6 / 24
西方編
成長する者
しおりを挟む
軍の兵士が宿営する陣屋に着いた3人。
軍の兵士達は先刻の平原で鬼と戦っていた。戦後も緊張感が抜けずピリピリとしている。
そこに女とイチャイチャする男が現れ、兵士達は怒った。
「藤次郎殿!このような者を入れれば軍の風紀は乱れます!」
「違うのだ。悟殿は先程、この女子を助けて、女子が悟殿に惚れて引っ付き虫の様に離れない始末。皆、すまぬ。落ち着いてくれ。我らは先に大崎殿に会ってくる故……」
睨みつけらる視線を感じながら陣屋の広間の奥にいた大崎と顔を合わせた。
「残党を一掃して参りました」
「よく戻ったな藤次郎。小鬼の残党の一掃ご苦労。して、こちらは?」
恰幅の良い初老の男、大崎は悟と風花に目を向けた。
「助けた異世界人の悟殿と村人の風花です」
大崎の顔が明るくなる。
「ほぉ、異世界人か!それで弓や剣は使えるか?」
「全くです。山の中腹にある村の三日月という人の水晶玉を見たら『借りの御霊の器』というのが見えただけで、能力はありません。無能だからという理由で追い出されました」
「三日月の魔道具の能力判定をしたのか。能力が無いといえど、異界人なら能力が開花するはず。その他の能力本当に無いのか?」
「ありません」
「借りの御霊の器……聞いたことがない。まぁ良い。しばらく滞在するとよい。なんせ今日は戦勝の吉事があっての。先の戦で小鬼と鬼の軍を打ち負かした。戦勝祝いの宴が始まる。参加せい」
悟は兄を失い、村を失った風花の前で素直に祝いの宴の席に出れる気持ちにはなれなかった。
「宴には出ません。多くの人が傷ついているのに、喜べません」
藤次郎は大崎の手前、誘いを断ることに焦ったが同時にキッパリと断る悟にまたも感服した。
「そうか。ならば宴の準備の前に兵に頼んで稽古でもつけてもらうがいい」
大崎がいる広間を出る。
外では宴の準備をする者や鍛錬する者、馬の世話をする者など戦後というのに休みなく動いていた。
「悟殿に刀、槍、弓の才があるか見極めてくれ」
「へい!」
頼まれた兵士は悟を連れて兵士が鍛錬する道場に入った。
刀など持ったことがない悟に兵士は、構えから斬り方を教えた。
「重い」
真剣は重く、肩や腕にずしりと重さが伝わる。
しばらく振った後、槍、弓と武器を変えて道場の端で見ていた藤次郎に兵士は結果を伝えた。
「才能は全くないです」
「そうだな」
結果が聞こえた悟は肩を落とした。
「悟殿。稽古をすれば貴殿も強くなる!これからは我らが貴殿を鍛えよう。誰かを守る為に強くなりたいだろう?」
「はい!」
「お兄ちゃん頑張れー」
悟は決意した。
また風花のように傷付いた人が現れないように強くなることを。
ーー それから1年が経過した ーー
大崎陣屋の道場に威勢の良い声が響いていた。
「いち!に!さん!し!ご!」
素振りをする修練兵の中に悟の姿もあった。
稽古後に藤次郎は悟を呼び出した。
「悟殿は大崎陣屋に来て1年が経過したが、馬術は上手くなったものの、剣の腕は上達しない。それに槍も弓も全く成長が見られない。実戦の経験が乏しいからだと感じるが、実戦で見えるものもある。だから少し遠出して戦を見てみないか?見稽古も鍛錬に繋がる。」
藤次郎の提案に頷いた。
修練兵5人と悟と藤次郎は馬に乗り、大崎陣屋を出て、1年前に戦があった平原を抜け、森を抜けた先の丘に待機した。
丘からは畑と平原が広がる大地が見える。
「今から戦が始まる。左手に見えるのは三好と三日月の軍合わせて500人。右手には小鬼、鬼合わせて300体といったところか。皆流れ矢に注意して戦を見てほしい」
「三日月の軍には友達がいるかもしれません」
「これだけの兵数から友を探すのは至難の技ではあるが、見つかるといいな」
しかし悟は直ぐに友達を見つけた。
布陣する陣の最前線に異様に目立つ原色の赤と青と緑のTシャツの服を着た大翔と紗夢、それに学の姿があった。
きっと戦隊ものが好きな学の提案であのカラーで統一したことを悟は察した。
戦が始まると一目散に3人は最前線に出た。
走りながら短弓を放ち見事に小鬼に的中させる赤色の紗夢。
側転やバク宙と無駄にパフォーマンスを織り交ぜながら槍を振り回して鬼達を倒していく緑色の大翔。
見えないぐらいの速さと瞬発力で背後から暗殺していく青色の学。
3人は群を抜いて強かった。
そして華麗で格好良く戦を楽しんでいるようだった。
それに比べ、1年で武術は上達せず。能力のない悟は3人の姿を見ていて涙が溢れた。
軍の兵士達は先刻の平原で鬼と戦っていた。戦後も緊張感が抜けずピリピリとしている。
そこに女とイチャイチャする男が現れ、兵士達は怒った。
「藤次郎殿!このような者を入れれば軍の風紀は乱れます!」
「違うのだ。悟殿は先程、この女子を助けて、女子が悟殿に惚れて引っ付き虫の様に離れない始末。皆、すまぬ。落ち着いてくれ。我らは先に大崎殿に会ってくる故……」
睨みつけらる視線を感じながら陣屋の広間の奥にいた大崎と顔を合わせた。
「残党を一掃して参りました」
「よく戻ったな藤次郎。小鬼の残党の一掃ご苦労。して、こちらは?」
恰幅の良い初老の男、大崎は悟と風花に目を向けた。
「助けた異世界人の悟殿と村人の風花です」
大崎の顔が明るくなる。
「ほぉ、異世界人か!それで弓や剣は使えるか?」
「全くです。山の中腹にある村の三日月という人の水晶玉を見たら『借りの御霊の器』というのが見えただけで、能力はありません。無能だからという理由で追い出されました」
「三日月の魔道具の能力判定をしたのか。能力が無いといえど、異界人なら能力が開花するはず。その他の能力本当に無いのか?」
「ありません」
「借りの御霊の器……聞いたことがない。まぁ良い。しばらく滞在するとよい。なんせ今日は戦勝の吉事があっての。先の戦で小鬼と鬼の軍を打ち負かした。戦勝祝いの宴が始まる。参加せい」
悟は兄を失い、村を失った風花の前で素直に祝いの宴の席に出れる気持ちにはなれなかった。
「宴には出ません。多くの人が傷ついているのに、喜べません」
藤次郎は大崎の手前、誘いを断ることに焦ったが同時にキッパリと断る悟にまたも感服した。
「そうか。ならば宴の準備の前に兵に頼んで稽古でもつけてもらうがいい」
大崎がいる広間を出る。
外では宴の準備をする者や鍛錬する者、馬の世話をする者など戦後というのに休みなく動いていた。
「悟殿に刀、槍、弓の才があるか見極めてくれ」
「へい!」
頼まれた兵士は悟を連れて兵士が鍛錬する道場に入った。
刀など持ったことがない悟に兵士は、構えから斬り方を教えた。
「重い」
真剣は重く、肩や腕にずしりと重さが伝わる。
しばらく振った後、槍、弓と武器を変えて道場の端で見ていた藤次郎に兵士は結果を伝えた。
「才能は全くないです」
「そうだな」
結果が聞こえた悟は肩を落とした。
「悟殿。稽古をすれば貴殿も強くなる!これからは我らが貴殿を鍛えよう。誰かを守る為に強くなりたいだろう?」
「はい!」
「お兄ちゃん頑張れー」
悟は決意した。
また風花のように傷付いた人が現れないように強くなることを。
ーー それから1年が経過した ーー
大崎陣屋の道場に威勢の良い声が響いていた。
「いち!に!さん!し!ご!」
素振りをする修練兵の中に悟の姿もあった。
稽古後に藤次郎は悟を呼び出した。
「悟殿は大崎陣屋に来て1年が経過したが、馬術は上手くなったものの、剣の腕は上達しない。それに槍も弓も全く成長が見られない。実戦の経験が乏しいからだと感じるが、実戦で見えるものもある。だから少し遠出して戦を見てみないか?見稽古も鍛錬に繋がる。」
藤次郎の提案に頷いた。
修練兵5人と悟と藤次郎は馬に乗り、大崎陣屋を出て、1年前に戦があった平原を抜け、森を抜けた先の丘に待機した。
丘からは畑と平原が広がる大地が見える。
「今から戦が始まる。左手に見えるのは三好と三日月の軍合わせて500人。右手には小鬼、鬼合わせて300体といったところか。皆流れ矢に注意して戦を見てほしい」
「三日月の軍には友達がいるかもしれません」
「これだけの兵数から友を探すのは至難の技ではあるが、見つかるといいな」
しかし悟は直ぐに友達を見つけた。
布陣する陣の最前線に異様に目立つ原色の赤と青と緑のTシャツの服を着た大翔と紗夢、それに学の姿があった。
きっと戦隊ものが好きな学の提案であのカラーで統一したことを悟は察した。
戦が始まると一目散に3人は最前線に出た。
走りながら短弓を放ち見事に小鬼に的中させる赤色の紗夢。
側転やバク宙と無駄にパフォーマンスを織り交ぜながら槍を振り回して鬼達を倒していく緑色の大翔。
見えないぐらいの速さと瞬発力で背後から暗殺していく青色の学。
3人は群を抜いて強かった。
そして華麗で格好良く戦を楽しんでいるようだった。
それに比べ、1年で武術は上達せず。能力のない悟は3人の姿を見ていて涙が溢れた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました
飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。
令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。
しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。
『骨から始まる異世界転生』の続き。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる