異世界住民が住むアパートで一人暮らしを始めました

三毛猫

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媚びと制約

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「セリカ様ー」

「誰かしら?」

私は両手をスリスリしながらセリカに近づいた。

「貴女からは悪徳商人の臭いがするわ」

「いいえー。そんなことはございません!わたくし、203号室に引越してきた九条川紗倉と申します」

「九条川?もしかして九条川さんのお孫さん?」

「左様ですー」

「似てないわね。ライリーさん、この娘も勇者パーティに入れるの?」

「その予定だが、加入は本人に任せる」

「九条川さんの代わりならタンクかしら?でも体が細いから私と同じ弓使いか魔法使いあたりはどうかしら?」

弓使いだろうが、魔法使いだろうがそんなことはどうでもいい。私は早くセリカと仲良くなって、ロン様にお近づきになりたい。

「紗倉の事は入居当日だから、また考えるとしよう。私は部屋に戻って筋トレの続きをするぞ!皆も付き合わないか?」

ミニャとセリカは急いで部屋に入った。
残された私はライリーと目が合った。
2時間ライリーの筋トレに付き合わされ、クタクタになってミニャの部屋を訪れた。

「ミニャちゃん。回復魔法をー」

「回復魔法は高貴な魔法。何度も何度も安売りできません」

「そんなー。さっきは何回も回復してくれたよね。お願い」

「お願いされたなら仕方ありません。ではいきます」

白い光に包まれて筋肉痛が引いていく。完全に痛みが消えた。

「凄く楽になった。ありがとう。こんなに凄い魔法があるなら、回復魔法の治療院でも開いて沢山稼いでボロアパート引っ越せばいいのに」

その手があったかとハッ!っとした顔をしたミニャは
「貴女のような悪知恵は働きません。それに色々あって此処に住んでます」
と言いつつ回復魔法治療院開院を満更でもない顔をしていた。


部屋に戻って、ゆっくりと休む。

明日は入学式だ。




翌日。

入学式で大学のキャンパスに新入生5000人超が集まった。広い大学の敷地。ホールで入学式が行われる。保護者も観覧して式典は終わった。

私の両親は仕事の都合で来れなかった。
少し寂しかったけど仕方ない。



「おーい!」

大学の広い庭で人だかりができている。

「おーい九条川さん!」

私を呼ぶ声に反応して、人だかりの方を向くと勇者ライリーがムキムキの上半身を曝け出し手を振っていた。
その隣にはロンとセリカもいる。

(なんでいるの!?)と思いつつ、無視して帰ろうとした。

「あの人、ジングルたちと知り合いなの?」
人だかりから声が聞こえてきた。

「ジングルとモデルのセリアナとボディビルダーの人と知り合いなんて凄いよね」

もしかして、私が人だかりの中心にいるジングル(ロン)とセリアナ(セリカ)と仲良さそうにすれば私も人気者に?
大学デビューできそう!

「みんなー来てくれてありがとう」
手を振り返してロンとセリカの元に走った。

「紗倉さん、入学おめでとう」
ロンが祝辞を述べた!

女性たちがキャー!と悲鳴に似た声が上がる。
私もキャー!と叫びたいのを堪えて「ジングル、ありがとう」と返す。

周りから羨ましそうな視線を一身に集める。

「九条川さん、おめでとう」

男性たちから、モデルのセリアナだぞ!うぁー!いいなー!と声が上がる。


「おめでとう。これは私からのお祝いだ」

勇者ライリーが分厚い本を貰う。辞書かな?私は分厚い本をパラパラと捲る。訳の分からない記号や円、文字が書かれていた。

「魔導書だ。九条川紗倉。今日から君は勇者パーティーの魔法使いだ!」


パチ・・・パチ、パチ・・・パチパチパチパチ!
周りから拍手が鳴り始め、次第に大きくなる。こうして勇者パーティーの魔法使いが誕生した。

「わかった!私やってみる!街を人を守る魔法使いになる!」

「そうか。よし!その言葉を待っていた。皆、解散!」

ライリーの合図でロンやセリカや私の周りに集まっていた人だかりが、ライリーの前に一列に並び始める。
そしてライリーは並んだ人に謝礼を渡していく。

サクラか!

パラパラと人が散っていく。残ったのは一部のジングルとセリアナのファンだけだった。

「帰ろう」

「ちょっと待ってライリー。私をやる気にする為に人を使って騙したわね」

「なんのことだ?」

「勇者なのに、やること汚いわね!」

ライリーはばつが悪い顔をしている。

「魔法使いなんて、私じゃなくてもいいでしょ」

「君が必要なんだ。ミニャは回復と防御魔法しか使えない。紗倉が攻撃魔法を極めれば我々勇者パーティーは最強になれる。それにアパートの住人しかダンジョンに入れないのだ」

「ん?今なんと?」

「だからアパートの住人しかダンジョンに入れない縛りみたいな制約があって、ダンジョンを攻略しない限り転居できない。または代わりの入居者を用意するしか方法がないんだ。その制約を破った者は半年後に命を落とす!」

つまり祖母はダンジョンアパートから抜け出す為に私を入居させ利用したのか。
呆れて声も出ない。

ロン(ジングル)が私の手を取った。

「紗倉。君だけが頼りだ。協力してアパートのダンジョンを攻略しよう」

「はい!」

ロンの爽やかな笑顔に一撃で心を射抜かれた。
君だけが頼りという言葉が頭の中で反復横跳びを始める。君だけが頼りだ→君だけが頼り→君しかいない→君に夢中!
脳内変換とは恐ろしい。プラス思考で変換された言葉が胸に刺さり、私は快く承諾した。
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