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四十、秋花の庭 - i fiori autunnali -
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オアリスの街に冷たい風が吹くようになった。
海に近い土地柄、夏を超えると冷たい風が吹いて一気に気温が下がり、人々の服装が軽やかな麻や綿の布地から重く厚みのある綿織物や毛織物へと変化する。が、夏が過ぎたばかりのこの時期は、天気の良い日中は太陽の力が地上に及び、薄手の上衣でも十分なほどの暖かさだ。
変化したものといえば、気候だけではない。
イグリやリコらサゲンの部下五人は、士官学校時代から続いていたバルカ邸での奉公を終えてそれぞれの小隊を持つことになり、バルカ邸には正式な使用人が七人やってきた。
彼らの選任については、サゲンがロハクに依頼した。「個人の屋敷のことなど何故わたしがやらねばならないのか」などとロハクの小言が飛んでくるに違いないと思ったが、当人は意外にもあっさりと承諾し、迅速に実行した。当初内定していたのは五人だったが、後から彼らに加えてエラとケイナをバルカ邸で正式に雇うことが決まった。これは、アルテミシアがかつて女王に「侍女にしてやれ」と言われたことを思い出したからではなく――もっとも、アルテミシアはまだ自分に侍女が必要だと思うには至っていない――エラとケイナが城女中の中でも優秀であることを知っているからだ。それに、多くの時間を共に過ごすことになるのならば、気心の知れた相手の方が気楽というものだ。
ロハクなどはエラを城へ雇い入れた当初は迷惑がっていたくせに、素直で機転の利くエラと少々お喋りではあるが経験豊富でどの持ち場の仕事でもソツなくこなせるケイナを手放すのは惜しかったらしい。アルテミシアがロハクを通さずに二人にバルカ邸での仕事を持ち掛け、彼女たちが二つ返事で快諾したものだから、またしてもアルテミシアは身体中に釘を打ち付けられるほど説教される羽目になった。しかし、二人を手に入れるためなら安いものだ。
新しい使用人たちの仕事ぶりは見事なもので、特に若い頃にいろいろな国を旅して回ったという料理番のマキべの腕は際立って素晴らしかった。しかしながら、主人であるサゲンが最後にその恩恵を受けたのは既に二週間前のことだ。サゲンはパタロアから戻ってひと月余り、食堂の椅子に腰を落ち着ける暇もないほど多忙を極めている。同じ屋敷に住むアルテミシアでさえしばらく顔を合わせていない。
多忙なのは、サゲンだけではない。
アルテミシアも毎日膨大な量の仕事に追われていた。早朝六時に登城し、バルカ邸へ戻る頃にはだいたい九時を回っている。海賊討伐の連合軍がヒディンゲル逮捕へ動き出したことにより、複数の国と歩調を合わせる必要ができたため、それぞれの国の法律に照らし合わせながら機密情報の保持を求める書類を作ったり、これらに関する女王の公式文書の校正をしたりしなければならなかったのだ。それに加えて、女王と他国の要人が会談する際には通詞として同行しなければならず、泊まりがけで遠方の夜会に出席することもあった。
重なる疲労とサゲンに会えない時間が、アルテミシアの心に少なからず影を落としている。
王侯貴族の夜会に出掛けてまず目に付くのが、女主人たちの徹底した立ち振る舞いだ。彼女たちの仕事振りは優雅で気品に溢れ、卓越した美的感覚を示している。彼女たちは装飾品の配置からカーテンを留めるタッセルの素材まで抜かりなく指示を出して使用人たちにも間違いなく準備をさせ、当日は主賓である女王よりも煌びやかにならないよう、更にドレスの色が重ならないように細心の注意を払って身につけるものを選び、食前酒からデザートに至るまで、その季節や気候に合うよう、尚且つ主賓の趣味に合うよう配慮されている。
あの快活で陽気なイサ・アンナ女王がドレスの色が他の夫人と同じだったくらいで不愉快に感じることなどあるだろうか――むしろ「そなたもか!」などと手を打って喜びそうなものだが、とアルテミシアは訝ったが、夜会に同行したロハクはまるで子供を諭すような調子でアルテミシアに言った。
「まだまだ分かっていないようですね。こういうことは、暗黙の了解なのです。陛下ご自身が気にされようがされまいが、この程度の気遣いが出来なければ夫君はおろか、一家一門の品格さえ貶めることになります。あなたは子供の頃からこういう類のことと距離を置いていたようですから知らなくても仕方ありませんが、これが王侯貴族の社会なのですよ」
「ふうん…。不思議」
この時アルテミシアは気のない返事をしたが、内心では言い知れぬ不安が小さな渦を巻き始めた。
バルカ子爵夫人になった時、これらの一切を宰領するのはアルテミシアでなければならない。それも、サゲンの申し入れを受けたとしたら、そう遠くない将来のことだ。
それから数日経ったある日、幾日も休む間もなく執務に明け暮れていた女王が遂に我慢の限界を迎えた。
イサ・アンナは小さな黒い染みを点々と書類に飛ばして羽ペンを置くと、執務室の続き部屋で机に向かっていたアルテミシアを連れ出し、ぞろぞろと後に続こうとしたロハクら侍従を蝿でも追い払うように振り払って執務室に留まらせ、庭園へと赴いた。
オアリス城の庭園では、薔薇や桔梗の花が咲いて枯葉の目立ち始めた足元を彩り、秋風の中に可憐な香りを放っている。一年を通して花の彩りと香りを楽しめるよう、イサ・アンナが大改修の際に古今東西から花の苗や種を集め、専門家を雇って植えさせたものだ。それまで朴訥な軍人気質の君主が三代続いていたために風流ながら古木の多いやや殺風景な庭園だったが、イノイル建国以来初の女王が誕生したことにより景観がガラリと変わった。そして、この変化は城の使用人だけでなく客人たちにも嬉しい驚きをもたらしたものだった。
アルテミシアはイサ・アンナの隣を歩きながら、秋風と花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。飽和状態の頭にはいい刺激になる。何しろ、パタロアから帰国してからというもの、俄かに外国との書簡が増え、女王直筆の手紙の他、ロハクの書いた公的な書状を翻訳、校正する作業に追われていたのだ。イサ・アンナからの散策の誘いは跳び上がって喜びたいほどありがたいものだった。
「ナヴァレとの共同作戦ということで調整がついたそうですね。しかも、交渉の末に指揮権を勝ち取ったとか」
「まあ、領内で海賊どもに好き勝手にさせていたエマンシュナの手落ちだからな。加えて西方が不穏とあっては、レオニード王も譲歩せざるを得まいよ」
イサ・アンナがさくらんぼ色の唇を得意気にニヤリと吊り上げた。ナヴァレの力を得、その上指揮権をこちらが掌握してエマンシュナ領内で作戦を実行できるとなれば、老練なレオニード王との政戦に大勝したと言える。
「イサ・アンナ様のお陰でわたしたちも存分に動けそうです」
「それはよかった。ところで、そなたの母上はあれからどうしている?沙汰はあったのか」
「はい。さっさとトーレへ移りたかったようですが、屋敷が突然無人になると作戦に不都合と言うことで、フラヴァリ提督とチェステ公からしばらく留まるように要請されたそうです」
手紙が届いたのは、ほんの三日前のことだ。母親の筆跡を見るのはとても久しぶりだったが、所々筆圧が強くなったり字が雑になったりと、不満げな様子がありありと見て取れた。最後に「いつ我慢の限界を迎えてこの屋敷の壁を壊してしまうか分からない」と、あながち冗談でもなさそうな一文が添えられていたのにはおかしくなって笑ってしまったが、あの儚げだった母がこれ程の気性の持ち主だったということに対する驚きの方がよほど大きかった。
「血は争えんな」
イサ・アンナが笑いながら言った。アルテミシアの気骨は、明らかに母親から受け継いだものだ。
「あの気性の人が、留守がちだったとは言ってもベルージみたいな男と同じ屋敷で暮らしていたんです。相当の忍耐力だったと思います。わたしには、とてもできません」
アルテミシアは、母親の二十余年の歳月を思った。アルテミシアの母に対する印象は、先頃の再会で引っくり返ってしまった。
「そなたも親になれば分かるさ。母親は子のためならどんなことにも手を染めるものだ。愛は時に自我さえ凌駕し、しばしば慈愛と冷酷の境界を失くす」
「そうかもしれませんね。母は今、ベルージに対して徹底的に冷酷さを発揮しています」
アルテミシアは皮肉げに言って見せたが、内心では母親の清々しいほどの転身ぶりに胸がすく思いがしていた。
先日受け取ったミルコ・フラヴァリからの報告には、こうあった。
捕縛されたベルージは当初、ルメオ軍に対して傲岸にも取引を持ちかけていた。ヒディンゲルとの連絡方法や違法な売買、出資などの詳細を語る代わりに、資産の没収をせず、罪にも問わないというものだ。あまりに馬鹿げていたが、ルメオ軍としてはリストに名の無い下っ端のベルージの尋問に時間を取られるよりも、早々にヒディンゲルという大物を捕らえたい。
そこで交渉の結果、軽微な減刑と土地を除く資産をベルージに残すという措置が取られることになった。ベルージはこれで手を打った。刑期を終えた後、余生を田舎で安穏と暮らせる程度の金は残っているから、隠棲しようと考えてのことだった。
ところが、マルグレーテがそれを許すはずがない。
マルグレーテは銀行に残ったベルージ名義の資産をまだ辛うじて有効なベルージ男爵夫人の権限でもって全て自分個人の名義へと書き換え、いずれパタロア領主へ返上する土地と屋敷以外の全ての書類からエンリコ・ベルージの名を消し去った。そして、マルグレーテはその金を自分の手元には一切残さず、全て孤児院や僧院や慈善団体などに寄付した。夫の悪行を知りながら止められなかったことに対する、彼女なりのせめてもの贖罪だった。
牢獄にいるベルージは、自分のよすがが全て消え去ったなどとは知る由もない。知る時が来るとすれば、年老いて牢獄から解き放たれ、銀行へ赴いた時だろう。その時になってベルージは絶望し、地獄を知ることになる。それこそがマルグレーテの復讐だった。
やがて女王とアルテミシアは池へと差し掛かった。水面が秋の陽光を受けてキラキラと弾けるような輝きを放ち、それらを揺らしながら鴨の親子が列をなして泳いでいる。
「さあ、もう仕事の話はよそう。わたしが何のためにそなたを連れ出したと思う?」
アルテミシアはちらりと前方に視線を走らせた。池の真ん中の東屋が視界に入ると否が応にも宴の夜の不愉快な記憶が頭を掠めたが、よく見るとその中央の小さなテーブルに焼き菓子の乗った皿とポット、カップが二つ置かれている。アルテミシアはにんまりと女王に笑いかけた。
「おやつですね」
「さよう」
イサ・アンナが白い歯を見せた。
(美しい方だな)
と、向かいに座って菓子を頬張る女王を見ながらアルテミシアは思った。化粧やドレスのせいではない。首の向きを変えるだけでも所作の美しさが際立ち、瞳は常にキラキラと英気に満ちて、髪や爪の先に至るまで輝きを放つようだ。
「なんだ」
イサ・アンナが真っ黒な瞳をアルテミシアへ向けた。君主の顔をじろじろと見るなど無礼極まりない行為だが、アルテミシアは尚も女王の貌にぼんやりと見入っている。
「おきれいだなと、思いまして」
「ハハ!神妙な顔で何を言い出すのかと思えば」
イサ・アンナは快活な笑い声をあげた。
「そう言うそなたこそ、近頃城内の男どもが今にも火が点きそうな目でそなたを見ていることに気付いているのか」
と、イサ・アンナが面白がって言ったのは誇張ではない。
アルテミシア・リンドは元々どことなく少年のように中性的で独特な魅力の持ち主だったが、ここのところは雰囲気が変わってきた。
近頃、バルカ邸の使用人として雇われたエラとケイナが、いつも雑に後ろで一つにまとめ、一向に化粧をしようとしなかったアルテミシアの身だしなみを毎朝美しく整えてやっているという話は聞いている。これも要因の一つになっているだろうが、全体を見れば些細なことだ。
(やはりあの宴の夜からだな)
と、イサ・アンナは見抜いていた。
船を降りて本来の白さを取り戻しつつある肌は陽光を受けて艶めき、赤みがかったブロンドの髪はおしゃれへの情熱でいっぱいの女中たちによって美しく結い整えられ、その下に思わず触れたくなるような細い頸が伸びて、ドレスが白い胸元としなやかな身体を覆っている。しかし、身体の内側から匂い立つ色気は、覆い隠せるものではない。
王宮を歩けば男たちが花を愛でるように振り向き、鍛錬場へ出向けばよそ見をする者が増えるのだ。イサ・アンナやロハクに仕える若い近習たちも例外ではなく、アルテミシアが女王の執務室へ現れると、彼らは皆そわそわと落ち着きがなくなる。周囲から見ればあまりに滑稽な光景だ。しかし――
「へ?」
と、この気の抜けた返答が示すように、当の本人は気にも留めていない。イサ・アンナは思わず苦笑した。
「まったく、わたしに向かってそのような気の抜けた声を出すのはそなたくらいのものだぞ」
「あ、これは失礼を」
「よい。身分や齢は違えど、そなたとは友人のつもりでいるからな」
アルテミシアは頬を赤らめ、はにかんだ笑顔を見せた。
「それは、身に余る光栄ですが…責任重大です。わたしのような友を持ってイサ・アンナ様に恥をかかせることがないよう、気を付けなきゃいけませんね」
冗談交じりに軽い調子で言ったが、内心では言葉通りのことを重く考えていた。ここのところは、分不相応なものがますます大きくなっているような気がする。
イサ・アンナは、アルテミシアの不安を感じ取ったように顔からリラックスした笑みを消し、これから口に入る予定だったクリームたっぷりの焼き菓子を皿に戻した。
「なんだ、珍しく辛気臭いではないか。いつもの自信に満ちたアルテミシア・リンドはどこへ行ったのだ」
アルテミシアは肩をすくめ、彼女には珍しく気弱な笑みを見せた。
「わたし、子供の頃は勉強ばかりしていたから、女友達って今までほとんどいたことがないんです…。男子と同じ授業を取っていて変り者だと思われていたから、大学でも女の子たちからは敬遠されていたし、船は当然男ばかりだったし…。そもそもこの手の悩み自体持ったことがなかったんです。そういうわけで、あんまりうまく話せないと思うのですが、イサ・アンナ様、友達として話を聞いていただけますか?」
「前置きが長い!」
イサ・アンナは呆れ声で叫んだ。が、すぐにいつもの勝気な笑みを見せ、アルテミシアを安堵させた。
「しかし喜んで聞こう。酒も持たせるぞ」
そう言って、イサ・アンナはテーブルの脇に置かれている鈴をリンリンと力強く弾ませた。
一時間も経つと、アルテミシアは王家所蔵のワインを三本は飲み干してしまった。そのうちイサ・アンナが手を付けたのはグラス四杯だけだ。あくまで、年長者として聞き役に徹している。
「…それで、そなたは、出自と立場の違いを気にしているというわけか。今更」
「そうです。今更…。船のことも、剣術も、イサ・アンナ様の通詞としての力量も、自信はあります。責任重大ですが、それなりにやれていると思うんです」
「まあ、正当な評価だな。わたしもそなたの腕は買っているぞ」
アルテミシアは嬉しそうにニヘッと表情を崩し、グラスを持ち上げて、「イサ・アンナ女王陛下万歳」と言った。酔っている。
イサ・アンナは大声で笑いたくなった。こんなに間の抜けた「女王陛下万歳」を聞いたのは初めてだ。しかし、唇をひくひくさせるに留めた。酒には強いアルテミシアが、酔うまで飲まなければ口に出せないほど鬱屈していたのだ。ここは神妙な顔のまま耳を傾けて然るべきだろう。
「でも、貴族の妻となると話が違います。奥向きのことについては全くの無知ですし、わたしはこれまで‘家’というものと向き合ったことがないんです。はっきり言って、苦手分野です。こればっかりは――」
「ウム」
と、イサ・アンナはいちいち相槌を打ってやった。イサ・アンナのは少女時代はよく喋る侍女たちの更に上を行くお喋り好きの二人の姉たちと常に一緒だったから、この国の頂点に君臨してもなお、傾聴の体現は彼女にとって難しいことではない。
アルテミシアの話は続く。
「自分がどう見られようと構いません。仕事ぶりで払拭できることですから。でも…、わたしのせいでサゲ…バルカ将軍の評判が悪くなるようでは…」
東屋の床がぐらりと揺れた。池が海のように波しぶきを上げている。
「――不都合しかありません……」
イサ・アンナはとうとうテーブルに突っ伏したアルテミシアを見て肩をすくめた。
「やれやれ…。誰ぞ!」
呼び鈴が鳴り、ロハクがゆっくりと現れた。辛うじて表情は取り繕っているが、元々細い目が不機嫌そうにもっと細くなっている。
「バルカ将軍もこの娘の前ではただの男だな。まったく気が利かぬ。あれほどの男が機を誤るとは」
イサ・アンナは呆れたように溜め息をついたが、ロハクには分かっている。女王はこの極めて個人的な悩み事の相談役になれたことを喜んでいるのだ。
「その上、屋敷を長く空けていますからね。間が悪いというか」
ロハクが溜め息をついた。
「あれも仕事熱心な男だから、仕方あるまい。今は重要な時期だ、ロハク。そなたも、くれぐれも諸国諸卿との連携を怠るな」
「無論でございます」
「では、後を頼む」
イサ・アンナはちょっと満足そうに含み笑いをし、ドレスの裾をひらりと翻して東屋を後にした。
この時、サゲンはオアリス郊外の豪邸を訪ねていた。宮殿と言ってもいい。オアリス城のように黒い瓦屋根も金の装飾もなく、やや黄味がかった石造りの丸屋根と円窓に、壁に彫られた神話の神々、そして完璧なまでのシンメトリーは、大陸の他の国ではよく見られるものだが、イノイルにおいては異国情緒があふれ、一際異彩を放って見える。この屋敷の所有者はシトー王家だが、かつてエマンシュナのアストル王家から嫁いできたネフェリア王女のために、その夫である二代目スクネ王が家族のための私邸として建てさせたもので、それから百年経った現在ではエマンシュナからアストル王家の者がオアリスに滞在する際の邸宅となっている。
サゲンはこの宮殿の海や船の大きな絵画が壁一面に飾られたサロンで、ナヴァレの責任者であるイアサント・アストルと対面している。
このひと月、城はおろか、ほとんど自分の屋敷にも帰っていない。エマンシュナとの連携が正式なものになったことにより、エマンシュナのナヴァレをはじめアム、ルメオの海軍関係者たちとの協議が増えたためだ。内容は無論機密事項のため、誰かの屋敷を儀礼的に訪問するような体裁を整えなければならず、数日かけて遠方へ赴くこともしばしばあった。この訪問も、そのうちの一つだ。直前に滞在していた場所からは三日の行程だったが、幸いオアリスには近く、この協議が終わればようやく自邸へ帰ることができる。
「わたしがそんな重大な話を聞いてしまってもよいものでしょうかねえ」
と、イアサント・アストルが面長の顔を傾げてのんびりと言った。四十を超えているが、目が大きくて頬が丸く、その童顔のせいでどこか少年臭さがある。
「では貴殿は何のためにこちらへ参られた」
サゲンは苛立ちを隠そうともせず、冷ややかな調子で言った。一方のイアサントは、相手の怒気に対して臆することもなく、相変わらずのんびりとしている。
「無論、バスケ元帥の名代ですとも。わたしは王家とは言っても支流の出。従軍の経験はありますが、どちらかと言うと事務的なことの方が向いています。ですから調整役として参った次第で、戦略的なことには疎いのですよ」
(こいつがナヴァレの責任者だと)
まったくふざけている。その上、これから重大事を告げようとしているというのに、この緊張感の無さはどうであろう。
「先に申し上げておくが」
と、サゲンが鋭い声で言った。
「これよりは決して他言無用のこと。貴殿に聞く資格がないというのであれば、エマンシュナまで赴きバスケ元帥を直接訪ねねばなるまい」
「ハハ」
サゲンは耳を疑った。この場で笑い声をあげるなど、似つかわしくないどころではない。侮辱と受け取られてもおかしくないことだ。
「ああ、いや、失礼仕りました」
さすがに無礼だと思ったらしく、イアサントはすぐに謝罪した。が、顔は相変わらず穏やかに微笑んでいる。
「バスケ元帥が気に入られるのも道理です。先日宴から帰国した元帥に叱られましたよ。お前も少しはバルカ将軍を見習えとね。まあ、わたしにはあなたのような気迫がないから、無理だなあ」
サゲンはこれで毒気を抜かれてしまった。ウナギを素手で捕まえようとしているような気分だった。
「ああ、どうぞ。話を聞きますよ。あなたは本当に元帥のところまで行ってしまいそうだ。そうなれば、わたしがひどく叱られてしまう。機密保持に関しても、了承しましょう。でないと先に進めないのでしょう?」
イアサントは丸い頬に人の好さそうな微笑を浮かべた。
サゲンが森の屋敷へ戻ったのは、夕刻のことだ。薄雲の奥で沈みかけた夕陽が赤い光を広げ、人馬の影を地面に長く伸ばしている。供連れのレイは既に兵舎へ帰り、サゲンは一人で屋敷の門をくぐった。既に篝火が扉を照らしていた。
もう二週間は顔を見ていない。
それも、最後に見たのは寝顔だった。言葉を交わす間も無く、あちこちへ馬を駆らなければならなかったのだ。ぐっすりと眠っているアルテミシアに対して慎ましいキスだけで我慢するには、かなりの精神力が必要だった。
「おかえりなさいませ」
と、ケイナが緊張気味にサゲンを出迎えて外套を受け取った。
「アルテミシアはまだ帰っていないのか」
「もうお帰りですよ。今は、寝室ですが…」
「ご苦労」
サゲンはケイナの言葉を最後まで聞かず、真っ先にアルテミシアの寝室へ向かった。人影のない食堂の方から何やら美味そうな匂いが漂ってくるが、構っていられなかった。せめて寝顔だけでも見たい。
が、アルテミシアの寝室に足を踏み入れたサゲンは凍りついた。
ベッドで眠る彼女のそばに、ロハクがいる。ロハクはベッドの横の一人掛けのソファにゆったり腰掛け、脚を組んで本を読んでいた。
「…何をしている」
この物言いに、ロハクは眉をひそめた。
「失敬な。それが酔い潰れたあなたの恋人を送って来てやった友人に対する態度ですか」
「酔い潰れた?」
今度はサゲンが眉をひそめた。アルテミシアが潰れるほど酒を飲んだことなど、知る限り一度もない。
「だからと言って女の寝室に居座る必要がどこにある」
サゲンが怒気を発すると、ロハクは機嫌よく目を細めた。「あなたの怒った顔を見るためだ」などと言ったら怒り狂うことだろう。
「…陛下から伝言です」
ロハクはサイドテーブルに本を置いてゆったりと立ち上がり、襟を正した。
「あなたが留守の間にアミラと極秘で交渉しましたが、不振に終わりました。アミラ国王は自らの庇護下にある国民を外国へ差し出すつもりはないそうです」
「予想の範囲内だ。敵方のエマンシュナと協力関係になった上、内政不安の今、自国の貴族から大罪人を出しては王室の面目は丸潰れだからな」
「ええ。それが本音でしょう。ですが、あくまで庇護下になければアミラ王の知るところではありません」
ロハクの柔和な細い目の奥で、瞳がキラリと輝いた。サゲンは唇の端を僅かに持ち上げて頷いた。
「続きがあるようだ」
「わたしの鳩の情報では、ラウル・ヒディンゲルという貴族はどういうわけかアミラの屋敷を長らく留守にしているそうです。使用人たちは主人が旅行に行っているとしか知りません」
「または、そう言うよう言い含められているか」
「ええ。しかし、重要なのは、ヒディンゲルがアミラ国内にいないということです」
「俺たちの仕事がしやすくなったとも言えるが、早々に手を打つ必要があるな」
「無論です」
「では明朝、協議だ」
そう言ってサゲンは寝室の戸を開けたが、ロハクはまだ出て行く様子がない。ロハクは苛立って口を開きかけたサゲンに向けて長い人差し指を立て、遮った。
「それからもうひとつ」
と、狐のような顔に笑みを浮かべた。ちょっと面白がっている風でもある。
「サゲン・エメレンス。結婚の申し込みというものは、もっと然るべき時にすべきです」
「何?」
「これより先はそのまま、陛下からのお言葉です」
サゲンの困惑を気に留めることなく、ロハクは続けた。
「そなたは大事なことを見落としている、バルカ将軍。男は女を妻にすると言えばそれで済むと思い込んでいるかもしれんが、おんなにはおんなの試練がある。この娘がこれまでどうやって戦ってきたか、忘れるな」
サゲンは目を丸くした。さすがは側近と言うべきか、口調や抑揚が女王そのものだ。
「まさか、それを」
「伝えるためにわたしがミーシャを連れてここまで来たのかという質問なら、まあ、そうです」
女王の言葉と言われては、返す言葉もない。
苦虫を噛み潰したような顔で唇を引き結んだサゲンに、ロハクは機嫌良く笑いかけた。
「では、わたしはこれで」
ロハクは扉の前で立ち止まり、「あ、そうそう」とわざとらしく付け足した。
「ミーシャはずいぶん愛されていますね。酔った彼女を送りたいと押し掛けて来た志願者が大勢いましたよ。あなたのところのアガタをはじめ、トーラク隊のベレット、キージ、司書助手のシラニ、医局のノアナ、あとは…」
「もういい」
サゲンは不機嫌さを隠さず、ピシャリと言った。不埒な視線でアルテミシア・リンドを見つめる者が大勢いることは、もとより承知している。
「本当ならこのようなことは他の志願者にさせるところですが、陛下のおことづてがあったことに感謝なさるべきですね。みな、ミーシャの家主の留守を知っているのです」
(ネズミどもめ)
と、サゲンは内心で吐き捨てた。二人の仲を公のものにしてしまえばこのように男たちが群がって来ることもないだろうに。
「良い夜を。サゲン・エメレンス」
静かな音を立てて戸が閉まり、サゲンは控えめな寝息とともに寝室に残された。
海に近い土地柄、夏を超えると冷たい風が吹いて一気に気温が下がり、人々の服装が軽やかな麻や綿の布地から重く厚みのある綿織物や毛織物へと変化する。が、夏が過ぎたばかりのこの時期は、天気の良い日中は太陽の力が地上に及び、薄手の上衣でも十分なほどの暖かさだ。
変化したものといえば、気候だけではない。
イグリやリコらサゲンの部下五人は、士官学校時代から続いていたバルカ邸での奉公を終えてそれぞれの小隊を持つことになり、バルカ邸には正式な使用人が七人やってきた。
彼らの選任については、サゲンがロハクに依頼した。「個人の屋敷のことなど何故わたしがやらねばならないのか」などとロハクの小言が飛んでくるに違いないと思ったが、当人は意外にもあっさりと承諾し、迅速に実行した。当初内定していたのは五人だったが、後から彼らに加えてエラとケイナをバルカ邸で正式に雇うことが決まった。これは、アルテミシアがかつて女王に「侍女にしてやれ」と言われたことを思い出したからではなく――もっとも、アルテミシアはまだ自分に侍女が必要だと思うには至っていない――エラとケイナが城女中の中でも優秀であることを知っているからだ。それに、多くの時間を共に過ごすことになるのならば、気心の知れた相手の方が気楽というものだ。
ロハクなどはエラを城へ雇い入れた当初は迷惑がっていたくせに、素直で機転の利くエラと少々お喋りではあるが経験豊富でどの持ち場の仕事でもソツなくこなせるケイナを手放すのは惜しかったらしい。アルテミシアがロハクを通さずに二人にバルカ邸での仕事を持ち掛け、彼女たちが二つ返事で快諾したものだから、またしてもアルテミシアは身体中に釘を打ち付けられるほど説教される羽目になった。しかし、二人を手に入れるためなら安いものだ。
新しい使用人たちの仕事ぶりは見事なもので、特に若い頃にいろいろな国を旅して回ったという料理番のマキべの腕は際立って素晴らしかった。しかしながら、主人であるサゲンが最後にその恩恵を受けたのは既に二週間前のことだ。サゲンはパタロアから戻ってひと月余り、食堂の椅子に腰を落ち着ける暇もないほど多忙を極めている。同じ屋敷に住むアルテミシアでさえしばらく顔を合わせていない。
多忙なのは、サゲンだけではない。
アルテミシアも毎日膨大な量の仕事に追われていた。早朝六時に登城し、バルカ邸へ戻る頃にはだいたい九時を回っている。海賊討伐の連合軍がヒディンゲル逮捕へ動き出したことにより、複数の国と歩調を合わせる必要ができたため、それぞれの国の法律に照らし合わせながら機密情報の保持を求める書類を作ったり、これらに関する女王の公式文書の校正をしたりしなければならなかったのだ。それに加えて、女王と他国の要人が会談する際には通詞として同行しなければならず、泊まりがけで遠方の夜会に出席することもあった。
重なる疲労とサゲンに会えない時間が、アルテミシアの心に少なからず影を落としている。
王侯貴族の夜会に出掛けてまず目に付くのが、女主人たちの徹底した立ち振る舞いだ。彼女たちの仕事振りは優雅で気品に溢れ、卓越した美的感覚を示している。彼女たちは装飾品の配置からカーテンを留めるタッセルの素材まで抜かりなく指示を出して使用人たちにも間違いなく準備をさせ、当日は主賓である女王よりも煌びやかにならないよう、更にドレスの色が重ならないように細心の注意を払って身につけるものを選び、食前酒からデザートに至るまで、その季節や気候に合うよう、尚且つ主賓の趣味に合うよう配慮されている。
あの快活で陽気なイサ・アンナ女王がドレスの色が他の夫人と同じだったくらいで不愉快に感じることなどあるだろうか――むしろ「そなたもか!」などと手を打って喜びそうなものだが、とアルテミシアは訝ったが、夜会に同行したロハクはまるで子供を諭すような調子でアルテミシアに言った。
「まだまだ分かっていないようですね。こういうことは、暗黙の了解なのです。陛下ご自身が気にされようがされまいが、この程度の気遣いが出来なければ夫君はおろか、一家一門の品格さえ貶めることになります。あなたは子供の頃からこういう類のことと距離を置いていたようですから知らなくても仕方ありませんが、これが王侯貴族の社会なのですよ」
「ふうん…。不思議」
この時アルテミシアは気のない返事をしたが、内心では言い知れぬ不安が小さな渦を巻き始めた。
バルカ子爵夫人になった時、これらの一切を宰領するのはアルテミシアでなければならない。それも、サゲンの申し入れを受けたとしたら、そう遠くない将来のことだ。
それから数日経ったある日、幾日も休む間もなく執務に明け暮れていた女王が遂に我慢の限界を迎えた。
イサ・アンナは小さな黒い染みを点々と書類に飛ばして羽ペンを置くと、執務室の続き部屋で机に向かっていたアルテミシアを連れ出し、ぞろぞろと後に続こうとしたロハクら侍従を蝿でも追い払うように振り払って執務室に留まらせ、庭園へと赴いた。
オアリス城の庭園では、薔薇や桔梗の花が咲いて枯葉の目立ち始めた足元を彩り、秋風の中に可憐な香りを放っている。一年を通して花の彩りと香りを楽しめるよう、イサ・アンナが大改修の際に古今東西から花の苗や種を集め、専門家を雇って植えさせたものだ。それまで朴訥な軍人気質の君主が三代続いていたために風流ながら古木の多いやや殺風景な庭園だったが、イノイル建国以来初の女王が誕生したことにより景観がガラリと変わった。そして、この変化は城の使用人だけでなく客人たちにも嬉しい驚きをもたらしたものだった。
アルテミシアはイサ・アンナの隣を歩きながら、秋風と花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。飽和状態の頭にはいい刺激になる。何しろ、パタロアから帰国してからというもの、俄かに外国との書簡が増え、女王直筆の手紙の他、ロハクの書いた公的な書状を翻訳、校正する作業に追われていたのだ。イサ・アンナからの散策の誘いは跳び上がって喜びたいほどありがたいものだった。
「ナヴァレとの共同作戦ということで調整がついたそうですね。しかも、交渉の末に指揮権を勝ち取ったとか」
「まあ、領内で海賊どもに好き勝手にさせていたエマンシュナの手落ちだからな。加えて西方が不穏とあっては、レオニード王も譲歩せざるを得まいよ」
イサ・アンナがさくらんぼ色の唇を得意気にニヤリと吊り上げた。ナヴァレの力を得、その上指揮権をこちらが掌握してエマンシュナ領内で作戦を実行できるとなれば、老練なレオニード王との政戦に大勝したと言える。
「イサ・アンナ様のお陰でわたしたちも存分に動けそうです」
「それはよかった。ところで、そなたの母上はあれからどうしている?沙汰はあったのか」
「はい。さっさとトーレへ移りたかったようですが、屋敷が突然無人になると作戦に不都合と言うことで、フラヴァリ提督とチェステ公からしばらく留まるように要請されたそうです」
手紙が届いたのは、ほんの三日前のことだ。母親の筆跡を見るのはとても久しぶりだったが、所々筆圧が強くなったり字が雑になったりと、不満げな様子がありありと見て取れた。最後に「いつ我慢の限界を迎えてこの屋敷の壁を壊してしまうか分からない」と、あながち冗談でもなさそうな一文が添えられていたのにはおかしくなって笑ってしまったが、あの儚げだった母がこれ程の気性の持ち主だったということに対する驚きの方がよほど大きかった。
「血は争えんな」
イサ・アンナが笑いながら言った。アルテミシアの気骨は、明らかに母親から受け継いだものだ。
「あの気性の人が、留守がちだったとは言ってもベルージみたいな男と同じ屋敷で暮らしていたんです。相当の忍耐力だったと思います。わたしには、とてもできません」
アルテミシアは、母親の二十余年の歳月を思った。アルテミシアの母に対する印象は、先頃の再会で引っくり返ってしまった。
「そなたも親になれば分かるさ。母親は子のためならどんなことにも手を染めるものだ。愛は時に自我さえ凌駕し、しばしば慈愛と冷酷の境界を失くす」
「そうかもしれませんね。母は今、ベルージに対して徹底的に冷酷さを発揮しています」
アルテミシアは皮肉げに言って見せたが、内心では母親の清々しいほどの転身ぶりに胸がすく思いがしていた。
先日受け取ったミルコ・フラヴァリからの報告には、こうあった。
捕縛されたベルージは当初、ルメオ軍に対して傲岸にも取引を持ちかけていた。ヒディンゲルとの連絡方法や違法な売買、出資などの詳細を語る代わりに、資産の没収をせず、罪にも問わないというものだ。あまりに馬鹿げていたが、ルメオ軍としてはリストに名の無い下っ端のベルージの尋問に時間を取られるよりも、早々にヒディンゲルという大物を捕らえたい。
そこで交渉の結果、軽微な減刑と土地を除く資産をベルージに残すという措置が取られることになった。ベルージはこれで手を打った。刑期を終えた後、余生を田舎で安穏と暮らせる程度の金は残っているから、隠棲しようと考えてのことだった。
ところが、マルグレーテがそれを許すはずがない。
マルグレーテは銀行に残ったベルージ名義の資産をまだ辛うじて有効なベルージ男爵夫人の権限でもって全て自分個人の名義へと書き換え、いずれパタロア領主へ返上する土地と屋敷以外の全ての書類からエンリコ・ベルージの名を消し去った。そして、マルグレーテはその金を自分の手元には一切残さず、全て孤児院や僧院や慈善団体などに寄付した。夫の悪行を知りながら止められなかったことに対する、彼女なりのせめてもの贖罪だった。
牢獄にいるベルージは、自分のよすがが全て消え去ったなどとは知る由もない。知る時が来るとすれば、年老いて牢獄から解き放たれ、銀行へ赴いた時だろう。その時になってベルージは絶望し、地獄を知ることになる。それこそがマルグレーテの復讐だった。
やがて女王とアルテミシアは池へと差し掛かった。水面が秋の陽光を受けてキラキラと弾けるような輝きを放ち、それらを揺らしながら鴨の親子が列をなして泳いでいる。
「さあ、もう仕事の話はよそう。わたしが何のためにそなたを連れ出したと思う?」
アルテミシアはちらりと前方に視線を走らせた。池の真ん中の東屋が視界に入ると否が応にも宴の夜の不愉快な記憶が頭を掠めたが、よく見るとその中央の小さなテーブルに焼き菓子の乗った皿とポット、カップが二つ置かれている。アルテミシアはにんまりと女王に笑いかけた。
「おやつですね」
「さよう」
イサ・アンナが白い歯を見せた。
(美しい方だな)
と、向かいに座って菓子を頬張る女王を見ながらアルテミシアは思った。化粧やドレスのせいではない。首の向きを変えるだけでも所作の美しさが際立ち、瞳は常にキラキラと英気に満ちて、髪や爪の先に至るまで輝きを放つようだ。
「なんだ」
イサ・アンナが真っ黒な瞳をアルテミシアへ向けた。君主の顔をじろじろと見るなど無礼極まりない行為だが、アルテミシアは尚も女王の貌にぼんやりと見入っている。
「おきれいだなと、思いまして」
「ハハ!神妙な顔で何を言い出すのかと思えば」
イサ・アンナは快活な笑い声をあげた。
「そう言うそなたこそ、近頃城内の男どもが今にも火が点きそうな目でそなたを見ていることに気付いているのか」
と、イサ・アンナが面白がって言ったのは誇張ではない。
アルテミシア・リンドは元々どことなく少年のように中性的で独特な魅力の持ち主だったが、ここのところは雰囲気が変わってきた。
近頃、バルカ邸の使用人として雇われたエラとケイナが、いつも雑に後ろで一つにまとめ、一向に化粧をしようとしなかったアルテミシアの身だしなみを毎朝美しく整えてやっているという話は聞いている。これも要因の一つになっているだろうが、全体を見れば些細なことだ。
(やはりあの宴の夜からだな)
と、イサ・アンナは見抜いていた。
船を降りて本来の白さを取り戻しつつある肌は陽光を受けて艶めき、赤みがかったブロンドの髪はおしゃれへの情熱でいっぱいの女中たちによって美しく結い整えられ、その下に思わず触れたくなるような細い頸が伸びて、ドレスが白い胸元としなやかな身体を覆っている。しかし、身体の内側から匂い立つ色気は、覆い隠せるものではない。
王宮を歩けば男たちが花を愛でるように振り向き、鍛錬場へ出向けばよそ見をする者が増えるのだ。イサ・アンナやロハクに仕える若い近習たちも例外ではなく、アルテミシアが女王の執務室へ現れると、彼らは皆そわそわと落ち着きがなくなる。周囲から見ればあまりに滑稽な光景だ。しかし――
「へ?」
と、この気の抜けた返答が示すように、当の本人は気にも留めていない。イサ・アンナは思わず苦笑した。
「まったく、わたしに向かってそのような気の抜けた声を出すのはそなたくらいのものだぞ」
「あ、これは失礼を」
「よい。身分や齢は違えど、そなたとは友人のつもりでいるからな」
アルテミシアは頬を赤らめ、はにかんだ笑顔を見せた。
「それは、身に余る光栄ですが…責任重大です。わたしのような友を持ってイサ・アンナ様に恥をかかせることがないよう、気を付けなきゃいけませんね」
冗談交じりに軽い調子で言ったが、内心では言葉通りのことを重く考えていた。ここのところは、分不相応なものがますます大きくなっているような気がする。
イサ・アンナは、アルテミシアの不安を感じ取ったように顔からリラックスした笑みを消し、これから口に入る予定だったクリームたっぷりの焼き菓子を皿に戻した。
「なんだ、珍しく辛気臭いではないか。いつもの自信に満ちたアルテミシア・リンドはどこへ行ったのだ」
アルテミシアは肩をすくめ、彼女には珍しく気弱な笑みを見せた。
「わたし、子供の頃は勉強ばかりしていたから、女友達って今までほとんどいたことがないんです…。男子と同じ授業を取っていて変り者だと思われていたから、大学でも女の子たちからは敬遠されていたし、船は当然男ばかりだったし…。そもそもこの手の悩み自体持ったことがなかったんです。そういうわけで、あんまりうまく話せないと思うのですが、イサ・アンナ様、友達として話を聞いていただけますか?」
「前置きが長い!」
イサ・アンナは呆れ声で叫んだ。が、すぐにいつもの勝気な笑みを見せ、アルテミシアを安堵させた。
「しかし喜んで聞こう。酒も持たせるぞ」
そう言って、イサ・アンナはテーブルの脇に置かれている鈴をリンリンと力強く弾ませた。
一時間も経つと、アルテミシアは王家所蔵のワインを三本は飲み干してしまった。そのうちイサ・アンナが手を付けたのはグラス四杯だけだ。あくまで、年長者として聞き役に徹している。
「…それで、そなたは、出自と立場の違いを気にしているというわけか。今更」
「そうです。今更…。船のことも、剣術も、イサ・アンナ様の通詞としての力量も、自信はあります。責任重大ですが、それなりにやれていると思うんです」
「まあ、正当な評価だな。わたしもそなたの腕は買っているぞ」
アルテミシアは嬉しそうにニヘッと表情を崩し、グラスを持ち上げて、「イサ・アンナ女王陛下万歳」と言った。酔っている。
イサ・アンナは大声で笑いたくなった。こんなに間の抜けた「女王陛下万歳」を聞いたのは初めてだ。しかし、唇をひくひくさせるに留めた。酒には強いアルテミシアが、酔うまで飲まなければ口に出せないほど鬱屈していたのだ。ここは神妙な顔のまま耳を傾けて然るべきだろう。
「でも、貴族の妻となると話が違います。奥向きのことについては全くの無知ですし、わたしはこれまで‘家’というものと向き合ったことがないんです。はっきり言って、苦手分野です。こればっかりは――」
「ウム」
と、イサ・アンナはいちいち相槌を打ってやった。イサ・アンナのは少女時代はよく喋る侍女たちの更に上を行くお喋り好きの二人の姉たちと常に一緒だったから、この国の頂点に君臨してもなお、傾聴の体現は彼女にとって難しいことではない。
アルテミシアの話は続く。
「自分がどう見られようと構いません。仕事ぶりで払拭できることですから。でも…、わたしのせいでサゲ…バルカ将軍の評判が悪くなるようでは…」
東屋の床がぐらりと揺れた。池が海のように波しぶきを上げている。
「――不都合しかありません……」
イサ・アンナはとうとうテーブルに突っ伏したアルテミシアを見て肩をすくめた。
「やれやれ…。誰ぞ!」
呼び鈴が鳴り、ロハクがゆっくりと現れた。辛うじて表情は取り繕っているが、元々細い目が不機嫌そうにもっと細くなっている。
「バルカ将軍もこの娘の前ではただの男だな。まったく気が利かぬ。あれほどの男が機を誤るとは」
イサ・アンナは呆れたように溜め息をついたが、ロハクには分かっている。女王はこの極めて個人的な悩み事の相談役になれたことを喜んでいるのだ。
「その上、屋敷を長く空けていますからね。間が悪いというか」
ロハクが溜め息をついた。
「あれも仕事熱心な男だから、仕方あるまい。今は重要な時期だ、ロハク。そなたも、くれぐれも諸国諸卿との連携を怠るな」
「無論でございます」
「では、後を頼む」
イサ・アンナはちょっと満足そうに含み笑いをし、ドレスの裾をひらりと翻して東屋を後にした。
この時、サゲンはオアリス郊外の豪邸を訪ねていた。宮殿と言ってもいい。オアリス城のように黒い瓦屋根も金の装飾もなく、やや黄味がかった石造りの丸屋根と円窓に、壁に彫られた神話の神々、そして完璧なまでのシンメトリーは、大陸の他の国ではよく見られるものだが、イノイルにおいては異国情緒があふれ、一際異彩を放って見える。この屋敷の所有者はシトー王家だが、かつてエマンシュナのアストル王家から嫁いできたネフェリア王女のために、その夫である二代目スクネ王が家族のための私邸として建てさせたもので、それから百年経った現在ではエマンシュナからアストル王家の者がオアリスに滞在する際の邸宅となっている。
サゲンはこの宮殿の海や船の大きな絵画が壁一面に飾られたサロンで、ナヴァレの責任者であるイアサント・アストルと対面している。
このひと月、城はおろか、ほとんど自分の屋敷にも帰っていない。エマンシュナとの連携が正式なものになったことにより、エマンシュナのナヴァレをはじめアム、ルメオの海軍関係者たちとの協議が増えたためだ。内容は無論機密事項のため、誰かの屋敷を儀礼的に訪問するような体裁を整えなければならず、数日かけて遠方へ赴くこともしばしばあった。この訪問も、そのうちの一つだ。直前に滞在していた場所からは三日の行程だったが、幸いオアリスには近く、この協議が終わればようやく自邸へ帰ることができる。
「わたしがそんな重大な話を聞いてしまってもよいものでしょうかねえ」
と、イアサント・アストルが面長の顔を傾げてのんびりと言った。四十を超えているが、目が大きくて頬が丸く、その童顔のせいでどこか少年臭さがある。
「では貴殿は何のためにこちらへ参られた」
サゲンは苛立ちを隠そうともせず、冷ややかな調子で言った。一方のイアサントは、相手の怒気に対して臆することもなく、相変わらずのんびりとしている。
「無論、バスケ元帥の名代ですとも。わたしは王家とは言っても支流の出。従軍の経験はありますが、どちらかと言うと事務的なことの方が向いています。ですから調整役として参った次第で、戦略的なことには疎いのですよ」
(こいつがナヴァレの責任者だと)
まったくふざけている。その上、これから重大事を告げようとしているというのに、この緊張感の無さはどうであろう。
「先に申し上げておくが」
と、サゲンが鋭い声で言った。
「これよりは決して他言無用のこと。貴殿に聞く資格がないというのであれば、エマンシュナまで赴きバスケ元帥を直接訪ねねばなるまい」
「ハハ」
サゲンは耳を疑った。この場で笑い声をあげるなど、似つかわしくないどころではない。侮辱と受け取られてもおかしくないことだ。
「ああ、いや、失礼仕りました」
さすがに無礼だと思ったらしく、イアサントはすぐに謝罪した。が、顔は相変わらず穏やかに微笑んでいる。
「バスケ元帥が気に入られるのも道理です。先日宴から帰国した元帥に叱られましたよ。お前も少しはバルカ将軍を見習えとね。まあ、わたしにはあなたのような気迫がないから、無理だなあ」
サゲンはこれで毒気を抜かれてしまった。ウナギを素手で捕まえようとしているような気分だった。
「ああ、どうぞ。話を聞きますよ。あなたは本当に元帥のところまで行ってしまいそうだ。そうなれば、わたしがひどく叱られてしまう。機密保持に関しても、了承しましょう。でないと先に進めないのでしょう?」
イアサントは丸い頬に人の好さそうな微笑を浮かべた。
サゲンが森の屋敷へ戻ったのは、夕刻のことだ。薄雲の奥で沈みかけた夕陽が赤い光を広げ、人馬の影を地面に長く伸ばしている。供連れのレイは既に兵舎へ帰り、サゲンは一人で屋敷の門をくぐった。既に篝火が扉を照らしていた。
もう二週間は顔を見ていない。
それも、最後に見たのは寝顔だった。言葉を交わす間も無く、あちこちへ馬を駆らなければならなかったのだ。ぐっすりと眠っているアルテミシアに対して慎ましいキスだけで我慢するには、かなりの精神力が必要だった。
「おかえりなさいませ」
と、ケイナが緊張気味にサゲンを出迎えて外套を受け取った。
「アルテミシアはまだ帰っていないのか」
「もうお帰りですよ。今は、寝室ですが…」
「ご苦労」
サゲンはケイナの言葉を最後まで聞かず、真っ先にアルテミシアの寝室へ向かった。人影のない食堂の方から何やら美味そうな匂いが漂ってくるが、構っていられなかった。せめて寝顔だけでも見たい。
が、アルテミシアの寝室に足を踏み入れたサゲンは凍りついた。
ベッドで眠る彼女のそばに、ロハクがいる。ロハクはベッドの横の一人掛けのソファにゆったり腰掛け、脚を組んで本を読んでいた。
「…何をしている」
この物言いに、ロハクは眉をひそめた。
「失敬な。それが酔い潰れたあなたの恋人を送って来てやった友人に対する態度ですか」
「酔い潰れた?」
今度はサゲンが眉をひそめた。アルテミシアが潰れるほど酒を飲んだことなど、知る限り一度もない。
「だからと言って女の寝室に居座る必要がどこにある」
サゲンが怒気を発すると、ロハクは機嫌よく目を細めた。「あなたの怒った顔を見るためだ」などと言ったら怒り狂うことだろう。
「…陛下から伝言です」
ロハクはサイドテーブルに本を置いてゆったりと立ち上がり、襟を正した。
「あなたが留守の間にアミラと極秘で交渉しましたが、不振に終わりました。アミラ国王は自らの庇護下にある国民を外国へ差し出すつもりはないそうです」
「予想の範囲内だ。敵方のエマンシュナと協力関係になった上、内政不安の今、自国の貴族から大罪人を出しては王室の面目は丸潰れだからな」
「ええ。それが本音でしょう。ですが、あくまで庇護下になければアミラ王の知るところではありません」
ロハクの柔和な細い目の奥で、瞳がキラリと輝いた。サゲンは唇の端を僅かに持ち上げて頷いた。
「続きがあるようだ」
「わたしの鳩の情報では、ラウル・ヒディンゲルという貴族はどういうわけかアミラの屋敷を長らく留守にしているそうです。使用人たちは主人が旅行に行っているとしか知りません」
「または、そう言うよう言い含められているか」
「ええ。しかし、重要なのは、ヒディンゲルがアミラ国内にいないということです」
「俺たちの仕事がしやすくなったとも言えるが、早々に手を打つ必要があるな」
「無論です」
「では明朝、協議だ」
そう言ってサゲンは寝室の戸を開けたが、ロハクはまだ出て行く様子がない。ロハクは苛立って口を開きかけたサゲンに向けて長い人差し指を立て、遮った。
「それからもうひとつ」
と、狐のような顔に笑みを浮かべた。ちょっと面白がっている風でもある。
「サゲン・エメレンス。結婚の申し込みというものは、もっと然るべき時にすべきです」
「何?」
「これより先はそのまま、陛下からのお言葉です」
サゲンの困惑を気に留めることなく、ロハクは続けた。
「そなたは大事なことを見落としている、バルカ将軍。男は女を妻にすると言えばそれで済むと思い込んでいるかもしれんが、おんなにはおんなの試練がある。この娘がこれまでどうやって戦ってきたか、忘れるな」
サゲンは目を丸くした。さすがは側近と言うべきか、口調や抑揚が女王そのものだ。
「まさか、それを」
「伝えるためにわたしがミーシャを連れてここまで来たのかという質問なら、まあ、そうです」
女王の言葉と言われては、返す言葉もない。
苦虫を噛み潰したような顔で唇を引き結んだサゲンに、ロハクは機嫌良く笑いかけた。
「では、わたしはこれで」
ロハクは扉の前で立ち止まり、「あ、そうそう」とわざとらしく付け足した。
「ミーシャはずいぶん愛されていますね。酔った彼女を送りたいと押し掛けて来た志願者が大勢いましたよ。あなたのところのアガタをはじめ、トーラク隊のベレット、キージ、司書助手のシラニ、医局のノアナ、あとは…」
「もういい」
サゲンは不機嫌さを隠さず、ピシャリと言った。不埒な視線でアルテミシア・リンドを見つめる者が大勢いることは、もとより承知している。
「本当ならこのようなことは他の志願者にさせるところですが、陛下のおことづてがあったことに感謝なさるべきですね。みな、ミーシャの家主の留守を知っているのです」
(ネズミどもめ)
と、サゲンは内心で吐き捨てた。二人の仲を公のものにしてしまえばこのように男たちが群がって来ることもないだろうに。
「良い夜を。サゲン・エメレンス」
静かな音を立てて戸が閉まり、サゲンは控えめな寝息とともに寝室に残された。
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