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「要! 野球しようぜーっ」
「ん゙ー……」
ベッドで心地いい眠りに包まれていたというのに、幼なじみの騒がしい声に目を覚ました。
赤髪のこの男は長谷 健(はせ たける)だ。
健は3歳の頃からずっと俺の隣にいる。
合鍵で家に入ってくるほどの仲で、家族もそれを公認しているくらいだ。
「ねむ……」
「要くん! 野球しようぜ!」
「……よくいる小学生のマネをするな」
「要、そこゴキブ__」
「うわぁぁぁぁッ!!!」
俺は勢いよく飛び上がり、健の腕にしがみついて隠れる。
こいつ今、ゴキブリって……!?
「ど、どこ! どこだよ!?」
「……ぷッ、ふはははは! まーじビビり!」
「ビビってねえよ! 気持ち悪いんだよっ」
「なんもいない。ウソウソ」
「はぁ!? 嘘つけ、そういって本当はいるんだろっ」
「だーからいないって。要の眠気覚ましだよ、ごめんちゃい」
「っ……おまえ絶対許さないからな」
ゴキブリは大の苦手だ。
注射とゴキブリと閉所、この3つが俺の一生克服できない苦手なもの。閉所に関しては電気がついてさえいればやり過ごせるが、注射とゴキブリは無理だ。
「はぁぁぁ……まーじ焦った……」
「ふくくっ、おもしろ。要ってクールに見えて結構ビビりでよくしゃべるよなぁ。そういえば隼人さんとこいったんだろ? お小遣いは?」
「ないっつの。なんで4つしかちがわない他人に小遣いたかってんだ」
「だってさ、隼人さん気前いいじゃん。兄貴肌って感じ」
兄貴肌……たしかにそうだ。
隼人さんは1人暮らしで兄弟もいない。
なのにまるで兄のような気前よさがある。
「おれもはやく彼女ほしいわ」
「は?」
「要は思わねえ? クラブで出会った子もかわいいんだけど、なんか気が合わなくてさ~。結局、要といるのが一番楽だと思っちゃう」
「告白かよ……」
「お? おれら付き合っちゃう? 要なら全然抱けるぞ、おれ」
「あほ、やめろ。ふつーに気持ち悪いわ」
「あっはは! 要セックス下手らしいんだもんなぁ~。彼女できんのも仕方ない」
「ゔ……健、殺す」
「おーかかってこいや。いまなら手加減してやるぞ」
痛いところを突かれた……
そう、俺は彼女ができない。つくれない。
初めて付き合った彼女に「セックスが下手すぎる」と罵詈雑言されてから、深いトラウマになっているせいだ。
「どうせ俺は一生童貞だよ」
「いやいや、挿れたことはあるんだろ?」
「一瞬だけな。そんなの前戯ですらないだろ」
「もったいな。おまえって結構イケメンだしモテるのにな~なんか可哀想になってくるレベル」
「うっせ、同情するな」
どうして隼人さんはあんなにもうまいんだろう。ただ欲にむさぼるだけの愛撫じゃない。
まるで俺を本当に気持ちよくさせようとしているような。
「……」
「どうした? 要」
「……なんでもない。スケボーしにいくぞ」
「おう! いこっぜ~」
べつに知りたくない。
隼人さんが何人の女を抱いているかなんて、興味はない。
ただ気になるだけだ。あの人のセンスが。
「____あーっ、つかれた。少し休憩しようぜ~!」
健の合図にスケボー仲間が休憩に入る。
そしてこの男に誘われた俺はまだ始めたばかりで、スケートボードパークで練習するのは今回で3回目だ。
だが、運動神経には自信があったおかげで不安定な足場の不安はほとんどなかった。
「よっ、イケメン!」
「おぉ、サガじゃん! つか俺の名前イケメンじゃないんだけど」
「はは! サワはオレらんなかで一番イケメンだからな! 喜べっ」
「はいはい、お世辞どうも~」
「お世辞じゃねえって!」
サガこと佐賀成久はスケボー仲間の1人であり、3日前に知り合ったばかりの友人だ。
俺と苗字が似ているとかで話が盛り上がり、サガとサワで呼び合うようになった。
熱血タイプで明るいサガはムードメーカーという言葉がよく似合う好青年だ。
身長もガタイも俺よりひと回りは大きい。
「なぁイヨ、オレらで勝手に開催してたイケメンランキングでサワが1位だったよな?」
「うん。佐渡は美容の勉強もしてるし、きれいだよ」
「……さいですか」
きれいってなんだよ。イケメンの方がまだ嬉しい。
彼女との失敗談がトラウマになってから、女性に迫られるのがひどく苦手になっている。
もちろん悪いのは、俺なんだけど……
「まじ肌もキレイだよな~! 化粧してんのか?」
「……いや、健に叩き起されてそのまんまきたからなんもしてないけど」
「餅だろ、これ」
「面倒なスキンケアもていねいにすれば人間の顔は餅になるんだよ」
「ふははっ、おもしれえ。たしかサワ、劇団員の化粧も手伝ってるんだってな? イケメンが化粧までしてくれるって女子が騒いでるとか」
「おい健、おまえベラベラと人のプライバシーしゃべりすぎだっつの!」
サガも他のメンツもみんな社会人で、俺のことを話す人間といえば健しかいない。
幼なじみだからって口がゆるすぎるんだよ!
「ん゙ー……」
ベッドで心地いい眠りに包まれていたというのに、幼なじみの騒がしい声に目を覚ました。
赤髪のこの男は長谷 健(はせ たける)だ。
健は3歳の頃からずっと俺の隣にいる。
合鍵で家に入ってくるほどの仲で、家族もそれを公認しているくらいだ。
「ねむ……」
「要くん! 野球しようぜ!」
「……よくいる小学生のマネをするな」
「要、そこゴキブ__」
「うわぁぁぁぁッ!!!」
俺は勢いよく飛び上がり、健の腕にしがみついて隠れる。
こいつ今、ゴキブリって……!?
「ど、どこ! どこだよ!?」
「……ぷッ、ふはははは! まーじビビり!」
「ビビってねえよ! 気持ち悪いんだよっ」
「なんもいない。ウソウソ」
「はぁ!? 嘘つけ、そういって本当はいるんだろっ」
「だーからいないって。要の眠気覚ましだよ、ごめんちゃい」
「っ……おまえ絶対許さないからな」
ゴキブリは大の苦手だ。
注射とゴキブリと閉所、この3つが俺の一生克服できない苦手なもの。閉所に関しては電気がついてさえいればやり過ごせるが、注射とゴキブリは無理だ。
「はぁぁぁ……まーじ焦った……」
「ふくくっ、おもしろ。要ってクールに見えて結構ビビりでよくしゃべるよなぁ。そういえば隼人さんとこいったんだろ? お小遣いは?」
「ないっつの。なんで4つしかちがわない他人に小遣いたかってんだ」
「だってさ、隼人さん気前いいじゃん。兄貴肌って感じ」
兄貴肌……たしかにそうだ。
隼人さんは1人暮らしで兄弟もいない。
なのにまるで兄のような気前よさがある。
「おれもはやく彼女ほしいわ」
「は?」
「要は思わねえ? クラブで出会った子もかわいいんだけど、なんか気が合わなくてさ~。結局、要といるのが一番楽だと思っちゃう」
「告白かよ……」
「お? おれら付き合っちゃう? 要なら全然抱けるぞ、おれ」
「あほ、やめろ。ふつーに気持ち悪いわ」
「あっはは! 要セックス下手らしいんだもんなぁ~。彼女できんのも仕方ない」
「ゔ……健、殺す」
「おーかかってこいや。いまなら手加減してやるぞ」
痛いところを突かれた……
そう、俺は彼女ができない。つくれない。
初めて付き合った彼女に「セックスが下手すぎる」と罵詈雑言されてから、深いトラウマになっているせいだ。
「どうせ俺は一生童貞だよ」
「いやいや、挿れたことはあるんだろ?」
「一瞬だけな。そんなの前戯ですらないだろ」
「もったいな。おまえって結構イケメンだしモテるのにな~なんか可哀想になってくるレベル」
「うっせ、同情するな」
どうして隼人さんはあんなにもうまいんだろう。ただ欲にむさぼるだけの愛撫じゃない。
まるで俺を本当に気持ちよくさせようとしているような。
「……」
「どうした? 要」
「……なんでもない。スケボーしにいくぞ」
「おう! いこっぜ~」
べつに知りたくない。
隼人さんが何人の女を抱いているかなんて、興味はない。
ただ気になるだけだ。あの人のセンスが。
「____あーっ、つかれた。少し休憩しようぜ~!」
健の合図にスケボー仲間が休憩に入る。
そしてこの男に誘われた俺はまだ始めたばかりで、スケートボードパークで練習するのは今回で3回目だ。
だが、運動神経には自信があったおかげで不安定な足場の不安はほとんどなかった。
「よっ、イケメン!」
「おぉ、サガじゃん! つか俺の名前イケメンじゃないんだけど」
「はは! サワはオレらんなかで一番イケメンだからな! 喜べっ」
「はいはい、お世辞どうも~」
「お世辞じゃねえって!」
サガこと佐賀成久はスケボー仲間の1人であり、3日前に知り合ったばかりの友人だ。
俺と苗字が似ているとかで話が盛り上がり、サガとサワで呼び合うようになった。
熱血タイプで明るいサガはムードメーカーという言葉がよく似合う好青年だ。
身長もガタイも俺よりひと回りは大きい。
「なぁイヨ、オレらで勝手に開催してたイケメンランキングでサワが1位だったよな?」
「うん。佐渡は美容の勉強もしてるし、きれいだよ」
「……さいですか」
きれいってなんだよ。イケメンの方がまだ嬉しい。
彼女との失敗談がトラウマになってから、女性に迫られるのがひどく苦手になっている。
もちろん悪いのは、俺なんだけど……
「まじ肌もキレイだよな~! 化粧してんのか?」
「……いや、健に叩き起されてそのまんまきたからなんもしてないけど」
「餅だろ、これ」
「面倒なスキンケアもていねいにすれば人間の顔は餅になるんだよ」
「ふははっ、おもしれえ。たしかサワ、劇団員の化粧も手伝ってるんだってな? イケメンが化粧までしてくれるって女子が騒いでるとか」
「おい健、おまえベラベラと人のプライバシーしゃべりすぎだっつの!」
サガも他のメンツもみんな社会人で、俺のことを話す人間といえば健しかいない。
幼なじみだからって口がゆるすぎるんだよ!
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