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第1章 幼少期編
2.前々世
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アリスの前々世は普通の女子高生だった。
学業の成績は平均より多少上程度だったので、先生からの受けは可もなく不可もなく。
しかし、友達と呼べる子はまぁまぁいたし、部活は結構精力的に励んでいたので、総合的に見れば高校生活は充実していたと言っていい。
何より、親友と毎日過ごせるのが楽しかった。
幼稚園の時からの友達で、小・中と過ごすうちに仲良くなり、高校まで一緒になった上に同じクラスだったときは「すごい腐れ縁だね」とお互いに苦笑しながらも、内心は途轍もなく嬉しかった。
価値観だとか気の持ちようだとかが似ていて、親友の隣は居心地が良かった。
どこかに遊びに行くでもなく、部屋でそれぞれが思い思いのことをして過ごすこともあった。
別々のことをするなら自分の家でやればいいと思われるかもしれないが、「一緒の空間にいる」ことが二人にとって一番楽しくて、大切な時間だった。
親友とは趣味も似ているものが多かったが、彼女の影響で手を出したのが乙女ゲームだった。いや、手を出したという能動的な表現は些か誤りがある。
というのも、周りにやっている子がいなくて寂しすぎて兎のように死んでしまいそうだから、どうか一作品だけでいいからやってくれないかと連日懇願され、正直全く興味がなかったのに、あまりの熱意にとうとう根負けした……というのが真相なのである。
やってみると言った途端、ケロッとした顔ですでに手元に用意していた乙女ゲームを渡されたときは、本当にイイ性格をしていると思ったものだ。だいたい、兎は寂しくても死なない。
親友は熱烈な乙女ゲームファンで、新旧問わず乙女ゲームとあらばプレイを試み、コンプリートするまでやり込む猛者だった。
学業や部活以上に真摯に取り組んでいる姿に、呆れるのを通り越して尊敬の念を抱くくらいの入れ込みようだった。
ただ、乙女ゲーム語りが始まると止まらないし、気に入ったストーリーは耳にタコができるほど繰り返すし、気が済むまで放してもらえないし、彼女のそういうところはちょっと辟易としていた。
しかしまぁ、自分も趣味の話となると大概同じようなことを彼女にしていたので、お互い様である。
*****
幼い頃からの友達なだけあって、二人は家が近い。
二学期が終わり、夏休みは何をして遊ぼうかと同じ方向へ足を向ける。
まだ七月なのにこんなに暑くて八月を生き抜けるんだろうか、と大量に流れ出る汗をタオルで拭く。クーラーの効いた電車が待ち遠しく、手でパタパタを仰いでみるがたいした風にはならない。
じめじめした不快感MAXの暑さの中、「まもなく電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」とアナウンスが流れる。
意外と早く来て助かったと二人で笑っていたら、目の前で小学生達が遊び出した。
ふざけ合う彼らに危ないなぁと思いつつ、声を掛けるか迷うのも束の間、一人の子が背負った重いランドセルに引っ張られてプラットホームへ身体が傾く。
「危ないっっ!!」
咄嗟に駆け出して落ちそうになった小学生の手を握り、くるりと体を回転させて、小学生をプラットフォームへ突き飛ばす。突き飛ばされた小学生が、何をされたのか分からずに呆気にとられたまま、尻餅をついていた。
部活で鍛えられた反射神経が役に立ったなぁと、無事だったその子を見て口元が緩んだ。
が、どうも自分は駄目らしい。
やけにスローモーションで電車が近づいて来る。
目を閉じた瞬間、言い表せないほどの衝撃が体を襲い、空中に跳ね飛ばされた。
痛みは覚えてないので即死だったのだろうが、最期に聞こえた親友の悲鳴がいやに耳に残っている。
――と、それがアリスの前々世の記憶である
学業の成績は平均より多少上程度だったので、先生からの受けは可もなく不可もなく。
しかし、友達と呼べる子はまぁまぁいたし、部活は結構精力的に励んでいたので、総合的に見れば高校生活は充実していたと言っていい。
何より、親友と毎日過ごせるのが楽しかった。
幼稚園の時からの友達で、小・中と過ごすうちに仲良くなり、高校まで一緒になった上に同じクラスだったときは「すごい腐れ縁だね」とお互いに苦笑しながらも、内心は途轍もなく嬉しかった。
価値観だとか気の持ちようだとかが似ていて、親友の隣は居心地が良かった。
どこかに遊びに行くでもなく、部屋でそれぞれが思い思いのことをして過ごすこともあった。
別々のことをするなら自分の家でやればいいと思われるかもしれないが、「一緒の空間にいる」ことが二人にとって一番楽しくて、大切な時間だった。
親友とは趣味も似ているものが多かったが、彼女の影響で手を出したのが乙女ゲームだった。いや、手を出したという能動的な表現は些か誤りがある。
というのも、周りにやっている子がいなくて寂しすぎて兎のように死んでしまいそうだから、どうか一作品だけでいいからやってくれないかと連日懇願され、正直全く興味がなかったのに、あまりの熱意にとうとう根負けした……というのが真相なのである。
やってみると言った途端、ケロッとした顔ですでに手元に用意していた乙女ゲームを渡されたときは、本当にイイ性格をしていると思ったものだ。だいたい、兎は寂しくても死なない。
親友は熱烈な乙女ゲームファンで、新旧問わず乙女ゲームとあらばプレイを試み、コンプリートするまでやり込む猛者だった。
学業や部活以上に真摯に取り組んでいる姿に、呆れるのを通り越して尊敬の念を抱くくらいの入れ込みようだった。
ただ、乙女ゲーム語りが始まると止まらないし、気に入ったストーリーは耳にタコができるほど繰り返すし、気が済むまで放してもらえないし、彼女のそういうところはちょっと辟易としていた。
しかしまぁ、自分も趣味の話となると大概同じようなことを彼女にしていたので、お互い様である。
*****
幼い頃からの友達なだけあって、二人は家が近い。
二学期が終わり、夏休みは何をして遊ぼうかと同じ方向へ足を向ける。
まだ七月なのにこんなに暑くて八月を生き抜けるんだろうか、と大量に流れ出る汗をタオルで拭く。クーラーの効いた電車が待ち遠しく、手でパタパタを仰いでみるがたいした風にはならない。
じめじめした不快感MAXの暑さの中、「まもなく電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」とアナウンスが流れる。
意外と早く来て助かったと二人で笑っていたら、目の前で小学生達が遊び出した。
ふざけ合う彼らに危ないなぁと思いつつ、声を掛けるか迷うのも束の間、一人の子が背負った重いランドセルに引っ張られてプラットホームへ身体が傾く。
「危ないっっ!!」
咄嗟に駆け出して落ちそうになった小学生の手を握り、くるりと体を回転させて、小学生をプラットフォームへ突き飛ばす。突き飛ばされた小学生が、何をされたのか分からずに呆気にとられたまま、尻餅をついていた。
部活で鍛えられた反射神経が役に立ったなぁと、無事だったその子を見て口元が緩んだ。
が、どうも自分は駄目らしい。
やけにスローモーションで電車が近づいて来る。
目を閉じた瞬間、言い表せないほどの衝撃が体を襲い、空中に跳ね飛ばされた。
痛みは覚えてないので即死だったのだろうが、最期に聞こえた親友の悲鳴がいやに耳に残っている。
――と、それがアリスの前々世の記憶である
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