないんで」
「お前、色々と大げさだよな」
「……好きなんですか? レモンサワー」
ドリンク台にセットされているレモンサワーのカップ、たしか隼人さんの自宅にも常備されていた。
「あれ? これってアルコール……」
「ノンアルだ、バカ」
「ああ、ですよね。隼人さんの家にもありますよね」
「婆さんが送ってくるんだよ。よけいなお世話だって言ってるんだけどな」
そういいながらちゃんと飲んでるんだ……
意外としっかりしてる人なんだよな。
「要もほしかったらいくらでも持っていけよ。ありすぎて鬱陶しい」
「はは、ばあちゃんあるあるですよね~。隼人さんのこと、かわいくて仕方ないんでしょうね」
「……逆だろうな」
「え?」
「お前、行きたいとこないの」
「えっ、と……行きたいとこ、」
「ゲーセンでもなんでもいいぞ」
「あ、じゃあ水族館とか」
「は?」
「っ! え、いや、いまのは忘れてくださいっ、間違えました!」
俺なに言ってんの……!?
そんなの、デートに誘ってるようなものじゃないか!
しかもベタすぎて恥ずかし……っ
「行きたいの?」
「え」
「行きたいなら行くけど」
「い、いいんですか……?」
「ああ、今日はなにも予定ないしな」
その優しさが時に人を傷つけるなんて、この人は思いもしないだろう。
どうしてそんなに優しくしてくれるんですか、とでそうになった言葉を飲みこんで隼人さんの厚意に甘えた。
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