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Season 1
1話 捕獲されちゃいました
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波に乗ってプカプカ浮かんでいたら、人間に捕まってしまった。
人魚として生を受けて18年。キレの良いヒレ捌きに定評のある南海のクララと呼ばれるこの私がこんな失態を犯すとは……。
「そこの麗しい人魚のお嬢さん。やっと見付けました。あなたを探していたんですよ」
白髪の初老の男性に声を掛けられる。小型のボートに乗っており、手には捕獲ネットを握り締めている。物腰は丁寧だが有無を言わさない圧力を感じる。
(__誰このおじさん?私を探していた?怖いよ)
どうにかして逃げないと……。頑丈な捕獲ネットが身体に巻き付いていて身動きが取れない。ヒレを力任せに動かすと余計に網が絡み付いてしまう。
「お嬢さん、美しいヒレに傷が付いてしまいますよ。暴れないでください。今、引き上げますからね」
ザバッと身体を引き上げられてボートの中へ引き込まれる。
「た、助けてくださいぃ!どうか命だけは……っ!」
ビクビクと身を震わせて助けを乞う。死にたくない。
「怯えないで、お嬢さん。さぁ、これを飲んでください。そうすれば命の保証は致します……」
目の前に、細長いガラスの瓶を差し出される。中には紫色の怪しげな液体が入っている。
(……これを飲むの?うぇぇマズそう……。でも、これで命が助かるなら……!)
四の五のなんて言ってられない。おじさんの手から瓶を取り、息を止めてゴクッとそれを飲み干す。
(う”ぇぇ~っ!!マズいッ!!)
視界が黒くぼやける__。意識が遠く__。
*
目を覚ましたら、知らない部屋にいた。物がほとんど置かれていない殺風景な部屋だ。大きな台の上で寝ていたようだ。人魚が五匹寝ても平気な大きさだ。
(__ここは一体?)
キョロキョロと周りを見る。ふと、ヒレに違和感を覚える。
身体に掛かっていた厚みのあるふかふかの布を剥がして下を覗いてみると、下半身にはヒレ……ではなく足が生えていた。
(!?足っ!!人間の足が生えてる!!)
その時、前方の扉が開いた。
「お嬢さん、起きましたか?」
あのおじさんだ!黒い上下の衣服を身に纏っている。
「あのぅ、私、どうなってしまったんでしょうか?足が、足が生えているのですけれど……」
「薬が効きましたね!美しいお嬢さん、人間の世界にようこそ。あぁ、その布は剥がさないでくださいな。貴方の御身体が見えてしまう」
あの謎のマズい液体は人間化する薬だったようだ……。
人魚は基本的に裸だから身体を見られても何とも思わないが、人間は服というものを常に身に纏っている。裸体を見られるのは恥ずかしい事なのだろう。一応、胸元まで布を引き寄せる。
「改めまして、お嬢さん。ここは漣家。私は執事の前田です。お嬢さんのお名前は?」
「マエダ……様?私は、クララです……」
「クララさん、私の事は前田で結構です。さぁ、今から貴方のご主人様がいらっしゃいますからね」
(ご主人様……?私、人間に飼われてしまうの?)
怖い。一体何をされるんだろう。嫌だ。海に帰りたいよ。
キィッと再び扉が開く音がした。誰か入ってくる。
__スラッとした背の高い男の人。目にかかるくらい伸びた黒い髪のせいで目元がよく見えないが、私より少し年は上だろうか。
私は若い男性に免疫がない。私が暮らす南海域の海底では人魚の超高齢社会がすすんでおり、同世代の男性人魚は全くいない。女の子は私と幼馴染みの人魚のエーデルくらいなものだ。
「秋様。こちらがご所望の人魚、クララ様です。薬の効果は絶大です。流石は秋様」
「あぁ、ご苦労。前田、お前はもう下がれ」
「かしこまりました」
おじさんが去ってしまう。待って!……いや、別におじさんが恋しいわけではない。若い男性に耐性のない限界集落出身の女子としては、若い男の人とふたりきりになってしまうのはちょっと心臓に悪いのだ。パタンと扉が閉まる。あぁおじさん!
(ひぃ!こっちに近付いてくる!)
スタスタと長い足を軽やかに動かし私の元へと男性が向かってくる。風を切って前髪がなびく。焦げ茶色の瞳が覗く。整った顔立ちだ。
私が横になっている台の前で立ち止まり、跪く。
「女王様!お待たせしました!貴方の忠犬、いや、駄犬!ただ今参りました!!」
(何か変なの来たー!!)
*
「あのぅ、アキ……様?お顔を上げてください……」
「ははっ!女王様!私めの事はどうぞ駄犬とお呼びください!だけん、だ・け・んです!」
女王……?だけん……?顔を上げたは良いが、どうにも話が噛み合う気がしない。あのおじさんといいこの男性といい、人間とはこういうものなのかしら?
「だけんが何なのか分かりませんが、あなたはアキ様とおっしゃるのでしょう?それともご主人様とお呼びした方が宜しいのでしょうか……?あと、私は女王ではありません。クララです」
何をされるか分からない恐怖に怯えながら、私のご主人様とやらにお伺いを立てる。
「……アキで結構です、クララさん」
悔しげな表情で呟いた彼に、疑問を投げかける。
「あのぅ、アキ様。私は本当に人間になってしまったのでしょうか?もう人魚には戻れないのですか?」
「貴方は間違いなく人間になっています。しかし、効果は一日のみです。薬の効果向上が成功するまでは、毎日あの薬を飲んでいただく必要があります」
真剣な面持ちで答えているが、サラッととんでもない事を言われている気がします。
「何で私なのでしょうか?先程のおじさまの口振りだと、私の事を探していたとか……?」
「はて?僕はしがない科学者です。人魚を人間にする秘薬を開発しただけのはぐれ者です。どうやら偶然その薬をクララさんは飲んでしまったようですね!」
目が泳いでいる。白々しいです!あのおじさんに強要されて飲んだんですけど?強力な捕獲ネットで捕まえられたんですけど?あなたが指図したんじゃないですかね?!
理不尽に思いつつ、しかしこの人間のご機嫌を損ねるのは宜しくないと判断した。
「そうなのですね。分かりました。それで、私はどうなるのでしょう?海に帰してくださるのでしょうか?」
「何を仰る!何のために捕まえたと思ってるんですか!貴方には果たすべき役割があるのです!!そう簡単に海に帰れると思わないでいただきたいっ!!」
(ひぃ!本性表した!!目がヤバい!!)
怒らせるとヤバい系の人物のようだ。下手に逆らわない方が良いようだ。ここは大人しく役割とやらを果たして早く海に戻してもらおう。
「私の役割とは何でしょう……?」
*
私が横になっている大きな台の上に彼が乗り上がってきた。近付く毎にギシギシと音が鳴る。
「僕は、少しだけ特殊な性癖がありまして。なかなか射精出来ずに悩みに悩んでいたところ、海辺で泳ぐ貴方を見掛けたんです。キレの良いヒレ捌きでスイスイと泳ぐ貴方を見て一目で分かりました。僕の性癖を満たしてくれるのはこの子しかいないと!!!」
何を言っているのかよく分からないが、何だかとんでもない理由で捕まえられてしまった気がする!!!
私のすぐ目の前まで来た彼は、衣服をパパッと脱ぎ出す。上も下も全部だ。私も布の下は真っ裸だし、裸は恥ずかしくないんだけれど、人間の男性の下半身は初めて見るからちょっとドキドキする。
裸になった彼を観察する。へぇ、人間ってこんな造りになっているのね。
ん?お股の間に何か付いてる!棒?棒が付いてる!!チラリと布の下の自分のお股を確認してみる。
私には何も付いていないわ?人間の男性の仕様なのかしら?
私の視線に気付いた彼の頬が、少し赤く染まった気がした__。
人魚として生を受けて18年。キレの良いヒレ捌きに定評のある南海のクララと呼ばれるこの私がこんな失態を犯すとは……。
「そこの麗しい人魚のお嬢さん。やっと見付けました。あなたを探していたんですよ」
白髪の初老の男性に声を掛けられる。小型のボートに乗っており、手には捕獲ネットを握り締めている。物腰は丁寧だが有無を言わさない圧力を感じる。
(__誰このおじさん?私を探していた?怖いよ)
どうにかして逃げないと……。頑丈な捕獲ネットが身体に巻き付いていて身動きが取れない。ヒレを力任せに動かすと余計に網が絡み付いてしまう。
「お嬢さん、美しいヒレに傷が付いてしまいますよ。暴れないでください。今、引き上げますからね」
ザバッと身体を引き上げられてボートの中へ引き込まれる。
「た、助けてくださいぃ!どうか命だけは……っ!」
ビクビクと身を震わせて助けを乞う。死にたくない。
「怯えないで、お嬢さん。さぁ、これを飲んでください。そうすれば命の保証は致します……」
目の前に、細長いガラスの瓶を差し出される。中には紫色の怪しげな液体が入っている。
(……これを飲むの?うぇぇマズそう……。でも、これで命が助かるなら……!)
四の五のなんて言ってられない。おじさんの手から瓶を取り、息を止めてゴクッとそれを飲み干す。
(う”ぇぇ~っ!!マズいッ!!)
視界が黒くぼやける__。意識が遠く__。
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目を覚ましたら、知らない部屋にいた。物がほとんど置かれていない殺風景な部屋だ。大きな台の上で寝ていたようだ。人魚が五匹寝ても平気な大きさだ。
(__ここは一体?)
キョロキョロと周りを見る。ふと、ヒレに違和感を覚える。
身体に掛かっていた厚みのあるふかふかの布を剥がして下を覗いてみると、下半身にはヒレ……ではなく足が生えていた。
(!?足っ!!人間の足が生えてる!!)
その時、前方の扉が開いた。
「お嬢さん、起きましたか?」
あのおじさんだ!黒い上下の衣服を身に纏っている。
「あのぅ、私、どうなってしまったんでしょうか?足が、足が生えているのですけれど……」
「薬が効きましたね!美しいお嬢さん、人間の世界にようこそ。あぁ、その布は剥がさないでくださいな。貴方の御身体が見えてしまう」
あの謎のマズい液体は人間化する薬だったようだ……。
人魚は基本的に裸だから身体を見られても何とも思わないが、人間は服というものを常に身に纏っている。裸体を見られるのは恥ずかしい事なのだろう。一応、胸元まで布を引き寄せる。
「改めまして、お嬢さん。ここは漣家。私は執事の前田です。お嬢さんのお名前は?」
「マエダ……様?私は、クララです……」
「クララさん、私の事は前田で結構です。さぁ、今から貴方のご主人様がいらっしゃいますからね」
(ご主人様……?私、人間に飼われてしまうの?)
怖い。一体何をされるんだろう。嫌だ。海に帰りたいよ。
キィッと再び扉が開く音がした。誰か入ってくる。
__スラッとした背の高い男の人。目にかかるくらい伸びた黒い髪のせいで目元がよく見えないが、私より少し年は上だろうか。
私は若い男性に免疫がない。私が暮らす南海域の海底では人魚の超高齢社会がすすんでおり、同世代の男性人魚は全くいない。女の子は私と幼馴染みの人魚のエーデルくらいなものだ。
「秋様。こちらがご所望の人魚、クララ様です。薬の効果は絶大です。流石は秋様」
「あぁ、ご苦労。前田、お前はもう下がれ」
「かしこまりました」
おじさんが去ってしまう。待って!……いや、別におじさんが恋しいわけではない。若い男性に耐性のない限界集落出身の女子としては、若い男の人とふたりきりになってしまうのはちょっと心臓に悪いのだ。パタンと扉が閉まる。あぁおじさん!
(ひぃ!こっちに近付いてくる!)
スタスタと長い足を軽やかに動かし私の元へと男性が向かってくる。風を切って前髪がなびく。焦げ茶色の瞳が覗く。整った顔立ちだ。
私が横になっている台の前で立ち止まり、跪く。
「女王様!お待たせしました!貴方の忠犬、いや、駄犬!ただ今参りました!!」
(何か変なの来たー!!)
*
「あのぅ、アキ……様?お顔を上げてください……」
「ははっ!女王様!私めの事はどうぞ駄犬とお呼びください!だけん、だ・け・んです!」
女王……?だけん……?顔を上げたは良いが、どうにも話が噛み合う気がしない。あのおじさんといいこの男性といい、人間とはこういうものなのかしら?
「だけんが何なのか分かりませんが、あなたはアキ様とおっしゃるのでしょう?それともご主人様とお呼びした方が宜しいのでしょうか……?あと、私は女王ではありません。クララです」
何をされるか分からない恐怖に怯えながら、私のご主人様とやらにお伺いを立てる。
「……アキで結構です、クララさん」
悔しげな表情で呟いた彼に、疑問を投げかける。
「あのぅ、アキ様。私は本当に人間になってしまったのでしょうか?もう人魚には戻れないのですか?」
「貴方は間違いなく人間になっています。しかし、効果は一日のみです。薬の効果向上が成功するまでは、毎日あの薬を飲んでいただく必要があります」
真剣な面持ちで答えているが、サラッととんでもない事を言われている気がします。
「何で私なのでしょうか?先程のおじさまの口振りだと、私の事を探していたとか……?」
「はて?僕はしがない科学者です。人魚を人間にする秘薬を開発しただけのはぐれ者です。どうやら偶然その薬をクララさんは飲んでしまったようですね!」
目が泳いでいる。白々しいです!あのおじさんに強要されて飲んだんですけど?強力な捕獲ネットで捕まえられたんですけど?あなたが指図したんじゃないですかね?!
理不尽に思いつつ、しかしこの人間のご機嫌を損ねるのは宜しくないと判断した。
「そうなのですね。分かりました。それで、私はどうなるのでしょう?海に帰してくださるのでしょうか?」
「何を仰る!何のために捕まえたと思ってるんですか!貴方には果たすべき役割があるのです!!そう簡単に海に帰れると思わないでいただきたいっ!!」
(ひぃ!本性表した!!目がヤバい!!)
怒らせるとヤバい系の人物のようだ。下手に逆らわない方が良いようだ。ここは大人しく役割とやらを果たして早く海に戻してもらおう。
「私の役割とは何でしょう……?」
*
私が横になっている大きな台の上に彼が乗り上がってきた。近付く毎にギシギシと音が鳴る。
「僕は、少しだけ特殊な性癖がありまして。なかなか射精出来ずに悩みに悩んでいたところ、海辺で泳ぐ貴方を見掛けたんです。キレの良いヒレ捌きでスイスイと泳ぐ貴方を見て一目で分かりました。僕の性癖を満たしてくれるのはこの子しかいないと!!!」
何を言っているのかよく分からないが、何だかとんでもない理由で捕まえられてしまった気がする!!!
私のすぐ目の前まで来た彼は、衣服をパパッと脱ぎ出す。上も下も全部だ。私も布の下は真っ裸だし、裸は恥ずかしくないんだけれど、人間の男性の下半身は初めて見るからちょっとドキドキする。
裸になった彼を観察する。へぇ、人間ってこんな造りになっているのね。
ん?お股の間に何か付いてる!棒?棒が付いてる!!チラリと布の下の自分のお股を確認してみる。
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