お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

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第十七話 迷いの森

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 腰まで伸びた銀髪と空色の瞳に可愛らしい白いゴスロリ服を纏った少女(男の娘)と桃色の髪と紅い瞳に黒のワンピースを着た少女が二人、昼頃なのに日の差し込まない暗い森の中で彷徨っている。



 そう、ナイルの村を出て数日が経った頃、ボク達は見事に森の中で遭難していた。


 何やら辛気臭い森にボク達は迷い込んでしまったみたいで、しかも大木が空を覆っていてホウキで脱出する事も難しい。


 最悪、今夜はこの森で野宿かもしれない。



「ノエルお姉さん、迷っちゃいましたね」


「ほんと、どうしたものか⋯⋯。何処がこの森の出口なのかさっぱりです」


「私、この森ジメジメしてて嫌いです!」


「ボクだって嫌ですよ、こんな森」



 なんか湿気が凄いですし、この木々を全て魔法で燃やしたくなってしまいます。ふふふ。


 なんて事を内心思いつつ、ボクとルアは宛もなく迷いの森を歩く。

 日が沈んだ頃に魔物に遭遇して、不意打ちでも食らったりしたら命が危ない。


 野宿はかなり危険だな。本当にこの森燃やしてやろうか。



「んっ、ノエルお姉さん何が聞こえませんか?」


「え? ボクは何も聞こえませんが」


「足音が聞こえます」


「マジですか!」


「微かに聞こえる程度なので、静かにして下さい!」



 何故か怒られたので黙っておく。

 というか注意する声の方が大きいし、喋ったら怒られそうだから言わないけど。


 ルアは暫く耳を澄ませた後、「こっちです」と歩き始めた。



「本当に足音がしたんですか?」


「はい、絶対に人間の足音です。私は人間よりも聴覚が良いので分かるんです!」


「獣らしい特技発見ですね」


「そうです、侮らないで下さいね!」


「初めからルアを侮った事なんてないですよ⋯⋯」


  ルアについて行くと、確かに遠くに人影のような物が見えた。

 遠目で見ているせいか、どうにも人影がゆらゆらと揺れているように見えた。


 もしかしたらあの人影も森で迷って、数日飲まず食わずの遭難者かもしれない。

 ふらついているせいで人影が揺れているのなら、納得ができる。



「ルア、少し急ぎましょう」


「え、了解です!」



 目の前で倒れそうになっている人間がいたら流石に放っておけない。

「大丈夫ですか?」と救いの手を差し伸べる程度にはボクにも良心がある。


 ボク達は少し駆け足で人影へと近付く、そして人影が実際に男性の姿へと変わっていった。



「あの、大丈夫ですか? もしかして迷っていますか?」


「⋯⋯⋯⋯」


「ちょ、返事して下さい」


「⋯⋯⋯⋯」



 男性へと声を掛けるも、返事がかえって来ない。

 こちらからは後ろ姿しか見えないから、どういった表情をしているのかが読めない。

 もしかして既に手遅れとか⋯⋯?



「あのー返事して下さい」


「⋯⋯⋯⋯」



 三度目の正直で声を掛けたが、やはり男性からの返事は返ってこない。

 足取りはふらついていたし、もしかしたら耳が聞こえなかったり、声が出せないのかもしれない。


 まあシンプルに無視されてるっていう可能性を信じたくないだけなんだけど。


 とりあえず、肩に触れてみようか。



「あ」



 ボクが男性の肩に触れようとした瞬間不可解な事が起きた。


 男性がボク達の目の前から忽然と姿を消した。

 いや、目の前でいきなり消えたと言った方が正しいのかもしれない。



「ちょ、え、どういう事ですか? 」


「ちょうど今の今まで迄すぐ側に男の人がいたのに⋯⋯。まさか幽霊なのでは!?」


「ルア落ち着いてください。幽霊なんてこの世にいるわけな⋯⋯いやでもこっちの世界ならいてもおかしくなさそう」


「ノエルお姉さん私怖くなってきました⋯⋯」



 迷子になってこれ以上下がる事がないと思っていたテンションが更に奈落へと下がった。

 わあ、凄い。


 いやいや何も凄くないから、まさか本当に幽霊?

 それとも森で彷徨えるボク達が作り上げた幻覚?


 どっちにしろヤバいし、もう怖いし、こんな森早く抜けたい!



「やっぱりここは死者を沢山出している迷いの森かもしれません! 私達ここで死ぬのかもしれない⋯⋯」


「何弱腰になっているんですか! ルア、らしくないですよ」


「らしくないってなんですか? そもそも本来の私とは一体⋯⋯」



 まずい、今まで見たこと無かったけどルア病みモード突入だ。

 一人でも心細かったろうけど、同行人が露骨に怖がっているのを見るとこっちまで怖くなってくる!



「え、あれなんですか?」


「私らしさとは⋯⋯そもそも私とは⋯⋯人生とは⋯⋯」


「一旦病みストップでお願いします。あれ、見てください」


「はい⋯⋯?」



 ルアはボクが指さす方向に目をやる。

 さっきまで男性に気を取られてたて気付かなかったが、目の前に大きな門がそびえ立っている。


 街なのだろうか、周りは高い塀で囲まれていて中が一切見えない。


 複雑な森のすぐ側に街があるなんて、隠れ家的な存在なんだろうか。

 人気の付かない所に危険な民族の集落とか、日本にいた頃にそういう都市伝説あったよな⋯⋯。



 正直身構えてしまうけど、入ってみないと吉か凶か分からない。



「ルア、今日はあそこで宿をとりませんか?」


「ですね! いやー、まさかこんな森奥に街らしき物があるなんてついてますね!」


「まあ、そうですね」


「さっきの人も幽霊かと思いましたけど、私たちを導いてくれる天使様だったのかもしれない!」



 ルアは特に警戒する様子も感じられず、出来事をただ幸運だったと受け取っているみたいだ。

 ボクが警戒しすぎなんだろうか?

 さっきの男性は到底天使だなんて思えなかった。


 本当に天使ならもっと神々しいオーラがあるイメージだし、何より彼から生気が微塵も感じられなかった。



「まあいいや、入りましょうか」



 門の前に立ったら、手も触れていないのに勝手に門が不気味な音をたてて開いた。

 少し不可解だがボク達を歓迎しているとも捉えられる。



 こういう時こそポジティブシンキング。



 思い切って門くぐってみると、至って普通の街並みが広がっていた。

 普通といっても異世界基準だけど。


 でもどこか街の様子が変だ。街全体的に生気がないし、暗く沈んでるみたいだ。


 時間だって昼頃のはずなのに不気味に薄暗色が空を覆っている。



「何だかこの街元気がないですねぇ? 通りすがりの人も全員顔が青白くてなんか怖いです」


「ルアもそう思いますか。んー、やっぱりこの街出ましょうか? 気味悪いですし」



 ボクがこの街を出ることを示唆する発言をした途端、門が勝手に大きな音をたてて勢いよく閉まった。


 まるで逃がさないとでも言うように。



「え、門勝手に閉まりましたよ!!」


「ええ⋯⋯分かってます。なんだか嫌な予感がします。それにこの街の人達の顔、普通じゃありません」



 通行人の顔が青白いとルアは言ったけど、例えるならまるで生きながら死んでいる、はっきり言うと亡者のようだ。

 もしかしたらボク達ヤバい街に来てしまったのでは⋯⋯?










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