お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

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第八話 ドラゴンキラー

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    ドラゴンとの殺し合いが始まって二秒後早くも決着は着こうとしていた。


 完敗、ボクは多分死ぬ。


 ボクの三度目に放った炎魔法はドラゴンが大口を開けて吐いた炎にあっさりと飲み込まれ、ボクを焼いてしまおうと迫り来る。


「ノエルお姉さん! 避けて下さいっ!」


「あ、え⋯⋯?」


 遠くからルアさんの悲鳴に近いような叫び声が聞こえた。

 それにさえ反応出来ず迫り来る炎をただ呆然と見つめる。



「勇者と言えど所詮は劣等種。呆気なかったな」


「は⋯⋯!?」



 炎に身体を焼き尽くされる寸前、ドラゴンの憎たらしい声が聞こえた。

 コイツ常にドラゴン以外の生物をを見下すような発言ばかりだ。

 生まれてきてたまたま満足のいく身体だったからって、他人に寄り添おうとしないで常にあぐらをかいている。


 こんなやつに負けたくないっ⋯⋯!

 殺されるのなんて絶対勘弁です!


 最後の足掻きと思って何かドラゴンの炎を打ち消せるような、強力な魔法が出る事を祈りながらボクは大きく杖を振るった。



「なっ、我の炎が消えたっ⋯⋯!?」


「え、マジですか? 本当だ消えてる⋯⋯」

 


 杖を振るった結果奇跡は起きた。

 ボクを目掛けて放たれた炎は、まるで連れ去られたかのように忽然と姿を消した。

 ちなみに何故炎が消えたのかはボクにも分からない。


 ただ、助かったという事実だけが残る。


「小娘ら貴様も何が起こったのか分からない顔だな。どうせまぐれなのならもう一度焼き尽くすまで!!」


「あっ⋯⋯あの後ろ見てください⋯⋯」


 敵に塩を送るつもりは無かったがボクはドラゴンの後ろを指さす。

 先程姿を消した炎がドラゴンを後ろから焼き尽くそうと迫っていた。



「な、なんだ⋯⋯? うぐぅぁぁぁぁっ!!」



 ドラゴンは何も反応出来ずに自ら放った炎で自らの身体を焼き尽くすという自体になった。

 正直自分でも意味わからないが生き残ったのはボクなので勝ったと捉えていいのだろう。



「ノエルお姉さん凄い! ドラゴンに勝つなんて!! アイツ、ムカつくし清々しましたね!」


「いや、まあ⋯⋯それよりどうしてボクが勝ったのか分からなくて⋯⋯なんか釈然としません」



 ドラゴンが倒れたのを見てルアさんが獣耳をぴょこぴょこさせながら嬉しそうに駆け寄ってきた。

 まあ当のドラゴンを倒した本人のボクは、難しい顔をして考え込んでいるが。


 もしかしての可能性だが炎を浴びたくない、負けたくないという強い想いが、相手の魔法を反射的な空間転送魔法の発動条件となったりしたんだろうか。

 そうしたら炎が忽然と消えて、ドラゴンの背後から発生したのも納得が行く。


 いや嘘、難しくてわかんない。


 かなりのチート魔法だけど火事場の馬鹿力というやつで本当にまぐれで出来た魔法だから、多分常用は出来ない。



「火炎魔法の時はなんかコツ使い方の掴めたんですけどねえ⋯⋯」


「せっかくドラゴンを倒せたのに、浮かない顔ですね? 何か気になる事でもあるんですか?」



 ルアさんがボクの顔を覗き込んで言う。

 悟られてしまう程、難しい顔をしていたんだろうか。

 確かにルアさんの言う通り、無事に勝利を収められたことを喜ぶべきだろう。



「わー! ボクの勝ちです! 勇者舐めんな、将来的にはお姫様ですけどね!」


「え、急にテンション上がりすぎでは⋯⋯?怖⋯⋯」


「普段のルアさんのテンションに近付けただけなんですけど?」


「え、私はもっと普段大人しくて慎ましやかですけど⋯⋯」



 当たり前の事のように虚偽の深刻をしてくるルアさんに「は?」という顔をししつつも、ボクはある事に気が付く。



「ボクのスカートの裾、焼けてる⋯⋯?」


「あ、本当だ。きっと火の粉が少しノエルお姉さんのスカートに飛んできていたんですよ!」


「は? あのドラゴンマジで殺して正解でしたね。この服気に入ってたんですけど」



 燃えて灰になってしまった裾部を見て、文句を垂れる。

 気に入っていた云々の前にこの服とっても高かった。

 まあ、王からせしめたお金だけど。

 可愛いゴスロリ服だが少しでも裾が焼けてしまっていたら、なんだか着る気が起きなくなる。



「おい弁償できんのよ! です!」、半ギレながら焼き焦げたドラゴンの死体を蹴りあげるボク。


「ちょ、ノエルお姉さん! 死人に口無しですよ⋯⋯落ち着いて下さい」



 死体を蹴りあげるボクを見て、珍しくルアさんがドン引きの眼差しで見つめてきた。

 仕方なしに、「蹴ってすみませんでした」とドラゴンに謝る。

 死人に口無しだから何も返ってこないけど。



 ん? なんか近くから人の気配を感じる。



「凄いじゃないか! お嬢ちゃん達あのドラゴンを倒すなんて!」


「どうもあのドラゴンだけは俺たちでも倒せなくてな~」



 何処から現れたから分からないが鎧を見に纏い手には武器を持った冒険者の様な男性二人が、声をかけてきた。



「あの、どちら様で⋯⋯?」


「俺達は二人で組んで魔物討伐を生業にしてる冒険者だよ」


「はあ、冒険者様ですか」


「しかしお嬢ちゃん凄いなぁ。小型だったとはいえ、ドラゴンを倒せる冒険者はそうそういないはずだが」



 冒険者二人は人の良さそうな笑みをボクとルアさんに向けて褒め称えてくる。

 ルアさんは「えへへ、そうですかぁ?」等とヘラヘラとした態度をとる。

 いやおま、避難してただけです。



「ボク達がドラゴンと戦っている所、見ていたんですね」


「もちろん! お嬢ちゃんの勇士はばっちりこの目で見させて貰ったよ!」


「ということはドラゴンと対峙したのを見ていた上で、加勢には来てくれなかったという事ですか? そうですよね?」


「いやっ⋯⋯それは⋯⋯」



 冒険者達の言葉が詰まる。

 正直小型だったとはいえドラゴンとの戦いはかなりの苦戦を強いられた。

 ボク自身も一度死を覚悟したくらいだ。

 嫌味ではなく、加勢に来て欲しかったのは、紛れもない本音だ。


 いやまあなんの義理もないボクたちを助ける理由も、向こうにはないだろうから責め立てはしないけど。



「お嬢ちゃん⋯⋯悪かったよ。俺達もドラゴンには流石に手が出せなくて」


「ああ、そうだ。その通りだ⋯⋯」


「情けないですね! うちのノエルお姉さんなんて初対面の私を何の利益なしに助けてくれたのに!」



 冒険者達の歯切れの悪い様子を見て、ルアさんはぷんすかと怒りを露にした。

 誰しもが必ず手を差し伸べてくれる訳では無いという事を今度教えておかないと。


 それより本題はそこではないはず。

 当たり前に考えて幾らドラゴンを倒したとはいえ、要件もなしに赤の他人に話しかけてくるなんて変だ。

 先程からひっきりなしにおだててくるのも何か協力して欲しい要件があるからに違いない。



「で、要件はなんですか? お話だけなら聞きますよ」


「さ、察しがいいな⋯⋯。流石ドラゴンを倒しただけある」


「お膳立てはいいので、早くお話ししてくださいよ」



 ボクの態度や口ぶりから無駄に褒める事は逆効果だと察したのか、冒険者達は流暢に話しを始めた。

 ボクとルアさんは黙って耳を傾ける。



「実はこの先にナイルという村がある」


「そしてそのナイルの村から、各位冒険者達に通達が入った」


「その通達の内容は」


「村にワイバーンという強力なドラゴンが現れたから、腕に覚えのある冒険者に助けて欲しいとの内容だった」


「貴方たち息ピッタリですね」



 思わず御二方の息の合いっぷりにツッコミを入れてしまった。

 なんだか息が合いすぎてまるで裏で口合わせをしてたみたいだ。


 大方ボクたちの戦いを裏で見ていて強かったから声をかけようと言う感じか。


 というかワイバーンて、またドラゴンか!

 もうドラゴンと戦うのは懲り懲りだ。

 さっきのドラゴンで小型の部類なら、それ以上の相手の可能性だってある。


 この話断るのが吉だ。

 憶測だが、裏で試されていたのも気に食わない。


「お断りします。ワイバーンなんて恐ろしい生き物、関わりたくないです」


「た、頼むよ! お嬢ちゃん、村の人たちの命がかかってるんだよ!」


「そう思うのならお二人で行けば宜しいのでは? 本当にどうしようもない程危険なのであれば、ボク達みたいな一介の冒険者じゃなくて、軍に訴えかけた方が良いでしょうし」


 ボクの無慈悲とも言える宣告に冒め険者達は黙り込む。

 極々正論を言ったつもりだが、流石にキツい言い方をしすぎてしまっただろうか。


 そしてここで、ずっと口を閉ざしていたルアさんが声を上げた。



「あのっ! 私で良ければワイバーン退治、手伝いますよ!」



 それは意外にも、ルアさんがワイバーン討伐に協力する、という内容だった。


 ボクの連れであるルアさんが協力するという事で、冒険者達からは、「おお!」という歓声が上がる。

 いや何を勝手なことを言ってくれる。

 盛り上がるボク以外の皆の様子を見て、一抹の不安がよぎる。


 なんかこれ、ボクも協力する流れ来そう⋯⋯。




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