上 下
23 / 23

第二十二話 魔王

しおりを挟む
「魔王って本当にあの魔王ですか⋯⋯?」


「お姉ちゃん、あの人怖いよぉ⋯⋯! お母様が死んじゃう!!」

 


 ミレイナも肌で魔王の邪悪な気配を感じとって只者ではないと判断したのか、私を掴むての力が強くなった。


 私の問いかけに魔王ユシリルは「そうだ」と頷いて見せた。


 街は魔王ユシリルが放ったであろう炎魔法で燃え盛っていて気温が高いせいか頬に汗が伝う。

 いや、どっちかと言うとこれは気温のせいというか冷や汗だよな。



 それに魔王の存在は幼い頃からずっと聞かされてきた。

 私がお母様から聞いた魔王の特徴は人間に害をなすもの、見た目は幼く少女の様である事、そして遭遇したらまず逃げること。

 そして聞いた外見だと魔王は腰まで伸びた銀の髪に緋色の瞳、服装はゴシックな衣装にマントを羽織っている。


 今目の前にいる相手は私が幼い頃から聞いてきた条件と髪型から服装までも全てが一致する。多分他人の空似ということはまずない。



「実を言うと私はお前達姉妹を探していたんだ」


「私達を探しにって、アナタとは何の関わりもなかったのにどうして⋯⋯」


「ルリーナ! 耳を貸さないで、今すぐにでも逃げなさい!!」



 魔王の問いかけに答えるとお母様が絶叫を上げるかのように叫んだ。

 ただ実の母が殺されかけているのに何の気なしに逃げられる娘なんてまずいない。


 私とミレイナはその場で立ち尽くした。



「君は随分とうるさいな。母親の愛情というやつか? 愚かだな、今口を開かなければ命まで取るつもりは無かったのに」


「アナタに⋯⋯娘を差し出す気なんて⋯⋯ある訳ないでしょ⋯⋯」、再び強く首を絞められたお母様は途切れ途切れに語る。


「そうか、じゃあ死ね」




 ここから先は本当に思い出したくない。

 全力を出した魔王によってお母様は絞殺。

 怒りで冷静さをかいた私は魔王に飛びかかるも即死、本当にあっけない位に命を奪われて「人間」としての人生を終えた。


 人間としての人生を終えた私が次に目覚めたのは幽体としてだった。



「君は妹の方か、名はなんと言う」


「名前はミレイナ。私に何の用ですか?」


「要件はひとつ、君を私の六本の指にネクロマンサーとして加えたい」



 幽体になって時既にミレイナは魔王軍れの勧誘をされていて、しかも六人しかいないと言われる魔王軍の幹部への勧誘だった。


 お願いミレイナ逃げて。逃げられるかなんて分からないけどその場から逃げて。


 私の思いとは裏腹にミレイナは打って変わって淡々とした様子をしている。

 目の前で母と姉が殺された十歳の子供だとは思えないくらいに落ち着いている。



「ネクロマンサーですか、何故私が選ばれたのですか?」


「強力な魔法使いの姉妹がいると聞いてね、まだ若いみたいだし魔王軍に引き入れるべきだと思った」


「私は人間ですが」


「そんなの私の力があればどうとでもなる。姉の方は冷静さをかいた時点で失格だったが、君のその歳で家族を失っても平静を保てている、是非私の魔王軍に来てもらいたい」



 多分ここで断ったらミレイナは殺されてしまうし、ネクロマンサーという魔物になっても私はミレイナに生きていて欲しい。



「分かりました、よろしくお願いします」


「話が早くて助かる。じゃあネクロマンサーになる為に魔王の魔力を君に捧げよう」



「ん、お願いします」



 けれど何処かで私達を殺した魔王を憎んで、断って欲しいという気持ちがあったせいか、あっさりと魔王軍への加入の道を決めたミレイナに少しだけ失望してしまった。



 それから直ぐにミレイナはネクロマンサーとして適合して、容姿は変わらずとも確実に人間ではなくなり、

 亡者を従える力を手に入れたミレイナは私を初めとする多くの亡者と共に人間の住む街を手当たり次第に攻撃をして魔物たちの領地とした。


 いくら人間に「助けてくれ」と懇願されてもミレイナは冷酷無慈悲に攻撃する事を辞めなかった。


 元々明るくて優しかったミレイナがここまでの豹変ぶりを見せた事、私なんかにはもうミレイナの心境が分からなくなっていた。


 ⚫



「そしてこの街もいつもと同じ様に占領しようとした所、勇者であるノエルさんに会いました」


「お二人にそんな過去があったなんて、お話してくれてありがとうございました」


「妹は本当にいい子なんです、だからこれ以上ミレイナに罪を重ねて欲しくない」



 実の妹が大量に人を殺めるところなんて見たくなはいし、そうだろうな。

 次の言葉を言いにくそうに息を飲むルリーナさんを見て、何が言いたいのか容易に想像がついた。



「妹を、これ以上罪を重ねないように殺して下さい」


「やっぱりそう来ますよね⋯⋯」



 随分とドラマチックな展開になったけど、さてどうしたものか。

 悩む間もなく命の取り合いになる衝突は避けられない、ボクに元人間が殺せるかどうか⋯⋯。



 結論は直ぐに出る訳でもなく、ボクは困った様に眉を寄せる事しか出来なかった。







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

北の魔女

覧都
ファンタジー
日本の、のどかな町に住む、アイとまなは親友である。 ある日まなが異世界へと転移してしまう。 転移した先では、まなは世界の北半分を支配する北の魔女だった。 まなは、その転移先で親友にそっくりな、あいという少女に出会い……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...