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百、アクイラ - Aquila -
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ガイウスが目蓋をひらいた時、あたりはまだ暗く、カーテンの隙間からは日が昇る前の薄暗い空が僅かに見えた。目の前には、長いシナモン色の髪に隠されたアニエスの背がある。
急速に、胸に迫るものがあった。過去の恋人たちや、キセに恋慕していたときとは違う。アニエスのことはずっと知っていたはずなのに、初めて会った日に激しい恋に落ちて一夜を共にしたような高揚感にも似ているし、長らく求めていたものをやっと手に入れたような感慨深さとも思えた。
ふと、今自分が目を覚ました理由を考えた。
予感がしたのかも知れない。例えば、朝が来て目を覚ました時に、アニエスがひっそりと姿をくらましてしまうような、そんな予感が。
それが正しかったと知ったのは、アニエスが静かに身体を起こし、再び目蓋を閉じたガイウスの額に唇を押し付けて来た時だ。アニエスの肌は濡れていた。――涙だ。
「…愛してる、ガイウス。さようなら」
離れようとしたアニエスの腕を、ガイウスは強く引いてベッドへ押し戻した。
「なぜ愛しているのに離れようとする」
覆い被さった身体の下で、アニエスが腫らした目を見開いている。
「お、起きて…」
「言ったはずだ。わたしを最後の男にすると。どこにも行かせない」
「だって」
アニエスは顎を震わせた。
「だって、こんなのおかしいわよ。何も感じないの?罪悪感は?仮にも十年、兄妹だったのに。それに…わたしの父親が――」
「罪悪感など、微塵もない」
ガイウスはキッパリと言った。
「事実、わたしたちは兄妹じゃない。父親どもなど、知るか。ろくでもない殺し合いなど勝手にやっていればいいさ。それに二人とももう死んだ。一人は顔も知らない。わたしたちが人生を左右される価値はない」
涙を流すアニエスの腕を強く握ってベッドに押し付けたまま、ガイウスは続けた。
「死者や血などに惑わされるな、アニエス。大事なことは、わたしがお前を愛していて、お前がわたしを愛しているという事実だけだ」
アニエスの反応は、ガイウスの予想とちょっと違っていた。なんだか不明な言語を聞いたように目を丸くして、呆けている。
「…今、何て言ったの?」
「お前を愛している。妹じゃなく、女として。伝わってなかったか?こんなことまでしたのに」
「そ、そんなの、わからないわよ」
アニエスが頬を赤く染めた。
「――色々あったせいで本当に錯乱してるのかと…」
「手酷いな」
ガイウスは苦々しげに言った。
「だって、…キセのことはもういいの?」
「大事な友人であることに変わりはない。だが、それよりもお前のことで頭がいっぱいなんだ。大切な妹だと思っていたのに、完璧な妹のように振る舞うのをやめてから。――自分でもどうにかしたかと思った。戸惑いがなかったと言えば嘘になる。だが詮無いことを考えるのはやめた。お前を女として愛していると気付いたときから、わたしは心を決めている」
今、ガイウスがどんな顔をしているか目に焼き付けておきたいのに、できない。アニエスの目の奥が燃えるような熱を持って涙を溢れさせているからだ。息が苦しい。喉が痛い。
「もう一度聞く。わたしを最後の男にしてくれるか。兄ではなく、夫として――伴侶として、お前の人生に迎え入れるか」
ぐい、とガイウスの指がアニエスの目元を拭った。
明瞭になった視界で、ガイウスの顔がひどく緊張していることに気付いた。これは問いかけではなくて、懇願なのだ。
「あなたこそ、わたしを最後の女にする自信があるの?」
「当然だ」
「心変わりなんて許さないわよ。今までみたいにあちこちフラフラするのも」
「お前はわたしをなんだと思ってるんだ」
ガイウスが心外そうに眉間に皺を寄せ、アニエスの鼻をキュッとつまんだ。
「妹だった女に手を出したんだぞ。信用できないなら何度でも言うし、何度でも抱く。わたしはお前しかいらない」
確かに、そうだ。ガイウスは生半可な覚悟で‘妹’に手を出したりするほど軽率な男ではない。
嬉しさとくすぐったさで顔が熱くなる。また涙が溢れそうだ。が、この不安そうなガイウスの顔がまた涙の向こうにぼやけてしまうのは惜しい。
アニエスは震える喉をぐっと堪えて、声を絞り出した。
「…色々めんどくさいわよ。手続きとか、説明とか。軽蔑されるかも」
ガイウスはちょっとおかしそうに眉を上げた。
「特にセオスに?」
「そう。セオス兄さまに」
「リンゴのタルトを焼いて持って行けばいい。二人で」
「あなた、できるの?」
「今までやってみてできなかったことはない」
「自信家」
アニエスが笑うと、ガイウスの唇がそっと頬に落ちてきた。目はもう笑っていない。
「なあ、それは‘はい’と言う意味でいいのか」
「言わせてみて」
簡単には言ってやらない。アニエスは挑戦的な笑みを浮かべてガイウスの首に腕を回した。これくらい焦らしても大して罪にはならないだろう。自分の方がずっと長い間つらい恋に彷徨っていたのだから。
「では――」
ガイウスがアニエスの唇に触れるだけのキスをし、淫らに微笑んで見せた。
「今から次に目を覚ますまで、お前とわたし以外の者の名を口にするのは禁止だ」
この後のことは、ほとんど記憶にない。禁止事項を破らなかったのは確実だ。だが、アニエスは「はい」といつ言ったかわからないくらいに乱されて、想像もできないほどの悦楽に満たされ、ガイウスがどれほど本気かを思い知らされた。
これまで味わったことのない幸福に包まれながら思ったのは、ガイウスの言葉が正しいということだ。
ガイウスがわたしを愛していて、わたしがガイウスを愛しているという事実があれば、あとはもう何でもいい。どんなことが待っていても、もう大丈夫だ。
夜が明けると同時に、王都はいつもに増してひどく慌ただしい朝を迎えた。
数百年の隔たりを経て、遂にエマンシュナ・イノイル両国王が友好的な会合を行うのだ。
衣装や装飾品の準備はもちろん会合が決まった時から王府関係者総出で取り掛かっていたし、豊かなイノイルの王がどれほど煌びやかな装いで現れても見劣りしないために、最も威厳ある服を恐ろしく短い納期で作らせ、新調していた。
レグルス城でも、いつもより何倍も慌ただしい朝を迎えている。
が、当のキセは朝食の時間になるまでテオドリックの腕の中ですやすやと眠りこけていた。
「もう!テオドリック殿下も、なんで姫さまを起こしてくださらないんですか!」
と、セレンはぷりぷり怒っていたが、テオドリックがしらじらと「寝顔が可愛いから起こしたくなかった」と言い放つと、返す言葉も無くしてキセのドレスの支度にさっさと戻った。
この日、セレンが怪訝に思ったのは、主人のこの暢気さではない。どちらかというとキセはどこにいても何をしても、普段通り伸び伸びとしている。歴史的な一日になるであろう今日という日も、まるでお気に入りのパイを露店に買いに行くぐらいの気安さで過ごしている。その儚げな見た目からは想像ができないくらい、豪胆なのだ。
それはいい。
問題は、ドレスへの注文だ。
「軽いものにしてください」
と言うのである。それだけではない。
「できれば、スカートの着脱が簡単なものがいいです。重いネックレスは避けてください」
流石にセレンは口を挟まずにいられなかった。
「ちょっと、姫さま」
「はい」
キセは真っ白なアンダードレスを着ただけの姿で、セレンを振り返った。
「ピクニックに行くんじゃないんですよ。馬にも乗りません」
「わかっています」
この真っ直ぐな漆黒の瞳を見た時、セレンの背筋を嫌な冷気が走った。
これだけ長い間仕えてきて、なぜ今まで気づかなかったのだろう。キセは暢気になど過ごしていない。必死で普段通りに見せているだけだ。
が、多分聞いても無駄だ。頼み事があれば、セレンに真っ先に言っているはずだ。何か事情があるに違いない。
「…ちゃんとわたしに仕事をさせてくださいよ」
セレンはそれだけ言うと、真夏に着るような薄手のアンダードレスをワードローブから引っ張り出し、予め用意されていた厚手の織物で仕立てられたドレスではなく、絹の流れるような光沢が美しいドレスを先頭に掛け直した。一見して一枚のドレスに見えるが、胴の部分とスカート部分が分かれているものだ。金糸で鷲と波の紋章が全体に刺繍され、スカートの広がりは少ないながらも小さな宝石が散りばめられていて、陽光に照らされると神々しく輝いて見える。
「ネックレスは真珠にします?」
「それがいいです」
キセはにっこりと笑った。
セレンが真珠を選んだのは、真珠が海の宝石であり、オスイア神の加護がそこに宿ると考えているからだ。
これに合わせ、髪飾りも真鍮や黄金の彫金を施されたものから、真珠のものに替えた。
「完璧です」
キセが満足げにセレンに微笑みかけた。
髪は編み込まれてくるくるとまとめられ、肩に落ちないようになっている。これもキセの指示だ。一見して煌びやかな祭典に相応しい装いだが、内実は今までキセが公の場で着たどのドレスよりも機動性が高い。
まるで出陣だ。と、セレンは肝が冷える思いで船に乗り込んだ。
港には何隻もの大型船がエマンシュナ王国の金獅子の紋章を帆に掲げて並び、中でも最も美しく豪奢な緋塗りの船に、国王と側近、護衛が乗っている。右に並んだ一回り小さい緋色の船には、テオドリックとキセが、左に並ぶ同じく緋色の船には、ネフェリア、スクネ、オベロンが同乗している。その周囲の軍船は、すべて護衛だ。
壮麗な船列を組み、王国の船はアクイラ海峡を進んだ。黄金に輝く遠い波の上に、何隻もの船の影が見えた。
イノイル国王、オーレン・シトーがすぐそばまで来ている。
急速に、胸に迫るものがあった。過去の恋人たちや、キセに恋慕していたときとは違う。アニエスのことはずっと知っていたはずなのに、初めて会った日に激しい恋に落ちて一夜を共にしたような高揚感にも似ているし、長らく求めていたものをやっと手に入れたような感慨深さとも思えた。
ふと、今自分が目を覚ました理由を考えた。
予感がしたのかも知れない。例えば、朝が来て目を覚ました時に、アニエスがひっそりと姿をくらましてしまうような、そんな予感が。
それが正しかったと知ったのは、アニエスが静かに身体を起こし、再び目蓋を閉じたガイウスの額に唇を押し付けて来た時だ。アニエスの肌は濡れていた。――涙だ。
「…愛してる、ガイウス。さようなら」
離れようとしたアニエスの腕を、ガイウスは強く引いてベッドへ押し戻した。
「なぜ愛しているのに離れようとする」
覆い被さった身体の下で、アニエスが腫らした目を見開いている。
「お、起きて…」
「言ったはずだ。わたしを最後の男にすると。どこにも行かせない」
「だって」
アニエスは顎を震わせた。
「だって、こんなのおかしいわよ。何も感じないの?罪悪感は?仮にも十年、兄妹だったのに。それに…わたしの父親が――」
「罪悪感など、微塵もない」
ガイウスはキッパリと言った。
「事実、わたしたちは兄妹じゃない。父親どもなど、知るか。ろくでもない殺し合いなど勝手にやっていればいいさ。それに二人とももう死んだ。一人は顔も知らない。わたしたちが人生を左右される価値はない」
涙を流すアニエスの腕を強く握ってベッドに押し付けたまま、ガイウスは続けた。
「死者や血などに惑わされるな、アニエス。大事なことは、わたしがお前を愛していて、お前がわたしを愛しているという事実だけだ」
アニエスの反応は、ガイウスの予想とちょっと違っていた。なんだか不明な言語を聞いたように目を丸くして、呆けている。
「…今、何て言ったの?」
「お前を愛している。妹じゃなく、女として。伝わってなかったか?こんなことまでしたのに」
「そ、そんなの、わからないわよ」
アニエスが頬を赤く染めた。
「――色々あったせいで本当に錯乱してるのかと…」
「手酷いな」
ガイウスは苦々しげに言った。
「だって、…キセのことはもういいの?」
「大事な友人であることに変わりはない。だが、それよりもお前のことで頭がいっぱいなんだ。大切な妹だと思っていたのに、完璧な妹のように振る舞うのをやめてから。――自分でもどうにかしたかと思った。戸惑いがなかったと言えば嘘になる。だが詮無いことを考えるのはやめた。お前を女として愛していると気付いたときから、わたしは心を決めている」
今、ガイウスがどんな顔をしているか目に焼き付けておきたいのに、できない。アニエスの目の奥が燃えるような熱を持って涙を溢れさせているからだ。息が苦しい。喉が痛い。
「もう一度聞く。わたしを最後の男にしてくれるか。兄ではなく、夫として――伴侶として、お前の人生に迎え入れるか」
ぐい、とガイウスの指がアニエスの目元を拭った。
明瞭になった視界で、ガイウスの顔がひどく緊張していることに気付いた。これは問いかけではなくて、懇願なのだ。
「あなたこそ、わたしを最後の女にする自信があるの?」
「当然だ」
「心変わりなんて許さないわよ。今までみたいにあちこちフラフラするのも」
「お前はわたしをなんだと思ってるんだ」
ガイウスが心外そうに眉間に皺を寄せ、アニエスの鼻をキュッとつまんだ。
「妹だった女に手を出したんだぞ。信用できないなら何度でも言うし、何度でも抱く。わたしはお前しかいらない」
確かに、そうだ。ガイウスは生半可な覚悟で‘妹’に手を出したりするほど軽率な男ではない。
嬉しさとくすぐったさで顔が熱くなる。また涙が溢れそうだ。が、この不安そうなガイウスの顔がまた涙の向こうにぼやけてしまうのは惜しい。
アニエスは震える喉をぐっと堪えて、声を絞り出した。
「…色々めんどくさいわよ。手続きとか、説明とか。軽蔑されるかも」
ガイウスはちょっとおかしそうに眉を上げた。
「特にセオスに?」
「そう。セオス兄さまに」
「リンゴのタルトを焼いて持って行けばいい。二人で」
「あなた、できるの?」
「今までやってみてできなかったことはない」
「自信家」
アニエスが笑うと、ガイウスの唇がそっと頬に落ちてきた。目はもう笑っていない。
「なあ、それは‘はい’と言う意味でいいのか」
「言わせてみて」
簡単には言ってやらない。アニエスは挑戦的な笑みを浮かべてガイウスの首に腕を回した。これくらい焦らしても大して罪にはならないだろう。自分の方がずっと長い間つらい恋に彷徨っていたのだから。
「では――」
ガイウスがアニエスの唇に触れるだけのキスをし、淫らに微笑んで見せた。
「今から次に目を覚ますまで、お前とわたし以外の者の名を口にするのは禁止だ」
この後のことは、ほとんど記憶にない。禁止事項を破らなかったのは確実だ。だが、アニエスは「はい」といつ言ったかわからないくらいに乱されて、想像もできないほどの悦楽に満たされ、ガイウスがどれほど本気かを思い知らされた。
これまで味わったことのない幸福に包まれながら思ったのは、ガイウスの言葉が正しいということだ。
ガイウスがわたしを愛していて、わたしがガイウスを愛しているという事実があれば、あとはもう何でもいい。どんなことが待っていても、もう大丈夫だ。
夜が明けると同時に、王都はいつもに増してひどく慌ただしい朝を迎えた。
数百年の隔たりを経て、遂にエマンシュナ・イノイル両国王が友好的な会合を行うのだ。
衣装や装飾品の準備はもちろん会合が決まった時から王府関係者総出で取り掛かっていたし、豊かなイノイルの王がどれほど煌びやかな装いで現れても見劣りしないために、最も威厳ある服を恐ろしく短い納期で作らせ、新調していた。
レグルス城でも、いつもより何倍も慌ただしい朝を迎えている。
が、当のキセは朝食の時間になるまでテオドリックの腕の中ですやすやと眠りこけていた。
「もう!テオドリック殿下も、なんで姫さまを起こしてくださらないんですか!」
と、セレンはぷりぷり怒っていたが、テオドリックがしらじらと「寝顔が可愛いから起こしたくなかった」と言い放つと、返す言葉も無くしてキセのドレスの支度にさっさと戻った。
この日、セレンが怪訝に思ったのは、主人のこの暢気さではない。どちらかというとキセはどこにいても何をしても、普段通り伸び伸びとしている。歴史的な一日になるであろう今日という日も、まるでお気に入りのパイを露店に買いに行くぐらいの気安さで過ごしている。その儚げな見た目からは想像ができないくらい、豪胆なのだ。
それはいい。
問題は、ドレスへの注文だ。
「軽いものにしてください」
と言うのである。それだけではない。
「できれば、スカートの着脱が簡単なものがいいです。重いネックレスは避けてください」
流石にセレンは口を挟まずにいられなかった。
「ちょっと、姫さま」
「はい」
キセは真っ白なアンダードレスを着ただけの姿で、セレンを振り返った。
「ピクニックに行くんじゃないんですよ。馬にも乗りません」
「わかっています」
この真っ直ぐな漆黒の瞳を見た時、セレンの背筋を嫌な冷気が走った。
これだけ長い間仕えてきて、なぜ今まで気づかなかったのだろう。キセは暢気になど過ごしていない。必死で普段通りに見せているだけだ。
が、多分聞いても無駄だ。頼み事があれば、セレンに真っ先に言っているはずだ。何か事情があるに違いない。
「…ちゃんとわたしに仕事をさせてくださいよ」
セレンはそれだけ言うと、真夏に着るような薄手のアンダードレスをワードローブから引っ張り出し、予め用意されていた厚手の織物で仕立てられたドレスではなく、絹の流れるような光沢が美しいドレスを先頭に掛け直した。一見して一枚のドレスに見えるが、胴の部分とスカート部分が分かれているものだ。金糸で鷲と波の紋章が全体に刺繍され、スカートの広がりは少ないながらも小さな宝石が散りばめられていて、陽光に照らされると神々しく輝いて見える。
「ネックレスは真珠にします?」
「それがいいです」
キセはにっこりと笑った。
セレンが真珠を選んだのは、真珠が海の宝石であり、オスイア神の加護がそこに宿ると考えているからだ。
これに合わせ、髪飾りも真鍮や黄金の彫金を施されたものから、真珠のものに替えた。
「完璧です」
キセが満足げにセレンに微笑みかけた。
髪は編み込まれてくるくるとまとめられ、肩に落ちないようになっている。これもキセの指示だ。一見して煌びやかな祭典に相応しい装いだが、内実は今までキセが公の場で着たどのドレスよりも機動性が高い。
まるで出陣だ。と、セレンは肝が冷える思いで船に乗り込んだ。
港には何隻もの大型船がエマンシュナ王国の金獅子の紋章を帆に掲げて並び、中でも最も美しく豪奢な緋塗りの船に、国王と側近、護衛が乗っている。右に並んだ一回り小さい緋色の船には、テオドリックとキセが、左に並ぶ同じく緋色の船には、ネフェリア、スクネ、オベロンが同乗している。その周囲の軍船は、すべて護衛だ。
壮麗な船列を組み、王国の船はアクイラ海峡を進んだ。黄金に輝く遠い波の上に、何隻もの船の影が見えた。
イノイル国王、オーレン・シトーがすぐそばまで来ている。
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