彼女は俺以外にスルーされてる

三毛猫

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 パンを咥えて走る女子と街角でぶつかり恋に発展する。あるいは、本屋で目当ての本を見つけて伸ばした手が隣の女子が伸ばした手と触れて恋に発展する。
そんな漫画のような展開を期待する程の馬鹿ではないと自覚しつつ、目の前を歩く高校生カップルの後ろ姿が妙に羨ましく高校生活の青春の1ページに色恋沙汰があってもよかろうと落胆し俺(比島 夏維人ひじま かいと)は駅の階段を上がる。


駅中を同じ高校の学生達は働き蟻のように列を成して学校に歩を進める中で、改札を出てすぐ俺の足はパタリと止まり後続の学生の肩にぶつかった。
「邪魔だ。止まってないでどけよ」
と苛立ち過ぎ去った声にも反応せず。
目の前の真冬に咲く桜や夏に降る雪のような光景に目を奪われていた。


3日前に転校してきた同級生谷代大 舞衣やしろだい まいが正確に人の流れを潜り抜けながら改札の方に向かってきた。

彼女を自然と目で追っていた。追わない方が変なのだ。
舞衣が俺の顔の寸前で止まると、一歩足を引いた。


「へぇー。私のこと見えるの?」

舞衣は言葉とは裏腹に驚いた表情もなく淡々としている。

「谷代大さん!せ、制服は!なんで水着姿なの!?」

声に数人が俺に目を向けるが何事もなかったように通り過ぎて行く。
舞衣の胸が近づくと目のやり場に大きく慌てて後ろにまた一歩下がり俯く。脈は激しく額から汗が噴き出した。

「なぜって、今から学校サボって海に行こうと思って。一緒にくる?」

近くに海はない。電車で2時間ほどの県外に海水浴場はある。5月では水温も低くて泳げたものじゃない。舞衣の思考が分からないまま、回答に困っていると袖を引っ張り学校とは反対方向に連れて行かれた。

「学校に行かないと!授業が始まるよ!」

「学校サボるって言ったでしょ!お願いだし付き合ってよ」

学生達の群れを抜け出し東口の階段を下りる。

「説明してほしい。他の人には谷代大さんの姿が見えないの?」

「説明するから」

舞衣は歩くのを止めて振り返った。

「私は異世界から来た異世界人なの。それから他人から私は見えないよう透明化のスキルを使ってる今は透明人間。でも一定のステータス以上の人間には私は見えるのよ。そう、貴方みたいな・・・」

異世界?
スキル?
ステータス?

舞衣の口から出てくる漫画やゲームのようなワード。脳内がパニックになっている一瞬の隙に首元にはナイフの刃が当たり、舞衣が通過した直後、俺の首からおびただしい量の血が噴き出した……。


……はずだった。

しかし、首は無傷。
確実に斬られた。ナイフが首に当たった感覚が残っている。衝撃で尻餅をついた俺に周囲の大人が寄ってきた。

「君、突然倒れたけど貧血か?」

「だ、大丈夫です」


俺の周りに出来た数人の隙間から水着姿の舞衣が悠々と駅の階段を上がる。


俺は立ち上がって叫んだ。

「待って谷代大さん!」


「・・・なんで生きてるのよ」

舞衣が振り返り放った言葉と冷酷な目を俺に向けると駅の中に姿を消した。






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