5 / 9
森の魔女
しおりを挟む
ーー リノラ視点 ーー
黒い子猫の可愛い殿下を連れて森の中に入った。スカートを履いたまま飛び出して逃げたのを後悔している。細かな枝木が脚に擦りギズをつけていく。
治癒薬はない。回復魔法は使えない。
このまま森を進むしかない。追っ手から逃げ切って次の町か近くの民家に早く着かないと小さな生命力の弱いルミィの命も危ぶまれる。
「ミィ~」
小さく鳴くルミィ。
寒いのだろうか。お腹が空いたのだろうか。紙と筆も置いてきたからルミィの言葉の意味は分からない。
夜通し移動して森を抜けた先にあった荒屋に入った。荒屋の中には本棚があった魔術書が乱雑に並べられ、部屋の真ん中には煮詰まって鍋や乾燥した植物が干して置いてあった。
「ミィー」
ルミィが震えている。私もこの独特な雰囲気の空間が怖い。
ギィーと扉が開く音がして扉から出てきたのは如何にも怪しいローブ姿の魔女。シワだらけの顔に高い鼻。腰は少し曲がっている。
「今追われている子だね」
私は咄嗟に荒屋から出ようとした。
「待ちなさい。その猫のような生き物はどこで拾ってきた」
「それは・・・」
言葉に詰まった。会ったばかりの人にルーベルト殿下の名前を出して捕まえたり悪用したりしないだろうかと不安になる。
「私は森の魔女と呼ばれているマーブラだよ。その猫は魔法にかかった人か魔物かい?」
「この人を元に戻す方法を知っていますか?教えてください」
「たしか」と言いながらマーブラは本棚から一冊の魔術書を取り出して開いた。
「これだ。古い禁じられた魔法で毛があれば何でも変身できる魔法だが、元に戻るには幾つか方法がある」
「その方法とは?」
「まず簡単なのは魔法をかけた者を倒す。あるいは、好いた者同士なら自然と元に戻ると書かれている」
私はルミィを見た。小さな顔にピンク色の小さな鼻、潤んだ瞳、小さな手に肉球、ツンと立った耳。どれも可愛い。可愛い気持ちが先行してとても好きになることができない。子猫としては好きだけど、殿下とはまだ話したこともない。
「他には?」
「分からぬ」
マーブラはそのまま黙ってしまった。
ーー ルーベルト視点 ーー
私は机に置かれた魔術書を読んでいる。
その姿を見たマーブラは「器用な子猫じゃな」と笑っていたが思っているより事態は深刻だった。私に魔法をかけたフィナを倒すには王都に戻らないといけない。しかし今は偽ルーベルトから追われていて王都には入れない。
魔術書をぺちぺち叩く、次に羽ペンを叩くとリノラは気付いた。
「マーブラさん、紙とペンを貸してください」
「ええぞ」
羽ペンは子猫の私でも両前足で辛うじて持てた。筆談で今後の事をリノラに伝えた。
「隣国の第四婚約者候補、ビビ令嬢の父、辺境伯グラントに会いに行ってくれ」
リノラは頷いた。
マーブラと別れ、隣国へ向かった。
黒い子猫の可愛い殿下を連れて森の中に入った。スカートを履いたまま飛び出して逃げたのを後悔している。細かな枝木が脚に擦りギズをつけていく。
治癒薬はない。回復魔法は使えない。
このまま森を進むしかない。追っ手から逃げ切って次の町か近くの民家に早く着かないと小さな生命力の弱いルミィの命も危ぶまれる。
「ミィ~」
小さく鳴くルミィ。
寒いのだろうか。お腹が空いたのだろうか。紙と筆も置いてきたからルミィの言葉の意味は分からない。
夜通し移動して森を抜けた先にあった荒屋に入った。荒屋の中には本棚があった魔術書が乱雑に並べられ、部屋の真ん中には煮詰まって鍋や乾燥した植物が干して置いてあった。
「ミィー」
ルミィが震えている。私もこの独特な雰囲気の空間が怖い。
ギィーと扉が開く音がして扉から出てきたのは如何にも怪しいローブ姿の魔女。シワだらけの顔に高い鼻。腰は少し曲がっている。
「今追われている子だね」
私は咄嗟に荒屋から出ようとした。
「待ちなさい。その猫のような生き物はどこで拾ってきた」
「それは・・・」
言葉に詰まった。会ったばかりの人にルーベルト殿下の名前を出して捕まえたり悪用したりしないだろうかと不安になる。
「私は森の魔女と呼ばれているマーブラだよ。その猫は魔法にかかった人か魔物かい?」
「この人を元に戻す方法を知っていますか?教えてください」
「たしか」と言いながらマーブラは本棚から一冊の魔術書を取り出して開いた。
「これだ。古い禁じられた魔法で毛があれば何でも変身できる魔法だが、元に戻るには幾つか方法がある」
「その方法とは?」
「まず簡単なのは魔法をかけた者を倒す。あるいは、好いた者同士なら自然と元に戻ると書かれている」
私はルミィを見た。小さな顔にピンク色の小さな鼻、潤んだ瞳、小さな手に肉球、ツンと立った耳。どれも可愛い。可愛い気持ちが先行してとても好きになることができない。子猫としては好きだけど、殿下とはまだ話したこともない。
「他には?」
「分からぬ」
マーブラはそのまま黙ってしまった。
ーー ルーベルト視点 ーー
私は机に置かれた魔術書を読んでいる。
その姿を見たマーブラは「器用な子猫じゃな」と笑っていたが思っているより事態は深刻だった。私に魔法をかけたフィナを倒すには王都に戻らないといけない。しかし今は偽ルーベルトから追われていて王都には入れない。
魔術書をぺちぺち叩く、次に羽ペンを叩くとリノラは気付いた。
「マーブラさん、紙とペンを貸してください」
「ええぞ」
羽ペンは子猫の私でも両前足で辛うじて持てた。筆談で今後の事をリノラに伝えた。
「隣国の第四婚約者候補、ビビ令嬢の父、辺境伯グラントに会いに行ってくれ」
リノラは頷いた。
マーブラと別れ、隣国へ向かった。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

逃げたい公爵令嬢と逃したく無い王太子
雨
恋愛
アグーリア公爵令嬢アリーシアはどうしてもユリウス・フォード・スペンサー王太子の婚約者になりたく無い為いつも逃げていた
それに気付いてユリウス王太子はアリーシアを逃したく無かった
ユリウスをめぐてライバル登場?
ハッピーエンドです

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

逆行転生、断罪され婚約を破棄された落ちこぼれ令嬢は、神の子となり逆行転生したので今度は王太子殿下とは婚約解消して自由に生きたいと思います
みゅー
恋愛
アドリエンヌは魔法が使えず、それを知ったシャウラに魔法学園の卒業式の日に断罪されることになる。しかも、シャウラに嫌がらせをされたと濡れ衣を着せられてしまう。
当然王太子殿下との婚約は破棄となったが気づくと時間を遡り、絶大な力を手に入れていた。
今度こそ人生を楽しむため、自分にまるで興味を持っていない王太子殿下との婚約を穏便に解消し、自由に幸せに生きると決めたアドリエンヌ。
それなのに国の秘密に関わることになり、王太子殿下には監視という名目で付きまとわれるようになる。
だが、そんな日常の中でアドリエンヌは信頼できる仲間たちと国を救うことになる。
そして、その中で王太子殿下との信頼関係を気づいて行き……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる