獅子王と海の神殿の姫

若島まつ

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三十八、宵の月 - sous la lune -

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 晩餐の後は広大な庭園でダンスパーティーが開かれる。
 王女のキスですっかり毒気を抜かれてしまった諸侯たちは、ここぞとばかりに妻女を連れて庭園に出、ダンスで気を取り直そうとしているらしかった。
 晩餐の間はピリピリしている国王の機嫌を直せる者も現れず、楽団の陽気な演奏もどこか沈んで聞こえたほどだ。第二王子のオベロンなどは憐れなほどに顔色をなくしていた。
 テオフィル王は大方の諸侯がダンスを楽しみに庭園へ出て行った後、家法に則り晩餐には伴わなかった愛人ヴェロニク・ルコント夫人がダンスを待つ庭園へ赴いた。
「これで父上の機嫌も直りそうですね」
 オベロンがあからさまにホッとした様子で言った。
「ああ、姉上とバルークどのを責めているんじゃないですよ、まったく」
 オベロンが隣の姉とその婚約者に両手の手のひらをヒラヒラと振って見せ、肩を竦めて見せた。スクネはちょっとおかしそうに妹の義弟になる少年に笑いかけた。
「今の‘まったく’はどう言う意味かな。‘まったくゼロ’の‘まったく’か、‘まったくもう’の‘まったく’か」
「あ!もちろん前者ですよ!僕は、そんなつもりは――ああ、からかったんですね」
 したり顔で笑う姉の婚約者を見て、オベロンは苦笑した。ネフェリアもおかしそうに喉の奥で笑った。
「二人とも息ピッタリですね、まったく。…今のは‘まったくもう’の‘まったく’ですよ」
「今のは分かった」
 スクネが冗談めかして言うと、オベロンは屈託ない笑い声を上げた。
「お前も踊ってきたらどうだ。もう何人か目をつけているだろう。あの中から」
 ネフェリアが片方の眉を上げて悪戯っぽく視線を投げた先には、美しく着飾った貴族の娘たちがいる。何人も集まって談笑し、こちらをチラチラと見ている。麗しの王子から声がかかるのを待っているのだ。
 オベロンはちょっと照れ臭そうに肩をすくめ、席を立った。
「みんな兄上の相手をしたかっただろうに、僕で務まるのかな」
 そう言いながら、顔は楽しそうだ。オベロンには、テオドリックにはない可愛らしさがある。少年だからと言うよりも、彼自身の人懐こい性格からくるものだ。
「あいつはテオドリックより女好きだぞ。兄のように女を誑し込むのが巧い」
 オベロンが桃色のドレスを纏って花飾りをつけた同じ年くらいの娘にダンスを申し込むのを眺めながら、ネフェリアがくすくすと笑った。
「聞き捨てならないな。妹の夫になる男が女誑しとは」
「ああ、失言だった。昔の話だ。今はたった一人に夢中になっているらしいからな」
「どうだかな」
 スクネは開け放たれたテラスの扉の奥に広がる庭園を見た。
 キセがテオドリックに惹かれているのは、わかる。テオドリックもキセに惚れている。それも、わかる。問題は二人が冷静にそれを認められるかどうかだ。一夏の恋のように一気に燃え上がってすぐに鎮火する類のものであれば、この婚姻はうまくいかない。この婚約はアバンチュールとなってはいけないものだ。
(それは俺も同じか)
 ふとネフェリアの唇の感触を思い出し、スクネは自嘲した。
 あんな風に不意打ちを食らったのは初めてだ。
 スクネは杯を置き、隣のネフェリアに視線を移した。スクネの視線に気付いたネフェリアは機嫌良く微笑みかけてきた。彼女は雪解けの清流のように透明だ。不純物を含まず、気分がそのまま表情に表れる。
 スクネは普段なら女性に対して必要以上に気を遣う質だ。まったく性格の違う三人の母に育てられたことも原因のひとつだが、それ以上に少年の頃から王太子という立場上、誘惑の罠を仕掛けられることが多かったために、女という生き物の複雑さに辟易しているとも言える。
 その点、ネフェリアは話していると不思議なほどに寛ぎを感じる存在だった。
 スクネは微笑んで立ち上がり、ネフェリアに手を差し出した。
「踊るか?君のダンスの腕前にも興味がある」
 ネフェリアは少し驚いた様子だったが、ニッと笑って手を取り、その挑戦を受けた。
「いいぞ。貴殿の気が済んだら執務室へご案内しよう。船遊びといこうじゃないか」
「はは、いいな。酒も調達しよう」
 スクネは軽快に床を蹴った。

 テオドリックとキセの間に宴が戻ってきたのは、庭園のランプに火が灯った頃だ。もう夜がやってきたと言うのに窓の外から灯りが差して礼拝堂の中を明るく照らし、弦楽器の伝統的な舞踊音楽が聞こえてくる。
「もう行った方がよろしいのでは…」
 キセの言葉をテオドリックの唇が飲み込んだ。
「ん、んん…、テオドリック…」
 キセがもがくように抗議を始めたが、テオドリックは無視して唇を啄み、舌を潜り込ませてキセを黙らせた。
 ドレスを乱したいのを我慢しているだけ立派なものだ。
 と、テオドリックは内心で自賛した。ドレスの下でキセの体温が上がり、腕の中で息苦しさと熱に悶えて身を捩るたびにテオドリックの胸に火がつく。
「あと一回だけって…」
「無理だった」
 テオドリックはキセの身体をしっかりと抱きしめながら、白々と言った。‘もう一回’とテオドリックがせがんでからどれくらいの時間が経ったのか、最早わからない。テオドリックの顔も声も、この上なく満足げだ。幸せそうに微笑むから、キセもつい許してしまう。
「わたしも嬉しいです、テオドリック。好きな人と心が通じるって、こんなに幸せなことなのですね」
 キセはぎゅうっとテオドリックを抱き締めた。
「夢みたいです…」
 テオドリックは胸の急激な閉塞感を覚えた。一体天と地に存在するどの要素を詰め込んだらこれほど愛おしい存在が生まれるのだろうか。宴など忘れて今すぐ寝室へ引っ張り込みたい。が、そのためには目の前の仕事を片付ける必要がある。テオドリックはちょっと溜め息をついて、キセの鼻の頭と額にちょんちょんとキスをし、背筋を伸ばした。
「…今度こそ行くか」
 テオドリックは乱れたキセの髪を手で直してやり、自分の髪もさっさと整えてキセの手を取った。
「あ、わたし髪を結っていないのですが、大丈夫でしょうか」
 礼拝堂を出たとき、キセは思い出したように言った。早朝にレグルス城を飛び出してから、ふわふわの黒い髪はそのまま背に下ろしている。正式な場においては、成人女性は髪を上品に結うのがどの国でも伝統だ。
「そのままで十分美しいが、そうだな…」
 テオドリックはあたりを見回し、庭園に咲く一重咲きの白いカーネーションを一輪摘んでキセの耳の上の髪に挿してやった。
(ああ、帰りたい)
 テオドリックが思ったのは、花や月の光など霞んでしまうほど眩しいキセの笑顔を見たからだ。
「…これでいい」
「すぐに落ちてしまいそうです」
「大丈夫だ。そんなに長居しない」
「そうなのですか?でも皆さまにご挨拶をするのでは…」
「いいから。ほら、行くぞ」
 テオドリックはキセの手を引き、篝火やランプが明るく輝く庭園の中心部へと歩いた。楽団の演奏が段々と大きくなっていく。庭園でダンスに興じる諸侯は、銀色の上衣を纏い、美しいティールブルーのドレスを着た見慣れない女性の手を引いて 、踊る人々の描く輪も気にせず庭園を横切る男が王太子だと気付くまでに少々の時間を要した。
 皆が踊る足を止めて二人に注目した。その視線の中には、当然友好的でないものも含まれている。特に婦人たちからキセに向けられる視線は剣のように鋭い。ネフェリア王女に家中の男を紹介し損なった者はもとより、あわよくばこの国で最も麗しいテオドリック王子に気に入られようと最大限のお洒落をしてやってきた未婚の貴婦人たちでさえ、今夜その目的を果たせる可能性がなくなったのだ。彼らの落胆は言うまでもない。
 針のような視線を受けている当のキセはそれどころではなかった。テオドリックの大きな手が自分の手を繋ぎ、時折親指で肌を愛撫するように撫でてくるからだ。恥ずかしくて、身体中がムズムズとくすぐったく、触れているだけで胸がドキドキする。
 愛人のヴェロニク・ルコント伯爵夫人と身体をくっつけて愉しそうに踊っていたテオフィル王は、一直線に近付いてくる息子を見て僅かに眉の下を曇らせた。
「陛下、火急の用により遅参いたしました」
 テオドリックは輝くような貴公子の笑顔で父親に恭しく膝を曲げた。キセもそれに倣い、背をまっすぐにしたまま頭を低くして礼をした。
 テオフィル王は怒っているのかどうか判断のつかない顔で、国王の証である金の指環をした右手を差し出し、テオドリックは臣下の礼としてその指環に口付けをした。テオドリックはその時初めて、父親の手が震えていることに気が付いた。
「春の宴よりも大事な用とは、興味がある」
「黒い小鳥を探していました」
「それはそれは、さぞ美しい小鳥なのだろうな」
 そう言いながら、テオフィル王の青い目はテオドリックの隣に立つキセに向いている。
 キセは緊張のあまり口から心臓が飛び出しそうになったが、気丈にもにっこりと微笑んで見せた。
「はじめまして。キセ・ルミエッタと申します。テオドリックのお父さまにお会いできて、とても嬉しく存じます」
 美しいマルス語だった。
 いつもは言葉にイノイル語の語調が感じられるが、今の挨拶は、まるでマルス語のお手本だった。マルス大陸の人々にとっては、これだけでその教養の高さが分かる。美しいマルス語は、その為人ひととなりを測るための材料のひとつでもあるのだ。
 テオフィル王は国王らしい物静かな笑みを顔から消した。
「ようこそ、キセ・ルミエッタ姫」
 諸侯がざわざわと騒ぎ出すのが聞こえた。‘姫’とはどこの国の姫かと囁き合っている声も聞こえてくる。
「…お父上の面影があるな。これほど可憐なお人ではないが」
 キセはこの反応を意外に思った。二人に直接面識があることを知らなかったからだ。それに、もっと憎いものを見る目をされるものと思っていた。父のこともさぞ憎んでいるのだろうと。しかし、実際は違う。
 心臓がいやな音を立てて脈打つのをやめ、キセは初めてこの人物の目をまっすぐ見つめることができた。
「テオドリックとお父さまもよく似ていらっしゃいますね。目を細くした時の優しいお顔がそっくりです」
 テオドリックとテオフィル王は同じように目を丸くして視線を交わし合った。
 二人の仲があまりうまく行っていないことはなんとなく分かっているが、これは口に出してはいけなかったのだろうか。キセはちょっと不安になり、父子の顔を交互に見た。
「…そうかな」
 テオフィル王は暗い金色の顎髭をちょこちょこと指で整えながら、「フム…」と唸って息子の顔を見た。
「キセにはそう見えるみたいですよ」
 テオドリックが真顔で言うと、テオフィル王は目に穏やかな弧を描かせた。
 テオドリックは驚いた。父のこういう顔を見るのは、何年ぶりだろうか。母親が亡くなって以来、初めてではないか。
「陛下――父上」
 テオドリックは襟を正して父親の目を正面から見据え、キセの手を握った。
「俺はこの美しく優愛に満ちたキセ・ルミエッタ・シトー王女を妻に迎えます。既にイノイルのオーレン王にも謁見し、許しを得ました」
 テオドリックは高らかに宣言した。
「祝福していただけますね、父上」
 諸侯は驚きに言葉も出せず、ダンスの途中の滑稽な体勢のまま固まってしまっている。国王の後ろに控えるルコント侯爵夫人もさすがに微笑を取り繕うことができず、一言も発せず赤い唇を開いていた。
 テオフィル王は皮肉げに目の下に笑い皺を作り、低い声で息子とその婚約者に語りかけた。
「これからだ。あの者たちを納得させるには時間がかかるぞ。わたしは手を貸さぬ。口も出さぬ。できるものならそなたたちだけでやってみるがよい。失敗すれば二人とも命はない」
 テオドリックはこれを国王からの挑発と受け取ったが、キセは違った。
「はい!ありがとうございます!」
 キセは跳び上がって喜び、そのままテオフィル王の大きな腹に飛び付くようにして国王を抱きしめた。ルコント侯爵夫人と国王の周囲にいた他の貴族はギョッとして目を剥いたが、テオフィル王の反応はある意味で期待を裏切るものだった。
「…オーレン王の子か」
 テオフィル王はキセの髪をくしゃっと撫で、微笑んだ。‘微笑んだ’という表現が正しいかは分からない。なにしろ口髭に隠れて口元が見えないからだ。テオフィル王が目を細めたのは、睨んだとも言えるかもしれない。が、どちらでも関係ない。キセには微笑んでいるように見えたのだ。
「あれは誇り高い男だ。そのうち父君の話も聞かせてもらう」
「はい、もちろんです!テオドリックのお父さま…あっ、国王陛下」
 キセは慌てて言い直し、顔を赤くして一歩下がり、お辞儀をした。
 うっかりしていた。あくまで公的な場だと言うのに、いつの間にか国王への謁見ではなく恋人の父親への挨拶のつもりでいた。
 敵国の王女が突然王太子の婚約者として現れたことは、テオドリックの予想通りこの場を凍りつかせた。
 が、存外、悪い反応ばかりではない。
 自分の娘を未来の王妃にと強く願っていた者や、イノイルを激しく敵視している者は怒ってこの場から去ってしまったが、中には長年両国の和平を望んでいた者も少なからずいる。
「二人の婚姻に祝福を」
 と、どこからともなく声が上がり、賛同者とこの春の宴をぶち壊したくない者たちが拍手を送った。満場一致には程遠いが、滑り出しとしては、予想より悪くない。
 テオドリックは声のした方に視線を巡らせてガイウス・コルネールの姿を認めると、その顔に一瞥をくれてやった。ガイウスもあの挑戦的な目でこちらを見ている。
「祝福への礼をしなければ」
 テオドリックはにやりと笑ってキセの頬に触れ、さっきまで礼拝堂でしていたものとは比べものにならないほどの優しさでキセの唇を塞ぎ、その身体を抱き寄せた。
 周囲の反応など少しも気にならない。テオドリックは唇を離して目を丸くしたキセの真っ赤な顔を見つめ、この上なく満足そうに微笑んだ。
「それでは父上、諸卿、良い夜を。わたしは一刻も早くキセと二人きりになりたいのでこれで失礼します」
「えっ!テオドリック…」
 テオドリックに手を引かれてキセはハッと我に返り、国王と諸侯に向けて慌ててお辞儀をしてから、テオドリックに促されるままその場を後にした。
 無言で前を行くテオドリックは、畏まった格好で滑稽にもぽかんとしている貴族たちを尻目に、明るく花で飾られた庭園をどんどん進み、正面の門へと向かった。鉄の門の外に既に黒く立派な馬車が用意されていて、門前に衛兵と家令のジェラール・コールが鳶色の長い上衣に身を包んで直立していた。
「もうお帰りですか、王太子殿下」
「あとは父上の仕事だ。俺は帰る」
「あ、初めまし――きゃあ!」
 テオドリックはコールに礼儀正しく挨拶しようとしたキセの身体を軽々と抱き上げて馬車の中へ押し込め、コールが手を出す間もなく扉を閉めた。
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