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複製人間と科学者
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「時間だ。行って来る」
「無事に帰ってきてね」
俺の願いに言葉を返さず、友人は死地へと向かう。
同じ顔をした男が代わりに俺の部屋へとやって来た。
「自分とは言え、お前を占有していたと思うと気に食わんな……」
「それって自我がそれぞれ別で、複製を他人だと認識してるだけじゃ?」
「だがアレは俺だ。体も記憶も違うが、同じ記憶と思考を共有した複製人間」
「その感覚よく分かんないけどねぇ。別の肉体があって途中から記憶が分かれているのなら、別人と認識するのが普通じゃ?」
「お前は浮気しているつもりか?」
「ちょっとは」
「ちょっとだろう。俺も余りそのつもりはない」
「でも悋気は感じるんだ……」
「微妙にな」
何でこんな哲学を恋人とやらにゃならんのか。
それは奴が俺の恋人の複製で、沢山居て、俺がその一因を担っているからである。
オリジナルは戦死した。その前に俺が脳と遺伝子のコピーを取り、完璧に複製した。
しかし得体の知れぬ敵は、それだけの科学技術をもってしても倒せなかった。
優秀極まりない俺の恋人が沢山居ても戦況は好転せず、悪くなるばかり。
笑えて来る。
「三千世界の烏共を殺したら、お前とゆっくり共寝がしたいよ」
「お望みなら今すぐにでも?」
「悪いがもう少ししたら出撃なんだ」
「何だ、お前って忙しいね。ゆっくり眠れもしないわけ」
「昼夜問わず誰かは出ている。死ぬ前に愛する者の顔ぐらい見たいだけだ」
「そんな覚悟で行くからホイホイ死ぬんじゃないの? 頑張れよ」
「単に製造コストが一般人の育成コストより低いから、死ぬ可能性が高い重要地域に送り込めるだけだ」
「ひっどいなぁ、俺が技術を提供したのに、政府ったら仇で報いちゃって。俺はお前を失いたくないだけだったのにな……」
幼馴染は誤魔化すように俺の額に口づける。
「いつか必ず、お前を苦しめる物全てからお前を解放してやる」
「おぉ、物騒だねぇ。敵は言葉も通じないが、何と結託して政府を相手取るつもりだ?」
「観察すれば見えてくる物もある」
「……本気かよ。聞かなかった事にするぞ」
「やがて人類は滅びる。もはや覆せぬ事ならば、他の手段を探す他あるまい」
この天才からこの言葉を引き出す戦況はどうしようもない。
全く、裏切って敵についてまで俺と生きたいなど、愚かな奴だ。
死人を蘇らせてまで傍に置きたい俺とはお似合いか、と俺は自嘲して、去っていく男を見送った。
「無事に帰ってきてね」
俺の願いに言葉を返さず、友人は死地へと向かう。
同じ顔をした男が代わりに俺の部屋へとやって来た。
「自分とは言え、お前を占有していたと思うと気に食わんな……」
「それって自我がそれぞれ別で、複製を他人だと認識してるだけじゃ?」
「だがアレは俺だ。体も記憶も違うが、同じ記憶と思考を共有した複製人間」
「その感覚よく分かんないけどねぇ。別の肉体があって途中から記憶が分かれているのなら、別人と認識するのが普通じゃ?」
「お前は浮気しているつもりか?」
「ちょっとは」
「ちょっとだろう。俺も余りそのつもりはない」
「でも悋気は感じるんだ……」
「微妙にな」
何でこんな哲学を恋人とやらにゃならんのか。
それは奴が俺の恋人の複製で、沢山居て、俺がその一因を担っているからである。
オリジナルは戦死した。その前に俺が脳と遺伝子のコピーを取り、完璧に複製した。
しかし得体の知れぬ敵は、それだけの科学技術をもってしても倒せなかった。
優秀極まりない俺の恋人が沢山居ても戦況は好転せず、悪くなるばかり。
笑えて来る。
「三千世界の烏共を殺したら、お前とゆっくり共寝がしたいよ」
「お望みなら今すぐにでも?」
「悪いがもう少ししたら出撃なんだ」
「何だ、お前って忙しいね。ゆっくり眠れもしないわけ」
「昼夜問わず誰かは出ている。死ぬ前に愛する者の顔ぐらい見たいだけだ」
「そんな覚悟で行くからホイホイ死ぬんじゃないの? 頑張れよ」
「単に製造コストが一般人の育成コストより低いから、死ぬ可能性が高い重要地域に送り込めるだけだ」
「ひっどいなぁ、俺が技術を提供したのに、政府ったら仇で報いちゃって。俺はお前を失いたくないだけだったのにな……」
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「いつか必ず、お前を苦しめる物全てからお前を解放してやる」
「おぉ、物騒だねぇ。敵は言葉も通じないが、何と結託して政府を相手取るつもりだ?」
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