お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

しゃる

文字の大きさ
上 下
7 / 23

第六話 外の世界への第1歩

しおりを挟む
    月明かりだけが街を照らす夜。

 なんとかボク達は安宿の一室を取ることができた。


 そしてそろそろ就寝しようかなと思う。


「さて外ももう真っ暗ですしそろそろ寝ません? 一応ボクも男の娘なので、別々に寝ましょう。ボクはベッドでルアさんは床です」


「ノエルお姉さんのお金で寝泊まりしているから⋯⋯それで構いません⋯⋯」


「え、ちょ、そういう時だけしおらしい感じ出すのやめてくださいよ。いいよ、ベッド使え下さいよ!」ルアさんの態度に罪悪感を覚えて、ボクは新しい敬語を生み出しながらベッドを譲る。


「いやいやそれはそれで私も気が引けるし。一緒にベッド使いましょうよ」


 ボクはそれでいいのならと了承し、一つのベッドに横になる。

 歳下とはいえ女の子と同じベッドで眠るなんて初めてだ。


 悲しい事にトキメキも糞もないんですけどね。



「ちょ、毛布取りすぎです。ボクにもかけてください」


「ええーノエルお姉さんこそ、枕独り占めしないでくださいよ」



 ね? トキメキも糞もないやり取りでしょう?

 ていうかマジで毛布持ってかれるんですけど。この宿安かったから隙間風入ってきて寒いんですよ!


「ねえノエルお姉さん。聞きたいことがあるんですけど」不意にルアさんがボクの顔をまじまじと見つめて問う。


「なんですか? ボクの顔になにか付いていますか?」


「いえ、可愛い顔だなって。えと、本当にその⋯⋯男の娘なんですか?」


「まあ一応男の娘ですね⋯⋯。まあ顔は我ながら可愛い顔だと思います」


「本当に可愛いから文句は言いませんけど⋯⋯

 結構キツイですよ?」



 性別を確認されて、ありのままに答えたら何故かまた辛辣な意見が飛んできた。

 心外な意見にわざとらしく咳払いをする。



「まあ男の娘ですけどルアさんに興味は無いので安心して眠って下さい」


「いやまあ⋯⋯不信感は抱いてないですけど。じゃあそろそろ眠ります」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみなさい。今日は色々ありがとうございました⋯⋯。久しぶりに気を楽にして、誰かと会話が出来ました⋯⋯」



 ルアさんは言い終えたあと、事切れたかのように眠りに着いた。

 今日一日で色々な事をしたから、きっと疲れたんだろうな。


 そしてボクも疲れた。

 何時まで続くんだろうこの夢は。

 というか、幾ら夢でも長すぎるしここまでリアリティのある夢は初めてだ。



「まさか異世界転生⋯⋯しちゃいましたかね」



 前の世界にさほど楽しみが無かったせいか、結論の割に自分でも思った以上に他人事のように呟いてしまった。

 創作物特有の物思っていたけれど本当に異世界転生ってあるんですねぇ⋯⋯。


 なんて、そんな感覚だ。


 本当に転生していてもこの見た目の方がボクはボクらしくいられるし、万事オーケーだ。


 惜しむような家族も友人も、ボクには一人だっていない。だったらこの世界で魔王をざっくり倒しちゃって念願のお姫様になった方が良い。



「ま、難しい事は今度にして寝ますか⋯⋯」



 ボクは闇によって暗く染まった空色の瞳を閉じて、深い眠りについた。




「ノエルお姉さーん! 朝ですよー!」


「うっ、うるさいっ⋯⋯何事⋯⋯」


 翌朝、ボクは何故かテンションの高いルアさんに揺さぶり起こされた。


 スロウスターターなボクは朝はゆっくり派だ。

 いきなり高いテンションで来られると正直しんどい。


「うぅ⋯⋯耳がキンキンします。朝なんだから静かにしましょうよ」


「何言ってるんですか! 逆に朝なんだから陽の光を浴びてシャキッとしましょうよ!」


 ルアさんは獣耳をぴょこぴょこと動かしながらカーテンを開ける。

 陽の光ばいっぺんに入ってきて目が眩む。



「うっっ⋯⋯ボク日光は⋯⋯」


「何吸血鬼みたいな事言ってるんですか! 起きますよ!」


「まあ宿も長居できませんし、そろそろ起きて着替えますか」


「⋯⋯⋯⋯はい」



 起こしてきた癖に何故か最後のルアさんは悲しそうな表情をしていた。

 ボクに慣れたのか、せっかく明るく話し掛けてくれるようになったのに。


 釈然としないまま、ボクは可愛いゴスロリ服に袖を通して宿を出る。

 あ、やっぱり似合う。


 そうしてそのまま宿屋を出る。

 いざ、今日から大冒険の始まりだ。



「それじゃノエルお姉さん、お別れですね」


「は?」



 お別れ? 突然の申し出にボクは素っ頓狂な返事をする。



「ノエルお姉さん、勇者なんですよね? 私は行き場のない獣人。そろそろお別れですよ」


「お別れって⋯⋯この先の宛はあるんですか? こんな街で、生きていけるんですか?」


「宛はないです。ただいつかは、故郷に戻りたいと思ってます」



 ルアさんは淡々と語る。口ぶりから、きっと昨日の時点でお別れを考えていたみたいだ。


 正直一日だけの仲なら、放っておいてもいい。

 ただこれがボクから手を差し伸べたのなら話は別だ。

 中途半端にして放っておく事は出来ない。



「あの、故郷に戻りたいんですよね?」


「まあ⋯⋯」


「ボクは勇者として魔王を倒すために世界中を旅します。なので、その途中にルアさんを故郷に送り届けてもいいですよ」


「えっっ」



 ボクの提案に、ルアさんは驚いて固まる。

 都合のいい提案すぎただろうか、なんだかまた断られそうな気がする。

 申し訳ないとか言われそう



「でも申し訳ないですよ⋯⋯。対等な立場なら尚更、私は何もお返しを出来ないんですから」


「うわ、それ言われると思いました。出ましたよお得意の申し訳ないです」


「え?」


「ゴホン。なら今からルアさんはボクの下です。下僕です。這いつくばって下さい。」



 対等が嫌なら、極端な話ボクより下の立場にしてしまえばいいと思ったけれど。

 けど今のは普通に言い過ぎてルアさんが傷付きそうな気がする。

 なんか気まずくてしばらくの間沈黙が続いた。



「優しいんですね。ノエルお姉さん」、先にルアさんが口を開いた。


「そうですか? この世界の人間が冷たすぎるだけだと思いますよ」


「本当について行ってもいいんですか? 私、遠慮していたけど本当は結構うるさいし、朝からテンション高いし、すぐ迷子になるし、故郷まで連れていくの大変ですよ? 」


「ボクはルアさんが思う程優しくないので。そういう時は普通にキレますし、縄で縛って無理やり連れていきます」



 ルアさんの問い掛けに、顔に似合わない毒を吐く。

 助けられたからと、変に理想をボクに求められても困る。

 そしてルアさんは口を開く。



「じゃあ、しばらくお世話になります」


「お世話になってください。というか、悩んだ割に意外とあっさりしてますね」


「んんっ⋯⋯やったーーー!!!」


「え!? いきなり何っ⋯⋯うるさっ!」



 ルアさんは人目をはばからずに、いきなり大声で叫び出す。

 あまりの声量にボクは思わず耳を塞ぐ。

 周囲の人達も驚いた様にルアさんを見る。


 誰もが喧騒に驚いたり耳を塞ぐ中、ルアさんだけは清々しい表情をしていた。



「ありがとうございます。何だか言いたいことを言えて、本来の私でいられそうです!」


「殻にこもる事ほど辛いことは無いですからね。でも声量は程々にお願いしますね?」


「まあ、そこは愛嬌ということで見逃して下さい!」



 何がきっかけになったのは分からないけど、ルアさんは自分自身の殻を破って、ありのままの姿をボクという人間に晒してくれた。


 ボクは「本来の自分」を自分の世界で出来なかったから、本当に凄いことだ。


 ルアさんの輝く桃色の瞳を見て少し羨ましくも思ってしまう。

 きっとルアさんの心はボクよりもずっと強い。



「ねえノエルお姉さん! 早く冒険に行きましょうよ!」


「え、なんでそんな乗り気なんですか?」


「早くこんな糞みたいな街とおさらばしたいからですよ! あ、言っちゃった⋯⋯」


「フフっならとっととこんな街出ないと行けませんね」



 以前だったら絶対言わないような事をルアさんは口走る。

 当の本人は「いけないいけない·····」と両手で口を塞いで焦る。

 その様子が何だか面白くて、ついボクも笑を零してしまった。


 そしてボクもルアさんに同感だったので、ボク達はこの日、外の世界へと旅立って行った。


 ボク達の世界を救う迄の冒険の始まりだ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...