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42 愛を乞う夜明け - une aube douce -

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 東の空が黄金色に輝く頃、アルヴィーゼは目を覚ました。腕の中には昨夜と変わらずイオネがいて、静かな寝息を立てている。
 アルヴィーゼはイオネの背を覆い隠す胡桃色の柔らかい髪に触れながら、頭では目まぐるしく今後のことに考えを巡らせていた。
 折よく新邸披露の夜宴は明後日行われる。あの好奇心旺盛な妹たちは、コルネール邸で催される夜宴に出たがるだろう。二番目の妹はその限りではないが、押しの強い姉と妹が望めば拒まない。
 そうなれば、必然的にイオネも出席することになる。くそ真面目なこの女が気儘な妹たちだけをコルネールの夜宴に放り出すはずはない。
(見せつけてやろう)
 他の男がダンスを申し込む隙もないほど片時も離れずにいれば、自ずとイオネがルドヴァン公爵アルヴィーゼ・コルネールにとってどういう存在か知らしめることができる。シルヴァン・フラヴァリはおろか、どんな男も入り込む隙はない。
 その後は、イオネの母親とエリオス・クレテへ宛てて書簡を送り、今後イオネに余計な縁談は不要であると告げる。
 あとは、イオネをますます深みに堕としていくだけだ。
(最初に身体――これはうまくいっている。心の方は、まだ到底足りないな)
 ようやくイオネがこちらへ自ら落ちてきたとは言え、満足と言うには程遠い。頭の中をアルヴィーゼのことでいっぱいにしようが、それは永続的なものではない。知識欲を刺激するものがあればすぐにそちらに目移りするだろうし、仕事が目の前にあれば男のことなど思考の隅に追い遣られる。
 イオネ・クレテとはそういう女だ。きっとこれから先も、ことイオネの心を独占するという一事においては、アルヴィーゼの欲求が満たされることはないだろう。
(だが、昨晩のあれはよかった)
 油断していると口元がだらしなく緩んでしまいそうだ。
 ――ひとこと、遊びじゃないって言って。
 そう所在なげに懇願したイオネの顔は、きっと生涯忘れないだろう。
 遊びならこんなに必死にならないし、無様な姿を晒すはずもない。当然のことだ。それを確かめるのにあれほど不安がっていたとは、まったく勘が鈍いとしか言いようがない。が、イオネが自ら答えを求めてきたことには、トカゲの卵が白鳥に成長したような目覚ましさがある。
「ぅん…」
 イオネが小さく呻いて寝返りを打ち、アルヴィーゼの方へ顔を向けた。
 柔らかく波打つ髪が、顔を隠している。アルヴィーゼはイオネの髪を耳の後ろに払って、露わになった頬に口付けをした。
(寝室はやはり一緒にしておく必要があるな)
 この寝姿を毎日愛でるためだ。拒否されるだろうが、どんな手を使ってもはいと言わせてやる。
 イオネは微かに眉を寄せて唇をむずむずさせ、長い睫毛を震わせながら、頭がちょうどよく収まる位置を探してアルヴィーゼの腕の上でもぞもぞと動き、やがてアルヴィーゼの胸にぴったりとくっついて、胴にしがみ付いた。
 イオネの寝息が首にかかった瞬間、身体に血が走り、無様なほどに生理的な反応を示した。
「ふっ」
 思わず笑い声が漏れた。これでは本当に獣だ。
(まあ、今更だ)
 イオネが現れてから正気だったことはない。アルヴィーゼは迷わずイオネのガウンの下に手を入れ、寝衣の胸元の紐を解いて前を開いた。
 天蓋のカーテンの隙間から秋の柔らかな陽光が漏れ、暴いた肌を白く照らしている。アルヴィーゼは乳房の中心を隠している寝衣の襟を指で摘まみ下ろし、淡く色付いた先端に口付け、舌で触れた。寝息は穏やかなまま続いているのに、舌で撫でている場所が次第に硬く立ち上がっていく。
 意識の無いイオネを欲望のまま下劣な行為で汚すことには、罪悪感など微塵もない。そもそもイオネはそんな倫理観を期待してはいない。
「ふ、ぅ…」
 イオネの息が上がり始めると、胸を撫でて食むだけの行為では物足りなくなった。寝息の中に甘い声が混じっている。アルヴィーゼが寝衣の裾をめくり上げて下着の紐を解き、指で触れた先は、既に濡れていた。
「寝ている間に好き勝手されて濡らすとは、少々警戒心が足りていないな」
 それでも起きる気配がないのだから、もうこの女を他所で寝かせることはできない。
(さっさと囲い込んで永遠に閉じ込めてしまおう)
 アルヴィーゼはイオネの身体を仰向けに転がして腿を掴み、脚の間に膝をついて、濡れている秘所へ吸い付いた。
「んぁ…」
 唇で触れた実が膨れて、舌を這わせている内部が熱くうねり、奥から蜜が溢れてくる。舌から唇へ伝い、顎を濡らすほどだ。
 あれほど頑なな女が淫らな身体になってしまったのは、他でもない、自分のせいだ。身体の奥から歓喜が湧いてくる。今すぐ中に入りたいが、だめだ。今日は特に時間を掛けなければならない。
 イオネの細い腰が小さく震えて強く内側を収縮させた瞬間、アルヴィーゼはそこから唇を離した。
「おはよう、イオネ」
「…っ、なにしてるの」
 目も声もまだぼんやりしている。
「恋人同士がすることだ」
 アルヴィーゼは笑ってもう一度秘所に深い口付けをした。畳み掛けるなら今だ。
「んっ…!やぁ…。昨日いやって言ったわ…」
「ああ。‘今夜はいやだ’と言っていたから我慢しただろ。もう夜は明けた」
「あ…!」
 イオネの手が頭を掴んでくる。が、力が入らず弱々しく髪を撫でられているようなものだ。その細い指が髪の中へ入ってくる感覚さえ、ぞくぞくする。
 意識はまだ覚醒していないが、丁寧に解したから内部はよく感じるようになっている。あとは、イオネを悦楽の深淵へ引きずり込むだけだ。
「よくないのか?」
「あ…いや。待って…あっ」

 まだ半分は微睡まどろみの中にあった意識が弾けるように覚醒したのは、脚の間でアルヴィーゼが舌を蠢かせ、入り口で膨れた実に強く吸い付いた瞬間だった。
「ああっ――!」
 急激に熱がほとばしって意識が頂点へ昇り詰めた。イオネは呆然と浅く息をして、自分の上で寝衣を脱ぎ捨てるアルヴィーゼを見上げた。精悍な肉体が朝陽を受けて輝き、筋肉の隆起が官能的な陰影をその肉体に踊らせている。
 ゆったりと弧を描いた目が、ひどく淫らで高慢に見えた。それなのに、他の誰にも見せない優しさと熱を孕んで、イオネの心をぎゅうぎゅうと締め付ける。狡い男だ。
「まだ痛むのか」
「痛むわ」
 そう言えば昨日と同じようにあっさり引くかと思ったが、予想は外れた。
「それならよく馴らさないとな」
 アルヴィーゼは艶然と微笑んでイオネの足首を掴み、寝衣の裾の中へ頭を沈めた。
「ちょっ…あっ!ああ――」
 秘所の感じやすい場所を舌でつつかれ、イオネは腰を反らして悲鳴を上げた。同時に中心へ指が入ってくると、甘い痺れが指先まで広がって頭がぼんやりとしてくる。それなのに、アルヴィーゼは身体の奥に緩慢な刺激を与えるだけで、再び絶頂に導いてはくれない。
(恥ずかしい…)
 身体の奥がひくひくと淫らに蠢いているのが、自分でも分かる。
 浅く速い呼吸に甘えるような声が混ざってしまうのも、堪えきれない。
「だめ…」
「好いなら好いと言え」
 イオネはふるふると首を振った。
「それは逆効果だぞ」
 アルヴィーゼの指が身体の中心で呪文を描くように動いている。触れる場所が熱くなって、ぞくぞくと興奮が奔り、意識を遠くへ連れて行こうとする。散々に嬲られて感じやすくなった身体が、その先を欲しがっているのだ。
「んぁっ…」
「ここがいいのか」
「…っ、そこ、へん」
 でももっと奥に、指ではないものが欲しい。
 イオネは胸の上で肌を味わい始めたアルヴィーゼの耳を掴み、顔を上げて意地悪く笑う男を恨めしげに睨め付けると、胸から顎へ啄むように這い上がってきたアルヴィーゼの頬を引き寄せ、唇に甘く噛み付いた。
「激しくしないで」
「努力するが、半分はお前次第だ」
 アルヴィーゼが一瞬苦笑するように唇を吊り上げて、イオネに深く口づけ、さざ波のような優しさで秘所に触れると、腹の奥がどうしようもなく熱くなった。イオネが堪えかねてアルヴィーゼの首の後ろに腕を巻き付けた時、膝を抱え上げられ、アルヴィーゼが中にゆっくりと入ってきた。
「んん…っ」
 気持ちいい。二晩前は手酷くされたのに、今は驚くほど優しく甘い触れ方だ。繋がった部分が熱く滑り、散々に濡らされた身体の中心が更に奥へアルヴィーゼを呑み込もうとしているようだった。
 重なった唇の奥で、アルヴィーゼが苦悶するように呼吸しているのが分かる。
「ああ、狭いな」
 唸るような掠れ声だ。どういうわけか、これがイオネの神経をぞくぞくと過敏にした。寄せては打つ波のように繰り返される律動が、五官を快楽に浸していく。
 息が上がり、頭の中に靄がかかり始めた頃、アルヴィーゼが乳房の中心に吸い付いた。急激に強くなった刺激に身体が激しく反応し、いとも簡単に絶頂へ達すると、一気に身体の力が抜けた。
 ちかちかと閃光が舞っているような感覚だ。
「…ッ、まだ痛いか」
 イオネはとろりとした意識に沈みながらアルヴィーゼの顔を見上げ、小さく首を振った。
「気持ちいい」
 アルヴィーゼの眉間に皺が寄った。
「激しくして欲しくないんじゃなかったか」
「えっ…あ!」
 アルヴィーゼが中に入ったままイオネの脚を広い肩に担いで最奥部を突いた。
 何度も繰り返し与えられる甘美な衝撃に身体を震わせ、悲鳴をあげた。アルヴィーゼが反応を伺うように、こちらをじっと見つめてくる。静かな緑色の目の奥に、身を焦がすほどの熱がある。
 今なら分かる。
 これは冷酷で傲慢な男がたった一人だけに向けるものだ。
 きっと最初の晩からこの狂気にも似た感情をぶつけられていたのだろうと思うと、全身の内側から引き絞られるように苦しくなった。
 アルヴィーゼが苦しそうに呻いて、頬に触れる。イオネは自分も知らない身体の奥で新たに生まれる熱を持て余し、アルヴィーゼの獣じみた口付けを迎え入れた。
 信じられないほどの法悦が真っ白な波となってイオネを包み、アルヴィーゼが熱情を体内に満たした時、イオネはこの行為の意味を理解した。
 これは男が女を手に入れる行為ではない。アルヴィーゼはずっと愛を乞うていたのだ。
 イオネは言葉を返す代わりに、絡み合った指に頬を擦り寄せ、筋の目立つアルヴィーゼの手にそっと唇で触れた。
 アルヴィーゼの強く甘い視線に心臓がどくどくと打ち、眩暈がした。この男の美貌は、目に毒だ。
「それはもう一度してもいいという意思表示と受け取るぞ」
「えっ。だ、だめ…」
 否定の言葉は意地悪く笑んだアルヴィーゼの唇に阻まれ、イオネは再びその熱情の深さを思い知らされた。
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