23 / 24
決戦編
戦後
しおりを挟む
新浜悟はカバンを自転車のカゴに入れて家を出る。
茹だる暑さの中、坂の途中にある高校を目指して自転車を漕ぐ。
高校3年の夏。3年間通った学び舎で一番辛かった事は毎日通学で急坂を登る通学だと彼は歯を食いしばり重くなったペダルを恨むように踏み込んだ。
「おはよう悟」
電動自転車でスピードに乗り軽やかに背中まで伸びた髪を靡かせて爽やかに坂を登り悟を抜かして行く女生徒。
「電動自転車はいいよな!」
立ち漕ぎも遂に疲れ果て自転車から降りて歩くと校門に紗夢が待っていた。
「紗夢・・・」
喉が渇き口の中は乾燥し口と舌が引っ付いて言葉に詰まる。
「今日も私の勝ちね!異世界から戻ってから運動不足で体力落ちたよね?」
異世界から元の世界に戻ってから、悟と紗夢は登校時に坂道を登る競争が紗夢との恒例となっていた。
「負けたけど・・・でも次は・・・」
悟に背を向けて紗夢は無言で駐輪場に向かった。
悟は周りを見渡した。
夏休みの真っ只中。学校は部活動か補習をする生徒のみでガランとしている。
駐輪場に自転車を停めて校舎に入ると紗夢の後に続くように廊下を歩いた。
紗夢は「毎日夏期講習辛いよね」と言いながら踵を返す。
バランスの取れた容姿に端正な顔立ちの紗夢は少し赤みがかった艶やかに束ねた髪を二、三左右に揺らしながら顔を近づけて、悟の顔を覗き込む。
悟はドキッとして顔を赤らめ後退りする。
「近いんだよ」
「まだ風花ちゃんのこと忘れられない?」
「魔物が全滅して異世界から何の挨拶も出来ないまま、一瞬で俺達は元の世界に戻ったから。最後に挨拶出来なくて心残りだ」
「そう……」
紗夢は少し俯くと、急に顔を上げた。
そして悟の手を取って走った。
「急にどうした!?夏期講習は?」
「いいから早く!」
紗夢は悟の手を取って校舎内を走って駐輪場の自転車に乗り登ってきた坂を颯爽と下った。
その途中、大翔と学が坂を登ってきた所で紗夢は「大翔と学も付いてきてー」と叫んだ。
訳も分からず大翔と学は自転車を反転させ、登ってきた坂を下る。
街中を走り、紗夢は自転車をある民家の前で止めた。
「なんだよ急に!説明してくれよ……」
民家のチャイムを鳴らす。
玄関の扉を開くと中から鈴香が顔を出した。
「鈴香!なんで?」
大翔は鈴香に詰め寄る。
「誰ですか!?明日香!助けてー」
鈴香は扉を閉めようとした時、奥から双子の妹の明日香が現れた。
「え!なんでぇ!紗夢ちゃんに悟さん達じゃない!」
「明日香の知り合い?」
鈴香の頭は疑問符でいっぱいになった。
「お姉ちゃん。この人達が前に話した異世界で共に戦った人たち。悟さん達、どうぞ中へ。中で説明します」
悟達は明日香の家の中へ入った。
「外は暑かったでしょう。どうして私の家が分かったの?」
「紗夢が突然、走り出して……」
紗夢は口を開いた。
「私の異世界で能力開花した能力覚えてる?弓術開花、言語能力開花、聴覚能力開花、視力向上、絆を繋ぐ者で……絆を繋ぐ者の意味が分からなかったの。異世界から帰ってきて、胸がザワザワとする日が続いて、今日悟と話している時に気付いた。きっとこの胸のざわつきは、悟が想う人の居場所だって……でも少し違ったけど、鈴香ちゃんと明日香ちゃんに再会できた。まだ胸のざわつきは残ってるから、他の人も会えるかな」
「じぁあ紗夢は異世界で戦ってバラバラになった仲間の居場所が分かる人間レーダーってわけか?」
「大翔、言い方に気をつけてよ。私は絆を繋ぐ者よ」
「ごめん。でもよかったよ、鈴香が生きていて」
「それなんだけど……」
明日香は暗い顔になった。
「私の推測だけど魔物を倒して向こうの異世界が無くなって、異世界の歴史と存在自体が消滅して異世界で鈴香が亡くなったことが帳消しになったと思う。代わりに鈴香は異世界と異世界に行く前の記憶がない状態で元の世界に復活したの」
「妹から話は聞いてます。皆様が存在するということは私は本当に異世界に行ってた。それに私は皆様を危険な異世界に誘ってしまった……ごめんなさい」
「謝ることはないよ」
「ええ、友達も増えましたし」
学は笑顔になる。
「そうだな。鈴香には大切なことを教えてもらったしな!」
大翔は得意げに拳で胸を叩いた。
「ホント大翔は鈴香ちゃんに感謝しなさいよ」
紗夢はバシッと大翔の肩を叩いた。
それと同時に全員が笑い和やかな時間が過ぎた。
茹だる暑さの中、坂の途中にある高校を目指して自転車を漕ぐ。
高校3年の夏。3年間通った学び舎で一番辛かった事は毎日通学で急坂を登る通学だと彼は歯を食いしばり重くなったペダルを恨むように踏み込んだ。
「おはよう悟」
電動自転車でスピードに乗り軽やかに背中まで伸びた髪を靡かせて爽やかに坂を登り悟を抜かして行く女生徒。
「電動自転車はいいよな!」
立ち漕ぎも遂に疲れ果て自転車から降りて歩くと校門に紗夢が待っていた。
「紗夢・・・」
喉が渇き口の中は乾燥し口と舌が引っ付いて言葉に詰まる。
「今日も私の勝ちね!異世界から戻ってから運動不足で体力落ちたよね?」
異世界から元の世界に戻ってから、悟と紗夢は登校時に坂道を登る競争が紗夢との恒例となっていた。
「負けたけど・・・でも次は・・・」
悟に背を向けて紗夢は無言で駐輪場に向かった。
悟は周りを見渡した。
夏休みの真っ只中。学校は部活動か補習をする生徒のみでガランとしている。
駐輪場に自転車を停めて校舎に入ると紗夢の後に続くように廊下を歩いた。
紗夢は「毎日夏期講習辛いよね」と言いながら踵を返す。
バランスの取れた容姿に端正な顔立ちの紗夢は少し赤みがかった艶やかに束ねた髪を二、三左右に揺らしながら顔を近づけて、悟の顔を覗き込む。
悟はドキッとして顔を赤らめ後退りする。
「近いんだよ」
「まだ風花ちゃんのこと忘れられない?」
「魔物が全滅して異世界から何の挨拶も出来ないまま、一瞬で俺達は元の世界に戻ったから。最後に挨拶出来なくて心残りだ」
「そう……」
紗夢は少し俯くと、急に顔を上げた。
そして悟の手を取って走った。
「急にどうした!?夏期講習は?」
「いいから早く!」
紗夢は悟の手を取って校舎内を走って駐輪場の自転車に乗り登ってきた坂を颯爽と下った。
その途中、大翔と学が坂を登ってきた所で紗夢は「大翔と学も付いてきてー」と叫んだ。
訳も分からず大翔と学は自転車を反転させ、登ってきた坂を下る。
街中を走り、紗夢は自転車をある民家の前で止めた。
「なんだよ急に!説明してくれよ……」
民家のチャイムを鳴らす。
玄関の扉を開くと中から鈴香が顔を出した。
「鈴香!なんで?」
大翔は鈴香に詰め寄る。
「誰ですか!?明日香!助けてー」
鈴香は扉を閉めようとした時、奥から双子の妹の明日香が現れた。
「え!なんでぇ!紗夢ちゃんに悟さん達じゃない!」
「明日香の知り合い?」
鈴香の頭は疑問符でいっぱいになった。
「お姉ちゃん。この人達が前に話した異世界で共に戦った人たち。悟さん達、どうぞ中へ。中で説明します」
悟達は明日香の家の中へ入った。
「外は暑かったでしょう。どうして私の家が分かったの?」
「紗夢が突然、走り出して……」
紗夢は口を開いた。
「私の異世界で能力開花した能力覚えてる?弓術開花、言語能力開花、聴覚能力開花、視力向上、絆を繋ぐ者で……絆を繋ぐ者の意味が分からなかったの。異世界から帰ってきて、胸がザワザワとする日が続いて、今日悟と話している時に気付いた。きっとこの胸のざわつきは、悟が想う人の居場所だって……でも少し違ったけど、鈴香ちゃんと明日香ちゃんに再会できた。まだ胸のざわつきは残ってるから、他の人も会えるかな」
「じぁあ紗夢は異世界で戦ってバラバラになった仲間の居場所が分かる人間レーダーってわけか?」
「大翔、言い方に気をつけてよ。私は絆を繋ぐ者よ」
「ごめん。でもよかったよ、鈴香が生きていて」
「それなんだけど……」
明日香は暗い顔になった。
「私の推測だけど魔物を倒して向こうの異世界が無くなって、異世界の歴史と存在自体が消滅して異世界で鈴香が亡くなったことが帳消しになったと思う。代わりに鈴香は異世界と異世界に行く前の記憶がない状態で元の世界に復活したの」
「妹から話は聞いてます。皆様が存在するということは私は本当に異世界に行ってた。それに私は皆様を危険な異世界に誘ってしまった……ごめんなさい」
「謝ることはないよ」
「ええ、友達も増えましたし」
学は笑顔になる。
「そうだな。鈴香には大切なことを教えてもらったしな!」
大翔は得意げに拳で胸を叩いた。
「ホント大翔は鈴香ちゃんに感謝しなさいよ」
紗夢はバシッと大翔の肩を叩いた。
それと同時に全員が笑い和やかな時間が過ぎた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました
飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。
令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。
しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。
『骨から始まる異世界転生』の続き。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる