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四十、渇望 - l'envie -
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テオドリックが下着の紐を解いてその中に触れた時、キセのそこは既に熱く潤っていた。
キセは甘い悲鳴をあげて身体を小さく跳ね、胸の上にあるテオドリックの髪にしがみついた。キセの肌から香る乳香のような匂いが強くなり、テオドリックの神経を昂らせる。
もっとゆっくり、大事にしたいのに、理性を完全に失ってしまいそうだ。キセが可愛くて、愛おしくてたまらない。
「ふ、あっ…!」
テオドリックが乳房を口に含んで先端をくるくると弄び、白い腿の間から溢れる蜜を上部の突起にそっと塗りつけると、キセがびくりとして高い声を上げ、顔を真っ赤にして手で口を押さえた。
「隠すなと言ったろ」
「だ、だって、それ、だめです…恥ずかしいです…!」
キセは両手で顔を隠し、叫ぶように言った。テオドリックはちょっと笑ってキセの手を顔から引き剥がした。頬が快楽に染まり、黒い瞳が潤んで、光が揺れている。
すぐに、笑う余裕もなくなった。
「もう一回しただろ」
「あ、あの時より恥ずかしいです…」
「なぜ」
キセは薄いまぶたを小さく震わせながら伏せ、目元に黒いまつ毛の影を落とし、ふっくらした桃色の唇を開いた。
「あなたが、わたしを好きって知ったから…」
テオドリックはキセの唇を塞いだ。これは不可抗力だ。
「今のはあんたが悪い」
「えっ…――あ!」
テオドリックの唇が唇から首へ、首から胸元へ、乳房へと下って行き、臍をぐるりと舌が舐めた時、キセは思わず悲鳴をあげてテオドリックの頭を掴んだ。
「ちょっ、ちょちょ、ちょっと待ってください」
「なに」
テオドリックはキセに頭を掴まれたまま顔を上げ、ちょっと不満そうに言った。
「そ、それ以上は、お、お風呂にも入っていませんし、あの、だ、だめです…」
「そんな顔で言っても逆効果だぞ」
これは揶揄ったわけではない。羞恥に濡れ、芽吹き始めた快楽に蕩けた瞳を向けられたのでは、とても待ってやる気にならない。テオドリックは構わずキセの脚を広げ、膝にキスをし、膝の裏にもキスをして、内腿へと唇で辿っていった。
「やぁ…、だめです」
キセに抵抗する余裕も与えず、テオドリックはキセの腿を掴んで広げ、甘い香りに誘われるようにその中心をぺろりと舐めた。
「あっ――!」
バチッ!と、キセの身体の中に大きな火花が散った。
(ああ、嘘…)
こんなところにキスをされるなんて、想像を超えている。自分の身体がどう反応するかも知らなかった。何かに掴まっていないとどうにかなってしまいそうだ。キセは枕にしがみついて身体を強張らせた。
「んぁ、あっ…!」
暗いのが惜しい。
とテオドリックは思った。
朝の陽光くらいの明るさがあれば、キセのここがどんな色をしているか目にしっかり焼き付けられるのに、燭台の灯りではせいぜいその淡い色づきくらいしか判別できない。
テオドリックが入り口をそっと広げて熱く濡れた柔らかい内部に舌を挿し入れたとき、甘い悲鳴があがった。ぞくぞくと血が沸くような感覚が背中を伝ってくる。テオドリックは舌で触れている場所のすぐ上で膨れ始めた突起を親指で押し上げるように撫でた。
キセは反射的に脚を閉じようとしたが、テオドリックの手に阻まれ、更に奥まで入り込まれて、腰をくねらせて悶えた。自分の口からこんな声が出ることも知らなかった。腹の奥から溶け出したものが臀部を伝っていく。音を立てているのは、テオドリックの舌だけではない。余りに恥ずかしくて耳を塞いでしまいたいが、枕に掴まっていないととても耐えられなかった。
「――っ、んんん、そ、それ…、あっ、もうだめ。だめです」
「本当に?‘気持ちいい’と言っているように聞こえる」
「ううっ、…い、意地悪、言わないでくださ――あっ!」
きゅう、と音がしたのは、テオドリックがそこを強く吸った音か、自分の鳩尾が締め付けられる音か、分からなかった。キセは自分の心拍が上がっていくのを身体の中から感じた。テオドリックの手がいつの間にか臀部を掴み、もっと奥へ入り込もうとするように脚の間に顔を埋めている。
キセは身体の奥から何かが迫ってくるのを感じた。身体中を走り回る火花が大きくなり、頭がぼうっと霞みがかってくる。この感覚を、キセは知っている。しかし、知っているものよりも激しい。
テオドリックはキセの身体が緊張し始めたのを肌で感じ、よく反応する場所を舌でつついて吸い、片手を腰から柔らかい胸へと這わせ、その頂に触れた。
「ひゃ、あっ」
キセは短く叫んで快楽に抗うように胸を這うテオドリックの腕を掴んだ。テオドリックが指で頂を摘まむように撫でると、腕を掴む力が強くなり、キセの手が震えた。
(可愛い…)
彼女の脚の間から溢れてくるものが唇を濡らし、声が耳を潤し、匂いが神経を昂らせ、胸を締め上げる。腰にベルトを締めたままでいるのは、そろそろ限界だ。
次にテオドリックが強く吸い付いた瞬間、キセの頭の中で白い爆発が起こった。呼吸が激しく乱れ、身体が震え、テオドリックの頭を捕まえるように腹の奥が縮こまった。
いつの間にか閉じていた目を開けると、目の前にテオドリックの美しい顔があった。唇を舐める仕草がひどく官能的で、背徳的で、危険な魅力に満ちていた。その舌がどんなに淫らなことをしたのか、未だに収まらない身体の震えが物語っている。
顔を覆いたい恥ずかしさよりも、全てを目に焼き付けておきたい衝動が勝った。
テオドリックはキセの脚の間で膝立ちになって上衣を乱雑に放り、シャツをズボンから引っ張り出して頭から脱いだ。やや細身ながらもよく鍛えられた身体に燭台の火が陰影を作り、割れた腹筋と胸筋の暗い影をチラチラと揺らしている。
その精悍な肉体を見て胸に迫ったものが何か、キセはもう知っている。欲望だ。
テオドリックがブーツを脱いでベルトを外し、ズボンの中のものがそこから飛び出した瞬間、キセは思わず身構えた。男性のそれを初めて見たかというとそうでもない。古代の神話の彫像なんかはどれも裸だし、小さい頃には兄たちと温泉に入ったこともある。が、成人男性の、しかもあんな状態になっているものを見たのは人生で初めてだ。あんなに大きなものを一体どうやって身体の中に受け入れると言うのだろう。この期に及んでまったく想像がつかない。
しかし、不思議と恐怖はなかった。キセはその造形が美しいと思った。テオドリックだからそう見えるのだろう。
これは、テオドリックには少々不安な視線だった。怖がらせたかもしれない。
「大丈夫だ。まだしない」
「…?」
キセは肩で息をしながら、テオドリックのちょっと苦しそうに息を長く吐き出す様子を眺めた。
テオドリックはキセの黒い前髪を上げ、露わになった白い額にそっとキスをして、黒い瞳を覗き込んだ。
絶頂を迎えた後の恍惚とした輝きが、テオドリックの欲望を更に深くする。
テオドリックは鼻の頭と頬へちょんちょんと啄むようなキスをし、最後に唇を重ねた。
「んんっ!」
キセがテオドリックの唇の下で叫んだのは、テオドリックの指が脚の間から奥へ入って来たからだ。
「痛いか」
テオドリックはキセの顔を注意深く見ながら訊ねた。キセの中は熱く、柔らかく、中指を押し出そうとするほどに狭い。この中に入った時の快感を想像して、身体の一部が更に硬くなった。
キセは慣れない感覚にちょっと顔をしかめながら、首をふるふると振った。
「痛く、ないです…。なんだか、不思議な感じが…あっ」
テオドリックが内部の様子を探るように指を動かした。その奥がどうなっているのか、考えたこともない。確かなのは、テオドリックがキセにとって未知の器官をまたしても暴き、キセの身体に何かを起こさせようとしているということだ。
一度絶頂を味わった身体の奥から、また何かが溶け出して溢れ、テオドリックの指を濡らしているのがわかる。
テオドリックは中指を抜き、今度は人差し指を増やしてキセの濡れた場所に埋めた。
「これは?」
「あっ…。い、痛くはないです。でも――」
キセが小さく呻いた。テオドリックの指の動きに反応して身体を震わせ、まるでその先へ誘うように腰が揺れる。
「でも?」
テオドリックが低く甘い声で囁きながらキセにはわからないどこかを刺激した時、またしても大きな火花が散った。
「…っ、なんか、へんです。そこ…」
「ここ?」
「あ!」
テオドリックはキセの狭い道を通って奥の浅い場所をつつき、そこを解すように丹念に触れ、熱くなっていく呼吸を肌で感じながら更なる快楽へとキセを導いた。キセはあまりに強い刺激に耐えかねてテオドリックの腕にしがみついた。
「あっ、あ、テオドリック…!」
ぎゅう、とキセの内部がテオドリックの指を締め付けた。
キセは呆然と虚空を見上げ、テオドリックの唇がもう一度額に触れる前に顔を両手でサッと隠した。
(は、恥ずかしい…)
身体がどうにかしてしまったのではないかと思った。まだ身体中をテオドリックによって創り出された淫らな熱が走り回り、火花が至るところでパチパチと弾けている。自分がどんな顔をしているかさえ、全くわからない。
テオドリックは噛み付くように吸い付いてくるキセの内側から指を引き抜き、指に付いたものを舐め取った。
いつもならキセにこんなに可愛い仕草をされたら笑いを隠せないところだが、今は笑う余裕もない。痛みを感じるほど脚の間が硬くなり、鳩尾が苦しいほどに締め付けられる。愛おしい。愛おしすぎて、これ以上耐えられない。
テオドリックはキセの顔を覆っている手の甲にキスをし、両手で包み込むように持ち上げて、きつく閉じたまぶたと赤く色付いた頬にキスをした。
「好きだ、キセ。あんたが愛おしい。この世の何より」
口から溢れ出るように言葉が出た。これまで言わずにいた分を取り返すように、溢れて止まらない。
キセのまぶたが開いたとき、濡れた黒い瞳の奥に星空のような輝きが宿り、ひとすじの涙が流れ星のようにこめかみへ落ちていった。
感情がひっくり返ったようになり、その衝撃と共鳴するようにキセはテオドリックに飛びついた。キセがテオドリックの首に腕を巻き付けて引き寄せ、自分から唇を重ね、いつもテオドリックがするように舌を挿し入れた。
「はい。わたしも、あなたが大好きです」
テオドリックはキセの柔らかい身体を抱き止めて腰を引き寄せ、甘やかな唇を味わううちに腿を掴んで脚を開かせ、自分の熱くなった部分をキセの中心に触れさせた。先端がキセの温かいもので濡れた。
「ん」
テオドリックの唇の下でキセが甘い呻き声を漏らし、上擦った声で小さく自分の名を呼んだ瞬間、テオドリックは理性も自制も忘れてその中に突き入った。
「んんっ、あ――!」
キセはテオドリックにしがみつき、その衝撃に耐えた。テオドリックが自分の中を押し広げているのが分かる。大きく、熱く、硬く、圧倒される。奇妙な感覚だった。
「…痛い?」
テオドリックが絞り出すような声で訊いた。キセはテオドリックにしがみつきながらふるふると首を振った。
「胸がいっぱいで、よくわからないです…」
キセのさざなみのような声が上擦り、潤んだ黒い瞳がぼんやりと見上げてくる。
ぞく、とテオドリックの背に悦びが迫り上がった。
「それでは困る。もっと感じてくれ」
テオドリックは腰を少しだけ引き、キセの膝を抱えて更に奥へ進んだ。
「あ…っ」
信じられない。自分の身体の奥がこんなに熱くなるのも、テオドリックの一部がまだ全部収まりきっていなかったことも、この行為によって自分の身体がどのように作り変えられてしまうのかも、何もかもが想像を超えていた。
「――っ、キセ、もう少し力を抜いてろ」
「んっ、でも…」
そう言われても、どうすればいいのかわからない。キセは浅い呼吸を繰り返し、繋がったところからじくじくと疼く熱を持て余した。
「は…」
テオドリックは呻くように息を吐いてキセの額にキスをし、その後で長く細く息を吐いて、呼吸を整えるように胸を上下させた。
「…なにか、おつらいのですか?」
キセはテオドリックの背をするすると撫でた。テオドリックの少し苦しそうな呼吸に合わせて、滑らかな皮膚に覆われた硬い筋肉の隆起が手の下で上下している。
「違う。あんたの中が気持ち良すぎて、ひどくしそうになるのを耐えてる」
きゅう、と心臓が縮こまった音が聞こえた気がした。愛おしいと思う気持ちと相手を求める欲望が結びついていることを、キセは初めて理解した。テオドリックの形のよい眉が歪む様が、キセの胸をむずむずとくすぐる。不思議な気持ちだ。腹の奥がもっと熱くなるのを感じる。
キセはテオドリックを抱き締める手に力を込め、首のくぼみに顔を寄せた。
「わ、わたしなら、大丈夫です…。テオドリックがどうやってしたいか、教えてください」
「…どうなっても知らないぞ」
ぐ、とテオドリックがキセの中を僅かに押し上げた。
「ん、だいじょうぶ…。大好きです、テオドリック」
テオドリックはキセの唇を奪い、ひと息に奥まで貫いた。繋がったところから熱と快感が身体中へ広がり、衝動を大きくしていく。
「んん――!」
「ああ、くそ…」
気持ちいい。もうだめだ。まるで余裕がない。
テオドリックは大きく律動を始め、キセはそれに耐えるように強く腕を掴んだ。その激しさは、まるで嵐の海そのもののようだった。そのくせ、テオドリックが重ねてくる唇は月明かりのように優しく、蜜のように甘い。
「あっ!」
テオドリックがキセの深い場所を強く打ち付けたとき、キセが高い声で叫んだ。身体の奥で痛みに似た甘美な感覚が走り、そこが燃えるように熱くなる。テオドリックが内壁を擦るように律動を繰り返すと、その熱の奥に激しい快感が生まれた。
「ああ。ここ、締まるな。いいのか?」
きゅう、と心臓が痛くなった。同時に腹の奥が縮こまってテオドリックの一部を締め上げたのが自分でも分かる。物凄い圧迫感だ。
「んんっ…わ、わかりません」
「本当に?」
テオドリックが少し苦しそうに眉を歪めて唇を吊り上げ、奥を突いては引き、上部の突起を親指で撫でた。
「ひゃぅ!あっ、それ…」
「ん?」
「だ、だめです…なんだか…あっ…!」
大きな火花が散り、ぞくぞくと快楽の熱が全身を巡っていく。
「いい。いってくれ」
テオドリックの低くかすれた声が耳をかすめた時、根元まで押し込むように強く腰を打ち付けられ、キセの頭の中で一際激しい爆発が起きた。身体が震え、内側がひくひくと収縮し、テオドリックの身体の一部を締め付けている。この無意識のうちに起こる身体の反応さえ、自分の中で新たな快楽に変わった。
テオドリックはこの快感に耐えかねた。獣のように荒い息をし、力の抜けたキセの膝を押し上げて最奥部を打ち続け、肩へと伸びてきたキセの手を掴んでベッドに押し付け、唇を塞ぎ、柔らかい身体を強く抱き締めた。
「はっ…、ああ。キセ…」
貪るようにキセの唇を奪い、脚の間の繋がった部分と同じくらいの激しさで舌を絡め、ぞくぞくと全身を巡る恍惚に抗うことなく甘い叫びを上げるキセの中で果てた。
未だかつて経験したことのないほどの充足感が全身に満ちていく。夢なのではないかとさえ思ったが、キセの汗ばんだ身体から伝わる体温が現実であることを示している。
テオドリックが呼吸を整えながらキセの中から出ると、キセの中から名残惜しそうにテオドリックの放ったものが溢れ、キセの腿を濡らした。
「ん、テオドリック…」
キセが柔らかい胸を上下させて呼吸をし、テオドリックの身体をキュッと抱き締めた。
悶えたくなるほど恥ずかしい。自分でもおかしいと思うほど乱れてしまった。それなのに、テオドリックを愛おしいと思う気持ちがそれを凌駕している。
「…すごいです。こんなに、幸せなことだったのですね」
「――っ、キセ…」
まずい。
テオドリックは身体を離そうと手をついて上体を起こしたが、キセの幸福そのものという笑顔を見て何もできなくなった。
「はい」
キセが目に弧を描かせてテオドリックの顔を見上げた。何度か迎えた絶頂のために頬は紅潮し、前髪が額の汗で乱れ、何度も繰り返した激しいキスのせいで唇は腫れたように赤く色付いている。
「そういう顔をされると、離せなくなる」
キセの潤んだ目が大きく開いた。テオドリックはキセがまた顔を隠してしまうかと思ったが、キセの手がテオドリックの頬に伸び、唇にちょんとキスをしたとき、キセと自分が気持ちを通じ合っていることを知った。
「…痛みはあるか」
「ちょっとひりひりするくらいです。それよりなんだか…ふわふわします」
「ふわふわ?」
「はい」
「そうか」
長い金色の睫毛に縁取られたテオドリックの緑色の目が優しく細まった。
ぎゅ、と、満ち足りたはずの腹の奥がまた疼き出す。急に恥ずかしさが胸に帰ってきて、キセは顔を隠したくなったが、テオドリックの顔から目が離せなかった。‘愛しい’、‘幸せだ’と、その美しい瞳が言っている。
「…もっと、くっついていてもよいでしょうか」
キセがおずおず訊ねると、テオドリックの優しい目の奥にギラリと光る獣性が見えた。
「離したくないと言っただろう、キセ。意味は分かるよな?」
「え?あ…」
脚の間でテオドリックの一部が硬度を保っていることに気づき、キセはこれ以上ないほどに顔を真っ赤にした。自分が思っていた「くっついていたい」とは、意味合いが違うようだ。あんなことをもう一度されたのでは、身体がどうにかなってしまうのではないかと思い、思わず身構えたが、テオドリックの唇が重ねられた瞬間に、全てを忘れてしまった。
キセは甘い悲鳴をあげて身体を小さく跳ね、胸の上にあるテオドリックの髪にしがみついた。キセの肌から香る乳香のような匂いが強くなり、テオドリックの神経を昂らせる。
もっとゆっくり、大事にしたいのに、理性を完全に失ってしまいそうだ。キセが可愛くて、愛おしくてたまらない。
「ふ、あっ…!」
テオドリックが乳房を口に含んで先端をくるくると弄び、白い腿の間から溢れる蜜を上部の突起にそっと塗りつけると、キセがびくりとして高い声を上げ、顔を真っ赤にして手で口を押さえた。
「隠すなと言ったろ」
「だ、だって、それ、だめです…恥ずかしいです…!」
キセは両手で顔を隠し、叫ぶように言った。テオドリックはちょっと笑ってキセの手を顔から引き剥がした。頬が快楽に染まり、黒い瞳が潤んで、光が揺れている。
すぐに、笑う余裕もなくなった。
「もう一回しただろ」
「あ、あの時より恥ずかしいです…」
「なぜ」
キセは薄いまぶたを小さく震わせながら伏せ、目元に黒いまつ毛の影を落とし、ふっくらした桃色の唇を開いた。
「あなたが、わたしを好きって知ったから…」
テオドリックはキセの唇を塞いだ。これは不可抗力だ。
「今のはあんたが悪い」
「えっ…――あ!」
テオドリックの唇が唇から首へ、首から胸元へ、乳房へと下って行き、臍をぐるりと舌が舐めた時、キセは思わず悲鳴をあげてテオドリックの頭を掴んだ。
「ちょっ、ちょちょ、ちょっと待ってください」
「なに」
テオドリックはキセに頭を掴まれたまま顔を上げ、ちょっと不満そうに言った。
「そ、それ以上は、お、お風呂にも入っていませんし、あの、だ、だめです…」
「そんな顔で言っても逆効果だぞ」
これは揶揄ったわけではない。羞恥に濡れ、芽吹き始めた快楽に蕩けた瞳を向けられたのでは、とても待ってやる気にならない。テオドリックは構わずキセの脚を広げ、膝にキスをし、膝の裏にもキスをして、内腿へと唇で辿っていった。
「やぁ…、だめです」
キセに抵抗する余裕も与えず、テオドリックはキセの腿を掴んで広げ、甘い香りに誘われるようにその中心をぺろりと舐めた。
「あっ――!」
バチッ!と、キセの身体の中に大きな火花が散った。
(ああ、嘘…)
こんなところにキスをされるなんて、想像を超えている。自分の身体がどう反応するかも知らなかった。何かに掴まっていないとどうにかなってしまいそうだ。キセは枕にしがみついて身体を強張らせた。
「んぁ、あっ…!」
暗いのが惜しい。
とテオドリックは思った。
朝の陽光くらいの明るさがあれば、キセのここがどんな色をしているか目にしっかり焼き付けられるのに、燭台の灯りではせいぜいその淡い色づきくらいしか判別できない。
テオドリックが入り口をそっと広げて熱く濡れた柔らかい内部に舌を挿し入れたとき、甘い悲鳴があがった。ぞくぞくと血が沸くような感覚が背中を伝ってくる。テオドリックは舌で触れている場所のすぐ上で膨れ始めた突起を親指で押し上げるように撫でた。
キセは反射的に脚を閉じようとしたが、テオドリックの手に阻まれ、更に奥まで入り込まれて、腰をくねらせて悶えた。自分の口からこんな声が出ることも知らなかった。腹の奥から溶け出したものが臀部を伝っていく。音を立てているのは、テオドリックの舌だけではない。余りに恥ずかしくて耳を塞いでしまいたいが、枕に掴まっていないととても耐えられなかった。
「――っ、んんん、そ、それ…、あっ、もうだめ。だめです」
「本当に?‘気持ちいい’と言っているように聞こえる」
「ううっ、…い、意地悪、言わないでくださ――あっ!」
きゅう、と音がしたのは、テオドリックがそこを強く吸った音か、自分の鳩尾が締め付けられる音か、分からなかった。キセは自分の心拍が上がっていくのを身体の中から感じた。テオドリックの手がいつの間にか臀部を掴み、もっと奥へ入り込もうとするように脚の間に顔を埋めている。
キセは身体の奥から何かが迫ってくるのを感じた。身体中を走り回る火花が大きくなり、頭がぼうっと霞みがかってくる。この感覚を、キセは知っている。しかし、知っているものよりも激しい。
テオドリックはキセの身体が緊張し始めたのを肌で感じ、よく反応する場所を舌でつついて吸い、片手を腰から柔らかい胸へと這わせ、その頂に触れた。
「ひゃ、あっ」
キセは短く叫んで快楽に抗うように胸を這うテオドリックの腕を掴んだ。テオドリックが指で頂を摘まむように撫でると、腕を掴む力が強くなり、キセの手が震えた。
(可愛い…)
彼女の脚の間から溢れてくるものが唇を濡らし、声が耳を潤し、匂いが神経を昂らせ、胸を締め上げる。腰にベルトを締めたままでいるのは、そろそろ限界だ。
次にテオドリックが強く吸い付いた瞬間、キセの頭の中で白い爆発が起こった。呼吸が激しく乱れ、身体が震え、テオドリックの頭を捕まえるように腹の奥が縮こまった。
いつの間にか閉じていた目を開けると、目の前にテオドリックの美しい顔があった。唇を舐める仕草がひどく官能的で、背徳的で、危険な魅力に満ちていた。その舌がどんなに淫らなことをしたのか、未だに収まらない身体の震えが物語っている。
顔を覆いたい恥ずかしさよりも、全てを目に焼き付けておきたい衝動が勝った。
テオドリックはキセの脚の間で膝立ちになって上衣を乱雑に放り、シャツをズボンから引っ張り出して頭から脱いだ。やや細身ながらもよく鍛えられた身体に燭台の火が陰影を作り、割れた腹筋と胸筋の暗い影をチラチラと揺らしている。
その精悍な肉体を見て胸に迫ったものが何か、キセはもう知っている。欲望だ。
テオドリックがブーツを脱いでベルトを外し、ズボンの中のものがそこから飛び出した瞬間、キセは思わず身構えた。男性のそれを初めて見たかというとそうでもない。古代の神話の彫像なんかはどれも裸だし、小さい頃には兄たちと温泉に入ったこともある。が、成人男性の、しかもあんな状態になっているものを見たのは人生で初めてだ。あんなに大きなものを一体どうやって身体の中に受け入れると言うのだろう。この期に及んでまったく想像がつかない。
しかし、不思議と恐怖はなかった。キセはその造形が美しいと思った。テオドリックだからそう見えるのだろう。
これは、テオドリックには少々不安な視線だった。怖がらせたかもしれない。
「大丈夫だ。まだしない」
「…?」
キセは肩で息をしながら、テオドリックのちょっと苦しそうに息を長く吐き出す様子を眺めた。
テオドリックはキセの黒い前髪を上げ、露わになった白い額にそっとキスをして、黒い瞳を覗き込んだ。
絶頂を迎えた後の恍惚とした輝きが、テオドリックの欲望を更に深くする。
テオドリックは鼻の頭と頬へちょんちょんと啄むようなキスをし、最後に唇を重ねた。
「んんっ!」
キセがテオドリックの唇の下で叫んだのは、テオドリックの指が脚の間から奥へ入って来たからだ。
「痛いか」
テオドリックはキセの顔を注意深く見ながら訊ねた。キセの中は熱く、柔らかく、中指を押し出そうとするほどに狭い。この中に入った時の快感を想像して、身体の一部が更に硬くなった。
キセは慣れない感覚にちょっと顔をしかめながら、首をふるふると振った。
「痛く、ないです…。なんだか、不思議な感じが…あっ」
テオドリックが内部の様子を探るように指を動かした。その奥がどうなっているのか、考えたこともない。確かなのは、テオドリックがキセにとって未知の器官をまたしても暴き、キセの身体に何かを起こさせようとしているということだ。
一度絶頂を味わった身体の奥から、また何かが溶け出して溢れ、テオドリックの指を濡らしているのがわかる。
テオドリックは中指を抜き、今度は人差し指を増やしてキセの濡れた場所に埋めた。
「これは?」
「あっ…。い、痛くはないです。でも――」
キセが小さく呻いた。テオドリックの指の動きに反応して身体を震わせ、まるでその先へ誘うように腰が揺れる。
「でも?」
テオドリックが低く甘い声で囁きながらキセにはわからないどこかを刺激した時、またしても大きな火花が散った。
「…っ、なんか、へんです。そこ…」
「ここ?」
「あ!」
テオドリックはキセの狭い道を通って奥の浅い場所をつつき、そこを解すように丹念に触れ、熱くなっていく呼吸を肌で感じながら更なる快楽へとキセを導いた。キセはあまりに強い刺激に耐えかねてテオドリックの腕にしがみついた。
「あっ、あ、テオドリック…!」
ぎゅう、とキセの内部がテオドリックの指を締め付けた。
キセは呆然と虚空を見上げ、テオドリックの唇がもう一度額に触れる前に顔を両手でサッと隠した。
(は、恥ずかしい…)
身体がどうにかしてしまったのではないかと思った。まだ身体中をテオドリックによって創り出された淫らな熱が走り回り、火花が至るところでパチパチと弾けている。自分がどんな顔をしているかさえ、全くわからない。
テオドリックは噛み付くように吸い付いてくるキセの内側から指を引き抜き、指に付いたものを舐め取った。
いつもならキセにこんなに可愛い仕草をされたら笑いを隠せないところだが、今は笑う余裕もない。痛みを感じるほど脚の間が硬くなり、鳩尾が苦しいほどに締め付けられる。愛おしい。愛おしすぎて、これ以上耐えられない。
テオドリックはキセの顔を覆っている手の甲にキスをし、両手で包み込むように持ち上げて、きつく閉じたまぶたと赤く色付いた頬にキスをした。
「好きだ、キセ。あんたが愛おしい。この世の何より」
口から溢れ出るように言葉が出た。これまで言わずにいた分を取り返すように、溢れて止まらない。
キセのまぶたが開いたとき、濡れた黒い瞳の奥に星空のような輝きが宿り、ひとすじの涙が流れ星のようにこめかみへ落ちていった。
感情がひっくり返ったようになり、その衝撃と共鳴するようにキセはテオドリックに飛びついた。キセがテオドリックの首に腕を巻き付けて引き寄せ、自分から唇を重ね、いつもテオドリックがするように舌を挿し入れた。
「はい。わたしも、あなたが大好きです」
テオドリックはキセの柔らかい身体を抱き止めて腰を引き寄せ、甘やかな唇を味わううちに腿を掴んで脚を開かせ、自分の熱くなった部分をキセの中心に触れさせた。先端がキセの温かいもので濡れた。
「ん」
テオドリックの唇の下でキセが甘い呻き声を漏らし、上擦った声で小さく自分の名を呼んだ瞬間、テオドリックは理性も自制も忘れてその中に突き入った。
「んんっ、あ――!」
キセはテオドリックにしがみつき、その衝撃に耐えた。テオドリックが自分の中を押し広げているのが分かる。大きく、熱く、硬く、圧倒される。奇妙な感覚だった。
「…痛い?」
テオドリックが絞り出すような声で訊いた。キセはテオドリックにしがみつきながらふるふると首を振った。
「胸がいっぱいで、よくわからないです…」
キセのさざなみのような声が上擦り、潤んだ黒い瞳がぼんやりと見上げてくる。
ぞく、とテオドリックの背に悦びが迫り上がった。
「それでは困る。もっと感じてくれ」
テオドリックは腰を少しだけ引き、キセの膝を抱えて更に奥へ進んだ。
「あ…っ」
信じられない。自分の身体の奥がこんなに熱くなるのも、テオドリックの一部がまだ全部収まりきっていなかったことも、この行為によって自分の身体がどのように作り変えられてしまうのかも、何もかもが想像を超えていた。
「――っ、キセ、もう少し力を抜いてろ」
「んっ、でも…」
そう言われても、どうすればいいのかわからない。キセは浅い呼吸を繰り返し、繋がったところからじくじくと疼く熱を持て余した。
「は…」
テオドリックは呻くように息を吐いてキセの額にキスをし、その後で長く細く息を吐いて、呼吸を整えるように胸を上下させた。
「…なにか、おつらいのですか?」
キセはテオドリックの背をするすると撫でた。テオドリックの少し苦しそうな呼吸に合わせて、滑らかな皮膚に覆われた硬い筋肉の隆起が手の下で上下している。
「違う。あんたの中が気持ち良すぎて、ひどくしそうになるのを耐えてる」
きゅう、と心臓が縮こまった音が聞こえた気がした。愛おしいと思う気持ちと相手を求める欲望が結びついていることを、キセは初めて理解した。テオドリックの形のよい眉が歪む様が、キセの胸をむずむずとくすぐる。不思議な気持ちだ。腹の奥がもっと熱くなるのを感じる。
キセはテオドリックを抱き締める手に力を込め、首のくぼみに顔を寄せた。
「わ、わたしなら、大丈夫です…。テオドリックがどうやってしたいか、教えてください」
「…どうなっても知らないぞ」
ぐ、とテオドリックがキセの中を僅かに押し上げた。
「ん、だいじょうぶ…。大好きです、テオドリック」
テオドリックはキセの唇を奪い、ひと息に奥まで貫いた。繋がったところから熱と快感が身体中へ広がり、衝動を大きくしていく。
「んん――!」
「ああ、くそ…」
気持ちいい。もうだめだ。まるで余裕がない。
テオドリックは大きく律動を始め、キセはそれに耐えるように強く腕を掴んだ。その激しさは、まるで嵐の海そのもののようだった。そのくせ、テオドリックが重ねてくる唇は月明かりのように優しく、蜜のように甘い。
「あっ!」
テオドリックがキセの深い場所を強く打ち付けたとき、キセが高い声で叫んだ。身体の奥で痛みに似た甘美な感覚が走り、そこが燃えるように熱くなる。テオドリックが内壁を擦るように律動を繰り返すと、その熱の奥に激しい快感が生まれた。
「ああ。ここ、締まるな。いいのか?」
きゅう、と心臓が痛くなった。同時に腹の奥が縮こまってテオドリックの一部を締め上げたのが自分でも分かる。物凄い圧迫感だ。
「んんっ…わ、わかりません」
「本当に?」
テオドリックが少し苦しそうに眉を歪めて唇を吊り上げ、奥を突いては引き、上部の突起を親指で撫でた。
「ひゃぅ!あっ、それ…」
「ん?」
「だ、だめです…なんだか…あっ…!」
大きな火花が散り、ぞくぞくと快楽の熱が全身を巡っていく。
「いい。いってくれ」
テオドリックの低くかすれた声が耳をかすめた時、根元まで押し込むように強く腰を打ち付けられ、キセの頭の中で一際激しい爆発が起きた。身体が震え、内側がひくひくと収縮し、テオドリックの身体の一部を締め付けている。この無意識のうちに起こる身体の反応さえ、自分の中で新たな快楽に変わった。
テオドリックはこの快感に耐えかねた。獣のように荒い息をし、力の抜けたキセの膝を押し上げて最奥部を打ち続け、肩へと伸びてきたキセの手を掴んでベッドに押し付け、唇を塞ぎ、柔らかい身体を強く抱き締めた。
「はっ…、ああ。キセ…」
貪るようにキセの唇を奪い、脚の間の繋がった部分と同じくらいの激しさで舌を絡め、ぞくぞくと全身を巡る恍惚に抗うことなく甘い叫びを上げるキセの中で果てた。
未だかつて経験したことのないほどの充足感が全身に満ちていく。夢なのではないかとさえ思ったが、キセの汗ばんだ身体から伝わる体温が現実であることを示している。
テオドリックが呼吸を整えながらキセの中から出ると、キセの中から名残惜しそうにテオドリックの放ったものが溢れ、キセの腿を濡らした。
「ん、テオドリック…」
キセが柔らかい胸を上下させて呼吸をし、テオドリックの身体をキュッと抱き締めた。
悶えたくなるほど恥ずかしい。自分でもおかしいと思うほど乱れてしまった。それなのに、テオドリックを愛おしいと思う気持ちがそれを凌駕している。
「…すごいです。こんなに、幸せなことだったのですね」
「――っ、キセ…」
まずい。
テオドリックは身体を離そうと手をついて上体を起こしたが、キセの幸福そのものという笑顔を見て何もできなくなった。
「はい」
キセが目に弧を描かせてテオドリックの顔を見上げた。何度か迎えた絶頂のために頬は紅潮し、前髪が額の汗で乱れ、何度も繰り返した激しいキスのせいで唇は腫れたように赤く色付いている。
「そういう顔をされると、離せなくなる」
キセの潤んだ目が大きく開いた。テオドリックはキセがまた顔を隠してしまうかと思ったが、キセの手がテオドリックの頬に伸び、唇にちょんとキスをしたとき、キセと自分が気持ちを通じ合っていることを知った。
「…痛みはあるか」
「ちょっとひりひりするくらいです。それよりなんだか…ふわふわします」
「ふわふわ?」
「はい」
「そうか」
長い金色の睫毛に縁取られたテオドリックの緑色の目が優しく細まった。
ぎゅ、と、満ち足りたはずの腹の奥がまた疼き出す。急に恥ずかしさが胸に帰ってきて、キセは顔を隠したくなったが、テオドリックの顔から目が離せなかった。‘愛しい’、‘幸せだ’と、その美しい瞳が言っている。
「…もっと、くっついていてもよいでしょうか」
キセがおずおず訊ねると、テオドリックの優しい目の奥にギラリと光る獣性が見えた。
「離したくないと言っただろう、キセ。意味は分かるよな?」
「え?あ…」
脚の間でテオドリックの一部が硬度を保っていることに気づき、キセはこれ以上ないほどに顔を真っ赤にした。自分が思っていた「くっついていたい」とは、意味合いが違うようだ。あんなことをもう一度されたのでは、身体がどうにかなってしまうのではないかと思い、思わず身構えたが、テオドリックの唇が重ねられた瞬間に、全てを忘れてしまった。
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