お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

しゃる

文字の大きさ
上 下
14 / 23

第十三話 敗北の代償

しおりを挟む
「リオーネさん、ちょっとお話いいですか?」


「なんだ、我から搾取できるもの等もうないぞ⋯⋯」


「そういうのじゃないんで、ただ聞きたい事があるだけです」



 項垂れて「もう払えるお金なんてありません!」とでも言いたげなリオーネさん。

 もうどっちが被害者なのか分からない。



「あの、魔王について教えてくれません?」


「魔王だと? まさかあんな糞野郎に興味があるのか?」


「全く知らないので知りたいだけです。それにそう言われるとどう糞野郎なのかも気になります」



 ルアさんから聞いた話では、「魔王の所有物」といった意味合いで「魔物」と聞いていたけれど、リオーネさんの反応から全員が魔王に付き従う訳ではないのかもしれない。


  「魔王はこの村よりずっと先にある、世界の最果てと呼ばれる場所、魔王城に住んでいる」


「ありきりたりですね」


「そして世界を牛耳ろうとしている」


「ありきたりな魔王ですね」


「ありきたりでも普通に世界征服とかヤバいだろ」



 真顔で突っ込んでくるリオーネさんに、確かにと頷く。

 ファンタジーゲームの設定でよく使われているため、ありきりたりだなぁと脳死で聞いていたが、よくよく考えたら普通に世界征服はヤバい。

 魔王が世界征服をしたら、明らかに種の異なる人間は迫害されるに違いない。


 少しだけ、自分が勇者だという事に使命感を覚える。



「それで魔王が糞野郎だと言うのは? ワイバーンとは仲が悪いんですか?」


「当たり前だ。あんな歴史の浅い奴に我々ワイバーンが下につくわけがないからな」


「はぁ」


「アイツ、長年の歴史を持つワイバーン一族に自分の下につけと上から物を言ってきたんだ。当然ワイバーンの長は断ったが、何れまた来ると言っていたらしい」



 聞く所によると、魔王の歴史は浅いらしい。

 割と最近現れた類なのか、そして世界中全ての魔物が魔王の手先というのは認識違いみたいだ。



「なるほど、一体魔王の手先というのはどの程度いるんですか?」


「ん? 我々ワイバーン一族と、一部のエルフを覗いては大体魔王の手先だと思うが」


「マジですか。殆ど手先にされてる上にめちゃくちゃワイバーン一族反乱分子じゃないですか」


「いや、他の魔物達のプライドが低いだけだ。あんな百年ちょっと前にいきなり現れた奴にへりくだるなんて⋯⋯」



 思った以上にこの世界は魔王に短期間の内に侵食されているのか。

 というか、そこまで行くと付き従わないワイバーン達の立場が危ういのでは?

 邪魔者は消すスタイルで来られると命までもが危うい可能性もある。

 別に心配している訳ではないけど、少し気になる。



「魔王に逆らって大丈夫なんですか?」


「なに問題ない! 長年の歴史を誇る我々ワイバーンが魔王如きに屈するわけないだろう!」


「そうですか」



 長年の歴史を持っていようが、歴史が変わる時はそんなもの無かったように一瞬で移り変わる。

 少なくともボクの学んできた歴史はそうだった。



「どれだけ長い歴史を持っていても、形あるものは何れ壊れるという事を覚えていて下さい」


「ふん、我らワイバーンが滅びの道を辿るとでも言いたいのか?」


「いえ、そういう訳ではありませんが。可能性はあるということをお伝えしたくて」


「安心しろ。魔王如きに屈するワイバーン一族ではない」


「そですか」



 魔王には屈しないのにお酒には屈するのか。


 まああくまでも、ボクの話は以前いた世界基準での話だ。

 こちらの世界でも全く同じとは思わないし、転生したばかりのボクがこれ以上偉そうな事は言えない。



「魔王の性格とかって分かります?」


「我は直接会ったことがないから分からないが、かなり高圧的な性格らしい。そして直接目にした訳では無いが容姿は案外幼いのだとか」


「へえ、意外ですね」


「そして臆病だ。邪魔になると思った奴は数の暴力で徹底的に叩きのめすと聞く」



 リオーネさんはフェアでない戦いを挑むのは臆病者だと思っているのか、言葉尻に不快感をたっぷりと含んでいた。


 人物像としては意外と幼くて性格はゴミ(リオーネさん視点)という感じか。

 正直リオーネさんの主観がかなり入っているようにも見えたが、いい情報だろう。


 最後にひとつ、気になる事がある。


 


「魔王の能力、弱点、配下について教えてください」


「お主⋯⋯本気で魔王を倒す気なのか?」


「でなければこんなこと聞かないでしょう? ボクはお姫様になりたいんです」



 物珍しそうに見つめてくるリオーネさんにボクは少し笑ってみせる。



「本気ならば答えよう。配下は大勢いるが、魔王には直属の部下が六人いる。我も詳しい事は知らないがこの六人がとにかく手強いらしい」


「まずはその六人から倒せばいいと。で、残りのふたつは?」


「あ、そこまでは知らん」


 リオーネさんはきっぱりと言い放った。

 流石に魔王の能力と弱点が割れていては、攻略もされやすいだろう。


 流石にそこは情報管理が徹底されている。


 しかし話を聞けば聞くほど、相手がかなり壮大だということに気付かされるな。

 お姫様になる人生、思ったよりもハードモードだ。



「しかしお主の様な小娘が勇者とはなぁ⋯⋯。世も末だ」


「小娘じゃないです、ノエルです」


「じゃあノエル。お主顔は良いのだし冒険なんて危険を侵さずに、適当に男でも作って街で安全に暮らしてた方がいいんじゃないのか?」



 そう言ってボクの顔を覗き込むリオーネさん。


 誇りと戦闘しか頭に無いのかと本気で思っていたから、正直ワイバーンが意外と人間に近い思考を持っているとは思わなくて少し驚いた。


 あとやっぱりリオーネさん勘違いしている。

 訂正する気はあまりなかったが、一応ボクの身を案じてくれているのかもしれないし言っておかなければいけない。



「あの、ボク女の子じゃないんですけど」


「は?」


「男の娘なんですけど」


「は!?」


「は? と言われましても⋯⋯」



 リオーネさんは口をぱくぱくとさせながら、ボクの顔や身体をじっくりと観察し始めた。


 透き通る銀の髪に空色の瞳、自分で言うのも何だが、何よりもこの可愛らしい顔立ち。

 身体も小さいし華奢だし、「男の娘です」と言われても到底信じて貰えないだろう。


 前の戦いで少し傷んでしまったが、服装だって女の子だし。



「んー絶対嘘だろ」


「本当ですって」


「確かに見た目は貧相だなと思ったけど、でも男はないわ」


「男じゃないです男の娘です」


「なんも変わんないだろ」



 リオーネさんは「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな顔をしているが、男と男の娘では意味合いが全く違うんだ。

 気安く男扱いしないで欲しい。



「まあ一旦信じるとして、何故魔王討伐を目指す?」


「お姫様になるためです」


「いよいよ分からん!」


「王と攫われたお姫様を見事連れ戻せば、ボクをお姫様にしてくれると約束したんです」



 だから、こうしてリオーネさんに魔王の性質を細かく聞き込んでいる。

 まあリオーネさんは相も変わらず首を傾げっぱなしだが。



「男の娘で王子じゃなくてお姫様⋯⋯? 我にはもうよく分からんぞ」


「まあ世の中には色んな人がいるってことです」


「ん、そういう事にしておこう。お主と話しているとなんだかもっと視野を広げろと言われている様な気分になる」



 そう言ってリオーネさんは難しい顔をする。

 そんな深いメッセージ性を含んだ覚えはないが、確かにリオーネさんは凝り固まった思考をしている様に見える。


 なんだろう、一部の価値観でしか物を見ていないような。



「ノエル様、食事の用意が出来ました」


「あ、今行きます」



 再び村長が現れて、ボクに声をかけた。

 どうやら村の食堂に料理を用意したらしく、移動することになった。

 


「行くのか」


「リオーネさんは行かないんですか?」


「我の分はないだろ。それに敗者に情けは無用」


「じゃ、ボクの分半分こしてあげますよ」


「だから情けは無用だ!」



 面倒くさいなぁ。

 お腹が空いたら食べる、人間でいう三大欲求にはワイバーンといえど素直に従うべきだと思うんだけど。


 というか情けが云々って武士か!


 ほんのり感じていたが、ワイバーンからなんか武士臭がする。



「敗者なんだからいちいち口答えしないで言う事聞いて貰えます? 敗者なんだから」


「うぐっ⋯⋯それはずるいぞ」


「では食べましょうか」



 敗者を強調したらリオーネさんは渋々立ち上がった。

 後は先程からただ黙ってボクたちのやり取り見ていたルアさんに声をかけ、ボクたちは食堂へと移動した。



「さてさて、どんなご馳走が用意されてるんでしょうね」



 これから更に大変になる予感がするけど、今は一時の安らぎを楽しもう。

 空腹からか、食堂からほのかに香る匂いに珍しくボクの胸は期待に高鳴っていた。


 そして、そろそろこの村に別れを告げる頃かな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...