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後日談と裏側②
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寝室とはいってもご夫婦の寝室ではなく、殿下が独身時代に使用していた部屋だ。
私は殿下にいつの間にか目をつけられていたみたい。今からこの世から旅立つのね……。酷い最期だけは勘弁願いたい……。
「君はブランシュの専属侍女だったな」
「は、はい。ニコレットと申します」
ベッドの近くへ行くよう促された後、質問を投げかけられた。
「ニコレット、君は裁縫は得意か?」
「え?裁縫……ですか?」
それからのことは思い出したくない……。
殿下がベッド下から取り出した裁断用の大きなハサミでいきなりベッドのシーツや布団を切り出して、糸と鋭利な長い針を渡されて、ひたすら縫い方のチェックをされた。少しでも縫い目が粗いとハサミでざっくりと処分される……。
私の見間違いじゃなければハサミを取り出す時に鞭とか縄とか見えた気がするんだよね。鬼畜王子なだけに、やっぱりそういう趣味があったりするのかな?まさかブランシュ様に使ったりなんてしてないよね……?
話を戻して殿下の裁縫チェックの件だけど。合格がいただけると、即座に城の離れに軟禁されてしまった……。なぜ。
何とそこには今までの行方不明者の面々が!庭師の男の子もいた!
聞いた情報をまとめると、殿下はご自身で洋服や身の周りの品のデザインを考えるのがお好きらしい。
手先の器用そうな者を見つけては、こっそりと用意した離れの塔を丸々貸し切って理想の工房を作り上げている最中なんですって。ゆくゆくはアクセサリーも手掛けたいみたい。何だかちょっとだけ乙女チックだよね。
そして、ブランシュ様に出会った2年前からは、ブランシュ様のためのドレスやら身に着ける小物やら、果てはネグリジェや下着のデザインにひたすら勤しんでいたらしい……。その間は人員補充どころじゃなかったから行方不明者は出なかったわけね。
それにしても、私はそこまで器用な方じゃないのにどうして……。
勇気を出して聞いた返事のやり取りは以下のもの。
「君はこの国で私の次にブランシュに詳しくなくてはいけない」
「は、はぁ」
「ブランシュが身に着けるものは全て私がデザインしてここで作られる。君にはここで作られた品を完璧に覚え、ブランシュのその日のコンディションに合わせ素材の選択、組み合わせ諸々を考える必要がある。場合によっては縫い直して微調整してもらう必要がある」
「え、私がですか!?」
「女性は体調によって身体のサイズに僅かな変化が出るだろう?側仕えの君がそのくらい対応できなくてどうする。君にはその義務がある」
納得がいくようないかないような……。針仕事は私の仕事じゃないのにぃ。
「現時点での全ての品の把握と最低限の針仕事ができたら解放してやる」
えっ、さっきいただけた合格はなんだったの!?もっと厳しい審査が待ってるの!?
心の中で嘆いていると、殿下の紫色の瞳が恐ろしいくらい冷たく光った。我が国の王太子殿下は、間違いなく氷の鬼畜王子だ。
解放されたのはそれから数日後のこと。
フラフラになりながら半ば無意識にブランシュ様の部屋へ訪ね言葉を交わしていると、ふと私を呼ぶ声がした。
「ニコレット、何度言えばわかるんだ?これでは縫い目がすぐに綻ぶだろう!」「違う!!こんなに強く結んだら縫い目が無駄に強調されるだろう!!」「だから違うと言っているだろう!!何て不器用なんだ君の手は!!」
ひっ、ごめんなさい、ごめんなさい!許してぇ!!いよいよ私は白昼夢を見るようになってしまった。
そして忘れられない思い出といえば、ブランシュ様の里帰り。ブランシュ様のお母様が病で倒れられてしまい、しばらくこの城を不在にすることになったのだ。
ブランシュ様がお嫁にいらしてからは、フェリクス殿下の冷徹冷酷さ溢れるオーラが薄まってきていたというのに……。
その時の私の絶望感、想像できる?
それから数ヶ月、毎日地獄だった……。殿下の凍てつくような瞳が日増しに険しさを増し、全身から殺気だったオーラが見えた……。私も周りの従者達も、みな気が気でなかった。
毎朝部門ごとに点呼を取っては行方不明者が出ていないか確認した。
もし行方不明になっても離れの塔にいるわけなんだけどね。
ブランシュ様が思いの外早く帰ってこられた時は、みんなで歓喜喝采で帰りを祝福したものだ。
その後一週間くらいは殿下とブランシュ様が痴話喧嘩をされたみたいだけど、すぐに仲直りをしたから良し!
無事ご懐妊もされ、おふたりは……いや、お城全体が幸せムード全開だ。お化け屋敷から夢のお城になっちゃったみたい。
離れの精鋭部隊たちも、早速ブランシュ様のマタニティドレス作りに精を出している。もちろん、デザインは全てフェリクス殿下が担当。
今夜は、お腹がふっくらとしてきたブランシュ様のためにネグリジェはお腹周りにゆとりをもたせたデザインをチョイスした。冷えは大敵だから素材も暖かな品じゃないとね。
ブランシュ様のお腹周りを思い返し、少しだけ手直しした。
これから少しずつ大きくなるお腹に負担がかからないように、身に着ける物は毎日私がしっかりとピックアップしてバッチリ合うように調整させていただきますからね!それが私の義務……いえ、使命ですから!!
おわり
私は殿下にいつの間にか目をつけられていたみたい。今からこの世から旅立つのね……。酷い最期だけは勘弁願いたい……。
「君はブランシュの専属侍女だったな」
「は、はい。ニコレットと申します」
ベッドの近くへ行くよう促された後、質問を投げかけられた。
「ニコレット、君は裁縫は得意か?」
「え?裁縫……ですか?」
それからのことは思い出したくない……。
殿下がベッド下から取り出した裁断用の大きなハサミでいきなりベッドのシーツや布団を切り出して、糸と鋭利な長い針を渡されて、ひたすら縫い方のチェックをされた。少しでも縫い目が粗いとハサミでざっくりと処分される……。
私の見間違いじゃなければハサミを取り出す時に鞭とか縄とか見えた気がするんだよね。鬼畜王子なだけに、やっぱりそういう趣味があったりするのかな?まさかブランシュ様に使ったりなんてしてないよね……?
話を戻して殿下の裁縫チェックの件だけど。合格がいただけると、即座に城の離れに軟禁されてしまった……。なぜ。
何とそこには今までの行方不明者の面々が!庭師の男の子もいた!
聞いた情報をまとめると、殿下はご自身で洋服や身の周りの品のデザインを考えるのがお好きらしい。
手先の器用そうな者を見つけては、こっそりと用意した離れの塔を丸々貸し切って理想の工房を作り上げている最中なんですって。ゆくゆくはアクセサリーも手掛けたいみたい。何だかちょっとだけ乙女チックだよね。
そして、ブランシュ様に出会った2年前からは、ブランシュ様のためのドレスやら身に着ける小物やら、果てはネグリジェや下着のデザインにひたすら勤しんでいたらしい……。その間は人員補充どころじゃなかったから行方不明者は出なかったわけね。
それにしても、私はそこまで器用な方じゃないのにどうして……。
勇気を出して聞いた返事のやり取りは以下のもの。
「君はこの国で私の次にブランシュに詳しくなくてはいけない」
「は、はぁ」
「ブランシュが身に着けるものは全て私がデザインしてここで作られる。君にはここで作られた品を完璧に覚え、ブランシュのその日のコンディションに合わせ素材の選択、組み合わせ諸々を考える必要がある。場合によっては縫い直して微調整してもらう必要がある」
「え、私がですか!?」
「女性は体調によって身体のサイズに僅かな変化が出るだろう?側仕えの君がそのくらい対応できなくてどうする。君にはその義務がある」
納得がいくようないかないような……。針仕事は私の仕事じゃないのにぃ。
「現時点での全ての品の把握と最低限の針仕事ができたら解放してやる」
えっ、さっきいただけた合格はなんだったの!?もっと厳しい審査が待ってるの!?
心の中で嘆いていると、殿下の紫色の瞳が恐ろしいくらい冷たく光った。我が国の王太子殿下は、間違いなく氷の鬼畜王子だ。
解放されたのはそれから数日後のこと。
フラフラになりながら半ば無意識にブランシュ様の部屋へ訪ね言葉を交わしていると、ふと私を呼ぶ声がした。
「ニコレット、何度言えばわかるんだ?これでは縫い目がすぐに綻ぶだろう!」「違う!!こんなに強く結んだら縫い目が無駄に強調されるだろう!!」「だから違うと言っているだろう!!何て不器用なんだ君の手は!!」
ひっ、ごめんなさい、ごめんなさい!許してぇ!!いよいよ私は白昼夢を見るようになってしまった。
そして忘れられない思い出といえば、ブランシュ様の里帰り。ブランシュ様のお母様が病で倒れられてしまい、しばらくこの城を不在にすることになったのだ。
ブランシュ様がお嫁にいらしてからは、フェリクス殿下の冷徹冷酷さ溢れるオーラが薄まってきていたというのに……。
その時の私の絶望感、想像できる?
それから数ヶ月、毎日地獄だった……。殿下の凍てつくような瞳が日増しに険しさを増し、全身から殺気だったオーラが見えた……。私も周りの従者達も、みな気が気でなかった。
毎朝部門ごとに点呼を取っては行方不明者が出ていないか確認した。
もし行方不明になっても離れの塔にいるわけなんだけどね。
ブランシュ様が思いの外早く帰ってこられた時は、みんなで歓喜喝采で帰りを祝福したものだ。
その後一週間くらいは殿下とブランシュ様が痴話喧嘩をされたみたいだけど、すぐに仲直りをしたから良し!
無事ご懐妊もされ、おふたりは……いや、お城全体が幸せムード全開だ。お化け屋敷から夢のお城になっちゃったみたい。
離れの精鋭部隊たちも、早速ブランシュ様のマタニティドレス作りに精を出している。もちろん、デザインは全てフェリクス殿下が担当。
今夜は、お腹がふっくらとしてきたブランシュ様のためにネグリジェはお腹周りにゆとりをもたせたデザインをチョイスした。冷えは大敵だから素材も暖かな品じゃないとね。
ブランシュ様のお腹周りを思い返し、少しだけ手直しした。
これから少しずつ大きくなるお腹に負担がかからないように、身に着ける物は毎日私がしっかりとピックアップしてバッチリ合うように調整させていただきますからね!それが私の義務……いえ、使命ですから!!
おわり
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