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魔法使いになる前に
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公園で夕日に照らされた体から湯気が立ち昇り、巨剣の模造品を振り回す不審者ライリーよりも華麗にバク転したり足捌きをするジングル(ロン)に釘付けになっていた。
シーフはダンジョンで索敵や罠の解除、敵の武器を盗んだり、時には戦闘に参加して素早い動きで敵を倒す複数の役割を果たす最重要なポストだと私は確信している。
しかしライリーは前衛のタンクや剣士、後衛の魔法使いを重視してシーフは補助的な役割だと前に語っていた。
罠に引っかかったら終わり。
敵を探しておくから安全に進めるのに。
「ライリーはシーフが重要だって、わかってないなー」
私の呟きに魔法使いの師匠ミニャは頷く。
珍しく意見が合う。
「シーフは器用でなければ務まらない。不器用では仲間を失う。私は不器用だから、シーフという職業を尊敬しているのです。続きをしましょう」
ミニャと棒切れのような杖を振って物を浮かす練習を繰り返す。
落ちている小石に棒を振る。
動かない!浮かない!飛ばない!そんなことより
「駄目です。ミニャ、もう限界です」
何が限界かと言うと、公園で遊ぶ子どもや子どもを見守る保護者の痛い視線だ。
「あの人たちさっきから、棒を振って何かの儀式かしら?」
ショーやパフォーマンスの練習と言われるであればまだ良いけど儀式って!
「ねぇね達は何してるの?」
3歳児ぐらいだろうか。駆け寄って不思議そうに尋ねてきた。
「内緒」
「ナイショ?僕も棒振る」
男の子は落ちていた木の枝を拾って私と同じように棒を振り始めた。
可愛い。健気に棒を振る姿に愛おしさを感じる。
「ヨイショ、ヨイショ」と掛け声で棒を振る姿が可愛い。
私は手を止めて男の子に見入ってしまった。
ミニャが突然私の袖を引っ張る。
「あれを」
男の子が棒を振った先の小石が僅かに宙に浮いている。
「嘘でしょ・・・」
唖然とした。
「あの子は相当な魔力量があります」
私より3歳児の方が才能あった!
私は男の子に笑顔で近づく。
「はーい。そこまで。棒振るのは危ないから、おしまい」
棒を取り上げる。
「えー、楽しかったのに」
男の子は保護者の元に戻って行ったその後で棒をバキッ!っと真っ二つにへし折った。
「大人気ない・・・」
ミニャは呟いて肩を落とした。
「だって悔しいんだもん!」
私は泣きそうになる。ミニャは優しく肩に手を当てて慰めてくれた。
夕日に照らされた私とミニャの光景を遠くから見たライリーは私達にサムズアップしてニッコリ笑顔を近づいてきた。
「2人とも練習の成果が出て、仲良くなって勇者パーティーの実力もチームワークも向上して良かったよ」
ライリーの嬉しそうな声に私とミニャは睨みながら2人同時にライリーに杖を向ける。
「なんで?私何かしました?」ライリーは訳も分からず眉をハの字にして両手上げ降参のポーズをして固まった。
大学のオリエンテーションが終わり講義が始まった。
複数の講義で一緒の水森 美智香と仲良くなった。
「美智香、おはよう」
「おはよー」
美智香は私と似て明るい性格で一緒にいて気楽だった。
「紗倉は空きコマ?」
講義と講義の間、空いている時間を空きコマと言う。
「そう。結構空いて暇」
「食堂行かない?」
「うん。いいよ」
食堂に行くと私と同じように空きコマの人が何人もいる。
席に着くと美智香がスマートフォンの地図アプリを開いて見せた。
「ここ知ってる?」
美智香が見せたのは私が住んでるアパートだ。
「ここに芸能人住んでるって。今度見に行かない?」
どうしよう。確かにジングルやセリアナが住んでいる。私も住んでるとも言いにくい。もしジングルやセリアナと一緒のアパートだとバレたら人が押し寄せるかもしれない。でも美智香に嘘や隠し事はしたくない。
「実は私、そこに住んでるの」
「え!ホントに!?芸能人いるの?」
「行けば分かるよ」
曖昧な答えにした。
翌日、美智香は本当に私のアパートを訪ねてきた。
「中は意外と綺麗なんだね。それでこの階にいるのかな?」
美智香はキョロキョロと私の部屋の台所の小窓から外を見回す。
ジングルが部屋の前を通った。
美智香はしっかりジングルを見た。
しかし美智香は反応はない。
数時間、見ていたが芸能人に出会えずガッカリして美智香は帰った。
私の部屋にミニャを呼び、今日の出来事をミニャに話すと
「それは私が大魔法でアパートに住む者以外はアパートから半径5km以内は別人に見える魔法を掛けています」という答えを教えてくれた。
「ミニャ師匠、流石ですねー」
「私の大魔法でロンとセリカは芸能活動出来ている訳です」と自慢げに照れていた。
「そして私が手を連続して3回叩けば、大魔法の効果はいつでも切れます」
ミニャは3回手を叩いた。
その時、いきなりドアが開いて美智香が現れた。
「ごめん紗倉!忘れもの、しちゃ・・・て。誰?」
ローブに三角帽子姿で正座するミニャと美智香の目が合った。
「来客中、お邪魔しました!」
美智香はドアを閉めた。
そして、ドアの前で「ジングル!ジングル!」と美智香の声がした。
私とミニャは走ってドアを開くと美智香が大はしゃぎしてジングルと握手していた。
「ミニャさん。魔法は?」
美智香と握手しながら困惑顔のジングル。
「すまない。先程、タイミング悪く解除しました」
私が悪い。軽率に友達を連れてきて、ジングル様の住所がバレた。
「ジングルさん!ごめんなさい」
「紗倉がどうして謝るのよ」
「美智香。絶対にジングルさんの事、人に言わないで。お願い」
必死に美智香に頼んだ。
「いいよ。絶対言わないけどね」
美智香はニヤリと笑った。
シーフはダンジョンで索敵や罠の解除、敵の武器を盗んだり、時には戦闘に参加して素早い動きで敵を倒す複数の役割を果たす最重要なポストだと私は確信している。
しかしライリーは前衛のタンクや剣士、後衛の魔法使いを重視してシーフは補助的な役割だと前に語っていた。
罠に引っかかったら終わり。
敵を探しておくから安全に進めるのに。
「ライリーはシーフが重要だって、わかってないなー」
私の呟きに魔法使いの師匠ミニャは頷く。
珍しく意見が合う。
「シーフは器用でなければ務まらない。不器用では仲間を失う。私は不器用だから、シーフという職業を尊敬しているのです。続きをしましょう」
ミニャと棒切れのような杖を振って物を浮かす練習を繰り返す。
落ちている小石に棒を振る。
動かない!浮かない!飛ばない!そんなことより
「駄目です。ミニャ、もう限界です」
何が限界かと言うと、公園で遊ぶ子どもや子どもを見守る保護者の痛い視線だ。
「あの人たちさっきから、棒を振って何かの儀式かしら?」
ショーやパフォーマンスの練習と言われるであればまだ良いけど儀式って!
「ねぇね達は何してるの?」
3歳児ぐらいだろうか。駆け寄って不思議そうに尋ねてきた。
「内緒」
「ナイショ?僕も棒振る」
男の子は落ちていた木の枝を拾って私と同じように棒を振り始めた。
可愛い。健気に棒を振る姿に愛おしさを感じる。
「ヨイショ、ヨイショ」と掛け声で棒を振る姿が可愛い。
私は手を止めて男の子に見入ってしまった。
ミニャが突然私の袖を引っ張る。
「あれを」
男の子が棒を振った先の小石が僅かに宙に浮いている。
「嘘でしょ・・・」
唖然とした。
「あの子は相当な魔力量があります」
私より3歳児の方が才能あった!
私は男の子に笑顔で近づく。
「はーい。そこまで。棒振るのは危ないから、おしまい」
棒を取り上げる。
「えー、楽しかったのに」
男の子は保護者の元に戻って行ったその後で棒をバキッ!っと真っ二つにへし折った。
「大人気ない・・・」
ミニャは呟いて肩を落とした。
「だって悔しいんだもん!」
私は泣きそうになる。ミニャは優しく肩に手を当てて慰めてくれた。
夕日に照らされた私とミニャの光景を遠くから見たライリーは私達にサムズアップしてニッコリ笑顔を近づいてきた。
「2人とも練習の成果が出て、仲良くなって勇者パーティーの実力もチームワークも向上して良かったよ」
ライリーの嬉しそうな声に私とミニャは睨みながら2人同時にライリーに杖を向ける。
「なんで?私何かしました?」ライリーは訳も分からず眉をハの字にして両手上げ降参のポーズをして固まった。
大学のオリエンテーションが終わり講義が始まった。
複数の講義で一緒の水森 美智香と仲良くなった。
「美智香、おはよう」
「おはよー」
美智香は私と似て明るい性格で一緒にいて気楽だった。
「紗倉は空きコマ?」
講義と講義の間、空いている時間を空きコマと言う。
「そう。結構空いて暇」
「食堂行かない?」
「うん。いいよ」
食堂に行くと私と同じように空きコマの人が何人もいる。
席に着くと美智香がスマートフォンの地図アプリを開いて見せた。
「ここ知ってる?」
美智香が見せたのは私が住んでるアパートだ。
「ここに芸能人住んでるって。今度見に行かない?」
どうしよう。確かにジングルやセリアナが住んでいる。私も住んでるとも言いにくい。もしジングルやセリアナと一緒のアパートだとバレたら人が押し寄せるかもしれない。でも美智香に嘘や隠し事はしたくない。
「実は私、そこに住んでるの」
「え!ホントに!?芸能人いるの?」
「行けば分かるよ」
曖昧な答えにした。
翌日、美智香は本当に私のアパートを訪ねてきた。
「中は意外と綺麗なんだね。それでこの階にいるのかな?」
美智香はキョロキョロと私の部屋の台所の小窓から外を見回す。
ジングルが部屋の前を通った。
美智香はしっかりジングルを見た。
しかし美智香は反応はない。
数時間、見ていたが芸能人に出会えずガッカリして美智香は帰った。
私の部屋にミニャを呼び、今日の出来事をミニャに話すと
「それは私が大魔法でアパートに住む者以外はアパートから半径5km以内は別人に見える魔法を掛けています」という答えを教えてくれた。
「ミニャ師匠、流石ですねー」
「私の大魔法でロンとセリカは芸能活動出来ている訳です」と自慢げに照れていた。
「そして私が手を連続して3回叩けば、大魔法の効果はいつでも切れます」
ミニャは3回手を叩いた。
その時、いきなりドアが開いて美智香が現れた。
「ごめん紗倉!忘れもの、しちゃ・・・て。誰?」
ローブに三角帽子姿で正座するミニャと美智香の目が合った。
「来客中、お邪魔しました!」
美智香はドアを閉めた。
そして、ドアの前で「ジングル!ジングル!」と美智香の声がした。
私とミニャは走ってドアを開くと美智香が大はしゃぎしてジングルと握手していた。
「ミニャさん。魔法は?」
美智香と握手しながら困惑顔のジングル。
「すまない。先程、タイミング悪く解除しました」
私が悪い。軽率に友達を連れてきて、ジングル様の住所がバレた。
「ジングルさん!ごめんなさい」
「紗倉がどうして謝るのよ」
「美智香。絶対にジングルさんの事、人に言わないで。お願い」
必死に美智香に頼んだ。
「いいよ。絶対言わないけどね」
美智香はニヤリと笑った。
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