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ニチカ商会
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「セバルス、飲みすぎたわ」
アーマイン王国では18歳でお酒が飲めるが、私は果物を絞った飲み物を飲み過ぎてお腹が苦しい。
それに私とセバルスはケプラ帝国から帰着したばかりで疲れもあって酒場の2階の部屋で寝てしまった。
一階に降りると昨晩職人たちと宴会で騒ぎ過ぎた職人たちはもう酒場にはいない。
少しフラフラした足取りで『ウィーナ大型工房』を訪れると職人達が既に作業していた。
「おはようございます!」
「体の具合は大丈夫ですか?」
「ええ。まぁ問題ないわ」
「レリアーナさん、これを見てください」
職人は図面を見せてきた。
「これは大型の型打ち機の試作機です。横の水路に水車を取り付けて、工房に繋げて薄く伸ばした鉄を・・・」
私は日本の図書館で読んだ本の中に書かれていたプレス機を思い出した。この職人は水車でプレス機を作ろうとしていた。そして伸ばして薄い板の鉄をプレスして型取り、今よりも早く包丁を作ろうと試みていた。
「いいわ。やってみて」
「話は途中ですぜ?」
「その方法なら大量に作れるのよ」
「え?知ってたんで?さすがだなぁ。早速作ってきます」
「よろしくお願いします」
私は職人に任せ、工房を出た。
ダロが私の元に走ってきた。
「大変だ」
ダロは『ニチカ商会ウィーナ町製の包丁』を見せた。
「これが何?」
「もう隣町で売られていた。しかも価格は1シルバーだ。数本露店に並んでいた」
誤算だった。昨日初めて隣国ケプラ帝国で販売した私達の包丁がアーマイン王国に持ち込まれ高値で販売されていた。
「すぐに荷馬車とありったけの包丁を用意して」
私とダロとセバルスは隣町の商会に駆け込み、販売権を得て露店を開き包丁を500ブロンズで販売した。
1シルバーで販売していた店は私達が包丁を販売すると店から包丁を下げた。
ニチカ商会の販売価格を維持するには、流通量を増やして適正価格の認知度を広げるか、ニチカ商会の商品はニチカ商会のみが販売できる専属販売権を得るしかない。
専属販売権を得るには大量なゴールドを納める必要があり、まだまだニチカ商会ではゴールドが足りない。
「よし、こうなったら販売店をこの町や首都にも出そう」
「え?」
ダロの提案に驚いたが、それなら専属販売権を納めずにニチカ商会の認知度も上がる。
「でもゴールドが足りない」
「店を建てるとゴールドは足りないな。その代わり人通りは少ないが最初は各地に露店を建てて販売するか、他の店に卸せばいい」
ダロの案を採用して、私は行動に移した。
包丁を各地に卸し、露店を増やし販売員と荷馬車の配達員を増やした。
大型工房だけでは職人が足りず、ウィーナ町の全ての職人を雇い大型工房は更に2棟増えた。
商品もハサミから武器、日本で便利だと思ったゴミ箱まで鉄製品は何でも作って販売した。
ニチカ商会は更に大きくなり、ウィーナの町にニチカ商会本部の二階建ての建物が建った。
アーマイン王国に戻って半年が過ぎたある日。
私はカウンター越しにニチカ商会で受付をしているクリスティと談笑していた時だった。
ニチカ商会本部の建物に痩せ細った子が訪ねてきた。
「販売員ですか?今は募集していません」
「あの。なんでもします。雇ってください」
「うーん」
「ニチカ商会は私と同じ名前なんです」
その声と言葉に私は反応して振り返ると、痩せたニチカがいた。
「ニチカ!」
「レリアさん?レリアさんなの?」
「そう。レリア。なぜここに?」
「分かりません。家に入ろうとドアを開けた瞬間、光に包まれて違う世界に飛んできました」
謎の光は私とセバルス以外にもニチカを巻き込みアーマイン王国に連れてきていたなんて衝撃的だった。
痩せて日に焼けて黒ずんだ顔や体、髪はボサボサに伸びていた。体を洗っていないのだろう異臭がした。
「ご飯は?お風呂は?」
「食べてません。お風呂もずっと入ってません」
「クリスティさん。今日の予定は後は任せました」
「は、はい!」
私はセバルスを呼んだ。
セバルスも驚いて慌てていたが、お風呂を用意するように伝え、私は柔らかい温かなご飯を少し用意した。
「お風呂が沸きました!」
商会本部の隣に職人が使う浴室がある。そこでニチカの体を私が洗う。
綺麗になったところで食堂に移動して、柔らかい芋料理と粥を並べた。
「ゆっくり食べるのよ」
私はスプーンで粥をすくい、ニチカの口に運ぶ。芋を砕いて小さくして口に運ぶ。
ポロポロと涙を流すニチカ。
「私とセバルスはここアーマイン王国で不思議な光に包まれて日本に行ったの。そしてまた日本で光に包まれた。その時にニチカもアーマイン王国に来てしまったのね。ごめんなさい」
ニチカは顔を左右に振った。
「ニチカは今まで何処にいたの?」
「私はアーマイン王国の外れにあるアゼカという町の孤児院にいました。大人の私が孤児院に拾われて、子ども達のご飯が減るから孤児院を飛び出て各地を彷徨ってニチカ商会の噂を聞いて此処に」
ニチカは最初、私とセバルスとは離れた場所でアーマイン王国に降りたのだろう。もし、ニチカがウィーナの町にいれば出会っている可能性が高い。
「ニチカが私とセバルスを日本で保護してくれたように、私はこれからニチカを保護しよう」
「ありがとうございます」
涙を流すニチカを抱き締めて、日本のファミリーレストランで号泣した私の姿が重なった。あの時、不安と恐怖から押し潰された心を解放してくれたのはニチカの優しさだった。しばらく抱き締めているとニチカは安心したのか眠ってしまった。
セバルスと私でニチカ商会本部の建物の私の部屋のベッドに寝かせた。
翌日、朝から食堂には職人達が集まっていた。
「レリアーナさん、おはようございます」
「おはよう」
「昨日、クリスティから聞きましたぜ。孤児を拾ったとか」
「違いますわ!あのお方は私の命の恩人であり、ニチカ商会の屋号の由来でもあるニチカさんです」
「「えぇぇぇ!!」」
食堂にいた職人達の動きが止まった。
「それじゃあ、あの方がニチカ様で?」
「ニチカ様?」
「だって、レリアーナさんの恩人で今のニチカ商会があるのはニチカ様のお陰でしょう?」
「そうです」
「それならニチカ様と呼ばなければ」
「「そうだ!そうだ!」」
そこにニチカがあくびをして眠気眼で食堂に入ってきた。
「おはようございます。レリアさん、いい匂いがして」
「こちらがニチカ様です」
「ははぁー」
職人達は全員その場にひれ伏した。
「え?」
困惑するニチカ。
私はその光景がたまらなく面白かった。
アーマイン王国では18歳でお酒が飲めるが、私は果物を絞った飲み物を飲み過ぎてお腹が苦しい。
それに私とセバルスはケプラ帝国から帰着したばかりで疲れもあって酒場の2階の部屋で寝てしまった。
一階に降りると昨晩職人たちと宴会で騒ぎ過ぎた職人たちはもう酒場にはいない。
少しフラフラした足取りで『ウィーナ大型工房』を訪れると職人達が既に作業していた。
「おはようございます!」
「体の具合は大丈夫ですか?」
「ええ。まぁ問題ないわ」
「レリアーナさん、これを見てください」
職人は図面を見せてきた。
「これは大型の型打ち機の試作機です。横の水路に水車を取り付けて、工房に繋げて薄く伸ばした鉄を・・・」
私は日本の図書館で読んだ本の中に書かれていたプレス機を思い出した。この職人は水車でプレス機を作ろうとしていた。そして伸ばして薄い板の鉄をプレスして型取り、今よりも早く包丁を作ろうと試みていた。
「いいわ。やってみて」
「話は途中ですぜ?」
「その方法なら大量に作れるのよ」
「え?知ってたんで?さすがだなぁ。早速作ってきます」
「よろしくお願いします」
私は職人に任せ、工房を出た。
ダロが私の元に走ってきた。
「大変だ」
ダロは『ニチカ商会ウィーナ町製の包丁』を見せた。
「これが何?」
「もう隣町で売られていた。しかも価格は1シルバーだ。数本露店に並んでいた」
誤算だった。昨日初めて隣国ケプラ帝国で販売した私達の包丁がアーマイン王国に持ち込まれ高値で販売されていた。
「すぐに荷馬車とありったけの包丁を用意して」
私とダロとセバルスは隣町の商会に駆け込み、販売権を得て露店を開き包丁を500ブロンズで販売した。
1シルバーで販売していた店は私達が包丁を販売すると店から包丁を下げた。
ニチカ商会の販売価格を維持するには、流通量を増やして適正価格の認知度を広げるか、ニチカ商会の商品はニチカ商会のみが販売できる専属販売権を得るしかない。
専属販売権を得るには大量なゴールドを納める必要があり、まだまだニチカ商会ではゴールドが足りない。
「よし、こうなったら販売店をこの町や首都にも出そう」
「え?」
ダロの提案に驚いたが、それなら専属販売権を納めずにニチカ商会の認知度も上がる。
「でもゴールドが足りない」
「店を建てるとゴールドは足りないな。その代わり人通りは少ないが最初は各地に露店を建てて販売するか、他の店に卸せばいい」
ダロの案を採用して、私は行動に移した。
包丁を各地に卸し、露店を増やし販売員と荷馬車の配達員を増やした。
大型工房だけでは職人が足りず、ウィーナ町の全ての職人を雇い大型工房は更に2棟増えた。
商品もハサミから武器、日本で便利だと思ったゴミ箱まで鉄製品は何でも作って販売した。
ニチカ商会は更に大きくなり、ウィーナの町にニチカ商会本部の二階建ての建物が建った。
アーマイン王国に戻って半年が過ぎたある日。
私はカウンター越しにニチカ商会で受付をしているクリスティと談笑していた時だった。
ニチカ商会本部の建物に痩せ細った子が訪ねてきた。
「販売員ですか?今は募集していません」
「あの。なんでもします。雇ってください」
「うーん」
「ニチカ商会は私と同じ名前なんです」
その声と言葉に私は反応して振り返ると、痩せたニチカがいた。
「ニチカ!」
「レリアさん?レリアさんなの?」
「そう。レリア。なぜここに?」
「分かりません。家に入ろうとドアを開けた瞬間、光に包まれて違う世界に飛んできました」
謎の光は私とセバルス以外にもニチカを巻き込みアーマイン王国に連れてきていたなんて衝撃的だった。
痩せて日に焼けて黒ずんだ顔や体、髪はボサボサに伸びていた。体を洗っていないのだろう異臭がした。
「ご飯は?お風呂は?」
「食べてません。お風呂もずっと入ってません」
「クリスティさん。今日の予定は後は任せました」
「は、はい!」
私はセバルスを呼んだ。
セバルスも驚いて慌てていたが、お風呂を用意するように伝え、私は柔らかい温かなご飯を少し用意した。
「お風呂が沸きました!」
商会本部の隣に職人が使う浴室がある。そこでニチカの体を私が洗う。
綺麗になったところで食堂に移動して、柔らかい芋料理と粥を並べた。
「ゆっくり食べるのよ」
私はスプーンで粥をすくい、ニチカの口に運ぶ。芋を砕いて小さくして口に運ぶ。
ポロポロと涙を流すニチカ。
「私とセバルスはここアーマイン王国で不思議な光に包まれて日本に行ったの。そしてまた日本で光に包まれた。その時にニチカもアーマイン王国に来てしまったのね。ごめんなさい」
ニチカは顔を左右に振った。
「ニチカは今まで何処にいたの?」
「私はアーマイン王国の外れにあるアゼカという町の孤児院にいました。大人の私が孤児院に拾われて、子ども達のご飯が減るから孤児院を飛び出て各地を彷徨ってニチカ商会の噂を聞いて此処に」
ニチカは最初、私とセバルスとは離れた場所でアーマイン王国に降りたのだろう。もし、ニチカがウィーナの町にいれば出会っている可能性が高い。
「ニチカが私とセバルスを日本で保護してくれたように、私はこれからニチカを保護しよう」
「ありがとうございます」
涙を流すニチカを抱き締めて、日本のファミリーレストランで号泣した私の姿が重なった。あの時、不安と恐怖から押し潰された心を解放してくれたのはニチカの優しさだった。しばらく抱き締めているとニチカは安心したのか眠ってしまった。
セバルスと私でニチカ商会本部の建物の私の部屋のベッドに寝かせた。
翌日、朝から食堂には職人達が集まっていた。
「レリアーナさん、おはようございます」
「おはよう」
「昨日、クリスティから聞きましたぜ。孤児を拾ったとか」
「違いますわ!あのお方は私の命の恩人であり、ニチカ商会の屋号の由来でもあるニチカさんです」
「「えぇぇぇ!!」」
食堂にいた職人達の動きが止まった。
「それじゃあ、あの方がニチカ様で?」
「ニチカ様?」
「だって、レリアーナさんの恩人で今のニチカ商会があるのはニチカ様のお陰でしょう?」
「そうです」
「それならニチカ様と呼ばなければ」
「「そうだ!そうだ!」」
そこにニチカがあくびをして眠気眼で食堂に入ってきた。
「おはようございます。レリアさん、いい匂いがして」
「こちらがニチカ様です」
「ははぁー」
職人達は全員その場にひれ伏した。
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