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プロローグ

アホ男と錯乱する弟分

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「しゃーねえな。
そこまで言うなら連れて行ってやろう」
冒険の旅に出る、と意気込む兄貴分に連れて行ってとせがんだのは
レオ自身なのだが、素直に喜びづらいのはその良からぬ顔だろう。
ただでさえ良くない顔がもっと悪くなっている。
フォーゼの弟分歴2年のレオには、その良からぬ顔が
実際に良くない結果を生む事が経験則で分かっていた。
その瞬間、目の前が光に包まれる。光っているのが自分だと気づいた時には
もう「自分」では無くなっていた。
「……え?」
明らかに自分の声では無い、甘く、美しい声。
最初に感じたのは、胸が強く締め付けられる圧迫感だった。
思わず胸を押さえると、柔らかな感触と共にくすぐったいような、気持ちいような
未知の感覚が体を駆け巡る。
「おお、外から見るとまたすげえな。
なあ、触ってもいい?」
フォーゼの呑気な声で正気に戻る。
不覚ながら変身するだけで興奮しかけた身としては、この男はもしや
口で言うほどエロくは無いのかもしれない、と思う。
まあ、手をイヤらしくわきわきと動かしながらこちらの胸を
じっと見ている顔の気持ち悪さから言って、単に何も考えて無い可能性が高い。
「良いワケ無いでしょっ!
ていうかこの魔法、自分以外にも使えるの!?
「欲求を利用してどーこうって話だったから
相手が受け容れれば使えるんじゃね。
つまり…お前はこの姿に成りたかったって事に」
ふざけた事を言うふざけた男である。いつも通り突っ込んでやろうと
声を張ろうとしたその瞬間、頭がぐるんと反転した気がした。
「馬鹿な事言わないで下さいっ!
私は……!?
あ、あれ…?」
おかしい。
何で私はそんな口調になってるのだろう。
フォーゼさんに敬語なんて普段使わないのに。
「おお、人格が魔力に飲み込まれてる…
アレか、受け入れ云々じゃなくて
単純に魔力に抵抗が無さ過ぎたんだな」
確かにレオは魔術的素養は無かった。
だから私が私じゃ無いような気分になっているのかしら。
そう言えば、あれだけ気になっていた胸の締め付けももう気にならない。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、違う、兄貴!
どうにかして下さいよ!」
「案外可愛いしそのままで良いんじゃね?」
そんな事を照れもせず屈託なく言うこの人の顔を直視できず、
私は目を逸らす。
「可愛いって、私は別に、そんな…
そんな事じゃ無くて、えっと…
あうあぅ……」
顔がぼふっと赤くなる。この人は私のお兄ちゃん、では無く兄貴……?
お兄ちゃんに可愛いって言われて何でこんなに恥ずかしいんだろう?
「…いかん、揶揄ってる余裕も無さそうだ。
脳が錯乱してやがる。
ええっと、これをこーしてあーなってどーで
えいやっ!」
フォーゼさんが何か良く分からない事を言った途端、頭がぐるんと反転する。
「うっ……
お、俺は一体何を?」
レオは辺りを見回す。自分の家。見慣れたアホ面。
「ふう。
ただ魔力を希釈しただけだが無事どーにかなったな」
アホが珍しく魔力がどうのとアホっぽくない事を言っている。
そんな事を考えているうちに、事の顛末を思い出す。
そして自分が姉の姿に変身している事も同時に認識し、
また興奮しかけるのを何とか抑える。
「ただこんだけ希釈された魔力が実体だと、
色々不便かもなあ。
手っ取り早く言うと見えるんだけど意識されない
空気状態だ」
よく分からないが、変身している時は他人に意識されない
透明状態になるようである。
しかしやはりよく分からないが、その透明状態というのは
「変身」の能力に次ぐくらい凄い事なのではないだろうか。
しかしフォーゼの様子からして、そうでも無さそうである。
全く持ってよく分からない。
「うーん、俺は兄貴みたいに人の体で
図々しく振舞える気がしないし。
見えないのは好都合だよ」
正直この体で正気を保っておくのも難しい。
フォーゼはにやりと笑う。何という無邪気な笑みだろう。
とてもじゃ無いが25のいい男とは思えない。
しかし考える。その純粋さこそがテリオン先生がこのような能力を
この過信軽率アホ男に渡した理由なのでは無いだろうか。
「ふっ。
皮肉も女の子から言われると気持ちいいぜ。
楽しい旅になりそうだな」
そうでも無いかもしれない。
「凄まじく前途多難だよ」
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