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第1章 幼少期編

5.前世② 邂逅

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ヒロインが魔法学校に転入して、三か月が経った。
今では片手で数えるほどだが友達と呼べる存在がおり、クラスメイトとの仲も悪くない。

転入当初、元平民のヒロインは貴族のマナーや魔法の扱いがなっておらず、蔑んだり疎んだりする生徒も多かった。
そんな態度の生徒は気にせず……と言ったら嘘になるが、自分の能力不足は事実なので、ひたすらがむしゃらに取り組んだ。

普通の学問も大変だったが、貴族のマナーとやらには殊更苦戦した。
前世では一般家庭で育っていたので、先生・先輩程度の上下関係を経験したことはあれど、身分の差というのをこれ程までに痛感させられたのは初めてだった。
立ち振る舞いも、普段使わない筋肉をフル活用するため、運動しているわけでもないのに筋肉痛だった。

唯一、魔法は前世の漫画やアニメのおかげでイメージが湧きやすく、基礎魔法はすぐに扱えるようになった。
自由課題では、大小様々な大きさの火の球や水の球を作って惑星のように頭上で回転させてみたり、光の粒を様々な色に変化させて木をクリスマスツリーのように装飾してみたりした。
見た目が綺麗なだけで特に役には立たない魔法だったが、初めて見る魔法に興味を示したクラスメイト数名が話しかけてくれるようになり、ヒロインを見る目も変わっていった。

ヒロインの努力の甲斐あって、貴族のマナーはまだ要勉強とはいえ相手を不快にさせない程度まで成長し、魔法に至っては周囲から称賛されるレベルまで上がった。

未だに嫌忌してくる生徒はいるものの、認めてくれるクラスメイトや先生のおかげで、ヒロインの新生活はかなり居心地の良いものになっていた。

もちろん、親友探しを諦めたわけではない。
クラスメイトにそれらしき人物がいないと判断してからは、他クラスや上級生にも捜索範囲を広げている。

さて、貴族のマナーに疎いということは、貴族そのものにも疎い。
今の家に引き取られてから、十分な知識を詰め込まれずに学校へ放り込まれたヒロインは、基本中の基本と呼ぶべき公爵家の名すら知らなかった。
平民的な表現で言うならば、「マジかよ」という顔をして友達に呆れられたが、知らないものは知らない。
ヒロインは友達に頼み込み、家のことや家同士の関わり合いなど、生の声でしか分からないような知識も吸収していった。

そんなある日、食堂以外で滅多に顔を合せることのない上級生達が、下級生の校舎に集まっているのを見かけた。

一つや二つ年上なだけで随分と大人びて見えるものだと、ヒロインが上級生達をぼんやり眺めていると、一際目立つ美しい女子生徒が現れた。

あの飛び抜けた美人は一体誰かと友達に尋ねると、「あれがこの前教えた公爵令嬢の○○様。王太子殿下の婚約者よ。素敵よね」と小声で返される。
なるほどとヒロインが頷き、眼福だなぁと感嘆の声を上げる。前に貴族図鑑の姿絵を見せてもらったが、あれほど綺麗な方だったろうか? 

同性でもドギマギしてしまいそうな彼女をもう暫く見ていたかったが、これ以上遠慮なく見ていると不敬に当たりそうだと、ヒロインが視線を外そうとした瞬間――公爵令嬢がこちらに振り返った。

遠巻きに見ていたヒロインと、彼女の視線が合う。

「……ッ!?」
「……!!」

この世に転生してから、一番の衝撃だった。
互いに目を見張り、足が地面に縫い付けられたかのように動かない。

姿形は以前と全く異なるが、直感がそれ以外の何者でもないと告げる。

次の授業が始まってしまうからと、友達が硬直しているヒロインをその場から連れ出した。
友達に背を叩かれて我に返ったヒロインは、チラリと後ろを振り向きながら、もう一度公爵令嬢の顔を確認する。

まだこちらを見ていた公爵令嬢が、おおよそ貴族の令嬢らしくない――ウインクをこちらに寄越した。

ああ、間違いない。彼女は。

ヒロインは、教室へ進んで行く友達の背を追いながら、込み上げる歓喜に顔がにやける。締まりのない顔を他人に見せないよう、気休めに口元を手で覆うが、目元が緩みっぱなしでヘラヘラした表情は隠せない。
友達に不審な目で見られ、頭でも打ったかとヒソヒソ囁かれたが、親友との一人生越しの再会に喜ばない方がおかしいだろう。

十数年一緒にいた親友のことは、姿形が変わっても何を考えているか分かるものだなと、ヒロインは心を弾ませる。
周りの目があるからウインクだけだったが、彼女も相当喜んでいたのがヒロインには分かった。

これから先の毎日がどんなに楽しいものになるだろうかと期待に胸を膨らませながら、ヒロインはその日一日中すこぶる機嫌良く授業を受けた。

教師にまで「何かあったのか」と言われるほどあからさまだったという。










――ヒロインと公爵令嬢の出会いで、事態は大きく動き出す。

へ向けて。
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