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十四、戦勝報告 - gli esiti -
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数日後、イノイルの軍船はティグラ港へ帰港した。アムに収監された海賊たちの尋問が済み、有力な情報を得た後で再び連合軍として動くことになるが、アルテミシアに酷く傷つけられた首領が満足に尋問を受け、話せるようになるまではもう少し時間が掛かる。娘を人質に取られたと話し、小船で脱出してしまったらしい海賊の行方も杳として知れないままだった。
「そなたたちの奮戦ぶりについては、アム元首ランフランキ殿からも書状をもらっている。ひとまずはご苦労だった」
謁見の間で玉座に座ったイサ・アンナ女王は、船から降りてそのまま登城した将校たちを労った。
「こちらの死者が出なかったのはそなたの指揮のお陰だな、バルカ将軍」
女王の賛辞に、サゲンは畏まって頭を下げた。
「勿体ないお言葉です」
「諸君も、よく隊をまとめてくれた。またいつ出陣するかも分からぬから、ゆっくり休み、次に備えておけ」
イサ・アンナは他の将校たちにも笑みを浮かべて激励した。トーラク将軍をはじめ、ゴランや他の将校たちも神妙に頭を下げた。
「して…」
と、イサ、アンナはぐるりと辺りを見回した。
「アルテミシア・リンドはどこだ?」
トーラク将軍は白髭をぴくぴくさせた。「まったくけしからん」とでも言いたげな顔だ。
「…おそらく、屋敷へ直接向かったのではと」
サゲンが口を開いた。この男から明瞭な答えが返って来ないのは珍しい。
「一緒に登城するよう伝えなかったのか?」
「は…、リンドは下士官たちの船に乗ったようで…。行き届かず申し訳もございませぬ」
イサ・アンナは珍しく歯切れの悪いサゲンを訝しげに見て、「そうか」と頷いた。
「まあよい、屋敷へ戻ったら明日にでもわたしの執務室を訪ねるよう申し伝えておけ」
サゲンは「御意」と承諾しながら、内心では苦り切っていた。
宴の夜からこの数日、まったく姿を見ていない。部下たちの話によればアムのコルス港を出るときにあのエラという娘と下士官たちの船に乗り込んだというから、ティグラ港で捕まえればよいだろうと思っていたら、目にも留まらぬ速さでさっさと厩からデメトラを出し、オアリスの方へ駆けて行ったと聞かされたのだった。馬丁もおびただしい兵士たちがひしめき合う中での行動の速さにびっくりしていた。
彼女がサゲンを避けているのは、疑いようもない。この調子では、森の屋敷からも姿を消しているかもしれない。
デメトラが木々の間を縫い、城へ向けて駆けている。既に以前イサ・アンナから下賜された紺のイノイルのドレスに着替えたアルテミシアがその背に跨り、後ろにはエラがアルテミシアの腰にしがみついて跨っている。エラもまた生成りのイノイルのドレスを着ている。アルテミシアがバルカ邸の間借りしている部屋の衣装棚から引っ張り出したものだった。
「どこに行くの?」
エラが恐々と聞いた。ここ数日のアルテミシアは、なんだか挙動がおかしい。口数も少ないし、笑って話していたと思ったら突然ぼんやりと遠くを見つめているような表情で固まってしまうことも多々ある。エラが初めてアルテミシアと会ったときは溌剌として英気盛んな女性だったが、今はまるで違う。
極め付けは、ある特定の人物の話題を避けることだ。あの背が高くて暗い色の髪の将軍がイノイルで身の振り方を決められるよう手配してくれたと聞いたので礼を言いたいと告げたら、「いらない。大丈夫」というばかりで絶対に取り次ごうとしなかった。しかも、彼の話を兵士たちがしている時にその付近を通ることすら拒んでいるようだった。通詞であるアルテミシアが将校たちの乗る軍船ではなく、下士官たちの船に乗ったのも不自然だ。
普段はあんなに芯の強い女性が、今やまるで思春期の女の子だ。宴の時に何かあったに違いないが、エラは余計な詮索をしないことに決めた。確信はないが、そうした方がいいような気がしたからだ。アルテミシアの場合、こういうことに外から横槍を入れられると飛び退いて逃げ出してしまいかねない。
エラは、生来こういう機微に聡い娘だった。相手の性質を推理し、どう対応するのが最善かを見極めるのが上手い。だから、娼館や老貴族の屋敷でも海賊船でもうまく立ち回ることができた。
だからこそ、今のアルテミシアの状況を心配していた。こういう手合いはなかなか相手に本心を明かさない。
「んー、お城」
アルテミシアはエラの心配をよそに、のんびりとした声で答えた。
「ミシナさんに会う」
エラは急に城へ行くと告げられ、仰天した。ミシナさんというのも誰だかわからない。が、アルテミシアはそれ以上の説明をしなかった。たぶん、あの「ぼんやり時間」に入ったのだろう。エラは人知れずやれやれと首を振り、ちょっと頼りないアルテミシアに全てを委ねることにした。
アルテミシアは城門の前で馬を降り、エラに手を貸して彼女も降ろすと、城の馬丁に手綱を渡して一直線に城内へと向かった。女王の執務室の隣に、その部屋はある。書記官兼女王の秘書兼オアリス城の執事役でもあるロハク・オレガリ・ミシナの執務室だ。
ロハクはノックの音で書類から顔を上げ、羽ペンをペン差しに立てた。
「はい」
という間もなく、アルテミシア・リンドが見知らぬ娘を連れて入ってきた。既に誘拐と人身売買の被害者についての書面が二日前にサゲンから届いているから、アルテミシアの用向きは分かっている。ロハクは立ち上がって女性たちへの礼儀を示した。
「ミーシャ、お帰りなさい。大変だったようですが、ご無事で何よりです。陛下も首を長くしてお待ちですよ」
ロハクは細い目に弧を描かせて柔和な笑顔を浮かべ、次にエラに目を向けた。
「あなたがエラですね。バルカ将軍から事情は聞いています。ちょうど城の女中が一人、結婚が決まって暇を願い出たところだったので、ちょうどよかったですよ。あなたさえ宜しければ、明日からでも仕事を始めていただきたいと思いますが、如何でしょう」
エラはぱあっと顔を輝かせた。
「光栄ですわ、閣下。是非ともお願い申し上げます」
エラは恭しく膝を曲げて礼をした。アルテミシアはほっと胸を撫で下ろした。正直、こんなにすんなりうまく行くとは思っていなかった。
「では、早速女中たちの部屋へ案内させましょう」
ロハクが手を叩くと、エラとそう齢の変わらない従僕が現れ、エラを扉の外へ誘導した。
「またすぐ会えるよ」
不安げに振り返ったエラにアルテミシアが言った。若い従僕は科を作るような目でロハクをちらりと見、エラを伴って出て行った。アルテミシアは一瞬頭をよぎったことを忘れることにした。
「さて、ミーシャ」
ロハクがいつもより低い声で呼びかけて机の向かいの革張りのソファをアルテミシアにすすめ、彼女が座った後で自らも自分の椅子に腰かけた。机の上で長細く白い指を交差させ、目を糸のように細めている。アルテミシアは本能的に背筋をぴしっと伸ばした。
「いかにあなたがついこの間まで船乗りであったとしても、少々不作法が過ぎますね。遠征から帰ったら家よりも私のところよりも、まずは陛下のもとへ挨拶と報告に伺うのが礼儀というものですが」
「あー…、ごめんなさい」
アルテミシアは目を泳がせながら、言い訳を探した。が、当然筋の通った言い訳など思い浮かばない。サゲンと顔を合わせないこととエラの下宿先を探すことで頭がいっぱいだったからだ。ロハクはなおも続けた。宮廷での礼儀作法から、立ち振る舞いに関することを、口調こそ穏やかながら厳しい指摘をくどくどと何度もし、釘を刺し続けた。このままでは身体中が穴だらけになってしまうと思い始めた時、アルテミシアにとって最も不都合なことを言った。
「あなたはサゲン・エメレンス将軍にもっと感謝するべきです」
アルテミシアが唇を引き結んでいると、ロハクは溜め息混じりに言った。
「本来であればオアリス城の女中は、国内の確かな筋の家からいくつかの正式な手続きを経て、奉公に召し出されるものです。それを、サゲン・エメレンス将軍が滅多にない我が儘でわたしに曲げさせ、海賊に誘拐された素性の確かでない娘を女中として雇うことを、命じたのですよ。書面で、依頼ならともかく、命令です。わたしがあの方の命令を無下にはできないと知っていて、権限の外のことに口を出したのです。一応言っておきますが、これは極めて異例なことですよ、アルテミシア・ジュディット・リンド。将軍はご自身の影響力を重々承知なさっています。その力を振りかざすようなことは、事の大小に関わらず、一切なさりません。高潔な方ですから。でも、今回だけは違います。女中ひとりに関する些末なことかもしれませんが、あの方のこれまでの言動を考えれば重大なことです。他ならぬあなたがそう望んだから、将軍はそうしたのです」
ロハクの細い目の奥の薄茶色の瞳が射るようにアルテミシアを見つめると、何かを見透かされているような奇妙な気分になった。
「肝に銘じておきなさい。自分の投げた石が時には巨木を倒してしまうことにもなるのだということを」
アルテミシアの胸に、急に罪悪感が沸いた。同時に、サゲンへの形容しがたい感情がぐるぐると胸に渦巻いて大きくなった。
イグリに聞いた時は、そんなに大変なことだったとは知らなかった。サゲンが高潔な堅物なのは勿論知っている。その奥にある信念も情熱も分かっている。だから個人的なことはともかく、指揮官としての手腕も家主としても信頼していたのだ。
(それを、わたしのために曲げた?)
とても信じられない。同時に自分という存在がなんだか嫌なものになった気がした。いや、もともとろくでもないのだ。アルテミシアの投げた石が最悪な事態を引き起こしたことは、過去にもある。
陰鬱な顔で黙り込んだ時、ロハクの執務室のドアが開いた。イサ・アンナが女王というよりも武人のような力強い足取りで、水色の長いドレスの裾をバサバサと翻しながらやって来る。
「ミーシャ、待ちかねたぞ」
イサ・アンナは親しげに両手を広げてアルテミシアを包み込んだ。
「戻りました、イサ・アンナ様。ご挨拶が遅れて…申し訳ございません」
鼻声だった。イサ・アンナは自分よりも上背のあるアルテミシアの顔を心底意外そうな表情で見つめ、母親のような仕草でアルテミシアの背中をぽんぽんと叩いてやった。
「ご苦労だった。むさ苦しい男どもから報告を聞き終えたところだ。そなたの報告を聞かせてくれ」
そう言ったイサ・アンナは、自身の執務室ではなく、城の庭園にアルテミシアを連れ出した。
オアリス城の庭園は、ルメオや他の国のように左右対称ではない。あちこちで夏草が青々と生い茂り、赤や黄色の可憐な花が緑の庭を彩っている。その中で、人が歩く場所は芝がよく刈り取られ、庭園の中を流れる小川や池のそばには雲母の光る踏み石が置かれていて、野山のような無造作な雰囲気と手の加えられた趣深い庭園の雰囲気が不思議に融合していた。
アルテミシアがイサ・アンナに連れられて庭園へ出ると、庭師や使用人たちが花や木々の手入れをしていた。平らな踏み石の小径を抜けて池に掛かる橋を渡り、橋の中央に設えられた白い八角形の東屋まで来ると、イサ・アンナは腰を下ろした。従者たちは橋を渡らずに、岸で待機している。ひとりの従者が東屋の小さなテーブルに茶と茶菓子を用意し、橋の向こうへ戻って行った。
「さあ、忌憚なく話すがよい」
イサ・アンナは小さなメレンゲの茶菓子をぽりぽりつまみながら、気軽に促した。アルテミシアも色の濃い紅茶を飲み、茶菓子をつまんでゆっくり飲み込むと、大きく息を吐いた。
「まことに不躾ながら、まずはお願いが」
「なんだ」
「…別の家を探しますから、それまで女中たちの部屋にでも置いてくださいませんか」
イサ・アンナは黒い柳眉を上げた。
「それはならぬな」
にべもなく言ったが、黒い瞳は面白そうに輝いている。
「なぜですか?」
アルテミシアは縋るような気持ちだった。あんなことがあった後で、同じ屋敷などに暮らせない。居心地の良い屋敷も最高の浴室も、今はどうでもいい。
「バルカ将軍と何があったのか無理に言わせるつもりは毛頭ないが、逃げるべき時とそうでない時を見極める必要がある」
アルテミシアは、意思とは関係なくもじもじと動く自分の指を見つめた。
「戦果は上々だったようだな」
と、イサ・アンナは話題を変えた。
「…はい、首領を生け捕りにしました」
「ミーシャ、わたしはそなたを評価している。作戦を進言したと聞いたぞ。その後の、少々の無茶もな」
アルテミシアは苦笑いもできずにただ肩をすくめた。
「バルカ将軍の指揮であれば、そなたがいなくても間違いなく勝利していたであろう。海賊団をひとつ潰すことなど、あの男にとっては造作もないことだ。そして、それを何度も繰り返し、いつかは最後の首領に辿り着く。殲滅はできるだろう。しかし、それでは時間も金も掛かる。何より、海賊どもの主要なビジネスが何たるかを掴めなかったであろうな」
「人身売買ですね」
イサ・アンナは頷いた。
「奴らが取り扱うもののうち、いちばんの主力商品は人間だ。激しく抵抗する者と老いた者は殺戮の生贄、労働力になる男や子供は奴隷商へ、女たちはどこかの国の非公認の娼館へ売られる。囮作戦は良い手だった。危険も大きかったが、そこはバルカ将軍をはじめ将校たちが上手く立ち回ってくれたからな。無論、そなたもだ。そなたでなければ、娘たちの救出は適わなかったであろう。力押しで攻めれば、娘たちは存在にも気づかれずに命を落としていたかもしれん」
「でも…」
と、アルテミシアは次の言葉を呑みこんだ。あの時はもう少しで自分も命を落としていた。サゲンが来なければ。
「海賊を生け捕りにできたお蔭で、有益な情報が手に入るだろう。海賊どもの元締めの拠点に繋がる者だけでなく、人身売買の顧客やそれに関わる者も罰することができる。助けられる無垢な命が増えることになる」
アルテミシアは唇を閉じたまま頷いた。怒りに負けて首領を殺そうとしたアルテミシアを止めたのも、サゲンだ。
「そなたとバルカ将軍は、良い組み合わせだ。個々に力を発揮することもできるが、共にあれば足りないところを埋め合って更なる力を示すことができると信じている。此度の戦果が良い例だ。そなたたちに何があったかは聞かぬ。だが、このままではいられぬぞ。どんな問題にせよ正面から向き合うことができぬのなら、そなたも所詮は平凡で臆病な小娘だったということだ」
アルテミシアはむっと頬を膨らませた。
「恐れながら、イサ・アンナ様。わたしは臆病じゃありませんよ」
陛下の御前ということも忘れ、語気強く言ってティーカップをテーブルに置いた。
「小娘でもありません」
イサ・アンナは心底驚いたような顔を作りながら、内心ではほくそ笑んだ。声にいつもの溌溂とした響きが戻ってきている。
(まったく、手の掛かる)
二人の様子からして、何かあったのは明白だ。どういう類のことがあったのかも、だいたい想像がつく。だからこそ、早めに手を打った方がいい。ゆくゆくは外交官に任命しようという大事な通詞がいなくなってしまっては困るし、何より近しい立場として二人に上手くいって欲しかった。アルテミシアの方はまだ何が彼女を押しとどめているのかはっきりと分からないが、サゲンなどは明白だ。
(あれも存外、わかりやすい男だ)
平素真面目くさって神妙に忠義を尽くしているサゲンのことを思い、イサ・アンナはおかしくなった。どうせ隊の風紀がどうの軍司令官たる自分がこのようなことに現を抜かすのがどうのとあれこれどうでもいいようなことを懸念しているのだろう。
周囲が発破を掛けるよりも、自分でそこから踏み出さねば意味がない。
「あ、そうそう。ところでミーシャ」
と、この時イサ・アンナは重要なことを思い出した。もともとこの事を話すつもりでアルテミシアを連れ出したというのに、目先の余興につられてうっかり忘れていたのだ。
「二週間後に、この城で宴を催すから、わたしの通詞として同席してほしい。エマンシュナ国王やその親族と、エル・ミエルドあたりの大使らが適当に何人か来ることになるから、よろしく頼む」
「へっ」
声が裏返った。いとも気軽に言われてしまったが、責任重大だ。それに、夜会用の盛装はアムの元首夫人からもらったコケモモ色のドレスしかない。しかし、あれはアムでこそ普通だったがイノイルでは少し露出が多すぎる。
「やはり盛装ですか」
我ながら愚問だ。イサ・アンナはハハッと快活な笑い声をあげた。
「女王付きの通詞であるそなたが軍装では示しが付かぬぞ。誰ぞ城の女中に頼んで仕立屋を呼んでもらえ。人選はそなたの好きにせよ。こういう機会も増えるから、何着か揃えておくといい。城の諸経費から出しておくようロハクにも申し渡してある」
「承知しました」
エラに頼もうと決めた。自分で選ぶよりも、彼女のセンスの方が信用できる。
「それから、そなたの留守の間に武闘用のドレスを数着仕立てさせておいた。既にバルカ邸に届けてあるから、暇なときにでも着てみよ。いかに動きやすくても、いつまでも男どもと同じ軍服ではいかぬ。おなごは華やかに装わねばな」
「武闘用のドレスですか」
アルテミシアには想像もつかない。今はイノイル軍に女性はいないようだが、もしかしたら女王は今後の女性軍人の採用も考えているのかもしれない。イサ・アンナは自慢げに続けた。
「まあドレスには違いないが、城で着るものよりは動きやすいし、なにより男どもの軍服よりも格段に装備がいい。隠す場所がたくさんあるからな。わたしが経験から考案したのだ。使ってみる機会があれば感想を聞かせてくれ」
アルテミシアは思わずにんまりとした。イサ・アンナ女王はやはり変わっている。それに、彼女の多才さにも驚かされた。
「身に余る光栄です、イサ・アンナ様。ありがたく使わせていただきます」
イサ・アンナもにやりとした。
エラはその頃、「ミシナさん」の部下の若い侍従に女中たちの住居へ案内された。王城の敷地内にある三階建てのアパルトマンが女中たちの住居で、隣の同じような建物が男の使用人たちのアパルトマンだと言われた。どちらも破風造りの美しい建物だが、女性用のアパルトマンの方が新しくてなんとなく洗練されているようだった。また、どちらの建物にも正面上部にイノイル王国の波と鷲の紋章が彫られている。
エラの部屋は三階のいちばん奥の部屋だった。小さな二人部屋だが、角部屋で窓も大きいから陽がよく当たってなかなか過ごしやすそうだ。同室の女中は今は夕飯の支度で食堂にいるらしいとロハクの従僕が教えてくれた。
オアリス城の女中たちには、特にドレスコードは存在しない。「女性は自らの美的感覚で着るものを選ぶべきだから、女中たちは動きやすく、かつ自分の気に入ったものを着るように」とイサ・アンナが即位した時に触れを出したのだ。ある程度の金額までは王家で補償するとも言った。このことがあってから女中たちはこれまでのあまりセンスの良いと言えない女中の服装から解放され、給金からの天引きを厭わなければ、それなりに良いものを着られるようになった。当時は女性が統治者になるとこうも違うのかと皆感銘を受けたものだったが、今ではイノイルの女中たちの自由な雰囲気は当然のものになっている。ただし、そのおかげでイノイルの宮廷では腰元だけでなく下働きの女中に至るまで、互いのドレスを評価する目が厳しくなったとも言える。もっとも、下働きの女中たちの間ではドレスの質や豪華さよりも機能性やその人にどれほど似合っているかが評価基準になるから、新参者にとってはどれくらいのものを選ぶのが丁度いいのか判断するのが難しい。
その点、エラはそういう類のことを見極めるのが上手かった。ロハクの従僕に女中のドレスの予備を一着もらえるように頼み、他の女中や使用人たちへの挨拶回りを願い出た。自室でさっそくイノイルの女中の簡素なドレスに着替え、ロハクの従僕に付き添われて挨拶回りをした。いくつか部屋を回った後、食堂で夕飯の食器を準備していた同室の女中と顔を合わせることができたので、そこからは彼女が城内を案内してくれることになった。
「ケイナよ」
と、同室の女中はちょっと大きい前歯を見せて陽気に笑った。くるくるの赤毛を後ろで団子にし、動きやすそうなすっきりした形のベージュのドレスを着ている。
「同室の子がいなくなって、寂しくしていたの。こんなに早く会えるなんて、感激だわ。一人の方が気楽だって言う人もいるけど、あたしは話し相手がいないと退屈しちゃってダメなんだ。エラ、いくつ?あたしたち、同い年くらいよね。お裁縫は好き?お料理は?時々仕事が休みの人同士が部屋に集まって自分の得意なことを教え合う勉強会があるのよ。高貴な身分の奥様や学者さんが見えてマナーや学問の講義をして下さることもあるわ。おすすめは医学の講義よ。あたしはあんまり得意じゃないんだけど。たまに眠くなっちゃうから…。でも、とっても為になるわ」
ケイナがこの調子で質問に答える間もなく喋り続けたために、エラはおかしくなってぷっと吹き出した。この子と同室なら、きっと楽しいだろう。それに、城で使用人同士の集まりがあるとは驚きだ。風通しの良い場所なのだろう。女中たちにまで教育の場を提供するとは、この国の君主はよほど教育熱心であるに違いない。改めてイノイルに連れて来てくれたアルテミシアに心の底から感謝した。
城はエラの想像よりもずっと広かった。途中、身分の高い軍人や文官たちが通るたびに壁際に寄って頭を下げなければならないため、広い城内を全部回りきる頃には夜が明けてしまいそうだった。
将校達の執務室が並ぶ一画に差し掛かった時、ちょうど手前の部屋の扉が開き、背の高い軍人が現れた。ケイナに倣って壁際に退いた時、その大きな影が近づいてきた。
「君はエラか」
エラは顔を上げた。名前を聞く機会がなかったが、アルテミシアと‘険悪な’あの将軍だと分かると、慌てていっそう身を低くした。
「閣下、お礼を申し述べることが遅れまして…」
「いや、俺に言うことではない。それより…」
サゲンが言葉を切ったので、エラは上目で表情をちらりと見た。視線だけで周りを見渡している。何を探しているのか、エラには明白だ。
「ミーシャでしたら、少し前にミシナ様を訪ねたのでまだお城のどこかにいるかと存じますわ」
「そうか。無事にロハクと会えたのなら、それでいい」
去っていく足元を見送っていると、ケイナがエラに興奮した様子で詰め寄った。
「バルカ将軍にお声掛けいただくなんて、もしかしてお知り合いなの?いいなあ!」
エラは驚いた。威圧的なあの人が、自分と同年代の純朴そうな女の子の頬も染めることができるとは。
「知り合いじゃないけど、いろいろと手配りをしてくださったみたい。通詞の方が将軍に頼んでくださって、それで動いてくださったの…」
エラはサゲンの背中を見て、一瞬躊躇した後に、既に廊下の遠くを歩いているその後を追った。女中から一方的に話しかけるなど、宮廷では無作法極まりないだろうが今回は致し方ないと自分に言い聞かせた。誰かに咎められたとしても、新参でまだ作法を心得ていないからと許してもらえるはずだ。
「閣下!」
サゲンは少々驚いたようだったが礼儀正しく振り向いた。エラは行儀の良い仕草でお辞儀をし、頭を下げたまま進言した。
「お呼び止めしなどいたしまして申し訳ございません。でも、…あの、ミーシャのことで…」
「どうした」
「宴の翌日から様子が妙なのです。元気もないし…。時々物思いに耽って黙り込んだり、食事に手を付けないこともあります。わたくしなどが気にするのも僭越なことですが、このままではお仕事にも影響があるのではと心配しています。わたくしではミーシャの相談役にはとてもなれませんから、たいへん不躾ながら閣下にその役をお願いできないかと思った次第なのです。ミーシャがいちばん信頼している様子でしたので…」
エラは上目遣いでチラリとサゲンを見た。サゲンは無表情で口を閉じたままだったが、エラにはなんとなくバツの悪さを隠しているように思えた。
(やっぱりあなたが原因なのね)
エラは心の中でぺろりと舌を出し、顔には心の底から心配している少女の顔を貼り付けている。とりあえず言うことは言った。本当なら「あなたと何かあったせいでミーシャが変だ」と言いたいところだったが、女中の仕事を世話するよう手配してくれたサゲンにも心から感謝している。だから、これはエラなりの感謝のしるしだった。小さなきっかけでも二人が向き合うことに繋がればいい。アルテミシアのあの様子では、おそらくサゲンから動いてもらうのが手っ取り早いだろうと踏んでのことだ。
(ちょっと首を突っ込みすぎたかしら)
多少気にはなるが、少なくとも二人が接触しないことにはこのままの状態が延々と続くことになる。それよりはましだろう。
ケイナのところへ戻ると、彼女はエラを驚きと称賛の眼差しで迎えた。
「すごいわ、エラ。あなたって物怖じしないのね。バルカ将軍に自分から声を掛けられるなんて」
(そりゃあ、いろいろあったからね…)
エラは心の中で自嘲した。何度も居場所をなくしてきたエラを、アルテミシアが救い出してくれたのだ。これまでの悲惨な経験で培った度胸くらいは、アルテミシアのために使いたい。
「あの方って、そんなに怖がられているの?」
エラが訊ねると、ケイナはよくぞ訊いてくれたとばかりに鳶色の目をキラリと輝かせた。
「サゲン・エメレンス・バルカ将軍は、身分も高ければ規律や品行に対する厳格さも有名よ。あの方のおかげで、軍律を乱す者はいないんですって。もし些細なことでも規則を破れば、将軍自ら厳罰を課されるらしいわ。それに、若い頃から戦上手で知られていて、海賊の討伐でも西方の戦でも、将軍の指揮下の隊は負けたことがないそうよ。だから敵からも味方からもとても恐れられているの。でも、女官たちからは違うことで有名なのよ」
ケイナがもっと先を促してくれと言わんばかりに身を乗り出して来たので、エラはやや大袈裟に頷いてその期待に応えた。
「どんなこと?」
「涼やかな目元に秀麗なお顔立ち、引き締まって逞しいお身体。代々王家に仕えてきたやんごとない家柄で、お父様は現役の法務官。それに加えて硬派で武術にも長けていらっしゃって、軍装で馬上にいらっしゃる姿は溜め息なしでは見られないわ。それなのに、なんと独身!」
その口調は熱っぽく興奮していた。エラはもう一度大仰に頷き、それは納得!というように相槌を打ってみせた。
「それは城中の女性たちが放っておかないわね」
ケイナは満足そうににっこり笑った。
「城だけじゃないわ。イノイルの貴族の令嬢たちからも熱い視線を浴びているのよ。宴のたびにダンスをどの女性にダンスを申し込むか、みんなが注目しているの。来月の宴のことも、既に話題になっているわ」
エラは来月の宴のことをしっかり記憶しつつ、ケイナが喜ぶように「本当にそうね。わたしも気になってきた」と大真面目な顔で言った。
「あたしたち、とてもいい友達になれると思うわ」
ケイナは目を輝かせながらニヤリとして言った。
「そなたたちの奮戦ぶりについては、アム元首ランフランキ殿からも書状をもらっている。ひとまずはご苦労だった」
謁見の間で玉座に座ったイサ・アンナ女王は、船から降りてそのまま登城した将校たちを労った。
「こちらの死者が出なかったのはそなたの指揮のお陰だな、バルカ将軍」
女王の賛辞に、サゲンは畏まって頭を下げた。
「勿体ないお言葉です」
「諸君も、よく隊をまとめてくれた。またいつ出陣するかも分からぬから、ゆっくり休み、次に備えておけ」
イサ・アンナは他の将校たちにも笑みを浮かべて激励した。トーラク将軍をはじめ、ゴランや他の将校たちも神妙に頭を下げた。
「して…」
と、イサ、アンナはぐるりと辺りを見回した。
「アルテミシア・リンドはどこだ?」
トーラク将軍は白髭をぴくぴくさせた。「まったくけしからん」とでも言いたげな顔だ。
「…おそらく、屋敷へ直接向かったのではと」
サゲンが口を開いた。この男から明瞭な答えが返って来ないのは珍しい。
「一緒に登城するよう伝えなかったのか?」
「は…、リンドは下士官たちの船に乗ったようで…。行き届かず申し訳もございませぬ」
イサ・アンナは珍しく歯切れの悪いサゲンを訝しげに見て、「そうか」と頷いた。
「まあよい、屋敷へ戻ったら明日にでもわたしの執務室を訪ねるよう申し伝えておけ」
サゲンは「御意」と承諾しながら、内心では苦り切っていた。
宴の夜からこの数日、まったく姿を見ていない。部下たちの話によればアムのコルス港を出るときにあのエラという娘と下士官たちの船に乗り込んだというから、ティグラ港で捕まえればよいだろうと思っていたら、目にも留まらぬ速さでさっさと厩からデメトラを出し、オアリスの方へ駆けて行ったと聞かされたのだった。馬丁もおびただしい兵士たちがひしめき合う中での行動の速さにびっくりしていた。
彼女がサゲンを避けているのは、疑いようもない。この調子では、森の屋敷からも姿を消しているかもしれない。
デメトラが木々の間を縫い、城へ向けて駆けている。既に以前イサ・アンナから下賜された紺のイノイルのドレスに着替えたアルテミシアがその背に跨り、後ろにはエラがアルテミシアの腰にしがみついて跨っている。エラもまた生成りのイノイルのドレスを着ている。アルテミシアがバルカ邸の間借りしている部屋の衣装棚から引っ張り出したものだった。
「どこに行くの?」
エラが恐々と聞いた。ここ数日のアルテミシアは、なんだか挙動がおかしい。口数も少ないし、笑って話していたと思ったら突然ぼんやりと遠くを見つめているような表情で固まってしまうことも多々ある。エラが初めてアルテミシアと会ったときは溌剌として英気盛んな女性だったが、今はまるで違う。
極め付けは、ある特定の人物の話題を避けることだ。あの背が高くて暗い色の髪の将軍がイノイルで身の振り方を決められるよう手配してくれたと聞いたので礼を言いたいと告げたら、「いらない。大丈夫」というばかりで絶対に取り次ごうとしなかった。しかも、彼の話を兵士たちがしている時にその付近を通ることすら拒んでいるようだった。通詞であるアルテミシアが将校たちの乗る軍船ではなく、下士官たちの船に乗ったのも不自然だ。
普段はあんなに芯の強い女性が、今やまるで思春期の女の子だ。宴の時に何かあったに違いないが、エラは余計な詮索をしないことに決めた。確信はないが、そうした方がいいような気がしたからだ。アルテミシアの場合、こういうことに外から横槍を入れられると飛び退いて逃げ出してしまいかねない。
エラは、生来こういう機微に聡い娘だった。相手の性質を推理し、どう対応するのが最善かを見極めるのが上手い。だから、娼館や老貴族の屋敷でも海賊船でもうまく立ち回ることができた。
だからこそ、今のアルテミシアの状況を心配していた。こういう手合いはなかなか相手に本心を明かさない。
「んー、お城」
アルテミシアはエラの心配をよそに、のんびりとした声で答えた。
「ミシナさんに会う」
エラは急に城へ行くと告げられ、仰天した。ミシナさんというのも誰だかわからない。が、アルテミシアはそれ以上の説明をしなかった。たぶん、あの「ぼんやり時間」に入ったのだろう。エラは人知れずやれやれと首を振り、ちょっと頼りないアルテミシアに全てを委ねることにした。
アルテミシアは城門の前で馬を降り、エラに手を貸して彼女も降ろすと、城の馬丁に手綱を渡して一直線に城内へと向かった。女王の執務室の隣に、その部屋はある。書記官兼女王の秘書兼オアリス城の執事役でもあるロハク・オレガリ・ミシナの執務室だ。
ロハクはノックの音で書類から顔を上げ、羽ペンをペン差しに立てた。
「はい」
という間もなく、アルテミシア・リンドが見知らぬ娘を連れて入ってきた。既に誘拐と人身売買の被害者についての書面が二日前にサゲンから届いているから、アルテミシアの用向きは分かっている。ロハクは立ち上がって女性たちへの礼儀を示した。
「ミーシャ、お帰りなさい。大変だったようですが、ご無事で何よりです。陛下も首を長くしてお待ちですよ」
ロハクは細い目に弧を描かせて柔和な笑顔を浮かべ、次にエラに目を向けた。
「あなたがエラですね。バルカ将軍から事情は聞いています。ちょうど城の女中が一人、結婚が決まって暇を願い出たところだったので、ちょうどよかったですよ。あなたさえ宜しければ、明日からでも仕事を始めていただきたいと思いますが、如何でしょう」
エラはぱあっと顔を輝かせた。
「光栄ですわ、閣下。是非ともお願い申し上げます」
エラは恭しく膝を曲げて礼をした。アルテミシアはほっと胸を撫で下ろした。正直、こんなにすんなりうまく行くとは思っていなかった。
「では、早速女中たちの部屋へ案内させましょう」
ロハクが手を叩くと、エラとそう齢の変わらない従僕が現れ、エラを扉の外へ誘導した。
「またすぐ会えるよ」
不安げに振り返ったエラにアルテミシアが言った。若い従僕は科を作るような目でロハクをちらりと見、エラを伴って出て行った。アルテミシアは一瞬頭をよぎったことを忘れることにした。
「さて、ミーシャ」
ロハクがいつもより低い声で呼びかけて机の向かいの革張りのソファをアルテミシアにすすめ、彼女が座った後で自らも自分の椅子に腰かけた。机の上で長細く白い指を交差させ、目を糸のように細めている。アルテミシアは本能的に背筋をぴしっと伸ばした。
「いかにあなたがついこの間まで船乗りであったとしても、少々不作法が過ぎますね。遠征から帰ったら家よりも私のところよりも、まずは陛下のもとへ挨拶と報告に伺うのが礼儀というものですが」
「あー…、ごめんなさい」
アルテミシアは目を泳がせながら、言い訳を探した。が、当然筋の通った言い訳など思い浮かばない。サゲンと顔を合わせないこととエラの下宿先を探すことで頭がいっぱいだったからだ。ロハクはなおも続けた。宮廷での礼儀作法から、立ち振る舞いに関することを、口調こそ穏やかながら厳しい指摘をくどくどと何度もし、釘を刺し続けた。このままでは身体中が穴だらけになってしまうと思い始めた時、アルテミシアにとって最も不都合なことを言った。
「あなたはサゲン・エメレンス将軍にもっと感謝するべきです」
アルテミシアが唇を引き結んでいると、ロハクは溜め息混じりに言った。
「本来であればオアリス城の女中は、国内の確かな筋の家からいくつかの正式な手続きを経て、奉公に召し出されるものです。それを、サゲン・エメレンス将軍が滅多にない我が儘でわたしに曲げさせ、海賊に誘拐された素性の確かでない娘を女中として雇うことを、命じたのですよ。書面で、依頼ならともかく、命令です。わたしがあの方の命令を無下にはできないと知っていて、権限の外のことに口を出したのです。一応言っておきますが、これは極めて異例なことですよ、アルテミシア・ジュディット・リンド。将軍はご自身の影響力を重々承知なさっています。その力を振りかざすようなことは、事の大小に関わらず、一切なさりません。高潔な方ですから。でも、今回だけは違います。女中ひとりに関する些末なことかもしれませんが、あの方のこれまでの言動を考えれば重大なことです。他ならぬあなたがそう望んだから、将軍はそうしたのです」
ロハクの細い目の奥の薄茶色の瞳が射るようにアルテミシアを見つめると、何かを見透かされているような奇妙な気分になった。
「肝に銘じておきなさい。自分の投げた石が時には巨木を倒してしまうことにもなるのだということを」
アルテミシアの胸に、急に罪悪感が沸いた。同時に、サゲンへの形容しがたい感情がぐるぐると胸に渦巻いて大きくなった。
イグリに聞いた時は、そんなに大変なことだったとは知らなかった。サゲンが高潔な堅物なのは勿論知っている。その奥にある信念も情熱も分かっている。だから個人的なことはともかく、指揮官としての手腕も家主としても信頼していたのだ。
(それを、わたしのために曲げた?)
とても信じられない。同時に自分という存在がなんだか嫌なものになった気がした。いや、もともとろくでもないのだ。アルテミシアの投げた石が最悪な事態を引き起こしたことは、過去にもある。
陰鬱な顔で黙り込んだ時、ロハクの執務室のドアが開いた。イサ・アンナが女王というよりも武人のような力強い足取りで、水色の長いドレスの裾をバサバサと翻しながらやって来る。
「ミーシャ、待ちかねたぞ」
イサ・アンナは親しげに両手を広げてアルテミシアを包み込んだ。
「戻りました、イサ・アンナ様。ご挨拶が遅れて…申し訳ございません」
鼻声だった。イサ・アンナは自分よりも上背のあるアルテミシアの顔を心底意外そうな表情で見つめ、母親のような仕草でアルテミシアの背中をぽんぽんと叩いてやった。
「ご苦労だった。むさ苦しい男どもから報告を聞き終えたところだ。そなたの報告を聞かせてくれ」
そう言ったイサ・アンナは、自身の執務室ではなく、城の庭園にアルテミシアを連れ出した。
オアリス城の庭園は、ルメオや他の国のように左右対称ではない。あちこちで夏草が青々と生い茂り、赤や黄色の可憐な花が緑の庭を彩っている。その中で、人が歩く場所は芝がよく刈り取られ、庭園の中を流れる小川や池のそばには雲母の光る踏み石が置かれていて、野山のような無造作な雰囲気と手の加えられた趣深い庭園の雰囲気が不思議に融合していた。
アルテミシアがイサ・アンナに連れられて庭園へ出ると、庭師や使用人たちが花や木々の手入れをしていた。平らな踏み石の小径を抜けて池に掛かる橋を渡り、橋の中央に設えられた白い八角形の東屋まで来ると、イサ・アンナは腰を下ろした。従者たちは橋を渡らずに、岸で待機している。ひとりの従者が東屋の小さなテーブルに茶と茶菓子を用意し、橋の向こうへ戻って行った。
「さあ、忌憚なく話すがよい」
イサ・アンナは小さなメレンゲの茶菓子をぽりぽりつまみながら、気軽に促した。アルテミシアも色の濃い紅茶を飲み、茶菓子をつまんでゆっくり飲み込むと、大きく息を吐いた。
「まことに不躾ながら、まずはお願いが」
「なんだ」
「…別の家を探しますから、それまで女中たちの部屋にでも置いてくださいませんか」
イサ・アンナは黒い柳眉を上げた。
「それはならぬな」
にべもなく言ったが、黒い瞳は面白そうに輝いている。
「なぜですか?」
アルテミシアは縋るような気持ちだった。あんなことがあった後で、同じ屋敷などに暮らせない。居心地の良い屋敷も最高の浴室も、今はどうでもいい。
「バルカ将軍と何があったのか無理に言わせるつもりは毛頭ないが、逃げるべき時とそうでない時を見極める必要がある」
アルテミシアは、意思とは関係なくもじもじと動く自分の指を見つめた。
「戦果は上々だったようだな」
と、イサ・アンナは話題を変えた。
「…はい、首領を生け捕りにしました」
「ミーシャ、わたしはそなたを評価している。作戦を進言したと聞いたぞ。その後の、少々の無茶もな」
アルテミシアは苦笑いもできずにただ肩をすくめた。
「バルカ将軍の指揮であれば、そなたがいなくても間違いなく勝利していたであろう。海賊団をひとつ潰すことなど、あの男にとっては造作もないことだ。そして、それを何度も繰り返し、いつかは最後の首領に辿り着く。殲滅はできるだろう。しかし、それでは時間も金も掛かる。何より、海賊どもの主要なビジネスが何たるかを掴めなかったであろうな」
「人身売買ですね」
イサ・アンナは頷いた。
「奴らが取り扱うもののうち、いちばんの主力商品は人間だ。激しく抵抗する者と老いた者は殺戮の生贄、労働力になる男や子供は奴隷商へ、女たちはどこかの国の非公認の娼館へ売られる。囮作戦は良い手だった。危険も大きかったが、そこはバルカ将軍をはじめ将校たちが上手く立ち回ってくれたからな。無論、そなたもだ。そなたでなければ、娘たちの救出は適わなかったであろう。力押しで攻めれば、娘たちは存在にも気づかれずに命を落としていたかもしれん」
「でも…」
と、アルテミシアは次の言葉を呑みこんだ。あの時はもう少しで自分も命を落としていた。サゲンが来なければ。
「海賊を生け捕りにできたお蔭で、有益な情報が手に入るだろう。海賊どもの元締めの拠点に繋がる者だけでなく、人身売買の顧客やそれに関わる者も罰することができる。助けられる無垢な命が増えることになる」
アルテミシアは唇を閉じたまま頷いた。怒りに負けて首領を殺そうとしたアルテミシアを止めたのも、サゲンだ。
「そなたとバルカ将軍は、良い組み合わせだ。個々に力を発揮することもできるが、共にあれば足りないところを埋め合って更なる力を示すことができると信じている。此度の戦果が良い例だ。そなたたちに何があったかは聞かぬ。だが、このままではいられぬぞ。どんな問題にせよ正面から向き合うことができぬのなら、そなたも所詮は平凡で臆病な小娘だったということだ」
アルテミシアはむっと頬を膨らませた。
「恐れながら、イサ・アンナ様。わたしは臆病じゃありませんよ」
陛下の御前ということも忘れ、語気強く言ってティーカップをテーブルに置いた。
「小娘でもありません」
イサ・アンナは心底驚いたような顔を作りながら、内心ではほくそ笑んだ。声にいつもの溌溂とした響きが戻ってきている。
(まったく、手の掛かる)
二人の様子からして、何かあったのは明白だ。どういう類のことがあったのかも、だいたい想像がつく。だからこそ、早めに手を打った方がいい。ゆくゆくは外交官に任命しようという大事な通詞がいなくなってしまっては困るし、何より近しい立場として二人に上手くいって欲しかった。アルテミシアの方はまだ何が彼女を押しとどめているのかはっきりと分からないが、サゲンなどは明白だ。
(あれも存外、わかりやすい男だ)
平素真面目くさって神妙に忠義を尽くしているサゲンのことを思い、イサ・アンナはおかしくなった。どうせ隊の風紀がどうの軍司令官たる自分がこのようなことに現を抜かすのがどうのとあれこれどうでもいいようなことを懸念しているのだろう。
周囲が発破を掛けるよりも、自分でそこから踏み出さねば意味がない。
「あ、そうそう。ところでミーシャ」
と、この時イサ・アンナは重要なことを思い出した。もともとこの事を話すつもりでアルテミシアを連れ出したというのに、目先の余興につられてうっかり忘れていたのだ。
「二週間後に、この城で宴を催すから、わたしの通詞として同席してほしい。エマンシュナ国王やその親族と、エル・ミエルドあたりの大使らが適当に何人か来ることになるから、よろしく頼む」
「へっ」
声が裏返った。いとも気軽に言われてしまったが、責任重大だ。それに、夜会用の盛装はアムの元首夫人からもらったコケモモ色のドレスしかない。しかし、あれはアムでこそ普通だったがイノイルでは少し露出が多すぎる。
「やはり盛装ですか」
我ながら愚問だ。イサ・アンナはハハッと快活な笑い声をあげた。
「女王付きの通詞であるそなたが軍装では示しが付かぬぞ。誰ぞ城の女中に頼んで仕立屋を呼んでもらえ。人選はそなたの好きにせよ。こういう機会も増えるから、何着か揃えておくといい。城の諸経費から出しておくようロハクにも申し渡してある」
「承知しました」
エラに頼もうと決めた。自分で選ぶよりも、彼女のセンスの方が信用できる。
「それから、そなたの留守の間に武闘用のドレスを数着仕立てさせておいた。既にバルカ邸に届けてあるから、暇なときにでも着てみよ。いかに動きやすくても、いつまでも男どもと同じ軍服ではいかぬ。おなごは華やかに装わねばな」
「武闘用のドレスですか」
アルテミシアには想像もつかない。今はイノイル軍に女性はいないようだが、もしかしたら女王は今後の女性軍人の採用も考えているのかもしれない。イサ・アンナは自慢げに続けた。
「まあドレスには違いないが、城で着るものよりは動きやすいし、なにより男どもの軍服よりも格段に装備がいい。隠す場所がたくさんあるからな。わたしが経験から考案したのだ。使ってみる機会があれば感想を聞かせてくれ」
アルテミシアは思わずにんまりとした。イサ・アンナ女王はやはり変わっている。それに、彼女の多才さにも驚かされた。
「身に余る光栄です、イサ・アンナ様。ありがたく使わせていただきます」
イサ・アンナもにやりとした。
エラはその頃、「ミシナさん」の部下の若い侍従に女中たちの住居へ案内された。王城の敷地内にある三階建てのアパルトマンが女中たちの住居で、隣の同じような建物が男の使用人たちのアパルトマンだと言われた。どちらも破風造りの美しい建物だが、女性用のアパルトマンの方が新しくてなんとなく洗練されているようだった。また、どちらの建物にも正面上部にイノイル王国の波と鷲の紋章が彫られている。
エラの部屋は三階のいちばん奥の部屋だった。小さな二人部屋だが、角部屋で窓も大きいから陽がよく当たってなかなか過ごしやすそうだ。同室の女中は今は夕飯の支度で食堂にいるらしいとロハクの従僕が教えてくれた。
オアリス城の女中たちには、特にドレスコードは存在しない。「女性は自らの美的感覚で着るものを選ぶべきだから、女中たちは動きやすく、かつ自分の気に入ったものを着るように」とイサ・アンナが即位した時に触れを出したのだ。ある程度の金額までは王家で補償するとも言った。このことがあってから女中たちはこれまでのあまりセンスの良いと言えない女中の服装から解放され、給金からの天引きを厭わなければ、それなりに良いものを着られるようになった。当時は女性が統治者になるとこうも違うのかと皆感銘を受けたものだったが、今ではイノイルの女中たちの自由な雰囲気は当然のものになっている。ただし、そのおかげでイノイルの宮廷では腰元だけでなく下働きの女中に至るまで、互いのドレスを評価する目が厳しくなったとも言える。もっとも、下働きの女中たちの間ではドレスの質や豪華さよりも機能性やその人にどれほど似合っているかが評価基準になるから、新参者にとってはどれくらいのものを選ぶのが丁度いいのか判断するのが難しい。
その点、エラはそういう類のことを見極めるのが上手かった。ロハクの従僕に女中のドレスの予備を一着もらえるように頼み、他の女中や使用人たちへの挨拶回りを願い出た。自室でさっそくイノイルの女中の簡素なドレスに着替え、ロハクの従僕に付き添われて挨拶回りをした。いくつか部屋を回った後、食堂で夕飯の食器を準備していた同室の女中と顔を合わせることができたので、そこからは彼女が城内を案内してくれることになった。
「ケイナよ」
と、同室の女中はちょっと大きい前歯を見せて陽気に笑った。くるくるの赤毛を後ろで団子にし、動きやすそうなすっきりした形のベージュのドレスを着ている。
「同室の子がいなくなって、寂しくしていたの。こんなに早く会えるなんて、感激だわ。一人の方が気楽だって言う人もいるけど、あたしは話し相手がいないと退屈しちゃってダメなんだ。エラ、いくつ?あたしたち、同い年くらいよね。お裁縫は好き?お料理は?時々仕事が休みの人同士が部屋に集まって自分の得意なことを教え合う勉強会があるのよ。高貴な身分の奥様や学者さんが見えてマナーや学問の講義をして下さることもあるわ。おすすめは医学の講義よ。あたしはあんまり得意じゃないんだけど。たまに眠くなっちゃうから…。でも、とっても為になるわ」
ケイナがこの調子で質問に答える間もなく喋り続けたために、エラはおかしくなってぷっと吹き出した。この子と同室なら、きっと楽しいだろう。それに、城で使用人同士の集まりがあるとは驚きだ。風通しの良い場所なのだろう。女中たちにまで教育の場を提供するとは、この国の君主はよほど教育熱心であるに違いない。改めてイノイルに連れて来てくれたアルテミシアに心の底から感謝した。
城はエラの想像よりもずっと広かった。途中、身分の高い軍人や文官たちが通るたびに壁際に寄って頭を下げなければならないため、広い城内を全部回りきる頃には夜が明けてしまいそうだった。
将校達の執務室が並ぶ一画に差し掛かった時、ちょうど手前の部屋の扉が開き、背の高い軍人が現れた。ケイナに倣って壁際に退いた時、その大きな影が近づいてきた。
「君はエラか」
エラは顔を上げた。名前を聞く機会がなかったが、アルテミシアと‘険悪な’あの将軍だと分かると、慌てていっそう身を低くした。
「閣下、お礼を申し述べることが遅れまして…」
「いや、俺に言うことではない。それより…」
サゲンが言葉を切ったので、エラは上目で表情をちらりと見た。視線だけで周りを見渡している。何を探しているのか、エラには明白だ。
「ミーシャでしたら、少し前にミシナ様を訪ねたのでまだお城のどこかにいるかと存じますわ」
「そうか。無事にロハクと会えたのなら、それでいい」
去っていく足元を見送っていると、ケイナがエラに興奮した様子で詰め寄った。
「バルカ将軍にお声掛けいただくなんて、もしかしてお知り合いなの?いいなあ!」
エラは驚いた。威圧的なあの人が、自分と同年代の純朴そうな女の子の頬も染めることができるとは。
「知り合いじゃないけど、いろいろと手配りをしてくださったみたい。通詞の方が将軍に頼んでくださって、それで動いてくださったの…」
エラはサゲンの背中を見て、一瞬躊躇した後に、既に廊下の遠くを歩いているその後を追った。女中から一方的に話しかけるなど、宮廷では無作法極まりないだろうが今回は致し方ないと自分に言い聞かせた。誰かに咎められたとしても、新参でまだ作法を心得ていないからと許してもらえるはずだ。
「閣下!」
サゲンは少々驚いたようだったが礼儀正しく振り向いた。エラは行儀の良い仕草でお辞儀をし、頭を下げたまま進言した。
「お呼び止めしなどいたしまして申し訳ございません。でも、…あの、ミーシャのことで…」
「どうした」
「宴の翌日から様子が妙なのです。元気もないし…。時々物思いに耽って黙り込んだり、食事に手を付けないこともあります。わたくしなどが気にするのも僭越なことですが、このままではお仕事にも影響があるのではと心配しています。わたくしではミーシャの相談役にはとてもなれませんから、たいへん不躾ながら閣下にその役をお願いできないかと思った次第なのです。ミーシャがいちばん信頼している様子でしたので…」
エラは上目遣いでチラリとサゲンを見た。サゲンは無表情で口を閉じたままだったが、エラにはなんとなくバツの悪さを隠しているように思えた。
(やっぱりあなたが原因なのね)
エラは心の中でぺろりと舌を出し、顔には心の底から心配している少女の顔を貼り付けている。とりあえず言うことは言った。本当なら「あなたと何かあったせいでミーシャが変だ」と言いたいところだったが、女中の仕事を世話するよう手配してくれたサゲンにも心から感謝している。だから、これはエラなりの感謝のしるしだった。小さなきっかけでも二人が向き合うことに繋がればいい。アルテミシアのあの様子では、おそらくサゲンから動いてもらうのが手っ取り早いだろうと踏んでのことだ。
(ちょっと首を突っ込みすぎたかしら)
多少気にはなるが、少なくとも二人が接触しないことにはこのままの状態が延々と続くことになる。それよりはましだろう。
ケイナのところへ戻ると、彼女はエラを驚きと称賛の眼差しで迎えた。
「すごいわ、エラ。あなたって物怖じしないのね。バルカ将軍に自分から声を掛けられるなんて」
(そりゃあ、いろいろあったからね…)
エラは心の中で自嘲した。何度も居場所をなくしてきたエラを、アルテミシアが救い出してくれたのだ。これまでの悲惨な経験で培った度胸くらいは、アルテミシアのために使いたい。
「あの方って、そんなに怖がられているの?」
エラが訊ねると、ケイナはよくぞ訊いてくれたとばかりに鳶色の目をキラリと輝かせた。
「サゲン・エメレンス・バルカ将軍は、身分も高ければ規律や品行に対する厳格さも有名よ。あの方のおかげで、軍律を乱す者はいないんですって。もし些細なことでも規則を破れば、将軍自ら厳罰を課されるらしいわ。それに、若い頃から戦上手で知られていて、海賊の討伐でも西方の戦でも、将軍の指揮下の隊は負けたことがないそうよ。だから敵からも味方からもとても恐れられているの。でも、女官たちからは違うことで有名なのよ」
ケイナがもっと先を促してくれと言わんばかりに身を乗り出して来たので、エラはやや大袈裟に頷いてその期待に応えた。
「どんなこと?」
「涼やかな目元に秀麗なお顔立ち、引き締まって逞しいお身体。代々王家に仕えてきたやんごとない家柄で、お父様は現役の法務官。それに加えて硬派で武術にも長けていらっしゃって、軍装で馬上にいらっしゃる姿は溜め息なしでは見られないわ。それなのに、なんと独身!」
その口調は熱っぽく興奮していた。エラはもう一度大仰に頷き、それは納得!というように相槌を打ってみせた。
「それは城中の女性たちが放っておかないわね」
ケイナは満足そうににっこり笑った。
「城だけじゃないわ。イノイルの貴族の令嬢たちからも熱い視線を浴びているのよ。宴のたびにダンスをどの女性にダンスを申し込むか、みんなが注目しているの。来月の宴のことも、既に話題になっているわ」
エラは来月の宴のことをしっかり記憶しつつ、ケイナが喜ぶように「本当にそうね。わたしも気になってきた」と大真面目な顔で言った。
「あたしたち、とてもいい友達になれると思うわ」
ケイナは目を輝かせながらニヤリとして言った。
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