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第十一話 対ワイバーン

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「ほう、小娘の正体は魔法使いだったか」



「魔法使いというかつよつよの勇者ですね。どうです? 降参する気になりましたか?」




 魔法使いと勇者だったら勇者の方がなんか強そうだろう。


 リオーネさんはボクの杖を見て魔法使いと勘違いしてるし、ちょっとはビビるかなと思って「勇者」を強調してみる。



 ちなみにつよつよは言った後少し恥ずかしかった。



「つよつよの勇者とか、初対面の相手に言って恥ずかしくないのか?」


「うるさいですね。とにかく降参するなら今のうちですよ!」



 ボクは勇者らしくビシッと杖をリオーネさんに差して言い放った。



 ただ残念ながら思惑通りにはいかないみたいで、リオーネさんは口角を上げて嫌な笑みを浮かべ出した。

 ⋯⋯目の前でやられると結構感じの悪いやつだ。




「何か面白いことでも? そういうの不愉快なんですけど」


「ああこれは失敬。まさか我が勇者如きに臆すると思われていた事がこう⋯⋯何とも無知で可笑しくてな」


「は?」

 

「我は世界最強の種族ワイバーンのリオーネ。勇者と言えど所詮は人間、負けるわけが無い。あまり見くびるなよ」




 再びリオーネさんの眼光が鋭くなった。


 顔だけ見るとただの年頃の可愛い女の子な印象だけど、向けてくる殺気が全くもって抑えきれていない。



「では勇者とやら、存分に戦おうか。直ぐにくたばってくれるなよ? 興が冷めてしまう」



 リオーネさんは指の骨を鳴らしながらゆっくりと近寄ってくる。

 どうやら暴力で勝敗を決すると勘違いされている様ですね。

 



「おや? 誰が戦闘で勝ち負けを決めると言いましたっけ?」


「む、違うのか? それともやはり臆したのか?」


「そんな訳ないでしょう。もっと貴女にピッタリな勝敗の付け方があると思ったんですよ」




 良かった、どうやらボクの提案に興味があるよでリオーネさんは「我に戦闘以外でピッタリなやり方?」と立ち止まってくれた。

 あのまま攻撃されてたら多分死んでた。




「ええ、貴女にピッタリなやり方ですよ。恐らく戦闘よりそちらの方が向いているのではという位に」


「お前、我の何を知っているというのだ⋯⋯」




 じとっと不信感たっぷりな目で睨み付けてくるリオーネさんを、「まあまあここから話しますよ」と涼しげな視線で返す。

 そしてボクは話を続ける。




「簡潔明瞭に言いますと、どちらかが酔い潰れるまで飲んで戦いましょうという事です」


「飲み対決か」


「はい。週に一度村中のお酒を集めているんですから、当然は自信はありますよね? それとも他の誰かにパシリでもさせられてて自分は全然飲めないとか?」




 ボクの煽りからパシリという単語を聞いたリオーネさんから、「ピキっ」という怒りの効果音が聞こえたかと錯覚してしまう程に効果覿面だった。



「随分と言ってくれるな。良いだろう、貴様のその誘い乗ってやろう。飲みであろうとも我が人間如きに負けるわけが無いからな」


「では、村中の酒を集めますので少々お待ちを」



 よし、誘いに乗ってきた!

 直ぐにボクは村長にお酒を大量に集める様指示した。

 後は誰がリオーネさんと勝負をするかだ。



 え? ノエルさんは飲まないのって?

 いやですねぇ。

 ボクは頭脳専門なので身体を張るのはごめんです。


 それにもっと適任がいるじゃないですか。

 ちょうど空気化して存在感が全く無くなっていたのでここらで良い出番を与えて差し上げましょう。




「冒険者さんたち、出番ですよ」


「え?」


「へ?」


「素っ頓狂な返事ですね⋯⋯。ここまで持って行って差し上げたんだから、後は貴方達でフィニッシュして下さい」




 ボクは部屋の隅に隠れていた冒険者兄弟に声を掛ける。

 冒険者さん達はボクの言葉の意味が分からないのか、二人とも首を傾げている。



 まさかこのまま何もせずにワイバーン討伐の手柄を得れるとでも?



 この世界の仕組みはイマイチ把握出来ていないが、恐らくワイバーンを倒すと報奨金か何か出るんだろう。

 じゃないとこの二人がわざわざワイバーン退治になんて行くはずがない。


 甘い汁はそう簡単には啜らせない。




「ワイバーンとの飲み勝負は貴方たちがして下さい」


「ちょ! 嘘だろお嬢ちゃん! ワイバーン相手に俺達が!?」、動揺までにテンションの高い弟ズーク。


「ワイバーン相手に直接対決するよりはマシでしょう? それに、目的は酔わせて眠らせることです。最悪負けてもいいんです」


「そ、そうか。目的は寝首を掻くことだったな」




 幾らかは利口な方、兄のコーザさんは「それなら俺達にもできるかも」と呟きを漏らす。

 それを後押しするかのように、「何とか二人がかりで食らいついてくれれば良いんです」と拍車をかける。



 結果、「それなら任せろ!」と二人とも快諾してくれた。


 ふと、ルアさんが不安げな瞳でこちらを見つめているのに気が付いた。



「ノエルお姉さん、本当に大丈夫何でしょうか?」


「ルアさん、きっと何とかなりますし安心して下さい。最終手段も考えていますから」


「ちなみにその最終手段というのは⋯⋯?」


「ホウキで逃亡」


「ですよね。分かってました」




 緊張を解す意味でもちょっとした冗談を言う。

 ホウキで逃亡のおかげか、ルアさんは不安げな瞳から冷めた瞳へと変貌を遂げた。


 まあ、まだそちらの方が幾分かマシだろう。




「ノエルお姉さんの場合は冗談とかじゃなくて本当にやりかねないです⋯⋯」


「冗談のつもりだったんですけど、そう言われると自分でもやりかねないなぁと思います」


「やりかねないじゃなくてやるんですよ。ノエルお姉さんは」


「言い切りますね⋯⋯」



 ボクとルアさんのやり取りが談笑チックに変わった頃、村長から「酒の用意が出来ました」と声を掛けられた。



「ありがとうございます。では早速勝負を始めましょうか」


「おい、ワイバーン! コテンパンにのしてやるぜ!」、弟ズークが声高々に叫ぶ。


「ふっ、我らが兄弟の力見せてやろう」、兄コーザは素敵な笑みを浮かべる。



 この兄弟、割と自分たちに都合のいい条件だと分かった途端にこの威勢の良さだ。

 これは将来大物冒険者になってるかもしれない。




「なんだ、小娘がやるんじゃないのか?」


「ボクは頭脳担当なので」


「ふんっ、誰が相手でも結果は変わらんがな」




 リオーネさんはやはり自信満々な様で、「早くやるぞ」と催促してくる。

 なので村長さんと二人でお酒をリオーネさんと冒険者二人の前に用意する。

 そしてナチュラルに冒険者兄弟とリオーネさんの二対一の構図が出来上がる。




「む、なんだ? 二対一なのか? まあそれでも構わないが」


「⋯⋯お心遣い感謝します。この二人は単体では雑魚なので大目に見てください」

 

「ん? お嬢ちゃんどういうこと?」


「お嬢ちゃんじゃなくてノエルです」



 二対一ということもあり、弟のズークさんの方は「俺達兄弟に勝てると思うなよ!」 かなり勢い付いている。

 本当に飲みに自信があるのか、これは期待してもいいのかもしれない。




「それではスタート! どちらかが酔い潰れるまで飲んでください!」




 ボクの合図で決戦の火蓋は落とされ、三人は目の前のお酒に手を付け始めた。







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