獅子王と海の神殿の姫

若島まつ

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六十四、勝利の美酒 - Amëki pour les dieux -

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 テオドリックは機嫌よく鼻歌を歌いながら、両手で顔を覆うキセを眺めた。濛々と立ち込める湯気が浴室中を白く覆っているが、耳から肩まで赤く染まった肌は隠しようがない。
「ゆっくり湯に浸かるのもたまにはいい」
 キセはテオドリックの言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、ラベンダーの束が浮いた湯の中で身体を小さくし、固まっている。
 テオドリックは吐息だけで笑うと、キセのほつれた髪を持ち上げてそこにキスをし、顔を覆うキセの細い手首をやさしく握って、指先をぺろりと舐めた。
 ぴくりとキセの肌が小さく震えた。
「顔を見せてくれないのか?」
「…恥ずかしいです」
 キセが指の間から涙目になって訴えた。

 事の発端は、キセがスクネにチェスの勝負を持ちかけたことだった。
 ここのところスクネは会合の調整のためアクイラ海峡を臨むイノイル軍の占拠地へ赴くことが多くなっている。今のところ、そこでなければイノイル王府との連絡手段がないからだ。ただし、一つの物事を決めるのに船と馬の往復を待たなければならない。これに、どんなに波に恵まれたとしても三日はかかる。そのため、本国の父王との連絡のためにスクネはこの小さな砦に泊まり込んで書類仕事をする傍ら、兵士たちと訓練をしたり、この敷地内に兵士たちが作った畑を耕したり、小さな船で漁をしたりして過ごしていた。
 そういう理由で、スクネも揃ってレグルス城での夕食の席についたのは久しぶりだった。
 スクネはアストレンヌへ戻る時に、父から書簡と一緒に送られてきたイノイルの酒を持ち帰っていた。
 夕食の席でスクネの持ってきた白い陶器の酒瓶を見ると、キセは急に落ち着きがなくなり、なにやら頬を染めてもじもじしながら兄に訊ねた。
「お兄さま、それは、アメキですか」
「そうだ」
 スクネは目を細めた。ちょっと窘めるような目つきだ。キセがぱあっと顔を明るくしたのを見て、テオドリックは苦笑した。
「そんなに美味いのか」
「はい!お米のお酒なのですが、しゅわしゅわっとしていてほんのり爽やかな甘みがあって、大好きなんです。つい飲みすぎてしまうくらい…」
「ほどほどにしておきなさい」
 スクネが実母シノ・カティアにそっくりな目つきでキセに警告した。
「ほう、それは楽しみだな」
 テオドリックは上機嫌に言うと、使用人に目配せして酒瓶を一度下げさせた。
「冷やして食後に出させよう」
「うわぁ、ありがとうございます」
 キセが喜んで言った。一方、スクネはちょっと呆れ顔だ。
「飲ませ過ぎるな」
 スクネはテオドリックにも警告したが、キセは気に留めずにっこりと笑いかけた。珍しく挑戦的な顔だ。
「ふふ、お兄さま。飲まされるのではなく、ありがたく頂戴するのですよ。家訓に倣って、エシェックチェスで勝負をしましょう」
「負けたら飲むのか?」
「いいえ、勝ったらです。アメキは神々へ捧げるものですから、勝利のご褒美としていただくのですよ」
 キセはテオドリックに教えてやった。シトー家ではこのやり方で、神々へ捧げる神聖なアメキという美酒を我が物とする口実にしている。
 スクネとテオドリックは顔を見合わせて肩を竦めた。
 果たして夕食を終え、一階の大広間に併設されている遊技場で盤を広げた後、テオドリックはその腕前を思い知った。
 シトー家のチェスは長考を許さない。
 家族がそれぞれ多忙な中での遊びのため自然とそうならざるを得なかったという理由もあるが、今一つ、瞬時に先を読み決断する力を培うという目的もある。そういう理由で、一試合が三十分程度で終わる。キセはスクネと三度勝負して、二度ロワを取った。
 テオドリックは二人の対局を黙って見ていた。スクネが巧手なのは予想通りだが、キセの攻め方が巧緻なのは意外だった。最初は緩く、のらりくらりとした手を打ち、中盤から終盤で一気に畳み掛けてくる。
「キセに好戦的な一面があったとは、知らなかった」
「好戦的だなんて」
 とキセはテオドリックに向かって頬を赤くした。スクネはガラスの小さなゴブレットに透明な酒を注ぎながら苦笑した。
「キセの師匠はシノ母上だ。父上よりも強い。キセも打ち方がそっくり同じだ」
「はい。小さい頃はシノお母さまに駄々をこねて毎日三時間以上相手をしてもらっていましたから。教え通りです」
「ああ、だがお前、シノ母上の教えをひとつ守っていないんじゃないか」
 そう言うスクネからゴブレットを受け取り、キセは首を傾げた。
「母上は男性相手なら三度に二度は負けて相手の顔を立てた方が貴婦人としては可愛げがあると教えたはずだ」
 スクネがニヤリとして言った。小さなキセが兄たちをこてんぱんに負かすたび、シノ・カティアがその宮廷での処世術を説くのがかつては日常の風景だった。
「お父さまには相手が誰でも手を抜くなと教わりました。それにお兄さまは、エシェックに負けてもキセのことを可愛がってくださいます。ね?」
「お前というやつは」
 スクネは二杯目のアメキを飲み終えて悪戯っぽく首を傾げたキセの鼻をギュッとつまみ、喉の奥で笑いながら頬におやすみのキスをした。キセもくすぐったそうにくすくす笑って兄の頬にキスを返した。
「明日も早い。俺はもう寝る」
 スクネが上着を肩に掛けてサロンを出て行くと、テオドリックは駒を片付けるキセの手をつついてやめさせ、シャツの襟を緩めて袖をまくり、今までスクネが座っていた向かいの椅子に腰掛けた。
「俺もやる」
「よいのですか?」
 キセは嬉しそうに笑った。
「アメキは強いお酒ですから、初心者のテオドリックにあまり飲ませてしまわないよう、頑張りますね」
「言うな」
 テオドリックはおかしくなって笑い声を上げた。
「スクネどのにも言われた通り、俺はあんたにあまり飲ませないようにしなければいけない」
 黒の駒を盤上に並べ、テオドリックが言った。
「ふふ、ではテオドリックと初めての勝負ですね。負けません」
「いいぞ、本気でやれ。例えあんたが勝っても俺は骨の髄まで可愛がるのをやめたりしない」
 テオドリックの唇が淫靡な含みを持って弧を描くと、キセの鳩尾がぎゅ、と締め付けられた。同時に、なんだかわくわくしてきた。テオドリックがどんな手を打つのか、とても興味深い。
 今度も三回勝負をすることにした。初回はキセの勝ち、二度目はテオドリックが勝ってキセが酌をした。
 キセが瓶を両手で支えて傾けると、ゆったりした淡い色の袖から白い肘が覗く。その様がどこか背徳的な艶っぽさを感じさせる。ふと視線を上げると、キセがゆっくりと目を細めてどこかとろんとした笑みを浮かべた。
(これは――)
 テオドリックは意地悪い顔になるのを我慢しなければならなかった。今手の内を悟られるのは、よろしくない。魅力的だと自覚がある顔でキセに微笑みかけ、ゴブレットの上の方まで注がれた透明の酒を、ぐっと飲み干した。
 アメキは確かに発泡性のほのかな甘みのある酒だった。が、強い。予想以上だ。飲み干したそばから喉が焼けるようにヒリヒリする。
 これをキセは三杯も平然と飲み干している。その上、チェスの手は狂っていない。
「あんたはなかなかの酒豪だな。驚いた」
「そうでしょうか。自分ではあまりよくわからないのですが…。でももうふわふわしています」
 ふふ、と笑ったキセの目元が桃色に染まり、閨で乱れるときの顔色を想起させる。テオドリックの顔に思わず悪い笑みがこぼれた。
「では最後の勝負といこう」
「望むところです。アメキはお口に合いましたか?」
「ああ、確かに旨い。だが俺が勝ったら酒はもういい」
「では何をご褒美にしますか?」
「風呂」
 キセはきょとんとした。確かにいつもならとっくにお風呂に入っている時間だが、わざわざ勝利の褒美にしなくてもあと一局終われば入れるではないか。
「お風呂ですか?」
「ああ。それがいい」
「それほどお疲れなのですね」
 と、キセの導き出した答えがこれだった。
「そんなときに対戦してくださってありがとうございます。テオドリックが勝ったらたっぷりの薬湯でいつもより贅沢なお風呂にしましょう」
「くっ」
 テオドリックは笑いを噛み殺しきれなかった。チェスではあれほど先を読んだ展開をするのに、こういうことにはとんと勘が働かないキセがおかしかった。
 結局、三度目もテオドリックが勝った。
 スクネとキセの対局で、キセがどう動くかずっと観察していたのだ。キセののらりくらりに誘導されないようにするにはなかなか苦労したが、テオドリックもチェスは幼い頃から師匠がついていたし得意な部類だ。
「お強いです。感服しました」
 キセは祈るときのように両手を組んでテオドリックに微笑みかけた。目がさっきよりもとろんとしている。
 キセが立ち上がってゴブレットに酒を注ごうとしたので、テオドリックは傾いた瓶の首を押さえて止めた。
「酒はもういいと言ったろ」
「へぁ。あ、そうでしたね。うっかりしていました」
 キセがくすくすと笑い声を上げた。なんだか頭がフラフラしている。
 テオドリックは酒瓶を取り上げてキセの額をつついた。
「酔っぱらい」
 苦笑して言うと、キセが赤くなった頬を両手で隠すようにして眉尻を下げた。
「つい、楽しくて…」
 キセの頭がこてんと胸に寄りかかってきた。甘えているらしい。
(可愛い)
 じわじわとテオドリックの身体が熱くなる。テオドリックはキセの柔らかい髪を優しく撫で、甘い声で訊ねた。
「楽しかったか?」
「ん、はい」
 意識がはっきりしているのかどうか、キセがふわふわした声色で答えた。
「褒美を覚えているか?」
「はい」
「風呂だぞ」
「はい」
「薬湯をたっぷり入れてくれるんだよな」
「はい」
「あんたも一緒だ」
「はい」
 フッ。とテオドリックがこぼした勝利の笑みで、キセは少しだけ意識を取り戻し、顔を上げた。
「…ん?」
「撤回はなし」
「えっ――きゃあ!」
 叫んだ時には、テオドリックの腕に抱き上げられていた。
「でも、テオドリック――」
 キセが抗議を始める前にテオドリックはキセの唇を塞ぎ、歯の間から舌を挿し入れた。
「んぅ…」
「アメキの味がする」
 勝利の美酒はこれで十分だ。
 テオドリックが隅々まで味わい尽くすように口付けをすると、キセが甘えるような仕草でテオドリックの首に腕を巻きつけてそれに応えてくる。
 ドレス越しの体温が上がり、息遣いが荒くなったころ、テオドリックは唇を離した。
 キセが新月の夜空のような瞳で、懇願するように見つめてくる。
「もっと…」
 甘い声でねだられた瞬間、テオドリックは何も考えられず、キセを抱えたまま駆けるように遊技場を出た。
 廊下には示し合わせたように誰の姿もない。テオドリックは浴室の扉を蹴り開けて大理石の床を踏み、脱衣所の化粧台にキセの腰を乗せて、もう一度キスをした。
 舌を絡ませ、柔らかく甘美な唇に吸い付きながらキセの背中の小さな留め具を外し、下着の紐を解いて、容易く裸にした。キセもテオドリックのグレーのベストを脱がせ、シャツのボタンを胸まで外してズボンから引っ張り上げ、くすんだ金色の頭から抜き取った。
 薬湯のことなど、キセはとうに忘れている。
 テオドリックがキセの中心に触れた時、重なった唇の下でキセが小さく叫んだ。キセはもっと奥まで欲しがるように腰をうねらせて甘い呼吸をし、理性も溶けてしまったような目でテオドリックを誘惑した。
 酒に酔うと、いつもより少し大胆になるらしい。
「テオドリック、もっと。…もっとください」
 ぞくりとした。食われているのは自分だ。もう生きて帰れないほど、彼女の中に取り込まれている。
 テオドリックはキセの柔らかい乳房に触れて頂にキスし、秘所を愛撫しながらその奥へ指を挿れた。
「ん、あ…!」
 キセが身体を震わせて歓喜に呻く。自分の脚の間が痛いほどに立ち上がり、ズボンの前を押し上げている。
「あっ、あ、もう」
「いくのか?いつもより感じやすいな」
 それに、酒のせいでいつもより内側が熱い。キセの胸から顔を上げて言うと、キセは潤み蕩けた瞳でテオドリックを見つめ、内部を締め付けた。
「んんーっ…!」
 昇り詰めたキセが肩で息をしながら胸に顔を埋めたテオドリックの頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
 テオドリックはキセの腰を掴んで身を屈め、化粧台に滴るほど潤った秘所に口を付けた。
 キセはビクリと身体を跳ねさせた。今これをされたら、おかしくなってしまう。
「あっ、まだ…」
 テオドリックは聞かなかった。
 何もわからなくなるほどテオドリックの舌に内側を解され、吸いつかれ、自分が何を口走ったかもわからない。火花が身体の中で大きく弾けたと思った次の瞬間には、余裕のない顔のテオドリックに膝を抱えられ、貫かれていた。
 ガタガタと化粧台が音を立てて揺れ、その度にテオドリックが最奥部を叩きつける。
 あたりに響いている甘えるような高い声は、自分のものだ。いつもなら恥ずかしくて耳を塞ぎたくなるところだが、今は違う。恥ずかしいと感じる余裕もないほど、テオドリックを渇望している。
 キセは身体中を駆け回る快楽の炎を受け入れ、もっと奥まで誘い込むように熱を増したテオドリックの背にしがみついた。
「テオドリック――!」
 キセはテオドリックの荒っぽい律動と呻くような息遣いに誘われるように昇り詰め、キセはその頬を引き寄せてキスをねだった。
 テオドリックが焦らさず唇を重ねてくると、全身の細胞がざわざわと温かな悦楽に震えた。
「…あんたは、他所でアメキを飲むな」
「どうしてですか?」
 キセはテオドリックの額にハラリと落ちた金色の髪をそっと横に退けた。余裕をなくしたエメラルドグリーンの瞳が快楽に歪んでいる。
 繋がった場所がじくりと疼いてテオドリックを締め付けたのが、自分でもわかる。
「その顔」
 それだけ言うと、テオドリックはキセの身体を離して腰を掴み、化粧台から下ろしてくるりと後ろを向かせ、何か言いたげに後ろを振り返ったキセの唇を塞いで、そのままもう一度奥へ押し入った。
「ん、っんん――!」
「…ッ、はっ、見ろ、キセ。そんな色っぽい顔を他でされては、我慢ならない」
 キセは顎に触れたテオドリックの手が促すまま、前を見た。
「――!」
 一瞬で酔いが醒めた。
 化粧台の鏡に、背後から精悍なテオドリックの肉体に組み敷かれて法悦に顔を染めた自分の姿が映っている。
「うっ…あ、やぁ…」
 ぐり、とテオドリックが腰を押し付けて奥を突くと、バチバチと火花が弾けて再び意識が快楽に溶けた。
「ぁんっ…!テオドリック…いや」
「…っ、ああ、ほら締まった」
 テオドリックの指が繋がった場所の上部で硬くなった実をぐりぐりと撫でると、キセは容易く昇り詰めた。頭が真っ白になって、何も考えられない。鏡の中で頬を上気させ、血色の上った唇を物欲しそうに開いている自分の顔が、背後から首に吸い付いてくるテオドリックの懊悩するような顔が、ひどく淫らに見えた。
 キセが鏡越しに懇願するような瞳を向けてくる。テオドリックは繋がったままキセの背中に吸い付き、耳にもキスをした。
「ぎゅって、抱きしめてほしいです…」
「ん。あとで」
「あっ、どうして…」
「あんたの恥ずかしがる顔が可愛いから。それと――」
 ますます硬度を増したテオドリックに身体のいちばん深い場所を叩きつけられ、キセは悲鳴を上げた。あんなにいかされたのに、まだ快楽を求めることができるなんて、おかしい。
「俺がもう持たない」
「あっ――!」
 キセは散々に攻め立てられ、テオドリックが獣のような呻き声とともにキセの中に熱を放った時には、身体に力が入らなくなっていた。

 身体を抱えられて湯船に入れられた時、キセは自分の痴態が恥ずかしくてテオドリックの顔を見ることができなかった。
 いつの間にか、またその腕の中にいる。
「顔を見せないと、また入れてしまうぞ。このまま」
 ピクリとキセが指の間から黒い瞳を覗かせた。
「…意地悪です」
「知らなかったか?」
 テオドリックが勝ち誇ったように笑った。
 キセの心臓がどくどくとうるさくなる。この衝動に抵抗しようとするのを、キセはやめた。
「大好き…」
 言葉がこぼれ出るのと同時に、テオドリックの唇にキスをした。
「大好きです。テオドリック」
 テオドリックはちょっと面食らったような顔をしたが、すぐに表情を変えた。幸せそうに目を細め、キセの身体をぎゅうぅっと抱きしめて、耳に直接響くように愛の言葉を呟いた。
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