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ウマウマ
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夢か現実か、ここは何処か、寝過ぎてよく分からないが突然、海の幸の焦げた匂いと油が混じり合った良い匂いが鼻を襲う。鼻が自然とピクピク動いて止まらない。とにかく香ばしい匂いが食欲を唆る。ヨダレが溢れそうだ。匂いが段々と近づいてきた!これはまさに至福の瞬間が近い。
パッと目を覚ますと、お皿に焼いた魚の身を砕いて乗せた一品があった。
私は本能のままに飛び付いて食べ始めた。
「ウマウマ!ウマウマ」
何故か咀嚼と共にウマウマと鳴いてしまう猫の特性か。
「美味しい?」と書かれた紙を出された。私は迷わず丸印をぺちぺちと何回も叩いた。
リノラは笑顔で私が食べる姿を眺めている。
「ウマウマ」
(美味美味)
「おかわりはいりますか?」
丸だ!もちろん所望する。
しかしおかわりは私が思っていたより少なかった。
仕方ない。路銀も少ないのだろうとリノラ達家族の食事を見ると、皿に焼き魚が丸々一匹乗っているではないか。
所詮、猫だから少量のご飯でいいという人間の浅はかな考えに私は怒った。
「ミィ!ミィ!」
と鳴き叫び、さらにリノラ達が座るテーブルにジャンプしようと動いた瞬間、お腹が物凄い重い。
腹を見るとタプタプになっている。
「ミィ~」
(リノラ、すまない。適量であった)
先程まで寝ていたのに、また眠気が。昼間は暖かくて特に眠たい。猫という生き物が大半睡眠する気持ちがよく理解できる。
ザッ!ザッ!ザッ!
ジャー!
ガシャガシャ
私も人であったが人というのは忙しない生き物だ。小さな部屋を行ったり来たり、皿の洗う音に床を履く音、耳が良いから細かな音を拾ってしまう。
そして人の活動が大人しくなる夜や早朝に私は活発になり、動き回る。
その時間帯は誰も遊び相手になってくれない。
仕方なく昼間に起きてリノラとリノラ特製の猫じゃらしで遊ぶ。
「ルミィ動きが遅いよ」
元は人だ。猫のように素早く動けない。
リノラは猫じゃらしを素早く左右に振ると先端に小さな毛の生えた植物が左右に揺れる。
「そろそろ終わりにしましょう」
リノラも遊び疲れたようだ。
剣術の稽古以来に久しぶりに沢山動いた。
リノラは紙に書いて現状を教えてくれた。
今は隣町の宿屋で一泊して、明日には次の町を目指すそうだ。
その日の夜、荷造りをしていると
ドンドン!ドンドン!と扉を叩く音が聞こえた。一階にいた宿屋の店主が扉を開くと
クライス王国の龍の紋章が刻まれた甲冑姿の兵士だった。
「ここに第三候補者ディオ・リノラと家族が宿泊していると聞いた」
「突然なんですか?」
「ルーベルト殿下はリノラを拘束し投獄する命令が下された」
「少し待ってください。上に行って確認しますから」
宿屋の店主は一階で寝ていた私を抱えて二階に上がるとリノラを起こし、私を預けた。
「クライスの兵士が来ている。廊下の奥の窓を開けて、隣の家の屋根から逃げなさい」
「どうして?家族は?」
リノラの両親はリノラの手を取った。
「行きなさい。早く」
リノラは頷くと私を抱えて、廊下に出た。
「早くしろ!」
兵士数人が一階から声を荒げた。
リノラは廊下の突き当たりの窓を開く。足の幅しかない細い木の板が隣の家の屋根に架けられていた。胸元に私を抱いたまま、ゆっくりと歩く。
「上がるぞ!」
兵士達の声がリノラの後ろから聞こえる。
「少々お待ちを」
宿屋の店主はリノラが開けた窓を閉めた。
月明かりだけが頼りで細い木の板を慎重に渡る。リノラの体の震えが私にも伝わってくる。
「ミュー」
(大丈夫。リノラならできる)という意味で
私が小さく鳴くとリノラは私を更に強く抱き締めて摺り足で木の板を渡り切った。
隣の家の屋根の軒先から物置に飛び移り、地面に降りた。
隣の宿屋のニ階から兵士達のドタドタと足音がする。
リノラは急いで町を離れて森に向けて走った。
兵士が乗ってきた馬の嘶きが町の方から聞こえる。
ピューと甲高い笛の音も鳴り響く。
しばらくして馬蹄の音が近づいてきた。
「逃げないと!お母さんとお父さん私を逃すために捕まったのかな・・・」
リノラの胸元で抱き抱えてられる私の頭に汗が落ちてきた。
ビクッとしてリノラの顔を見ると汗だと思ったのはリノラの涙だった。
泣きながら走っている。
「ミィー!」
(泣くな!リノラ!)
こんな時に人であったら。
今、この瞬間王子の姿に戻れたなら全て解決して抱き締めてあげられるのにと深く辛く悲しい気分に襲われた。
パッと目を覚ますと、お皿に焼いた魚の身を砕いて乗せた一品があった。
私は本能のままに飛び付いて食べ始めた。
「ウマウマ!ウマウマ」
何故か咀嚼と共にウマウマと鳴いてしまう猫の特性か。
「美味しい?」と書かれた紙を出された。私は迷わず丸印をぺちぺちと何回も叩いた。
リノラは笑顔で私が食べる姿を眺めている。
「ウマウマ」
(美味美味)
「おかわりはいりますか?」
丸だ!もちろん所望する。
しかしおかわりは私が思っていたより少なかった。
仕方ない。路銀も少ないのだろうとリノラ達家族の食事を見ると、皿に焼き魚が丸々一匹乗っているではないか。
所詮、猫だから少量のご飯でいいという人間の浅はかな考えに私は怒った。
「ミィ!ミィ!」
と鳴き叫び、さらにリノラ達が座るテーブルにジャンプしようと動いた瞬間、お腹が物凄い重い。
腹を見るとタプタプになっている。
「ミィ~」
(リノラ、すまない。適量であった)
先程まで寝ていたのに、また眠気が。昼間は暖かくて特に眠たい。猫という生き物が大半睡眠する気持ちがよく理解できる。
ザッ!ザッ!ザッ!
ジャー!
ガシャガシャ
私も人であったが人というのは忙しない生き物だ。小さな部屋を行ったり来たり、皿の洗う音に床を履く音、耳が良いから細かな音を拾ってしまう。
そして人の活動が大人しくなる夜や早朝に私は活発になり、動き回る。
その時間帯は誰も遊び相手になってくれない。
仕方なく昼間に起きてリノラとリノラ特製の猫じゃらしで遊ぶ。
「ルミィ動きが遅いよ」
元は人だ。猫のように素早く動けない。
リノラは猫じゃらしを素早く左右に振ると先端に小さな毛の生えた植物が左右に揺れる。
「そろそろ終わりにしましょう」
リノラも遊び疲れたようだ。
剣術の稽古以来に久しぶりに沢山動いた。
リノラは紙に書いて現状を教えてくれた。
今は隣町の宿屋で一泊して、明日には次の町を目指すそうだ。
その日の夜、荷造りをしていると
ドンドン!ドンドン!と扉を叩く音が聞こえた。一階にいた宿屋の店主が扉を開くと
クライス王国の龍の紋章が刻まれた甲冑姿の兵士だった。
「ここに第三候補者ディオ・リノラと家族が宿泊していると聞いた」
「突然なんですか?」
「ルーベルト殿下はリノラを拘束し投獄する命令が下された」
「少し待ってください。上に行って確認しますから」
宿屋の店主は一階で寝ていた私を抱えて二階に上がるとリノラを起こし、私を預けた。
「クライスの兵士が来ている。廊下の奥の窓を開けて、隣の家の屋根から逃げなさい」
「どうして?家族は?」
リノラの両親はリノラの手を取った。
「行きなさい。早く」
リノラは頷くと私を抱えて、廊下に出た。
「早くしろ!」
兵士数人が一階から声を荒げた。
リノラは廊下の突き当たりの窓を開く。足の幅しかない細い木の板が隣の家の屋根に架けられていた。胸元に私を抱いたまま、ゆっくりと歩く。
「上がるぞ!」
兵士達の声がリノラの後ろから聞こえる。
「少々お待ちを」
宿屋の店主はリノラが開けた窓を閉めた。
月明かりだけが頼りで細い木の板を慎重に渡る。リノラの体の震えが私にも伝わってくる。
「ミュー」
(大丈夫。リノラならできる)という意味で
私が小さく鳴くとリノラは私を更に強く抱き締めて摺り足で木の板を渡り切った。
隣の家の屋根の軒先から物置に飛び移り、地面に降りた。
隣の宿屋のニ階から兵士達のドタドタと足音がする。
リノラは急いで町を離れて森に向けて走った。
兵士が乗ってきた馬の嘶きが町の方から聞こえる。
ピューと甲高い笛の音も鳴り響く。
しばらくして馬蹄の音が近づいてきた。
「逃げないと!お母さんとお父さん私を逃すために捕まったのかな・・・」
リノラの胸元で抱き抱えてられる私の頭に汗が落ちてきた。
ビクッとしてリノラの顔を見ると汗だと思ったのはリノラの涙だった。
泣きながら走っている。
「ミィー!」
(泣くな!リノラ!)
こんな時に人であったら。
今、この瞬間王子の姿に戻れたなら全て解決して抱き締めてあげられるのにと深く辛く悲しい気分に襲われた。
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