異世界魔剣士タイムトラベラーは異世界転移を繰り返して最弱でしたが特殊能力が開花します

三毛猫

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逃げろって何から?

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 「逃げろ!」

大声でいきなり怒鳴られた。頭上から聞こえるオッサンの声。逃げろって何から!?
意味が分からない。

 「立ってひたすら走れ!」

また同じオッサンに怒鳴れた。

っていうか、ここどこだよ・・・。

俺は比良松連司、24歳。身長174cm、中肉中背、鋭い目をしているらしい、稀に怖がられる。地方公務員になり損ねた会社員。スーツ姿で通勤途中。乗り換えのため駅のホームで電車を待っていた。
電車がホームに到着してドアが開いた。電車に乗ろうと一歩足を出した瞬間、床が抜け落ちたように床が真っ黒になり、その黒い空間の中に落ちた。

「やべっ!」

階段から落ちるような感覚が一瞬伝わった。咄嗟に両腕を伸ばして顔を庇った。瞬きする一瞬の内に草の生えた地面に四つん這いになっていた。

そして怒鳴るオッサンとの出会いだ。
四つん這いで倒れていると「逃げろ」と声がした。顔だけを上げて声の主を見ると中世ヨーロッパで使っていそうな両刃の剣を構えた勇ましい中年のオッサンが右隣にいた。
顔には傷跡が複数ある。無駄な脂肪は何処にも見当たらないマッチョボディ。しかし皮は少し弛み、ハリがない。そこは中年という感じだ。短髪の髪に額に銀色の鉢金を締めている。

「今起きるよ!」
半ギレ気味の俺。

「逃げてください!後ろから来ます」

次の声の主は少女だった。ローブを着て、頭に三角帽子、手には杖を構えている。

「コスプレパーティーか?」

「そのままだと尻から喰われるぞ!」

オッサンに言われて四つん這いの体勢からチラリとお尻の方を見た。何か黒い影が俺の方に向かってくる。ゾワっとした寒気が体を襲い飛び上がるように体を起こした。

青い空、見渡す限りの草原に美しい山々が広がる長閑な風景の中に猛スピードで動く猛獣の姿はライオンに似ていた。しかし体毛は黒く、目は赤い。巨体からは想像できない速さで近づいてくる。

そんな猛獣が五匹も人間という餌に向かってきた。
頭が混乱する暇もなく、猛獣から逃げた。

 「そのまま走って門まで行け!」

門?オッサンが言っていた門は300メートルほど先にあった。

 「リュードさんは右の三体を!私は左の二体を」

 「おうよ!」

後ろからオッサンと三角帽子少女の声が聞こえてくる。振り向く余裕がない。地味に走りにくいスーツで必死に走った。
途中足がもつれて転けて上着の袖が破れた。

門が近くなると門にいた槍を持つ兵士に「早く来い!」と急かされた。


木製の扉が開く。俺が門に入った瞬間に門は閉ざされた。


「幸運だったな」
門の兵士が俺の肩を叩いた。俺はゼェゼェと肩で息をして汗だくになった上着を脱いで額の汗を拭う。門の中は中世ヨーロッパのような建物が建ち並ぶ町だった。


「外の二人は?」

「君を助けた二人は大丈夫さ。町が雇った強い冒険者だからさ」

「冒険者?」

「外の様子が見たいなら上から見るといい」

門兵に連れられて、門の見張り台に上がると草原が一望できた。
草原にいたオッサンは猛獣相手に華麗な剣捌きを見せていた。
三角帽子少女は杖からビームのような光線や炎の球を発射し猛獣を圧倒している。


三角帽子の少女は杖から魔法を放っている。鉢金のオッサンは人間離れした瞬発力に動きで巨体の猛獣と戦っている。

この光景を見て理解した。
間違いない。俺は異世界に転移した。






 「終わったぞー!」

鉢金オッサンの声に反応して物見台から門兵は手を振った。
門が開き数名の兵士が倒された猛獣に向かって列になって行進を始めた。

入れ替わるように鉢金のオッサンと三角帽子少女が門を潜り町に入った。

「先程は助けていただき、ありがとうございました」

俺は深々と礼をした。

「突然現れた変な格好の兄ちゃん。俺は傭兵のリュードとこっちの魔法使いはアイラ。名前は?」

「比良松連司です」

「じぁあレンジだな。レンジは何処から来た?」

「日本です」

「聞いたことのない国だな。アイラは知っているか?」

アイラは顔を横に振る。
よく見るとアイラの耳は横に長く出っ張っていた。俺が顔を近づけて見ようとすると三角帽を深々と被り耳と顔を隠した。

「珍しいだろう。アイラはエルフ族だ。この辺りでは人族・亜人・獣人・ドワーフがほとんどだ」

その後、俺はリュードとアイラと共に町を案内された。辺境の町ミルクテにはリュードとアイラが倒した魔獣が度々町を襲っていた。そこで町の長は強者の傭兵リュードに魔獣討伐を依頼したそうだ。

ミルクテは人口1000人ほどの小さな町。魔物や魔獣対策で塀で町を囲み、商人や旅人・冒険者を労う宿が多く建ち並んでいた。リュードは俺に町のことを教えてくれた。

「広い草原で歩き疲れた者を癒す町になった訳だ。レンジ、酒場に行くぞ」

「昼間からお酒ですか?」

「何言ってる。俺たちはもう魔獣討伐を済ませた。レンジも逃げ切れた祝いだ」

首をがっしり掴まれて酒場に入った時には後ろを歩いていたアイラはいつの間にか姿が消えていた。酒場には昼間から数人が飲んでいた。リュードが入ってくると皆「リュードさん、お疲れ様です」と声を掛けてくる。

「知名度高いですね」

「まぁな。毎日討伐終わりに酒場に来りゃ顔馴染みばかりって訳だ」
と言って笑っていた。


リュードと俺が円卓に座ると空いていた席に次々に人が座り、あっという間に円卓に6人集まった。
女将が酒の入った樽型のジョッキを円卓に置くとリュードが「魔獣討伐完了とレンジとの出会いに。乾杯!」とジョッキを高く上げた。

俺もジョッキを高く上げ、乾杯!と叫んだ。


気付くと電車の中だった。

「かんぱーい・・・へ?・・・夢?なにこれ?」

電車内。乗客の姿勢が集まる。ドアの前で乾杯と手を掲げたまま立っていた俺は、時より振動して横揺れする。車窓からは景色が流れ、いつもの通勤風景が見える。座っていた学生からは笑われ、向かいに立っていたスーツ姿の乗客からは「昼間から酔っ払いかよ」と吐き捨てて気味悪がられてその場から去って行った。





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