キスしてもいいですか

ひいらぎ

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「佐渡くん!  おはよう!」
板をタオルで拭いていると、ロングヘアの女性が駆け寄ってきた。
たしか名前は……
「戌井(いぬい)さん、はよ」
「今日も朝から練習?  すごいね」
「ああ、なんかハマっちゃって」
戌井さんはこの近所に住むマドンナと呼ばれている人物で、彼女を狙っている男が多いと聞いた。
たまにこうしてスケボーを見にくるらしい。差し入れにおにぎりを作ってきたようで、みんなが集って食べているのが見えた。
「いつも悪いな、差し入れなんて」
「いいのいいの!  私がやりたくてやってるだけ。佐渡くんにもあるよ、これ」
「サンキュ」
「佐渡くん鮭好きなんだよね?  ナルが言ってたけど」
「うん、超好物。もしかして鮭入り?」
「だよっ」
ちょうど空腹だったのもあって、ありがたくもらうことにした。
女子は苦手だけど、戌井さんに対してはふしぎと苦手意識がない。
かといって好意を寄せているわけでもなく、付き合いたいとも特に思わない。
ただ波長が合うというだけだろう。
「あ、私あっちいってくるね!  佐渡くん練習がんばって!」
「おう、ありがとう」
鮭うま……
毎日でも食べたい鮭おにぎり。
「要~、おまえほんと罪なやつだなぁ」
「は?」
集団を抜け出してきた健が隣にドカンと腰をおろす。
「なにが」
「いや鈍感かよ。それ、おまえにだけだよ。戌井さんがつくってんの」
「……?  あそこでみんな食ってるけど」
「ちがうわ、味な。あっちのは適当に昆布とか塩とかだった。要だけに鮭おにぎりつくってんの、どういう意味かわかるっしょ。さすがのバカでも」
「おい、さりげなくディスんなよ。俺のことが好きかどうかって話か?」
「そうだよ。絶対好きじゃん、あんなあからさまな。うらやましっ、イケメンってまじで罪」
「……」
好き…………俺は男が好きなのか?
いやちがう。隼人さんはただのセフレだ。
お互いにそういう感情はない。
戌井さんはきれいな容姿をしているし、家庭的な印象もある。
もし本当に俺に気があるのだとすれば。
「要?」
「ごめん、聞いてなかった」
「おいぃ!  付き合うの?  戌井さんと」
「好きだって決まったわけじゃないだろ」
「いいや、あれは100好きだね」
「そんな好きならアタックすれば?  健が」
「は!?  無理に決まってんだろ、あんな美人。要ぐらい顔よくないと蹴落とされるわ」
顔って……戌井さんはたしかに美人だ。
それに上品で華がある。
でも、それでいうなら隼人さんの方が魅力的だ。
なんで比べる相手が男なんだよ。
隼人さんのいる美容院にいきたい。
髪、切ってもらったばっかりなのに……
「要、なんかおまえ死にそうな顔してるけど大丈夫か?」
「なんでもない」
そもそも、俺たちはなんでセフレになったんだっけ。
ああ、そうか……隼人さんに誘われたんだ。
男はいけるのか聞かれて、よくわからないまま気がついたら家までいっしょに。
あの人はゲイなんだろうかとか、俺はなにも知らない。
「なにも、知らない」
知りたいなんて、俺がいっていいのか。
もしかしたら本命の誰かがいて今ごろその人と幸せに過ごしてるかもしれない。
いや……ダメだよな。男だし、俺。
セフレが踏み込んでいい領域なんて、きっと友だち以下だ。ただ体の相性がよかった関係なんだから。

「いらっしゃいませー」
昼になり、バイト先の書店で棚入れをしながらも俺はもやもやした気持ちが拭えなかった。
誰なんだろ……隼人さんの本命。
やっぱり美人なんだろうか。
「ねえ隼人~、こっちだって」
「!」
はやと?
ドキッとして顔を上げると、金髪の女性といっしょにいる隼人さんの姿が見えた。
え……なんでここに。
それよりも、隣にいる女性の存在に俺は唖然とする。
「ほらこれー!  凛花の写真集!  めっちゃかわいくないぃ!?」
「そうか?」
「ええ!  隼人、絶対基準やばいって!  こんなかわいいのにぃ」
その人が、隼人さんの本命なんですか……美容師仲間なのか、彼女らしき人もていねいに髪をセットしている。
嬉々としてレジへ向かっていく彼女から目をそらし、他人のふりをした。
関係ない。いちいち気にするな、俺。
「あ、本当にいた。要」
「っ!?」
仕事に戻ろうと背を向けたとき、隼人さんの声に名前を呼ばれて心臓がつかまれる衝撃を覚えた。


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