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番外編《完結》

最終話 ー前編ー

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 旧校舎の建て壊しが決まった。
 
 春先には全面的に中に入る事が出来なくなると、全校生徒へ通達がされた。  

「めいこ、建て壊される前に旧校舎でしよっか。今日空いてる?」
「いいよ。分かった」
「……あ!今日は委員会の仕事があったんだった!ごめん、俺はちょっと遅れて行くから。先に待っててくれる?」
「うん、大丈夫だよ」
 
 流れるようにハレンチな会話がされているが勘違いしないで欲しい。私は別にハレンチな事をしたいわけではない。二階堂の誘いを断るのは非常に面倒で骨が折れる仕事なのだ。そう、私はお仲間じゃない。
  

 その日の授業が終わると旧校舎の用務員室へ直行した。 
 
 畳の部屋へと上がり込み、寝転んだ。
 少し眠気があったから、ひと眠りしておこうと思ったのだ。

 ブレザーを脱いで毛布代わりに身体の上にかけると数分後にはウトウトしてきた──。


 ──顔と足がくすぐったい。柔らかくざらついた何かが触れてくる。

 二階堂が舐めてきたようだ。
 寝ている時に舐めてくるのはズルい。右の頬と、左の太腿だ。今日は際どい所まで攻めてくる。

「……くすぐったいよぉ。……んー、ヤメて、二階堂くん。……へへ
、……そこは……ダメだよ、ふふっ」

 ん?頬と太腿って同時に舐められるっけ?

 まぁ、彼なら有り得るか。

 ……そんなわけないでしょ!!

 ハッと目覚めると、股の間にふわふわとした感触がした。
 身体を起こすと右隣にちょこんと私のストーカー猫その2が座っていた。
 
 スカートの中には毛だるまの何かが潜り込んだままだ。
 何かがペロペロと私の太腿を舐め続けている。チラチラッと白い毛が見え隠れしている……。私のストーカー猫その1で確定だ。

「ちょっと、あんた達、何なのよっ!スコ猫、出てきなさい!いよいよ学校にまでストーキング?何で私の身体舐めてるのよ!?」

 スコ猫とアメ猫のペロペロセットなんて誰得なの?

「もう、しつこい!……きゃっ、イヤッ、……やめてよ、やんっ」
「スコティーヌ、もういいだろう。見苦しいぞ」

 スカートの中からヒョコッと白い塊が飛び出てきた。

「今日はメイコにお別れをしに来たにゃー」
「……お別れ?」
「あぁ、これでも我々は四大キャッツの嫡男だからな。果たすべき仕事が色々あるのだ」
「何処かへ行っちゃうの?」

 どうやら騒がしい猫たちとも今日でお別れらしい。

「少しな……。何、すぐ戻ってくるから寂しがるな」
「僕は行きたくにゃいけど、アメリがうるさいにゃー。仕方にゃいから僕も行くにゃ」
「お前という奴は……。今度こそすっとこどっこいな性根を叩き直してやる!」
「僕こそ返り討ちにしてやるにゃ!」

 よく分からないが、猫たちの醜い争いが始まってしまった。
 いやいや、そんな事より肝心の質問の答えが聞けていない。

「だから何で私の事舐めてたのよ!」
「メイコが寂しがるといけにゃいから、僕とアメリでメイコに匂いを付けておいてあげたにゃ。これでメイコも寂しくにゃいにゃ!」
「寂しくなんてないし。獣臭の置き土産なんていらないわよ」
「メイコは素直じゃにゃいにゃー」
「いや、本当にいらないし……」

 今度は私とスコ猫とで不毛な言い争いをしていると、何処かから足音が聞こえてきた。
 彼かもしれない。

「もう二階堂くん来ちゃうから。よく分からないけど、あんた達……、いえ、スコ猫。これ以上悪さするの止めなさいよ。余計な事しているとそのふわふわの毛が抜けてくる呪いがかかるわよ?アメリ様はどうかお元気で……」

 おバカなスコ猫には注意の言葉を贈った。言霊で本当に実現してしまうかもしれない。
 アメリ様はこれでも優秀なお猫様のようだから、いつか私も本物の祝福を贈ってもらえるよう、愛想良くしておく必要がある。  

「僕の毛が抜けたらメイコを祟りにくるにゃ」
「じょ、冗談に決まってるでしょ?私とスコちゃんの仲じゃない!あはは」

 スコ猫の祟りとか、絶対に方向性がねじ曲がったヤバさしかないよね。
 スケベな恩返しだけでもう充分だ。

「メイコ、今まで楽しかったにゃ!……にゃ、そういえば、メイコの足をにゃめてたらメイコのパンツが濡れてきたにゃー。メイコはエッチだにゃ」
「は?!や、やだ!何変な事言って」
「もう時間だな……。ではメイコ!また会おう!」
「メイコとニカイドウくんがニャンニャンする頃までには帰ってくるにゃ!またにゃ!メイコ!」
「はい?!え、ちょっと、待ってよ」

 情報量の多いセリフを残し、サッと2匹は何処かへ消えていってしまった。

 ガラッと用務員室の扉が開かれた。

「めいこ、何してたの?何か賑やかな声が……、誰かいた?」
「二階堂くん!……猫が迷い込んでたみたいで。どっかに行っちゃったけど」
「そうなんだ?……本当だ。猫に舐められた臭いがする」

 え?そんなにすぐ分かるの?私、そんなに獣臭い?

「顔と……、足?太腿の方?」

 私の顔や身体を眺めながら何やら呟いている。舐めた場所まで分かるらしい。

 持っていたウェットティッシュで私の顔を拭き出した。用意が良いようで何よりだ。

 優しく頬を拭いてから、彼は腰を落とした。
 私の太腿をゆっくりとウェットティッシュで拭いていく。

「二階堂くん、ありがとう。大丈夫だよ、後は自分で拭くから」
「じっとしてて。俺が全部キレイにしてあげるから」
「あ、ありがとう」

 スコ猫のせいでおかしな空気になってしまった。最後まで余計なお世話しかしない猫だ。

 スカートの中に手を入れて内腿を拭くという、なかなか際どい芸当を軽やかにやってのけている彼の手が、急に止まってしまった。

「二階堂くん?どうかした?」
「…………めいこ、猫と何してた?」
「え?うたた寝してたら猫が一方的に舐めてきただけだけど」
「……そう。……めいこの下着から、その、めいこの……甘い匂いがするから。…………濡れるような事した?」

 スコ猫の毛が抜ける呪いが発動するよう、心の中で念じた。

(甘い匂いって何なのよ?!えっちな漫画じゃあるまいし、18禁の流れに持ってくの止めてよ……!!)


 そもそも、二階堂くんに“ニオイに敏感です”なんて設定あった?何となく怪しい気配はあったけど……!

 彼の隠れ設定にヒヤリとした恐怖を感じていると、ボソッと低めの声が聞こえてきた。

「めいこ、ダメだろ…………」

 よく分からないけど、嫌な予感がする。後退ろうとするが、太腿をしっかり掴まれていて逃げられない。ホラー映画を体験している気分だ。

「俺以外と……しちゃダメだろ?」
「私、寝てたし、猫が勝手にした事だし、よく分かんな」
「めいこは猫相手の方が良いんだ……?気持ち良かった……?」

 良くない、良くない流れだ。

「二階堂くん、落ち着いて、私は本当に何も知らな」 
「そっか……。めいこは今まで満足出来てなかったのか……」

 太腿から手を離し、彼は立ち上がった。

 一か八か、部屋の扉を目掛けて私は走り出した。

 ……と思ったけれど、一歩踏み出す前に即捕まった。後ろから抱き締められて、頭上から声を落とされる。

「めいこ、今日は何しよっか?」

 変態プレイでしょ?


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