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番外編の番外編《猫の日 Special》

2. ある日の猫たち

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 私は猫である。名前はアメリ・キャーン・ショトヘである。
 誇り高き4大キャッツの名門一族の嫡男として生を受け、英才教育を施された生粋の高貴な猫である。

 今日は街中を偵察中なのである。

「あーっ!!ヤマトお兄ちゃん家にいた猫ちゃん!もうっ!寧々子におしっこかけてお行儀の悪い猫ちゃんなんだから」

 騒がしい声に目を向けると、見覚えのある女児がいた。
 私の弟分的存在であるスコティーヌの恩人でありいつも手の焼ける娘、メイコの関係者だったか。

 確か、メイコの想い人であるニカイドウの家にいたやけに騒がしい子供であったな。
 
「おバカな猫ちゃん、何してるのー?」
『ミャーーッ!(誰が馬鹿だと?スコティーヌと同類にするな!)』

 無礼な小娘に威嚇の鳴き声を上げる。

「猫ちゃん、もうおしっこしちゃダメよ?今日は寧々子が遊んであげるわ」
『ミャオ!(私は忙しいのだ。子供と馴れ合っている暇など無い!)』
「さぁ、行くわよ、猫ちゃん!」

 突然の奇襲により女児に抱えられ、公園へと拉致されてしまった。

(この小娘、なぜ私を捕まえる事が出来たのだ!?そこらへんの人間になど、高貴な私の身体に触れる事は出来ないはず……。ハッ、そうか!私の濃度薄めの祝福を受けてラッキーチート(Small級)になってしまったか。私の優秀さが仇になったようだ。何たる不覚……!!)

 冷静に状況を分析していたところ、女児が言葉を発した。

「猫ちゃん、聞いてよぉ。レオくんたら、寧々子の事好きって言ったのに、はなちゃんとコソコソ楽しそうにお喋りしてたのよぅ!もう、男の子って浮気症なんだから!」

『ミャオ~?(ハナとレオとは誰だ?……ふむ、先日この小娘に祝福をくれてやった時にでも、祝福の力(Sサイズ)により引き寄せられた者といったところか)』
「もうレオくんなんて知らないんだから!やっぱり私にはヤマトお兄ちゃんだけだわ!めいこちゃんになんて負けないんだからっ」

 この小娘、なかなか厄介な匂いがする。早く離れなくてはならない。
 
 腕の中から抜け出そうともがいていると、女児が血迷った発言をしてきた。

「猫ちゃんたら、すっかり寧々子に懐いちゃって可愛いんだから。やっぱり寧々子と遊びたかったのね!」
『ミャッ!!(笑止!!小娘の相手など誰がするものか!!)』

 女児への臨戦体制を整えていると、子供の声がした。

「寧々子!」
「レオくん!?どうしたの!?」
「探したよ。寧々子に誤解されたままは嫌だから……」
「誤解って?……花ちゃんの事?」

 女児の声色はどこか嬉し気である。

「寧々子と花ちゃんは友達だからさ……。もうすぐ寧々子の誕生日だろ?寧々子が欲しい物、コッソリ探ってもらえないかお願いしてたんだ」
「え!……ふーん。わざわざ花ちゃんに聞かなくても良いのに。寧々子に直接聞いてよね」

(面倒くさい小娘め。正直に嬉しいとでも言って飛びつけ!)

「寧々子、不安にさせてごめん!俺が好きなのは寧々子だけだ!」

 男児が女児に抱き着いてきた。必然、女児に抱えられている私は挟まれて押し潰された。

「レ、レオくん!」
「寧々子の欲しい物教えて?」
「うん!寧々子、髪の毛を結ぶリボンが欲しいの!レオくんが選んでくれる?」
「もちろん!」

(ぐぅっ、く、苦しい……っ、早く離せ。子供のおままごとに付き合っている暇などないのだ……)

 話はついた筈なのに、一向に離れる気配のないふたりに危機感を覚える。私はこのまま、訳の分からない子供達に潰されてしまうのか……。無念だ……。


((アメリ!助けに来たにゃ!アメリにはまぁにゃにかと世話になってるから、持ちつ持たれつだにゃん!))

 突然、頭の中に語りかけてくる声。この間抜けな声は……。

((スコティーヌか!?……よ、よせ!スコティーヌ!お主が手伝うとろくな事が起きぬだろう!?))

((失礼にゃ!僕はやれば出来る猫にゃ!))

 いよいよ事態は地獄の様相を呈してきた。
 この児童達からの脱出と、ポテンシャルだけは高いすっとこどっこいのスコティーヌをどうにかしなくてはならない。

 決死の力で女児の腕から身体を引き抜き、私を潰しにかかっているレオという男児に飛び掛かった。

「わぁっ!猫!?ごめん、寧々子に夢中で目に入ってなかった」
「もう、レオくんったら!……うふふ。これからはずっと寧々子の事だけ見ててね」
「うん、もちろん!」

 シュタッと軽やかに男児の肩に乗ると、スコティーヌの姿が見えた。

 トコトコと女児の足元に近付き、シャーッと聖なる水をかけていた。

「うぁぁん!!今度は白い猫ちゃんにおしっこかけられたぁ!!」

((スコティーヌ、お主余計な事を……。不吉な予感しかせぬぞ))

((さっきから失礼だにゃー!僕だって成長したんだにゃ))

 やれやれだ。パワーアップしたスコティーヌの祝福がどのような作用をもたらすのか、想像が及ばない。


「寧々子、俺、何か……何か……変だ……っ」
「えぇ?レオくん?どうしたの?」


 危険な匂いが辺りを漂う。
 仕方あるまい。恐らくこの小娘は、近い将来メイコの親族となる者であろう。
 世話の焼けるメイコのために力を貸してやるか。

 男児の肩から地面へと華麗に飛び降りた。 

 女児の足元へ忍び寄り、スコティーヌが解き放った祝福に被せるように、私の聖水もとい祝福を浴びせた。  
 スコティーヌの底力は目を見張るものがあるため、濃度は濃い目にした。

「きゃああっ!!もう何なのよぅ!さっきから何で寧々子ばっかり猫ちゃんにおしっこかけられちゃうの!?」

 ふぅ。これでスコティーヌの祝福は無効となったはずだ。後は私の力でどうにかなるだろう。
 小娘、私に感謝するが良い。ラッキーチート(Large級)なんて、お主の将来は安泰だ。


 程なくして、男児は我に返った様子だ。

「……あ、あれ?……俺、どうしたんだろ?……あ、寧々子、泣いててどうしたの?」
「もうっ!レオくんったらっ!寧々子の事見ててって言ったのにぃ!レオくんがよそ見してるからだよっ!レオくんなんて知らない!!」
「寧々子!?」
 
 全く騒々しい子供達だ。

((アメリ、ひどいにゃ!僕の渾身の祝福を打ち消すにゃんて!))

((続きは後にしろ、スコティーヌ。あの小娘達の注意が逸れている内に去るぞ))

 煩いスコティーヌの首根っこを咥えて、速やかにその場を後にした。


 メイコに用があるから部屋まで運べとやかましいため、メイコの部屋へと忍び込み、ベッドの上にスコティーヌを置いた。

「では、私はもう行くぞ。やらねばならぬ事が山程あるのだ。お主は祝福の精度を上げるよう鍛錬でもしろ」
「言われにゃくても分かってるにゃー。ひと眠りしたら本気だすにゃ」

 目の前の白い塊は、くわぁと大きな口を開け、いびきをかき始めた。


「……んにゃっ!アメリ、痛いにゃっ、噛むにゃっ!」
「黙れ、スコティーヌ!気が変わった、鍛錬に行くぞ!性根から鍛え直してやる!!」
「にぁぁぁっ、アメリがトチ狂ったにゃあ!」



ーおわりー
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