異世界隠密冒険記

リュース

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第三部「全能神座争奪戦」編

クラン《蒼玉の武装団》

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 アクアの周囲に張られた結界消滅まで、あと一時間。


「―――到着だああああっ!!」


 レーサーは目的地付近に到着し馬車を・・・否、人力車を急停車させた。
 依頼の場所まではもう少しあるのだが、ここまでなのには理由がある。


「残念だがこっから先は《蒼玉の武装団サファイア・アームズ》の縄張りだから、俺はここまでだ!」


 そう、これ以上の直進は色々と不味い事態になるので、あえて停車した。
 同クランへの届け物の時も、ここより先へは入れないのだ。

 縄張りの端っこであるため、見張りの者が普通に居る。
 というか、すぐ目の前でクロトたちを警戒して身構えている。


「ん、ありがとう。この恩は忘れないよ。これ、約束してた報酬ね。」

「<暗黒狼の毛皮>半分、確かに頂いたっ!これで夜でも走りやすくなるぜっ!」


 <暗黒狼の毛皮>をもらったレーサーは痛く嬉しそうだ。

 足りなければ牙の方や、光輝狼の牙や毛皮も出すつもりだったクロトだが、最初に提示した分だけで十分だとレーサーに言われた。
 二体の狼<暗黒狼>と<光輝狼>は、所謂レアモンスターで、早々お目にかかれない魔物。その素材であれば、当然の如く価値は高いのだ。


「そんじゃ、達者でな!何しようとしてるかは分からんが、応援してるぜ!」


 レーサーは陽気にそれだけ告げると、その場から走り去った。
 後ろ姿は、一瞬で地平の先へ。


「―――さて、それじゃあ僕たちも行こうか。」

「待て待て待ていっ!!ここから先は、我ら《蒼玉の武装団》の支配地!」

「許可なく先に進むことは許さんぞっ!」


 門番役の二人が、普通に中へ入ろうとしたクロトの前へ立ちはだかった。
 どちらもレベル120と普通に強い。


(結界の反応は・・・この先で間違いない、か。大手クランの縄張りの中でアクアが助けを求めている。考えただけでも嫌な内容だね。)


 もう一度行き先の確認をしたクロト。
 嫌な想像に眉を顰めつつ、謝罪をして一度素直に引き下がった。
 
 アクアの救出を諦めた・・・訳ではない。


「やーやー我こそはっ!《蒼玉の武装団》で指名手配されているシロナなりっ!」

「「んなっ!?」」


 入れ替わるようにやってきたシロナが、どこの武将なのかと言いたくなるような名乗りを上げ、門番たちの注意をその身に引きつけた。

 門番らはシロナの顔を見つめ、手配されていた女だと確信。
 すぐさま武器を構え、戦闘態勢に移った。

 内部にそのことを知らせた後で、じりじりと間合いを詰める門番たち。

 そしてその隙に、クロトは『隠密神』にて縄張り内に侵入。
 シロナの行動は、クロトの侵入を隠すための陽動なのだった。


「さーて、暴れさせてもらうよっ!『白天の千刃』っ!!」

「「うあああああああっ!?」」


 シロナはあっという間に門番を抹殺し、クロトに続いて内部に侵入。
 敵の目を一転に引き付ける。

 シロナには襲撃をかける動機があったので、陽動ということは看破されづらい。


「侵入者っ!手配していたシロナだっ!!奴を捕縛してサヴァイブさんの下に届ければ、晴れて幹部入りだぞおおおおっ!!」


 百人を超える構成員たちが、次々とシロナに襲い掛かり始めた。
 全員が全員、待遇の良い組織の幹部になりたいために必死だ。

 一番隊から十番隊まで各十二人の、計百二十人が下っ端の人数。
 そこに幹部格十数人などを加えた計百五十人ほどが、この組織の総人数である。

 下っ端である者たちも全員レベル100を超えている。
 決してやられ役ではない、一騎当千の猛者たちだ。

 シロナは促成栽培による経験不足者と呼んでいたが、それは彼女だけの感想。
 内側の世界は勿論、外側の世界に居る超越者たちからしても間違いなく強者の部類と認識されている。
 横暴な態度が目立つというのに、未だに組織の力を維持しているのが証拠だ。

 そんな者たちが百二十人。
 特に隊長格や副隊長格は、他の者より一段強い。

 絶体絶命のピンチに思われる。


「十番隊、俺に続けっ!!のこのこ姿を現したシロナを捕らえるぞっ!」

「「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」」


 入口近くに居たレベル130の十番隊隊長が一番乗りし、部下とともに攻撃。

 彼らは油断などしていないつもりだった。
 シロナが強いと知っていた故に、全員で掛かった。

 だがそれは、間違いなく油断だったのだ。


「―――『白天神化』『白天の十靭』」


 カチャン、と剣を収める音が鳴り響いた。
 その音は騒がしいアジト内においても、不思議と綺麗に響いた。

 そして、隊長と副隊長を除く十人が、全員真ん中から真っ二つに切り裂かれた。

 幼い頃からクロトと一緒に過ごしてきた彼女にとって、彼らは促成栽培以外のなにものでもなかった。


「―――私、ちょっと後悔してるんだよね。以前来たときに余計な情けをかけず、キッチリ殲滅しておけば、クロトが自分の存在を削る必要も無かったから。」

「なっ・・・!」

「そんなっ、バカなっ!?」


 一瞬で隊が壊滅し驚きを露わにしている二名を前に、シロナは独り言を続ける。


「甘さが私の弱点だと分かっていたのに、結局このざま。情けないにも程がある」


 時間経過で回復すると分かっていても、シロナは自分の失態を許せなかった。
 それが自分の生き方なのだとしても、悔やまない訳ではないのだ。

 運と対等に付き合っていれば、時にこういう事態になり得る。
 彼女が彼らを見逃した時に嫌な予感を感じなかったのは、クロトたちの訪れがそれだけイレギュラーだった結果で、感じ取れないのも仕方がない事象なのだ。

 彼女はそういう事態を何度も経験してきたが、今回程悔やんだのは初めてだ。
 それは偏に、クロトの為にならない行動だったから。


「そんな情けない私でも、出来ることはあるんだよ? だから、さ―――」


 その時、他九番隊と三番隊も駆けつけ、隊長と副隊長に余裕が戻った。
 手柄は逃したが、勝利は確実になって、生き延びられたと確信した。

 そして次の瞬間、新たに駆けつけた全員が、肉塊に変わった。


「―――ほんの一秒たりとも、クロトの邪魔をできると思うな」


 シロナは振り抜いた剣を収めつつ、クロトには一度も見せたことのないような冷たい視線で、彼らを見据えたのだった。

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